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身内が優秀すぎて冷や飯を食っている国産車

2022.06.22 デイリーコラム 鈴木 真人

一時は上り詰めたC-HR

「トヨタC-HR」が発売されたのは2016年12月。4代目「プリウス」に続くTNGA第2弾として投入されたSUVで、またたく間に人気となった。月販目標台数は6000台だったが、2倍以上の売り上げを達成する月もあり、2017年の販売台数は合計11万7299台の大ヒット。ランキング4位である。

当時は、これほど売れるとは思っていなかった。エクステリアデザインがぶっ飛んでいて、簡単には受け入れられないと感じたからだ。トヨタデザインがどんどん派手さを増していた時期で、アグレッシブなフォルムのプリウスについては議論が巻き起こった。結果としてマーケットからは不評をかって販売が急減速。社長に「ワオ!」と言わせなければデザインがやり直しになるといわれていた時期である。

C-HRはプリウス以上にダイナミックなデザインで、キーワードは「セクシーダイヤモンド」。幾何学的な立体を目指したというが、リアスタイルなどは恐ろしく複雑で目がチカチカした。エコカーのイメージが強いプリウスがとんがった形になるのには拒絶反応があっても、新たなトレンドとして注目されていたコンパクトSUVには攻撃的な見た目が似合うと感じられたのだろう。

形に注目が集まったが、走りの実力もなかなかだった。TNGAの恩恵はめざましく、背の高さを感じさせないスポーティーな走りに驚いた記憶がある。新しもの好きなユーザーが熱烈に支持したのも不思議ではない。2018年は7万6756台と売り上げは減少したものの、人気車種の一角を占めていた。最近はあまり話題に上らないと思ったら、2021年の販売台数は1万8096台。発売から5年がたつから仕方がないとも思えるが、それだけではない。ライバルの出現が大きかったのだ。それも、同じトヨタの。

2016年12月に発売され、2017年、2018年と国内のベストセラーSUVに輝いた「トヨタC-HR」。当時はよかった……。
2016年12月に発売され、2017年、2018年と国内のベストセラーSUVに輝いた「トヨタC-HR」。当時はよかった……。拡大
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SUVフルラインナップに埋没

2020年8月にデビューしたのが「ヤリス クロス」である。コンパクトカーの「ヤリス」をベースにしていて、C-HRよりひと回り小さなサイズ。シンプルで端正なルックスで、万人に受け入れられる。トヨタデザインが方向転換したことを示していた。荷室容量は390リッターで、C-HRの318リッターを上回る。最廉価モデルは180万円を切るというバーゲンプライスだ。

2021年には「カローラ クロス」が発売された。トヨタの屋台骨を支えるカローラに新たに加えられたSUVで、派手さはないものの実用性に優れたモデルである。荷室容量は487リッターで、後席のスペースはC-HRより明らかに広い。価格は199万9000円から。トヨタが本気でこの市場を取りにきたということがよく分かる。

2019年には、「ダイハツ・ロッキー」の姉妹車として「ライズ」が発売されていた。コンパクトからミドルサイズをしっかりと押さえ、さらにはその上に「ハリアー」や「RAV4」を用意している。伝統の「ランドクルーザー」もあり、トヨタはフルラインナップSUV戦略を完成させたのだ。そのなかではC-HRの立ち位置はニッチにならざるを得ない。主役ではなくなったがSUVを一般に広めた立役者であり、先駆けとして十分に役割を果たしたといえる。

2020年8月には「ヤリス クロス」が登場。「C-HR」よりもコンパクトかつ安価でありながら、優れたユーティリティー性を誇る。
2020年8月には「ヤリス クロス」が登場。「C-HR」よりもコンパクトかつ安価でありながら、優れたユーティリティー性を誇る。拡大
2020年6月には「ハリアー」がフルモデルチェンジ。エントリーグレードは300万円を切っており、「C-HR」の上位グレードと価格がオーバーラップする。
2020年6月には「ハリアー」がフルモデルチェンジ。エントリーグレードは300万円を切っており、「C-HR」の上位グレードと価格がオーバーラップする。拡大

思惑どおりには売れないジレンマ

実力があるのに不遇な境遇に甘んじているモデルはほかにもある。ホンダの「N-WGN」だ。「N-BOX」が強すぎて、影が薄く見えてしまう。現在ではN-BOXの属するスーパーハイトワゴンが軽自動車の主流になっていて、N-WGNのようなハイトワゴンは相対的に売り上げが下がっている。しかし、他社と比べるとホンダは差が大きすぎるのだ。

2021年度の販売台数を見ると、N-BOXが19万1534台で、N-WGNは4万6786台。4分の1である。スズキは「スペーシア」が10万3605台で「ワゴンR」が7万1726台。ダイハツは「タント」が10万1112台で「ムーヴ」が8万5635台。日産は「ルークス」が7万1275台で「デイズ」が5万1875台。ホンダだけが、あまりにも比率が際立っている。

N-BOXは2011年12月に登場し、2012年度の軽四輪車販売台数で1位を獲得。2014年度に2位となったが、それ以外はずっと首位を保ち続けている。2022年3月で、累計販売台数は210万台に達した。N-BOXの好評を受けて2012年に「N-ONE」、2013年にN-WGNを発売し、Nシリーズとして盤石の体制を築こうとしたのは賢明な戦略だったはずだ。N-BOXの一人勝ちという状況は、ホンダの思惑とは違うのだろう。車高が低くて軽量なN-WGNのほうが走りはいいのだが、どうせならもっと広くてスライドドアがあるクルマがいい、と考えるユーザーが多数派なのだ。

ホンダの軽ハイトワゴン「N-WGN」。「N-BOX」が強力すぎて完全に埋没している。
ホンダの軽ハイトワゴン「N-WGN」。「N-BOX」が強力すぎて完全に埋没している。拡大
ダイハツが「ムーヴ キャンバス」を、スズキが「ワゴンRスマイル」を用意したように、ホンダも「N-WGN」をベースとしたスライドドアのハイトワゴンを見据えているのかもしれない!?
ダイハツが「ムーヴ キャンバス」を、スズキが「ワゴンRスマイル」を用意したように、ホンダも「N-WGN」をベースとしたスライドドアのハイトワゴンを見据えているのかもしれない!?拡大

松・竹・梅の竹なのに……

タイミングのせいで主役になりそこねたクルマが「日産リーフ」である。2010年12月という早い時期に発売された量産電気自動車のパイオニア的存在だが、航続距離の短さと高価格がたたって苦戦。最近になって世界的に電動化への流れが加速し、ようやく追い風が吹いてきた。日産はこの機を逃さず「アリア」と「サクラ」を発売し、3台のEVをラインナップして勝負に出る。うな丼で言えば、松・竹・梅の3種類から選べるようになったわけだ。

日本人は真ん中の竹を選ぶタイプが多いといわれている。いよいよリーフの時代が来るかと思われたが、実際には中途半端な印象になってしまった。「トヨタbZ4X」や「ヒョンデ・アイオニック5」といった大容量バッテリーを搭載するSUVタイプのEVが相次いで発売され、アリアも含めて有力なジャンルとなっている。軽自動車のサクラは街乗りメインという想定で、割り切った性能だが低価格。補助金を使うとガソリンエンジンの軽自動車並みの価格で買えることが評判となり、発売3週間で1万1000台を受注した。リーフの立ち位置はどっちつかずに見えてしまう。

実力がありながらも過小評価されたクルマは多い。ポルシェの「924」や「928」は、エンジンが前にあるだけで「911」より下に見られた。日産の「スタンザ」は、姉妹車の「バイオレット」や「オースター」の間で埋没した感がある。トヨタには「ヴェロッサ」や「プログレ」のように、開発者の意図が伝わらずに消えていったモデルがあった。マツダが5チャンネル体制で市場に送り出した多くのクルマは、今では名前さえ思い出せない。歴史の風雪に耐えて名前の残るクルマは、ほんの一握りなのだ。

(文=鈴木真人/写真=トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車/編集=藤沢 勝)

2017年にデビューした2代目「日産リーフ」。2019年には容量62kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーと最高出力218PSのモーターを搭載した「リーフe+」も登場した。
2017年にデビューした2代目「日産リーフ」。2019年には容量62kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーと最高出力218PSのモーターを搭載した「リーフe+」も登場した。拡大
2022年からデリバリーが始まった「日産アリア」。内外装の高級感は「リーフ」とは一線を画す。
2022年からデリバリーが始まった「日産アリア」。内外装の高級感は「リーフ」とは一線を画す。拡大
2022年6月16日に発売された軽EV「日産サクラ」。一充電走行距離は短いが、補助金を活用すると既存の軽乗用車と同等の価格で購入できる。
2022年6月16日に発売された軽EV「日産サクラ」。一充電走行距離は短いが、補助金を活用すると既存の軽乗用車と同等の価格で購入できる。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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