2023年前半の自動車販売はどうだった? 売れたクルマから世相を読み解く
2023.07.31 デイリーコラム統計データには注意せよ
2023年前半(1~6月)の国内販売台数は約245万台で、昨2022年の前半に対して約17%増えた。生産状況はコロナ禍前の2019年には戻らないが、昨年に比べると好転している。特に落ち込みの大きかった小型車/普通車は昨年を約22%上回り、回復基調を強めた。
軽自動車の販売比率は、2022年前半は38%に達したが、2023年の前半は36%に下がった。2000年以前の軽自動車比率は20~25%だったから、依然として軽自動車は多いが、直近では少し減って小型車/普通車が盛り返している。
それでも2023年前半の販売ランキングで1位になったのは「ホンダN-BOX」だ。1カ月平均では約1万8700台と圧倒的に多い。
2位は、統計上は「トヨタ・ヤリス」で3位は「トヨタ・カローラ」と続くが、この順位には注意が必要だ。“ヤリス”には「ヤリス」「ヤリス クロス」「GRヤリス」が含まれ、“カローラ”にも「カローラ(セダン)」「カローラ ツーリング」「カローラ スポーツ」「カローラ クロス」「カローラ アクシオ」「カローラ フィールダー」が入るからだ。ヤリスではSUVのヤリス クロスがシリーズ全体の約50%、カローラでもカローラ クロスが約45%を占めるため、クルマを選ぶユーザーの視点から登録台数をボディータイプ別に算出すると順位が変わる。
「日産ノート」も同様で、シリーズ全体の数字だ。5ナンバー車の「ノート」は約53%、3ナンバー車の「ノート オーラ」が約47%という比率になる。軽自動車では「ダイハツ・ムーヴ」が上位に入るが、これも「ムーヴ キャンバス」が約65%で、「ムーヴ」は約35%だ。
価格が上がり、所得は下がり……
こういった点を整理して、ユーザーがクルマを選ぶ視点から2023年前半の販売ランキングをボディータイプ別に見直すと、1位:ホンダN-BOX、2位:ダイハツ・タント、3位:トヨタ・シエンタ、4位:スズキ・スペーシア、5位:トヨタ・ノア、6位:トヨタ・プリウス、7位:トヨタ・ヴォクシーと続く。
上位には、「N-BOX」「タント」「スペーシア」という具合に、軽自動車のスーパーハイトワゴンが多く入る。いずれも全高が1700mmを超えるボディーにスライドドアを装着しており、今はこのタイプの軽自動車が定番の選択肢になった。
その背景にあるのは、安全装備や運転支援機能の充実、消費税増税などによるクルマの値上げだ。15年ほど前に比べて、クルマの価格は1.2~1.5倍に高まった。例えば2009年に登場した4代目「ホンダ・ステップワゴン」の最廉価グレードは208万8000円だったが、現行型は305万3600円だ。14年間でステップワゴンの最廉価グレードの価格は1.5倍に跳ね上がった。
その一方で、日本の平均所得は1990年代の後半をピークに下がっている。ファミリーユーザーの多くは、今も以前も、購入する新車の価格を200万円前後と考える。そうなると4代目ステップワゴンと同程度の予算で買えるホンダ車は、今ではN-BOXやコンパクトミニバンの「フリード」だ。
このような事情から、今は軽自動車のスーパーハイトワゴンが多く売られる。そして2023年前半に国内で新車として販売されたホンダ車のうち、N-BOXが40%を占めた。軽自動車全体では56%に増えて、さらにホンダの国内販売台数がN-BOXの次に多いフリードを加えると、70%を超えてしまう。
つまり今のホンダの国内販売は、N-BOXを中心とした軽自動車と、フリードによって支えられている。「フィット」「ステップワゴン」「ヴェゼル」「シビック」などは、すべてを合計しても、残りの30%弱に片付けられてしまうのだ。
次期N-BOXは2023年中に発表され、フリードも2024年にはフルモデルチェンジする見込みだから、今後は売れ行きをさらに増やす。ホンダの国内販売はN-BOXとフリードに染まり、スポーツモデルのイメージは消し去られるだろう。
ホンダと日産に欠けているもの
そして日産も、2023年前半の軽自動車比率が39%と高い。そこに「ノート」+「ノート オーラ」+「セレナ」を加えると、国内で新車として売られた日産車の76%に達する。これらの商品だけあれば、日産の国内販売は成り立つのだ。
以上の状態に陥ったから、ホンダと日産はメーカー別の販売順位を下げた。2023年前半の順位は、1位:トヨタ、2位:スズキ、3位:ダイハツ、4位:ホンダ、5位:日産と続く。トヨタの1位は、1963年以降、60年間にわたって変わっていないが、2位以下は大幅に変動して今はスズキとダイハツが2位/3位に入る。
こうなった直接の理由は、先に述べたクルマの価格上昇に伴う軽自動車のシェア拡大だが、メーカーの国内市場に対する向き合い方も影響している。ホンダと日産の世界生産(販売)台数に占める国内比率は、両社とも約15%と少ない。ホンダと日産にとって、今は海外が中心で国内は従属的な市場になり「国内は軽自動車と一部の小型車に任せればいい」という意識が働いている。
その結果、小型車/普通車は車種数が減り、軽自動車と一部の小型車に依存する体質になった。特にホンダは、「シビック」「CR-V」「オデッセイ」について、国内販売の終了と復活を繰り返す。これは国内の販売戦略が乏しく、場当たり的に対応している証拠だ。朝令暮改で売れ行きを下げ、軽自動車+フリードで、国内販売の70%を超える状態に陥った。
ホンダや日産の問題は、一部の車種が堅調に売れて国内販売がどうにか保たれ、そのまま流されていることだ。この状態に安住していると、軽自動車やフリード、あるいはノートの売れ行きが下がると、両社の屋台骨が揺らぐ。
そうなってからでは遅いため、小型車/普通車に力を入れる必要がある。今はSUVの人気が高いから、ホンダは「ヴェゼル」と「ZR-V」、日産は「エクストレイル」や「キックス」の販売に力を入れて、商品改良も積極的に行うべきだ。
両社にとって必要なのは国内市場に向けた戦略だが、それ以前に、国内のユーザーと市場に愛着を持って向き合うことが求められる。軽自動車が好調に売られる一番の理由も、日本のユーザーに対する愛情が込められているからだ。その結果として、便利さや価格の割安度が得られる。大切なのは日本のユーザーの幸せを願う気持ちだ。今のホンダと日産には、それが欠けていると思う。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、ダイハツ工業、スズキ/編集=関 顕也)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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