第6回:トヨタ・ランドクルーザー“250”(後編)
2023.12.20 カーデザイン曼荼羅ヘッドランプが小さいような……
ゴツゴツとした、武骨でクラシックなデザインが注目を集める「トヨタ・ランドクルーザー“250”」だが、その造形は完全無欠なのか? こういうカタチのカーデザインは、どこまで広がり、いつまで続くのか? この道20年の元カーデザイナーとともに考えた。
(前編はこちら)
webCGほった(以下、ほった):ところでランクル250には、ヘッドライトが丸目のと角目のがありますよね。
清水草一(以下、清水):どっちもレトロなイメージで、中高年カーマニアはイチコロだよ。特に自分くらいの世代は、丸目はノスタルジー、シンプルな角目は青春時代の憧れだから。
ほった:ただ、どっちの場合もなんですけど、たまに目(ヘッドランプ)がちっちゃく見えるような気がしませんか?
渕野健太郎(以下、渕野):ランクル250は「目がちっちゃく見える」というより、フロントオーバーハングがちょっとだけ長く見えるんですよ。ヘッドランプの目尻からフロントフェンダーの縁までの距離感が。横からの見た目をほかのクルマと比較すると、わかりやすいですよ。
ほった:おおー。
渕野:衝突要件などが厳しい今のクルマで、丸目など平面的なランプのデザインを採用すると、横顔がこういう感じに見えがちなんですよね。
清水:顔が前に飛び出しているような。
渕野:丸目のランプはサイド側にレンズを回り込ませられないので、ごまかしが効かないんですよね。「ホンダe」や「ジープ・レネゲート」なんかもそうですけど、特にオーバーハングが比較的長いクルマの場合は、すごく顔が前に出ているように見えるんですよ。タイヤに対して目が“遠くなる”。ランクル250も本格的オフローダーの基準からすると、それがちょっとだけ感じられます。
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実は後から考案された“丸目”のフロントマスク
ほった:でも、ランドローバーの「ディフェンダー」も丸目ですよね?
渕野:ランドローバーのクルマは、そもそもフロントオーバーハングが短いんですよ。だからランプを横に回り込まさなくても、間延び感はないんです。……まあディフェンダーの場合、フロントバンパーの内部構造もデザイン優先で設計しているような気がするので、参考にはならないかもしれないけど。
清水:ディフェンダーはデザイン先行でつくっている気がしますね。
渕野:ランドローバー系は全部そんな感じで、デザイナーが設計要件で苦労している雰囲気が見えません(笑)。理想の形をつくって、その後で中身をどうにかしているんじゃないかな。臆測ですけど。
あと、ランクル250の兄弟にあたる「レクサスGX」の場合は、ヘッドランプがサイドに回り込んでるので、これもヘッドランプとフロントフェンダーの間が開くことによる間延び感はありません。
ほった:なるほど。
清水:ところでランクル250は、まず角目でデザインして、後から丸目が加えられたということです。後から「丸目もいいね」ということになって。
ほった:ワタシは角目のほうが好きなんで、あっちの顔だけで大満足なんですけど。
清水:やっぱり素人は、丸目か角目かで盛り上がっちゃうよね。
渕野:いや、わかります。自分もそうですよ。自分はできれば丸がいいかな。でもなんか、まず角目があって丸目が追加されたという経緯はわかる気がするな。丸目はどこか取って付けた感じが見え隠れしますから。
清水:そうですか!? ぜんぜん自然に見えるけど。
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なんで丸目がもてはやされているの?
ほった:私見ですけど、角目のほうはランクルのなかでも「60系」の後期型をすごく意識してると思うんですよ。今でも人気のモデルだし、そもそもティザーの写真におもいっきり使われてたし。対して丸目のほうは、同じ60系の前期型かなと思うんですけど……正直なところ、ランクルの歴史を振り返ったときに「そんなにランクルって、丸目のイメージがあるクルマだったっけ?」って不思議になるんですよね。「40系」より前とか、古い「70系」とかは確かに丸目でしたけど、“昔のランクル”っていわれてそこを思い出すのはマニア寄りの人だと思うし。
清水:歴史を振り返ると、ランクルは丸目のほうが角目より期間が短かったの?
ほった:3つも系譜のあるクルマなんで一概には言えないんですけど、60系の後期以降は傍流だったのは確かです。2代目の「プラド」とか70系ぐらいかな……。70って、今でこそ「ナナマル! ナナマル!」ってみんな盛り上がってるけど、30周年の日本復活導入以前は、完全にカルトカーでしたからね! 私みたいな偏屈からしたら「アナタたち、そんなに70のこと好きだったっけ?」ってなもんですよ。その30周年記念車にしても、大幅改良後の角目のモデルだったわけで……。とにかく今、一部の人が「丸目のランクル、サイコー!」って盛り上がってる理由がわからない。正直、首をかしげるんですよね。
清水:それはね、これは俺の説だけど、半世紀たったからなんだ。
ほった:半世紀?
清水:半世紀たつと、新型車として丸目が登場したのをリアルタイムで見た人がほとんどいなくなる。今の60歳でも、免許を取って以来、丸目の新型車なんてほとんど見ていない。最近の例を除いてね。だから丸目がすごく新鮮で、レトロなんだけど斬新に見えちゃう。それで「丸目、いいね」ってなっているんじゃないかなと思うんですけど、どうでしょうかね?
渕野:そういう可能性はすごくありますよ。若い人にとっては新鮮でしょうし、アイコンとしてわかりやすいじゃないですか。
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人気の“武骨系デザイン”にも終わりはくる
清水:率直なところ、ランクル250のデザインはものすごく魅力的じゃないかと思うんですよ。「300」も人気大爆発ですけど、250を見たら「こっちのほうがもっとよくないか?」ってなるんじゃないか。「スズキ・ジムニー」みたいに、「それは反則だよ!」ってくらいの原点回帰ですから。ここまでやられると抵抗できない。こういうやり方は、デザイナー的にはどうなんですか?
渕野:デザイナーって、これまでは形の面白さとか、そういうことに注力していたと思うんですけど、もう今は、クルマは形よりテクノロジーで勝負の時代じゃないですか。EV(電気自動車)の時代になったら特に。だから、お客さんが求めてるものをストレートに表現することがまず重要じゃないかと思っています。そういう点では、ランクル250には本当に素直に、「こういうクルマ好きでしょう? じゃあこれどうぞ」っていうわかりやすさがある。
それに、これまでトヨタは実にいろいろな造形にトライしていますよね。ものすごい蓄積があるなかでこれを出しているので、逆に説得力を感じます。これしかできないメーカーじゃないですから。
ほった:引き出し、多いですよね~。
清水:ただ、このままだとクルマはこういうデザインばっかりになるんじゃないかと、心配になるんですが。
渕野:おそらく、今くらいが潮時というか、打ち止めじゃないでしょうか。
ほった:ですか。
渕野:フォードの「ブロンコ」とか「ブロンコスポーツ」などを見ても、すごく魅力的だけれど、「またそういうの?」みたいな感じがあると思うんですよ。もちろん、これからもこういうクルマは出ると思いますけど、みんながみんな、そういう方向にはいかないんじゃないかな。アウトドア系のブームも今がピークで、終えんに向かいそうな気がします。クルマのデザインもそっちに引っ張られてましたけど、今後は潮目が変わってくるんじゃないのかな。
清水:こればっかりにはならないということですね。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、ジャガー・ランドローバー、スズキ、フォード、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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