レクサスLBX“クール”(FF/CVT)
既存の尺度では測れない 2023.12.30 試乗記 レクサスのラインナップで一番小さなSUVとしてデビューした「LBX」。ただし、なりは小さくとも目指す高みは「LS」をはじめとした大型モデルと同じであり、レクサスの描く新たなプレミアムカーを体現したモデルである。スペインを舞台にその仕上がりをチェックした。「ヤリス クロス」とは基本構造が別物
LBXは一見するとレクサスのSUVラインナップに加えられたエントリーモデルにみえる。が、「UX」とほぼ重なる価格帯からみれば、開発の意図はそういったところにはなさそうだ。車格的なヒエラルキーも車型的な縛りも抜きにして、ともあれレクサスが考える上質なコンパクトカーをつくろう、そういう気概が「Lexus Breakthrough X-over」を略した3文字の車名にも込められている。
LBXのサイズは全長×全幅×全高が4190×1825×1545mm、ホイールベースは2580mmとなる。寸法的には欧州BセグメントSUV系のど真ん中、日本に導入されているものでいえば「フォルクスワーゲンTクロス」や「ルノー・キャプチャー」といったモデルにほど近い。同じ「GA-B」プラットフォームを用いる「ヤリス クロス」の兄弟的な位置づけとみられることもあるが、LBXはリアゲートまわりの環状構造化に加えて、専用構造のフロントカウル設計やセンターピラー部およびレインフォースへのホットスタンプ材の採用、開口部のスポット短ピッチ化や部位ごとに減衰力を使い分けた構造用接着剤による補剛など、高剛性化にあらゆる手が尽くされている。加えてホイールベースも20mm長くトレッドも幅広……と、ヤリス クロスとはディメンションからして別物となっている。
フロントサスはキャスターアングルを大きくとり、トー変化を抑えながら直進性を向上させる専用ジオメトリーを採用。サスアッパーは3点締め、ハブナックルは鍛造アルミ製とするなど、入力分散や支持剛性などを細かく調律することで操舵のリニアリティー向上や洗練された乗り心地を実現しているという。リアは駆動方式によってトーションビームとダブルウイッシュボーンを使い分ける。
肉感的なたたずまい
パワートレインはヤリスシリーズや「シエンタ」などにも搭載される1.5リッター3気筒をベースとしたハイブリッドのみの設定だ。搭載バッテリーがバイポーラ型ニッケル水素という点からみれば「アクア」にほど近そうだが、実は搭載されるM15A-FXE型は一次バランサーを搭載。トランスアクスルは第5世代と呼ばれる最新のモーター一体型を採用し、そのモーター出力もアクアより高い。最終的なシステム出力は136PS、0-100km/h加速は同スペックの欧州仕様で9.2秒と、速さ的には必要にして十分なレベルといえるだろう。
車格的な下克上にも躊躇(ちゅうちょ)なしということもあって、LBXの全幅は1825mmに達している。多くは形状的な余幅として用いられることもあり、そのたたずまいはやたらと肉感的だ。日光を上から受けてのハイライトで強調されるリアフェンダーの盛り上がりにはただならぬ迫力がある。一方、そのワイドスタンスは操舵角にも効いているようで、LBXの最小回転半径は5.2mと、実はヤリス クロスよりも小さい。
9.8インチのタッチパネル式ディスプレイがセンターコンソールに収まる内装はオーソドックスなT字レイアウトだ。全体形状的には物足りないと思う向きもあるかもしれないが、ここは形でうんぬんよりも仕立てのよさを前面に押し出そうという狙いなのだろう。現にLBXは、日本仕様でもテーマに沿った2種類のトリムラインのほか、シートやトリム、ステアリング等の表皮素材やなめし、ステッチの色やパターン、シートベルトの色などを自分好みに選択できる“ビスポークビルド”というグレードも用意されている。そして必要最小限の操作系は物理スイッチを残すなど、操作のしやすさにも配慮されている点はダウンサイジング系のユーザーにも支持されるだろう。
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操舵と加減速の絶妙のコンビネーション
試乗車はLBXのデザインコンセプト「プレミアムカジュアル」を最も象徴的に表しているというトリムラインの“クール”だ。セミアニリンとウルトラスエードのコンビシートやウルトラスエードのドアトリムなどで構成される内装は確かに質感という点ではUXと同等以上にあるやもと思わせる。また、Aピラーを立てたトラッドなキャビンプロポーションのおかげで、ダッシュボードの長さも適切なら前方の見通しに変な癖もなく、肌なじみがいいことも特徴のひとつに挙げられるだろう。身長181cmの筆者のドラポジではさすがに後席の着座感はミニマムになってしまうが、そこを欲張るのは小さいことを新たな価値の柱とするLBXにおいては本末転倒だ。後席の使い勝手を優先する向きはUXをどうぞということになるのだろう。とはいえLBXの荷室容量はデッキボードを使わなければ最大332リッターに達するなど、UXと比べても遜色はない。
試乗車は欧州仕様ながらスペックは日本仕様と同一ということで、市街路から郊外路、高速道路やワインディングロードなどひととおりの状況を試すことができた。まず低中速域の多い街乗りで感じられるのは機敏な操舵応答と、それと呼応するようにテンポよくパワーを放ってくれるハイブリッドシステムとの快活なコンビネーションだ。ラウンドアバウトの進入から脱出といった一連の動きのつながりのよさなんかをぜひ体感してもらえれば……と、試乗前に遠藤邦彦チーフエンジニアから言付かっていたのだが、仰せのとおりの減速のリニアさに始まり、旋回や切り返しの軽やかさ、加速の力感とその始終がポンポンと気持ちよくハマってくれる。
特に印象的なのはエンジンの回転を過度に高めてうならせることなくグイッと車体を押し出してくれるモーター駆動の力強さだ。そこから高速道路の合流に向かうなど、さらに力強い加速を求める際にも、3気筒ユニットゆえの音・振動はしっかり封じ込まれていて安っぽさに落胆することはない。さすがに全開加速が続けば独特の音質に苦笑いも浮かぶが、普通に乗るぶんには3気筒のネガを感じる場面は少ないと思う。
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飛ばさなくても楽しめる
高速巡航では静粛性とともにスタビリティーの高さにも感心させられた。ちょっとした外乱にも乱されない据わりのよさは、ちょっとBセグメント離れしている感もある。一方で乗り心地も悪くはない。いかにも高級車然とした、ふんわりと包まれるような優しさには乏しいが、横揺れや跳ねなどの無駄な動きが少なくスキッと心地よい、そんな類いの乗り味を供してくれる。ただし速度を問わず路面状況によっては、バネ下が軽くバタつくようなリアクションもうかがえた。ちょっとタイヤサイズを頑張りすぎという感もあるが、試乗車よりもエアボリュームの大きい17インチの仕様に乗るとまた印象が変わるのかもしれない。
コーナリングは以前クローズドコースで確認する機会もあったが、その際には限界域がかなり高いところにあるという印象だった。言い換えればそれは、ワインディングのようななまくらな負荷域ではあまりに何事もなく運転が退屈に感じるのではないだろうか、そんな懸念を抱く契機にもなっていたわけだ。
その想像からすれば、LBXは緩い入力でも望外によく動いてくれるクルマだった。ワインディングを流す程度の速度域でも、減速や操舵、荷重移動などのインフォメーションがしっかり伝わってくる。つまり運転実感がきちんともたらされるからひっちゃきに飛ばさないことには物足りないなんて不満を抱くこともない。
もとより、全域で感じるのはやはりセグメントブレーカーたる目標値の高さだ。なりは小さくてもガッチリと芯の通った走りの質感はBセグメントの尺度では語れない。小さな高級車というコンセプトはかたちにするのが難しいと言われ続けてきたが、この下克上が市場でどのように評価されるのかはちょっと楽しみでもある。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
レクサスLBX“クール”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4190×1825×1545mm
ホイールベース:2580mm
車重:1310kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
モーター最高出力:94PS(69kW)
モーター最大トルク:185N・m(18.9kgf・m)
タイヤ:(前)225/55R18 98H/(後)225/55R18 98H(ヨコハマ・アドバンV61)
燃費:27.7km/リッター(WLTCモード)
価格:460万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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