第40回:ポルシェって、そんなにカッコいいですか?(後編) ―「911」という偉大なイコンの光と影―
2024.09.18 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
セダンもワゴンもSUVも、みんな「911」のカッコにしちゃえばいい!? 人気を博するポルシェの現行ラインナップを前に、モータージャーナリストとwebCG編集部員の意見が大激突! 元カーデザイナーの識者は、この論争にいかな結論を下すのか?
(前編に戻る)
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新型「マカン」からポルシェのデザインが変わる?
渕野:新型「マカン」は、EV化の旗手という点も含めて“新世代ポルシェ”っていうことなんだろうと思いますけど、デザイン的にも、これまでの印象に対してちょっと“堅め”な雰囲気にはなってきてるかなと思います。
清水:え、堅めですか?
渕野:例えばヘッドライトにしても、割と横長で四角い感じじゃないですか。前型はフェンダーの縁が丸められていて、ライトも丸みがあって、やっぱり911がルーツだなって感じさせましたけど、新型マカンは硬質になっている。ある意味現代的ともいえます。この感じがほかのモデルにも波及していくのかなと。
清水:確かに堅実になってますね。
渕野:それと、新型マカンはリアビューやサイドビューがどこか物足りないなって感じてたんですよ。よくよく見たらリアスポイラーが付いてないんですね。
ほった:あら、ホントだ。
渕野:普通はルーフの後ろにスポイラーを付けることで、シルエットの勢いみたいなものを表現するんですけど、新型はそれをなくして、なんというか、よりクーペライクになってる。でも、クーペっていうほどDピラーは傾いてないので、そこだけ中途半端な感じに見えました。
清水:そのあたりも堅実になったイメージですね。
渕野:例えば「カイエン」には、定石どおりスポイラーが付いてますね。このスポイラーというのは機能部品という側面だけでなく、デザイナーとしてもシルエット的に「ちょっとここは、やっときたい」っていう箇所なんですよ(笑)。新型マカンはそれがないのでつるっとして見える。実物はバランスとしてどう見えるのかな?
フルモデルチェンジなのに全然変わってない!
渕野:ちなみにこれは、2シーターのコンセプトカー「ミッションR」です。レーシングカーっぽいショーカーですけど、ヘッドライトとリアコンビランプは、まさにポルシェが最新モデルに取り入れているモチーフですよね。ヘッドライトも、四角いレンズの中に4つのシグネチャーランプがある。リアコンビは完全に横一文字で、これはカイエンとか、新しい「タイカン」「パナメーラ」でもやろうとしてますよね、911もですけど。
で、こちらがカイエンなんですけど、ヘッドランプがぐるっと回ったようなオーセンティックな形状から、ややスクエアな感じになっている。リアコンビまわりも、以前は段がついていて真ん中が細くなっていた。新型はそれがずいぶん薄くなって、ほとんど横一枚。
清水:あー、なるほど。
渕野:パナメーラも、よくよく見ると、リアのここが違うんですよ。
清水:Cビラーのあたり。
ほった:これまでのほうがRがデカかった感じですね。
渕野:前型は911みたいな感じだったのに対して、新型はちょっとカクカクしてるんです。リアドアの後ろの部分が変わってるんですよね。元のやつは給油口も四角っぽかったんですけど、新しいのは丸っこくなってたり。ここを変えるって相当なとこなんですよ。ドアなんてすぐ変えられるんですけど、ここはモノコックの一部なんで、普通マイナーチェンジでは変えないところです。
ほった:……ええと、一応パナメーラはこれがフルモデルチェンジなんですが。
渕野:え? そうなんですか。
清水:そうじゃなかったら、そんなとこ変えられないですね、確かに。
渕野:その割には……。
ほった: 変わってないですね(笑)。
清水:言われなきゃわかんない。
渕野:すごいですね。ここまで変えないっていうのは。
ほった:すごいですよ。
渕野:フルモデルチェンジっていうと、デザイナーはみんな「じゃあなんか違うことやってやろう!」みたいになるんだけど、ここまで変えないっていうのは、逆にすげえなあ。
清水:変えないことに価値があるってことなんでしょうね。
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実はいろいろと細かいことをやっている
渕野:あと、タイカンですね。これはマイナーチェンジですよね?(笑)
ほった:こっちは間違いなくマイナーチェンジです。
渕野:タイカンはマイチェン前のほうが個人的には好きかな。
ほった:涙目みたいなデザインじゃなくなっちゃったんですね。上級グレードには、ちょっと面影が残ってるけど。
渕野:涙目じゃなくなっというより、立体構成が変わった感じですね。以前はフロントフェンダーがバンパーに上からかぶさるような格好だったんですよ。その結果として、ヘッドランプの縁が涙みたいになってるっていう構成が明快だったんですけど、新型はそれがなくなっていて、割と普通のデザインに感じられる。やっぱり不評だったんですかね?
ほった:不評だったんじゃないですか。
清水:そこがカッコよかったのに!
渕野:ですよね。
清水:でもまあ新型もカッコいいですね。タイカンはカッコいいですよ!
ほった:私は911の呪いがかかってないアウディ版(コンポーネントを共用する「アウディe-tron GT」のこと)のほうがイイと思いますけど。涙をなくしたのは顔のデザインを統一するためかもしれませんね。さっきのミッションR顔に。
渕野:そのパターンですかね。で、そんななかで911は、かろうじてまだ丸目なんです。911に関しては、フロントまわりはバンパーにちょっと手が入ったぐらいで、あまり変わってはいない。リアはカイエン同様、リアコンビランプの段をなくして完全に横一文字にしてるので、これがどう見えるか。実車を見てみたいなと思います。ライセンスプレートも、位置が上に来てますね。よりスポーティに見せたいということなのか……。
これも実車を見たいところですけど、写真で見る限りはマイチェン前のほうが好きですね。ただマイチェン前も、「ターボ」系のモデルはライセンスプレートが上だったんですよ。そんなことやってるんだなと不思議に感じました。逆にカイエンは、マイチェン前はライセンスプレートがリアコンビのすぐ下にあったんですけど、マイチェン後はリアゲートの下に下がってる。こういう細かいことをやってんだなぁと。
清水:全部気づいてませんでした(笑)。
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ブランドを再興したポルシェ版「金太郎アメ戦略」
清水:ほったくん、スポーツカー以外のポルシェデザイン否定派として、ここまでの話をどう思った?
ほった:いやぁ。残念ながら、相変わらず理解できないっす。SUVとかセダン、ワゴンって、やっぱりスポーツカーじゃないわけですから、あんまりフォルムでぎゅーってやられても、いまいちピンとこないんですよ。
渕野:腑(ふ)に落ちないんですね。SUVだったらSUVらしい形があるんじゃなかろうかと。
ほった:そうですね。実際、デカいクルマでも911に似せるためにプレスラインやエッジをあまり使わないから、プロポーションで頑張ってる割に締まりのない印象を受けますし。私はいまだに、「みんなポルシェだからとりあえずカッコいいって言ってんじゃないの?」って疑ってますから(笑)。もちろん渕野さんの言うとおり、ポルシェとしてはそれが正解で、まずポルシェに見えなきゃいけないってのがあることはわかりますが。
渕野:やっぱりブランドが強いですから。人数乗れるポルシェが欲しいっていう人もすごくたくさんいる。それでSUVがすごく増えて、フェラーリまでつくるようになった。そういうニーズがあったのは確かです。個人的には、このクラスのSUVを買うならランドローバー系のほうに魅力を感じますけど、ポルシェのSUVもニーズがあるから成功してるわけで。
清水:なにしろカイエンは、スポーツカー専業メーカーがつくるSUVのパイオニアですからね。ポルシェは新しい市場を切り開いた。
渕野:いい戦略だったんじゃないかなと思います。それまでのポルシェはつぶれかけていたわけですし。
清水:そうですよね! カイエンが存続の危機を救った! 初代カイエンを出したときは、すごい冒険だったと思うよ。
渕野:ひょっとしたら、ブランド価値が下がるかもしれなかったわけですから。
ほった:実際、ちょいと威光が陰ったとは思いますけどね。
清水:典型的なカーマニアの独り言だけどね、それ。
ほった:あらヤダ。ワタシは典型的なカーマニアでしてよ?
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未来永劫「911デザイン」を貫くべし!
渕野:ほったさんは、なんでもかんでも911の形に寄せるのに違和感を抱いてるわけじゃないですか。私もまったく新しいポルシェデザインを見てみたいです。911に縛られなくても、ポルシェらしい形ができたら、それはそれですごくいい。でも過去のトラウマから、大きく変えることができないんでしょう。
ほった:でしょうねぇ。わたしゃリトラの「944」が好きだったんですけど、あれとか出していたころを思い出すと、いろいろと引き出しは持っていたような気がするんですがね。
清水:カーマニアはそういうこと言うよね。歴史ファンが「一番好きな戦国武将は?」って聞かれたら、まず信長とは言わない。立花宗茂とか言うんだよ。でも俺は「信長以外にありえん!」って一刀両断する。信長のいない戦国時代なんて想像できないじゃん!
ほった:清水さん、話をまとめにきてますね?(笑)
渕野:確かにお客が期待してないですよ、911を感じさせないポルシェは。期待はそこじゃない。
清水:いやもう、ポルシェは変えないことに意義があるんじゃないですか。ポルシェは911の派生系デザインで、未来永劫(えいごう)いってもらいたいです。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ポルシェ、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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