第39回:ポルシェって、そんなにカッコいいですか?(前編) ―「911」に縛られたデザインに物申す―
2024.09.11 カーデザイン曼荼羅![]() |
出すモデルがことごとく好評を博し、わが世の春を謳歌(おうか)しているポルシェ。……しかし、彼らの擁するラインナップは、果たしてホントにカッコいいのか? 元カーデザイナーとモータージャーナリスト、そしてwebCG編集部員が、禁断の扉に手をかける!
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みんな「カッコいい!」って言うけれど
webCGほった(以下、ほった):今回のお題は、みんな大好き、ポルシェです。全人類を敵に回す勢いでいきましょう。取りあえず私が口火を切らせてもらいますと、ポルシェでは今、新車攻勢が始まってまして、「パナメーラ」がフルモデルチェンジして「マカン」もモデルチェンジして、「タイカン」と「911」もマイナーチェンジしてデザインがあれこれ変わりました。なので、ここで一丁、取り上げるべきかなと。
渕野健太郎(以下、渕野):なるほど。
ほった:……ていうのは表向きの理由でして、これは個人的なアレなんですけど、911とか「718ケイマン/ボクスター」とかのスポーツカーは別とすると、ポルシェって本当にカッコいいんですかね? それがワタシにゃ、よくワカらんのですよ。
清水草一(以下、清水):ふむふむ。
ほった:スポーツカー以外のポルシェだと、初代カイエンが第1号でしたけど、正直カッコいいって印象はなかったです。また知り合いが乗っているので言いづらいけど(笑)、パナメーラもデザイン的には、ちょっとピンとこなかった。ポルシェの4ドア(厳密には5ドア?)やSUVをカッコいいって言っている人のデザイン観が、よくワカらんのです。デザイナーさんとかデザインに詳しい人は多分、「ここの部分がこうなっているから、すごい完成度が高いデザインなんだよ!」みたいな話をされると思うんですけど……。
清水:それはスポーツカー以外の全部ね? タイカンも。
ほった:タイカンもそうです。マカンだけはちょっといいなと思ってたんですけど、それも新しいEV(電気自動車)版では2階建てみたいな顔になって、昔のようなピュアな感じじゃなくなっちゃった。
清水:ガソリン車のほうも、以前のマイチェンで顔のシマリがなくなったよね。パッカーン! みたいな。
「911」っぽいクルマ以外いりません
ほった:最初にカイエンが出たときにも思いましたけど、「911に寄せなきゃ」っていうシバリが強すぎるんじゃないですかね。
清水:そりゃま、911は不変の伝統芸能だからねぇ。
ほった:とはいえ、いろんなクルマを見ていて「それって、その形にする必要なくない?」「これがベストな形だって、デザイナーさんは本当に思ってんのかな?」って疑問になること、マジでありませんか? それに関して、渕野さんはどう思います?
渕野:いやいや。ポルシェがブランドとして、911のデザインをポリシーにしているのは別に悪くないですし、すごく戦略的だと思うんですよ。911はアイコンとして強すぎるぐらい強いじゃないですか。911の後に「928」とか「944」とか出ましたけど、あまり成功しなかったですよね。ポルシェっていえば911なんだってことを、ポルシェは痛いほどわかってると思うんです。
清水:伝統芸能が伝統を捨てたら終わりですよね。
渕野:今言われたような話はランボルギーニも同じで、「ウルス」もランボルギーニのスーパーカーの形を踏襲しようとしてるじゃないですか。それは全然悪いことではない。
清水:「カウンタック」をほうふつとさせなきゃ、ランボルギーニじゃないですから!
ほった:私は、ウルスもカッコいいと思ったことはいっぺんもないんですけど。
渕野:それと、スポーツカー以外のポルシェがカッコいいか、カッコ悪いかっていえば、プロポーション的には全然いいです。めちゃくちゃこだわってつくってます。前も言いましたけど、ポルシェとボルボとランドローバーとマツダは、プロポーションに特別にこだわってる。つまり、デザインに関して言うことは、あんまりないんです。
清水:言うことナシと。
渕野:目的がしっかりしてるし、プロポーションがいいので、全体像としては、言うことはないかなと思うんですよね。
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はじまりは初代「カイエン」
清水:SUVはともかく、僕はタイカンとパナメーラって、とてもカッコいいと思うんです。
ほった:マジすか?
清水さん:カッコいいよ……(しみじみ)。911のイメージをうま~く長くしてるなぁと思う。
渕野:パナメーラに関しては、ちょっと間延び感はありますけどね。タイカンは結構キュッと絞られてますが。
清水:パナメーラよりタイカンのほうがさらにカッコよくて、進化系だと思います。で、ポルシェのSUVたちはね、うん、SUVだなぁと思います(全員笑)。あれもプロポーションにすっごくこだわってるって渕野さんから聞いて、そうなのかぁ~と思いつつ、よくわかんないです。
ほった:個人的には、タイカンが一番苦手なんだけどなぁ。
清水:タイカンのデザインには引き込まれるよ。オレ、ウツボの映像から目を離せないんだけど、それに近いかな。キモカッコいいの。
ほった:ああ、そういう(納得)。
清水:初代カイエンが出たときも、カーマニアの反応はすごくネガティブだったと思うんですよね。ポルシェがこんなの出しやがったって。
ほった:私もです。以前は「俺も保守派だしな」って思ってたんですが、最近は不遜にも「カイエンのデザインの完成度が低かったんじゃね?」って思うようになりました。
清水:俺もカニ道楽の看板みたいに見えたんだよ。911を“おみこし”みたいに持ち上げて、カニの足がウニウニ動いてるみたいに見えたんだ。でも世の中的には、最初からバカ受けしたわけじゃない。
ほった:そうだけど、売れたからデザインがいいってのは話が違うでしょう。「売れてるものがいいものなら、世界一のラーメンはカップラーメンになっちゃうよ」(※)。
渕野:初代カイエンに関しては……というか他のポルシェの4ドアにしてもそうなんですけど、モチーフを拝借するにも911はスポーツカーなわけですよね。キャビンがすごく絞られていて小さくて、リアフェンダーがボーンって出てるから、プロポーションがいいのは当然なわけですよ。カイエンでは、あのイメージをSUV化しなければいけなかったわけです。じゃあそのプロポーションのよさをどう担保しようか? っと、だいぶいろいろ考えた結果かなと思います、あのデザインは。……今こうして見ると、初代はまだぎこちない感じがありますけどね。
ほった:ぎこちなかったですね。
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今見るとすごくカッコいい?
清水:でもねぇ、俺も初代カイエンはカニ道楽だってずっと思ってたんだけど、この間、60代ぐらいの女の人が、地味なボディーカラーのカイエンに乗ってるのを見かけたら、ものすごくカッコよかったんだよ。「このクルマ何!?」みたいな。初代カイエンって全然見なくなっちゃったでしょ? だいぶ順調に廃車になってると思うんだけど、今見るとめちゃめちゃバランス悪くて、逆にカッコいいんだよ(笑)。「34 GT-R」(R34型「日産スカイラインGT-R」)みたいに。「こんなにカッコよかったのか!」って思ったなぁ。これって911でいうと、世代的にはどれだっけ?
ほった:「996」じゃないですか。
渕野:そうですね、996です。
清水:この顔のイメージって996ターボに近いんですね。今見るともっと全然時代遅れで、クラシックに感じられるけど。
ほった:というか、それって古くなったからカッコよく見えてるだけじゃないですか? 新車時は総スカンだったクルマだって、旧車になったら大抵カッコよく見えるもんですよ。
清水:そうねー。逆にカッコ悪かったやつほどカッコよく見えたりね(笑)。
渕野:初代カイエンはまだプロポーションがゆるいんですよね。リアのシルエットにしても、タイヤに対してやっぱり出っ張りすぎてて、そんなに座りがよろしくない。2代目もまぁ似たようなものです。だけど今の3代目はプロポーションが抜群で、断然カッコいいんですよ。個人的に買う買わないは置いといて、これはこれですごく正解だと思います。
清水:んー……。初代に比べたら猛烈にフツーじゃないですか? フツーすぎて何も感じません(笑)。
ほった:私は拳銃突きつけられて、「どちらか買わなきゃ撃ち殺す」って言われたら現行型買いますけどね。マカンだったら(新旧マカンの写真を示しつつ)逆に古いほうにしますけど。
渕野:(新しいマカンの写真を見て)これはEV専用車ですね?
ほった:そうです。マカンは新しいEV版と旧来のエンジン版が併売されます。ただしヨーロッパではエンジン車は消えますが。
渕野:ヨーロッパはもうこっち(EV)だけですか。なかなか難しい世の中になってきましたよね。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ポルシェ、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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