第823回:スポーティーなのにラグジュアリー? ダンロップの新作タイヤ「スポーツマックス ラックス」を試す
2025.03.15 エディターから一言ダンロップから新たなフラッグシップタイヤ「SPORT MAXX LUX(スポーツマックス ラックス)」が登場! スポーツタイヤなのかコンフォートタイヤなのかイマイチわかりづらい名前の新製品だが、その正体やいかに? セダンとSUVでの試乗を通して、その実態に迫る。
いうなればタイヤ界の“ラグスポ”
ダンロップのフラッグシップタイヤであるスポーツマックスシリーズに、静粛性能特化型の新製品が登場した。その名もスポーツマックス ラックス。なんかラップで韻を踏んだみたいな名前だが、わりと語呂がいいネーミングだ。とはいえ“LUX”はラグジュアリーという意味であり、社内でも当然、「この名前では、スポーツタイヤなのかプレミアムタイヤなのか、紛らわしくないか?」という議論が起こったという。
これについては、スポーツマックス ラックスが実は「VEURO(ビューロ)VE304」の後継モデルであるという事情がある。コンフォートなプレミアムタイヤが、今後はダンロップのフラッグシップとして「スポーツマックス」の看板を背負う立場になったのだ。『webCG』でも報じているとおり、住友ゴムは北米と欧州におけるダンロップブランドの商標を、2025年のはじめに5億2600万ドルというコストをかけて取得している(参照)。いまはとにかく、ブランドのカラーを強く、わかりやすく打ち出していこうとしているタイミングなのだ。
といった大人の事情はあるものの、筆者はこのスポーツマックス ラックスという製品は、語呂合わせのよさ以上にアリだと直感している。昨今では、例えばスポーツカーや機械式時計の世界でも、高級ブランドはスポーティネスとプレミアムという二律背反の価値をいかに併せ持つかが重要となっている。スポーツマックス ラックスとは言葉の順番が逆だけれど、いわゆる“ラグジュアリー・スポーツ”(ラグスポ)というジャンルが、プレミアム市場のセオリーとなっているからだ。
……前置きが長くなってしまったが、いいかげん走り出そう。今回、試乗車にはセダンとSUVの2台のメルセデス・ベンツが用意された。最初にステアリングを握ったのはDセグメントSUVの「GLC」で、タイヤは235/45R18サイズを装着していた。
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騒音を抑制すべく独自技術を総動員
住友ゴムの東京本社を出発して、豊洲の街なかへ。走り始めてまず特徴的だと感じたのは、その“エアリー”な乗り味だ。エアリーなんて言葉を使うと、「またわけのわからんことを言いおって」とマジメなwebCG読者諸氏に怒られそうだが、それは単に静かなだけではない、という意味。路面からの突き上げに対しても快適な乗り心地が保たれ、アクセルを踏めばスムーズにタイヤが転がる。路面にじゅうたんを敷いたような高級な乗り心地というよりは、フワッと軽い心地よさという印象なのだ。
こうしたスポーツマックス ラックスの快適要素を分解・分析したとき、まず静粛性の要となるのは、ダンロップのお家芸である特殊吸音スポンジ「サイレントコア」だといえる。その役目はタイヤ内の空洞共鳴音や空気振動音の吸収で、スポーツマックス ラックスではその形状を最適化すると同時に、容積をさらに増やした。
またトレッドパターンには「シームレスグルーブ」を採用し、特に常用域における周波数帯の音圧を大きく低減している。具体的には、トレッド中央にある3本のリブを水平に見たとき、ブロックと溝が常に隣り合わせになるようにパターンを配置。これによってブロックが地面に接したときにも空気の逃げ場ができて、パターンノイズを減らすことが可能になるのだ。また主溝の中には「デュアルスロープ」を配置して、音の原因となる空気の振動を阻害し、その音圧を下げているのだという。
ちなみにダンロップのテストでは、ビューロVE304と比べてパターンノイズでは14.9%、ロードノイズでは8.8%、騒音エネルギーが減少しているという(タイヤサイズは245/45R18、車速60km/hの状態で計測)。
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もう少しインフォメーションが欲しい
この高い静粛性に加え、乗り心地のよさもスポーツマックス ラックスの大きな魅力のひとつだ。聞けばそのコンパウンドは、ダンロップタイヤのなかでもかなりの柔らかさで、話題の「シンクロウェザー」よりもソフトだという。もっとも、シンクロウェザーは水を含むことでしなやかさを増すから単純比較はできないのだが、ドライ路面におけるコンパウンド剛性で比べると、こちらのほうがしなやからしい。
このようにソフトなコンパウンドを使用しながらも、タイヤはよく転がり、高い直進性が保たれているのは、トレッド面にスポーツマックスシリーズに共通のプロファイルを採用したからだ。トレッドのセンター部をフラットな形状とすることで接地性を上げ、乗り心地と走安性を両立させた。
ちなみに、接地性が上がればトラクションをかけたときもタイヤが滑りにくくなるから、耐摩耗性も高くなる。性能を示すスパイダーチャートによると、確かに操縦安定性と静粛性、乗り心地に特化しているが、次いで高いのがライフ性能なのだ。体感的によく転がると感じる割に、転がり抵抗性能が低いのは、ヒステリシスロスが大きいからか。タイヤラベリング制度にみる転がり抵抗の評価では、全72サイズ中8サイズが5段階中上から2番目の「AA」、64サイズが3番目の「A」となっている。
とにもかくにも、街なかだとかなり乗り心地がよいスポーツマックス ラックスだが、個人的にはもう少しだけ“手応え”が欲しいと感じた。確かにレーンチェンジレベルの微少舵角では、クルマはスーッとスムーズに曲がる。ただ、そこからさらに舵角を増やしていくと、きちんと旋回はしていくのだが手応えの変化が希薄というか、そこでもう少しインフォメーションが欲しくなるのだ。こうしたあたり、やはりスポーツマックス ラックスは、スポーツマックス系ではなくビューロVE304由来の製品なのだろう。ちなみに、現状は国内販売のみで、スピードレンジが上がる欧州に対しては、若干のパターン変更を施してから投入する予定だという。
またドライ路面での手応えを考えると、ウエット性能がどうなのかも体験したいと思った。こちらも参考までにタイヤラベリング制度にみるグレーディングだと、全サイズが4段階中最高評価の「a」を獲得している。
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ライバルはずばり、あのタイヤ
ここまでがGLCで試したスポーツマックス ラックスの印象だが、面白かったのは取材の後半で乗った先代「Eクラス」だと、その乗り味とハンドリングが違っていたことだ。同じ18インチでも、タイヤ幅は235から245へ、偏平率は60%から45%へ変わっており、このサイズとセダンの組み合わせでは、ステアインフォメーションが豊かに感じられた。もちろん、試乗車の車重もサスペンション剛性も違うから、タイヤのサイズや車形だけをその理由とするのは難しい。それは重々承知だが、重心が低いセダンだと操舵時のクルマの動きとハンドルの手応えがやはりバランスしていた。対して乗り心地は、ちょっとだけゴツゴツ感が増した印象だ。もちろん、俯瞰(ふかん)すれば十分に静かで快適だったのだが。
スポーツマックス ラックスのライバルはずばり、ブリヂストンの「レグノGR-XIII」(その1、その2)だろう。今回の試乗だけで白黒つけることはできないが、ダンロップがここに対して真っ向勝負を仕かけてきた意気込みは、十分に感じ取れた。
ちなみにブリヂストンは、ミニバンやコンパクトSUV用に「レグノGR-XIIIタイプRV」もラインナップ。重心の高い車種に対しては、トレッドパターンを変更した派生品を投入することで対応している。いっぽう、ダンロップのスポーツマックス ラックスは、前述の新型プロファイルを武器にワンモデルで対応し、さらに車重が重くなる電気自動車(EV)に対しても、専用設計はしないという。思い返すと、レグノのGR-XIIIタイプRVは、しなやかな標準仕様のGR-XIIIに対して、静かではあるものの剛性感が高くなっており、そのテイストが少し変わっていた。ダンロップはこれを考慮し、同じ構造とコンパウンドで対応する構えだ。
開発陣はこのスポーツマックス ラックスをプレミアムスポーツタイヤとして捉え、50代以上の高級車オーナーをターゲットにしているという。しかし、そのサラッとした乗り味は、Z世代の富裕層にもウケると筆者は感じた。とにもかくにも、商品でもブランド戦略でも経営戦略でも話題を振りまいているダンロップがいま、勢いに乗っているのは間違いない。
(文=山田弘樹/写真=webCG/編集=堀田剛資)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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