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第308回:スバル車として金メダル

2025.04.21 カーマニア人間国宝への道 清水 草一
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燃費フェチにスバル車は向かない

思えば、「いいクルマ」とは、あまり縁のない人生だった。

カーマニア用語における「いいクルマ」とは、かつて徳大寺巨匠が絶賛した初代「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のような、見た目もスペックも地味だけど、乗れば乗るほど良さがじわっと体にしみ込んでくるようなタイプである。

私がカーマニアとして愛してきたのは、主に「刹那的なクルマ」だ。たとえばついこの間、首都高・辰巳PAで炎上した愛車「フェラーリ328GTS」のような。先般、同じく首都高で「フェラーリ458イタリア」が全焼したが、あれも刹那的で素晴らしいクルマだった。

「いいクルマ」だけでなく、「安全そうなクルマ」や「安定感の高いクルマ」も、あえて避けてきた。4WDとか低重心とか最低地上高が高くて安心とかブレーキがメッチャよく利くとか、そういうクルマは、自分のカーマニア人生を堕落させると思ってきたのである。

そのせいか、スバル車とはあまり縁がない。スバル車は4WDで、低重心で、最低地上高が高め。すべて人生を堕落させる安心安全な要素である。

しかもスバル車は燃費が悪い。これは燃費フェチの私にとって致命的だ。

燃費は、いつでもどこでも挑戦できるカーマニアのオリンピック。それが常に予選落ちじゃ悲しい。もちろんフェラーリも燃費悪いですけど、これまでのスバル車の実用燃費は、ヘタするとフェラーリ328(約7km/リッター)より悪かったので、「ありえんだろ!」と思っていたのである。

2024年12月に登場した「スバル・クロストレック」のストロングハイブリッド車。搭載されるハイブリッドパワートレイン自体の名称は、既存のマイルドハイブリッド車のパワートレインと同じく「e-BOXER」となる。そのため、こちらは「e-BOXER(ストロングハイブリッド)」または「S:HEV」と表記して使い分けられている。ちょっとややこしい。
2024年12月に登場した「スバル・クロストレック」のストロングハイブリッド車。搭載されるハイブリッドパワートレイン自体の名称は、既存のマイルドハイブリッド車のパワートレインと同じく「e-BOXER」となる。そのため、こちらは「e-BOXER(ストロングハイブリッド)」または「S:HEV」と表記して使い分けられている。ちょっとややこしい。拡大
今回試乗したのは、渋滞時ハンズオフアシストやアクティブレーンチェンジアシスト、ドライバー異常時対応システムなどからなる「アイサイトX」や12.3インチのフル液晶メーターを標準で装備する上級グレードの「クロストレック プレミアムS:HEV EX」。車両本体価格は405万3500円である。
今回試乗したのは、渋滞時ハンズオフアシストやアクティブレーンチェンジアシスト、ドライバー異常時対応システムなどからなる「アイサイトX」や12.3インチのフル液晶メーターを標準で装備する上級グレードの「クロストレック プレミアムS:HEV EX」。車両本体価格は405万3500円である。拡大
ストロングハイブリッドシステムは、最高出力160PS、最大トルク209N・mの2.5リッター水平対向4気筒エンジンに、駆動用と発電用の2つのモーターとフロントデファレンシャルギア等をひとつにまとめたトランスアクスルや、容量1.1kWhのリチウムイオンバッテリーを組み合わせて構成される。
ストロングハイブリッドシステムは、最高出力160PS、最大トルク209N・mの2.5リッター水平対向4気筒エンジンに、駆動用と発電用の2つのモーターとフロントデファレンシャルギア等をひとつにまとめたトランスアクスルや、容量1.1kWhのリチウムイオンバッテリーを組み合わせて構成される。拡大
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足まわりの感触がとてもいい

そんなスバルが、ついに燃費のいいクルマを出した。「クロストレック」のストロングハイブリッド車だ。

あんまり自分の趣味とは合わないスバルが、本物のハイブリッドを出したのだから興味津々。ずーっと乗ってみたいと思っていたが、私のところにスバル車の試乗記の仕事がくるはずもなく、ずーっと乗れずにいた。仕方なく、無理に仕事をつくって、先日とうとう試乗することに成功した。

クロストレックは、私があんまり好きじゃないタイプのルックスをしている。フォルムはともかく、ディテールがゴチャゴチャしすぎていて、イケてない。インテリアも、センターのディスプレイをはじめとして、かなりゴチャついた印象でオシャレくない。

私はカーマニアとして、常にスカしたオシャレさんでいたいほうだが、これでは「微妙にズレたカーマニア」だ。

考えてみると、先代「XV」も途中で顔がゴチャついた。スバルは近年、ゴチャゴチャさせたい時期なのだろう。誰しもそういう時期はある。

東京・杉並の路地をフツーに流すと、足まわりの感触がとても良かった。最近のスバル車は、かつての超硬派はどこへやらの癒やし系が多いが、ストロングハイブリッドを載せる「クロストレック プレミアムS:HEV EX」は、マイルドハイブリッド系のクロストレックよりも若干引き締まっていて、とてもちょうどいい。

住宅街をゆるゆる流したときのパワートレインの印象は、トヨタのハイブリッドシステムそのもの。かつて愛車とした初代「プリウス」や「アクア」で慣れ親しんだ、燃費アタッカーの戦闘的な香りが漂っている。よし、このまま首都高に突入して燃費アタックだ!

「クロストレック プレミアムS:HEV EX」(写真左)と、“ちょいワル特急”こと愛車の「プジョー508」(同右)との2ショット。クロストレックは、クロスオーバー的なフォルムはともかく、ディテールがゴチャゴチャしすぎていて正直あんまり好みとはいえないタイプのルックスだが、その走りはどうか。
「クロストレック プレミアムS:HEV EX」(写真左)と、“ちょいワル特急”こと愛車の「プジョー508」(同右)との2ショット。クロストレックは、クロスオーバー的なフォルムはともかく、ディテールがゴチャゴチャしすぎていて正直あんまり好みとはいえないタイプのルックスだが、その走りはどうか。拡大
縦型のディスプレイをダッシュボードの中央に配置した「クロストレック プレミアムS:HEV EX」のインストゥルメントパネル。スイッチ類が比較的多く採用され直感的な操作が行えるのは申し分ないが、こちらもエクステリアデザインと同じくかなりゴチャついた印象を覚えた。
縦型のディスプレイをダッシュボードの中央に配置した「クロストレック プレミアムS:HEV EX」のインストゥルメントパネル。スイッチ類が比較的多く採用され直感的な操作が行えるのは申し分ないが、こちらもエクステリアデザインと同じくかなりゴチャついた印象を覚えた。拡大
東京・杉並の路地をフツーに流して、首都高・辰巳PAに到着。住宅街をゆるゆる流したときのパワートレインはトヨタのハイブリッドシステムそのものといった印象で、それと同時に足まわりの感触がとても良かった。マイルドハイブリッドを搭載する素の「クロストレック」よりもこちらのほうが若干引き締まっていて、カーマニア的にはちょうどいい。
東京・杉並の路地をフツーに流して、首都高・辰巳PAに到着。住宅街をゆるゆる流したときのパワートレインはトヨタのハイブリッドシステムそのものといった印象で、それと同時に足まわりの感触がとても良かった。マイルドハイブリッドを搭載する素の「クロストレック」よりもこちらのほうが若干引き締まっていて、カーマニア的にはちょうどいい。拡大

カーマニアの終活としてもアリ?

首都高でのクロストレック プレミアムS:HEV EXは、ものすごくいいクルマだった。

足まわりは首都高にドンピシャのライトなスポーティーテイスト。最低地上高が高い割に重心は低く、しかもストロングハイブリッド化によって前後重量配分が改善されたのか、思ったよりさらに一段最適なラインをトレースしてくれる。その感覚がとても心地いい。

個人的には、フェラーリ328みたいな「ちゃんとフロント荷重かけないとまるっきり曲がらないクルマ」とか、フェラーリ458イタリアみたいな「こぶし1個分ステアリングを切っただけでUFOみたいに瞬間移動するクルマ(つまり曲がるのに気を使うクルマ)」が好みだが、こういうじわーっといいクルマも悪くない。

パワートレインの感触もかなりいい。2.5リッター水平対向4気筒エンジンはアトキンソンサイクル化されており、回すとトヨタのハイブリッドっぽい重い感触になるけれど、アクセルを踏んだ瞬間にモーターがグッとクルマを押し出してくれるのが地味に快感。まさにじわーっといいクルマだ。

いつのも辰巳PAに入って、つい数日前、わが328が炎上した場所のすぐ近くに止めた。あの場所には、328から漏れたオイルのシミが残っていた(どうもスイマセン)。シミだけにしみじみ。

首都高を一周して自宅に戻ったとき、燃費計は18.5km/リッターを表示していた。スバル車としては金メダル級の数値である。

あと10年くらいして、いよいよ自分の運転に自信が持てなくなってきたら、こういうクルマも悪くない。もうちょっとデザインがスッキリして、内外装にスバルらしいハードボイルド感が漂うモデルが登場していれば、カーマニアの終活として、ストロングハイブリッドはアリかもしれない。しみじみ。

(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一/車両協力=スバル)

メーカーオプションのルーフレールを装着した「クロストレック プレミアムS:HEV EX」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4480×1800×1580mmで、ホイールベースは2670mm。外寸やホイールベース値はマイルドハイブリッド車と変わらない。今回の試乗車は「ピュアレッド」と呼ばれる外板色をまとっていた。
メーカーオプションのルーフレールを装着した「クロストレック プレミアムS:HEV EX」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4480×1800×1580mmで、ホイールベースは2670mm。外寸やホイールベース値はマイルドハイブリッド車と変わらない。今回の試乗車は「ピュアレッド」と呼ばれる外板色をまとっていた。拡大
首都高をぐるっと一周して自宅に戻ったとき、燃費計は18.5km/リッターを表示していた。パワートレインの感触もかなりいいし、足まわりは首都高にドンピシャのライトなスポーティーテイスト。地味だが本当にいいクルマである。
首都高をぐるっと一周して自宅に戻ったとき、燃費計は18.5km/リッターを表示していた。パワートレインの感触もかなりいいし、足まわりは首都高にドンピシャのライトなスポーティーテイスト。地味だが本当にいいクルマである。拡大
個人的には、「フェラーリ328」みたいな、ちゃんとフロント荷重をかけないとまるっきり曲がらない、つまり曲がるのに気を使うクルマが好みだが、カーマニアの終活として「クロストレック」のストロングハイブリッド車はアリかもしれない。これは乗れば乗るほど良さがじわっと体にしみ込んでくるような「いいクルマ」タイプである。
個人的には、「フェラーリ328」みたいな、ちゃんとフロント荷重をかけないとまるっきり曲がらない、つまり曲がるのに気を使うクルマが好みだが、カーマニアの終活として「クロストレック」のストロングハイブリッド車はアリかもしれない。これは乗れば乗るほど良さがじわっと体にしみ込んでくるような「いいクルマ」タイプである。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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