第830回:未来への挑戦は模索から競争の段階へ 「人とくるまのテクノロジー展」を取材して
2025.05.28 エディターから一言キーワードは「DX」
2025年5月21日より3日間、神奈川のパシフィコ横浜で、「人とくるまのテクノロジー展2025」が開催された。今回はどのような技術展示が行われたのか? 主な自動車メーカーとサプライヤーの展示内容、そしてイベントの様子を紹介しよう。
そもそも「人とくるまのテクノロジー展」は、工学系学術団体の自動車技術会が開催する、国内最大級の自動車技術の展示会だ。毎年5月中旬に横浜で、7月に名古屋で開催される。また横浜での開催を見ると、2024年よりパシフィコ横浜の本館となるA~Dホールだけでなく、ノースホールも使用されるようになるなど、その規模は拡大し続けている。2025年5月の横浜開催では、約550の企業・団体が出展し、3日間で約8万人(前回は約7万6000人)が来場。会場は盛況そのものだった。
今年、主催者が掲げた企画テーマは、「新しい技術との融合で創るクルマとモビリティの未来 ―DXで広がる自動車技術―」というもの。今や自動車業界も、AIやビッグデータなどのデジタル技術の活用が進んでいる。それを踏まえたクルマやサービス、モノづくりの進化がテーマだったのだ。
ちなみに、示し合わせたわけではないだろうが、“人テク”開幕日の5月21日には、トヨタが東京・有明アリーナでSDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)戦略の第一歩となる、ソフトウエアプラットフォーム「Arean(アリーン)」を搭載した新型「RAV4」を発表している(参照)。まさにDX技術は、今の最新のクルマの行く先を示すものなのだ。
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注目の日系自動車メーカーの展示
そんな思いを抱きつつ、最初にチェックしたのはノースホールにまとめられていた日系自動車メーカーのブース群だ。トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、三菱自動車、マツダ、スバル、スズキ、ダイハツ工業、さらにトヨタ車体、ヤマハ発動機のブースがズラリと並んでいた。
なかでも最大級の展示スペースを構えていたのが、ホンダと日産だ。ホンダは先進運転支援システム(ADAS)の次世代「ホンダセンシング」と、クルマのパフォーマンスや乗り心地にかかわるダイナミクス統合制御技術を展示のメインとしていた。過日の「Honda 0」の技術説明会でも提示されていたもので(その1、その2、その3)、次世代ホンダセンシングは、従来のセンサー類に加えてLiDARとサラウンドビューカメラを搭載して状況認知能力を強化。ダイナミクス統合制御は、ステア・バイ・ワイヤやe-Axle(モーターやコントロールユニット、リダクションギア等を統合したユニットのこと)、電子制御サスペンション、3次元ジャイロを組み合わせることで、意のままで安定した、気持ちのよい走りを実現するとしている。
いっぽう日産の展示は、電動化技術と知能化技術の2つがメインだった。ブース全体を2つに区切り、前者に関しては1997年の「プレーリージョイEV」に搭載していたバッテリーから、最新の「5-in-1」のe-POWERパワートレインなどを展示。いっぽう後者については、「セレナ」をベースとした遠隔自動運転の実証実験車を展示していた。
マツダと三菱、スバルは最新モデルがブースの主役で、それぞれに「CX-80」「アウトランダーPHEV」「フォレスター」の実車を、そこに使っている技術の解説パネルとともに展示。特にスバルは、新型フォレスター(参照)に採用する世界初のサイクリスト対応型歩行者保護エアバッグを展示し、交通安全に対する姿勢を強くアピールしていた。
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遠い未来ではなく今日や明日の技術を展示
いっぽう、こうした他の自動車メーカーとは趣を異にしていたのが、トヨタの展示だ。彼らのブースは、循環経済とも呼ばれるサーキュラーエコノミーをテーマにしていた。クルマの解体を簡単にする部品設計への取り組みや、古着からつくったダッシュボードサイレンサーなど、リサイクル関連の技術展示をメインとしていたのだ。同様に、トヨタ車体も強くアピールしていたのは、同社が開発した間伐材由来の樹脂素材「TABWD(タブウッド)」だった。
さらに、人々の生活を支える軽自動車/コンパクトカーを主軸とするダイハツ、スズキの展示を見ると、ダイハツは軽トールワゴン「タント」の福祉車両を用意し、福祉介護関連のサービスや仕組みづくりに関する取り組みを紹介していた。いっぽうスズキは、これから実証実験を行う予定の、軽トラック「キャリイ」のBEVと、フレックス燃料対応車とBEVの2台のスクーターを展示。主としてカーボンニュートラルに向けた取り組みの紹介だったが、「バイクはいずれもインド製」というところが興味深かった。
このほかにも、ヤマハは量産型の自動トランスミッションやCVTといった既出の駆動系部品に加え、開発中のe-Axleや4連結電動モーターを展示。メインホールのいすゞと日野も電動トラックをメインに展示しており、いずれもモビリティーの電動化や、それに付随する技術を強くアピールしていた。
このように、日系自動車メーカーの出展内容は、パワートレインの電動化に先進運転支援技術、自動運転技術、リサイクル、MaaS……と、多岐にわたるものだった。既報のものも多かったが、それだけに、すでに実装されている技術、近い将来の実用化がアナウンスされている技術の数々からは、着実に進むクルマの進化が身近に感じられた。
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大手サプライヤーも電動化に注力
こうした総観はサプライヤーの展示も同様で、パワートレインの電動化技術に傾注するブースが多いいっぽうで、独自の技術開発の展示も多数見受けられた。
たとえば日系サプライヤーの雄であるアステモが大きくアピールしていたのは、C/DセグメントのBEV用小型e-Axleだ。従来品より10~20%も小さく、これも量産間近だという。またインホイールモーターの開発も行っており、今回は19インチに加えて、よりコンパクトな12インチ版と16インチ版も披露していた。こちらは2030年の実用化を目指し、開発中とのことだ。
いっぽう、こちらも日系の大手サプライヤーであるアイシンは、北米販売のピックアップトラック「タコマ」やSUV「ランドクルーザー“250”」のハイブリッド車に採用される「FR1モーターハイブリッドトランスミッション」を出展。先行開発中の「X in 1パワートレイン」も展示していた。
ジヤトコのブースも、2025年に市場投入予定の2つのパワートレインの展示がメインで、「日産リーフ」用の「3-in-1」のe-Axle、および新型「エルグランド」用の「5-in-1」の第3世代「e-POWER」を出展。ユニークなところでは、2025年11月に量産開始予定の、電動アシスト自転車用のドライブユニットも公開されていた。
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AIや半導体、リサイクル関連技術にも注目
これに対し、パワートレイン/ドライブトレインを事業の主軸としていないサプライヤーはどうだったかというと、まずデンソーで目立っていたのがAIエージェントの「クルマのJullie」だ。工業用ロボットにAIエージェントを組み合わせ、ジェスチャー付きの会話によってドライバーとコミュニケーションをとるというもの。新しい運転体験の提案を意図しているという。また8インチのSiCウエハーなど、半導体関連の最新技術も注目を集めていた。
トヨタ紡織は、リサイクルしやすよう単一の素材、原料で生産したモノマテリアルのカバーシートと、同じくモノマテリアルのドアトリムを展示。非常にコンパクトにまとめた燃料電池ユニット「ハイドロジェンパワーシステム」を使った電動自転車もお披露目していた。
東芝で目を引いたのが、自動車に広く用いられる12V鉛バッテリーと互換性を持たせた、SCiBバッテリーだ。SCiBバッテリーとはリン酸鉄のリチウムイオン電池で、スズキの「エネチャージ」にも採用されるもの。その技術を活用し、鉛バッテリーの互換品を開発したのだ。長寿命なだけでなく、バッテリーの劣化具合もモニタリングできるというのが面白い。これは2025年内に発売される予定だ。
最後に村田製作所は、ミシュランと共同開発した商用バス/トラック用のタイヤモニタリングシステムを最前列に展示していたほか、発表されたばかりの技術として、パワー半導体の温度センサーも出展。こちらは、近く量産化される新型車に採用されるもの、とのことだった。
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ヴァレオが見せたソフトウエア開発の最前線
こうした日系メーカーの出店に加え、海外サプライヤーも数多くブースを構えていた。
世界最大の自動車サプライヤーで、日本にも複数の研究開発・生産拠点を構えるボッシュは、最大で250m先までの物体を検知できる第7世代の小型レーダーや、複数のe-Axleを出展。シェフラーは、X in 1電動パワートレイン用のコントローラーや、ステア・バイ・ワイヤシステム、リアステア用アクチュエーターなど、電動ユニットや操舵機構の関連技術を数多く展示していた。また、コンチネンタルはSDV向けの電装品のラインナップや、サイドウィンドウに画像を表示させるウィンドウプロジェクターなどを展示。幅広い技術を持っていることを誇示した。
興味深かったのがヴァレオの展示で、その目玉はSDV時代を見据えたソフトウエア……ではなく、その開発環境となる「SDVエコシステム」だ。その場でセンターディスプレイ向けの画像をAIで生成し、ソフトとハードの両方において不具合を検証。デモ機に表示するというものだ。このでもストレーションからは、ソフト開発の最前線をリアルに感じることができた。また、進化するソフトウエアに合わせ、メモリーやCPUの追加でハードも進化させる「モジュラーセントラルコンピュートユニット」や、最新のADAS向けドメインコントローラー、フロントウィンドウの下部分にディスプレイを備える次世代「パノビジョン」など、日本初披露の技術が数多く用意されていたのも印象的だった。
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研究開発は「模索」から「競争」のステージへ
また日系のサプライヤーではあるが、今はヴァレオの傘下にある市光工業は、中国・ジーリーの自動車ブランド、Lynk & Coの車両に採用されるライトシステムを展示した。224個のRGBライトにより、256色もの色を再現するというもので、わずか15mmの高さのヘッドライトと組み合わせることで、非常に多様な表現が可能となっているという。同社の展示では、有機ELを使った「アウディA6 e-tron」用のライトシステムが持ち合わせる、60段階のコントラストによる高い表現力も確認できた。
以上が、今回の人とくるまのテクノロジー展における自動車メーカー/大手サプライヤーの主たる展示内容だ。全体を通して強く感じたのが、トレンドの変化というか深化である。
これまでも通信や自動化、電動化の技術はトレンドの中央に位置していたが、今回の会場では、たとえばX in 1の電動パワートレインやSDV関連のソフトウエア技術など、より具体的なテーマが横断的に認められた。「CASE」などといった漠然とした概念がもてはやされていたステージはとうに超え、各分野で、どういった技術を手の内化するのが正解なのかが、明確となってきたのだ。結果として、より具体的なかたちで技術開発が進み、競争が行われているのが肌で感じられた。
いっぽうで、トヨタのサーキュラーエコノミーの取り組みなど、クルマそのものにとどまらない包括的な施策の展示も増えている。最先端の技術は日々刻々と進化・浸透し、新たな地平を切り開いているということだ。
(文と写真=鈴木ケンイチ/編集=堀田剛資)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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