ホンダN-ONE e: 開発者インタビュー
新しいBEVの表現に挑戦 2025.07.28 試乗記 電動化を推進するホンダが、軽商用電気自動車(BEV)「N-VAN e:」に続き市場投入を予定しているBEVが軽自動車規格の「N-ONE e:」だ。2025年秋といわれる正式発表を前に、開発コンセプトと内外装デザインのこだわりを3人のキーマンにうかがった。本田技研工業
四輪開発本部PU-ES統括部
PU・エネ性能開発部
パワーユニット研究開発責任者
渡邊伸一郎(わたなべ しんいちろう)さん
本田技術研究所
デザインセンター エクステリア担当
中島英一(なかしま えいいち)さん
本田技術研究所
デザインセンター CMF担当
古小路実和(こしょうじ みわ)さん
一充電走行距離は270km以上
ホンダは、2023年4月に発表した中期計画「2023ビジネスアップデート」で存在を明らかにしていたとおり、昨2024年の商用軽(自動車)タイプのBEVとなるN-VAN e:に続いて、乗用軽BEVのN-ONE e:を公開した。ただし、正式な発表・発売は2025年秋の予定で、スペックについては「270km以上」という一充電あたりの最大航続距離しか公表されていない。
この点について、パワーユニット開発責任者の渡邊伸一郎さんは「ぴたり270kmではなく270km“以上”ですね。これは競合他車の1.5倍以上とした目標値となります」と語る。
ここでいう競合他車とは、ご想像のとおり「日産サクラ」のことだ。サクラの一充電航続距離がWLTCモード(以下同じ)で180km。その1.5倍がちょうど270kmとなる。N-ONE e:はそれを明確に上回るのが目標だった。そして、渡邊さんの口ぶりを聞くかぎり、その目標達成はすでに見えているようだ。
さらに渡邊さんは「270kmという数字は、最初は競合他車から導き出したものでしたが、日本の乗用BEVの走行距離は平均で一日40km、たくさん乗る人でも80km。そう考えると、270kmの航続距離があれば、普通のお客さんなら1週間もちます」と加えた。
というわけでN-ONE e:は「スマホは毎日、クルマは週1回」という充電タイミングをキャッチフレーズとする。細かい技術情報は未公開のN-ONE e:だが、これがN-VAN e:と一括開発されたことは公然の秘密で、eアクスルや電池はN-VAN e:と共通と考えるのが自然だ。
そのN-VAN e:の一充電航続距離が245kmだから、それと同じ総電力量29.6kWhの三元系リチウムイオン電池で、車重はより軽く、見るからに空気抵抗も小さいN-ONE e:のそれが270kmを超えるのはまあ十分にあり得るだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
無重力感あるBEVの所作を外装デザインで表現
「エクステリアはサイドパネルとルーフ、リア以外のガラスはガソリンの『N-ONE』と共通ですが、フロントセクションとリアまわりはN-ONE e:専用となります。フロントフード下のモーターやチャージリッドなどの部品を入れながら、歩行者保護性能もクリアするにはフードを上げる必要がありました。今回はそれを逆手に取って、ドアモールからフードまで一直線につなげて車幅感覚を把握しやすくすることで“動的視界”も向上させています」と渡邊さん。
物理的に変更が必要だったフロントセクションに加えて、N-ONE e:はリアセクションも専用デザインという。具体的にはリアゲートからリアガラス、リアバンパーまでが専用なのだ。エクステリアデザイン担当の中島英一さんが、その理由を教えてくれた。
「リアデザイン変更は、われわれデザインセンターから提案しました。それはBEVの走りのイメージを、なんとかプロポーションのなかに取り入れたかったからです。リアゲートに丸みをつけて、その丸みのピークを上に持ち上げることで、厚みのあるフロントに向かって、わずかに前傾しながらも水平基調の軽快感をねらっています。
じつは今回は“ガソリンのN-ONEをとりあえずBEVにしてみた”というレベルのプロトタイプに、われわれデザイナーも乗せてもらったんです。ホンダもBEVをつくった経験は数えるほどしかなく、“そもそも軽のBEVってどんなクルマなのか”というイメージを共有するために企画されたものでした。個人的にも、デザインに入る前にプロトタイプに乗るのは、初めての体験でした。
その音もなく水平のままスーッと走る所作に“これがBEVなのか!”と感銘を受けて、この素晴らしさをとにかくお客さまに伝えたいと強く思いました。既存のガソリンN-ONEは4本のタイヤが台形に踏ん張るホットハッチらしいスタンスですが、N-ONE e:では、スーッと無重力感あるBEVの所作を表現しました」
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
インテリアはN-ONE e:専用のデザイン
そんなエクステリアに対して、インテリアはまったくの新デザインだ。
「パッケージレイアウトは基本的にN-ONEそのままなので、インテリアも踏襲することも可能でした。ただ、“e:デイリーパートナー”というグランドコンセプトやN-ONE e:でお客さまに提供したい価値を考えて、よりシンプルで使い勝手のいい内装とすることにしました」と語るのは、今回CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)を担当した古小路実和さんだ。
「N-ONE e:のメインターゲットは40~50代の女性と、その子供である20代の女性なのですが、あまりにかわいらしく典型的な女性向けデザインは逆に好まれません。そこで“甘い”方向によりすぎないような素材を使っていて、結果的に年配男性も不自然に感じないインテリアに仕上がったと思っています。
エクステリアカラーもBEVのキャラクターを際立たせるすっきりとクリーンでシンプル、そのうえで少し“ニュアンス”が入った色としました。そのコンセプトをいちばん端的に表現できているのが、新色の“チアフルグリーン”です。今回カラーを決めるにあたっては、ターゲットユーザーも考えたうえで、いま売られているママチャリの色を調べて参考にしました」と古小路さん。
N-ONE e:のインテリアカラーを見ていて気づくのは、アクセントとなっている差し色がブラウン系であることだ。BEVを含む電動車のアクセントといえば“銅線”を思わせるカッパー調がハヤリだが、それを指摘すると古小路さんは「それだけは絶対にやりたくなかった」という表情を浮かべた(笑)。
「ここに差し色を入れたのは、全体が白とグレーだけだとクールすぎて寒々しいイメージになりすぎるからです。伝統的なメッキも高級感があって悪くないですが、今回はBEVということもあって、あえて新しい表現に挑戦したんです」
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
シングルペダルコントロールを採用
前記のように、詳しい技術情報はおいおい明らかになっていく予定のN-ONE e:だが、ブレーキペダルを踏まずとも停止まで可能な「シングルペダルコントロール」が用意されるということだけは、渡邊さんが教えてくれた。シングルペダルといえば、乗用BEVのパイオニアである日産などは最初に入れたのに今は手を引いているし、またホンダでも「ホンダe」では採用しながら、N-VAN e:は通常のDレンジと少し回生を強めるBレンジしか用意されない。
「シングルペダルコントロール自体は、やはりBEVならではの大きな魅力となり得る機能です。ただ、商用車のN-VAN e:では仕事で使うドライバーさんの意見を聞いたり、荷物を満載して走ることを考慮したりして、採用はあえて見送りました。しかし、N-VAN e:は走り慣れた道を毎日のように走る……という使いかたがメインになると思われます。その意味でも、毎日の運転をイージーにしてくれるアイテムとして、シングルペダルコントロールを採用したんです。
N-ONE e:のシングルペダルコントロールはアクセルペダルを戻すだけで停止までしますが、減速度そのものはさほど強くなく、あくまで街なかでの違和感のない使いやすさを重視しています。もちろん、通常のDレンジより減速度が高めていますが、ワインディングロードをアクセル操作だけで攻められるようなものではありません。
強い減速度でも乗りにくくしないためには、ホンダeのような減速セレクターが必要ですが、N-ONE e:のメインターゲット=クルマに興味のないお客さまが減速セレクターを使いこなすのは難しいと判断しました」と語る渡邊さんが担当したもう1台のN-VAN e:といえば、そのパワートレインの味わいは傑作と申し上げたいくらいの仕上がりだった。……となれば、N-ONE e:のデキにも期待しかない。
(文=佐野弘宗/写真=webCG/編集=櫻井健一)
◇◆◇こちらの記事も読まれています◇◆◇
◆関連記事:ホンダが軽乗用BEV「N-ONE e:」の情報を先行公開 2025年秋に発売を予定
◆ギャラリー:新型「ホンダN-ONE e:」を写真で詳しく紹介(73枚)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【海外試乗記】 2025.10.29 メルセデス・ベンツが擁するラグジュアリーブランド、メルセデス・マイバッハのラインナップに、オープン2シーターの「SLモノグラムシリーズ」が登場。ラグジュアリーブランドのドライバーズカーならではの走りと特別感を、イタリアよりリポートする。
-
ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)【試乗記】 2025.10.28 マイナーチェンジでフロントフェイスが大きく変わった「ルーテシア」が上陸。ルノーを代表する欧州Bセグメントの本格フルハイブリッド車は、いかなる進化を遂げたのか。新グレードにして唯一のラインナップとなる「エスプリ アルピーヌ」の仕上がりを報告する。
-
メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.27 この妖しいグリーンに包まれた「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」をご覧いただきたい。実は最新のSクラスではカラーラインナップが一気に拡大。内装でも外装でも赤や青、黄色などが選べるようになっているのだ。浮世離れした世界の居心地を味わってみた。
-
アウディA6スポーツバックe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.10.25 アウディの新しい電気自動車(BEV)「A6 e-tron」に試乗。新世代のBEV用プラットフォーム「PPE」を用いたサルーンは、いかなる走りを備えているのか? ハッチバックのRWDモデル「A6スポーツバックe-tronパフォーマンス」で確かめた。
-
レクサスLM500h“エグゼクティブ”(4WD/6AT)【試乗記】 2025.10.22 レクサスの高級ミニバン「LM」が2代目への代替わりから2年を待たずしてマイナーチェンジを敢行。メニューの数自体は控えめながら、その乗り味には着実な進化の跡が感じられる。4人乗り仕様“エグゼクティブ”の仕上がりを報告する。
-
NEW
これがおすすめ! 東4ホールの展示:ここが日本の最前線だ【ジャパンモビリティショー2025】
2025.11.1これがおすすめ!「ジャパンモビリティショー2025」でwebCGほったの心を奪ったのは、東4ホールの展示である。ずいぶんおおざっぱな“おすすめ”だが、そこにはホンダとスズキとカワサキという、身近なモビリティーメーカーが切り開く日本の未来が広がっているのだ。 -
NEW
第850回:10年後の未来を見に行こう! 「Tokyo Future Tour 2035」体験記
2025.11.1エディターから一言「ジャパンモビリティショー2025」の会場のなかでも、ひときわ異彩を放っているエリアといえば「Tokyo Future Tour 2035」だ。「2035年の未来を体験できる」という企画展示のなかでもおすすめのコーナーを、技術ジャーナリストの林 愛子氏がリポートする。 -
NEW
2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】
2025.11.1試乗記メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。 -
NEW
小粒でも元気! 排気量の小さな名車特集
2025.11.1日刊!名車列伝自動車の環境性能を高めるべく、パワーユニットの電動化やダウンサイジングが進められています。では、過去にはどんな小排気量モデルがあったでしょうか? 往年の名車をチェックしてみましょう。 -
NEW
これがおすすめ! マツダ・ビジョンXコンパクト:未来の「マツダ2」に期待が高まる【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でwebCG編集部の櫻井が注目したのは「マツダ・ビジョンXコンパクト」である。単なるコンセプトカーとしてみるのではなく、次期「マツダ2」のプレビューかも? と考えると、大いに期待したくなるのだ。 -
NEW
これがおすすめ! ツナグルマ:未来の山車はモーターアシスト付き【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!フリーランサー河村康彦がジャパンモビリティショー2025で注目したのは、6輪車でもはたまたパーソナルモビリティーでもない未来の山車(だし)。なんと、少人数でも引けるモーターアシスト付きの「TSUNAGURUMA(ツナグルマ)」だ。



























































