キャデラックCT5スポーツ(4WD/10AT)
自然体の心地よさ 2026.06.12 試乗記 アメリカのプレミアムブランド、キャデラックが擁する4ドアセダン「CT5」。その最新モデルに試乗する機会を得た。今や“上質な4ドア”というだけでも貴重な存在だが、さらにCT5には、ジャーマンスリーとは趣の異なる個性が確かに宿っていた。フロントマスクが“リリック顔”に
キャデラックCT5は、ジャーマンスリーでいえば、「BMW 5シリーズ」や「メルセデス・ベンツEクラス」「アウディA6」にあたるEセグメントの4ドアセダンだ。世界初公開は2019年3月で、米本国では2020年モデルから市場投入となった。日本でのデビューは2021年1月(納車開始は同年3月)だったから、本国でいうと2021年モデルからの上陸になる(参照)。
この2026年4月に日本で販売がスタートした新しいCT5(参照)は、現行型のモデルライフの折り返し地点で実施される(日欧風にいえば)マイナーチェンジモデルにあたる。米本国の切り替えは2025年モデルからなので、今回も本国から1年~1年半のタイムラグでの日本導入となった。
その変更内容は、内外装デザインおよび主要装備、そして先進運転支援システム(ADAS)のアップデートがメインだ。
エクステリアデザインのキモは 「リリック」顔となったフロントエンドである。リリックとは日本でも2025年から販売されている電気自動車だが、そうした環境戦略だけでなく、デザインの面でも今のキャデラックを象徴する存在となっている。このCT5でも、最新キャデラックの象徴である縦型のデイタイムライトはリリック同様にフェンダー上面まで回り込むようになり、バンパーグリルは台形のセンターグリルとともにX字を描く。いっぽうで、リアデザインに大きな変更はない。
インテリアの変更も一目瞭然だ。運転席の前からセンターまで伸びた巨大タッチディスプレイがダッシュボードに突き刺さる意匠は、日本ではリリックに「エスカレード」、そして「XT4」に続くものだ。ちなみにCT5の画面サイズはリリックやXT4と同様の33インチである(ただ、この原稿を書いている2026年6月現在、XT4は日本ではカタログ落ちしている)。
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“音楽の都”ウィーン生まれのオーディオ
まあ、運転席とセンターのディスプレイを一体化する手法は、最近の定番デザインである。ただし、この種のディスプレイは、見た目は一体でも厳密には2~3枚のディスプレイを組み合わせるのが一般的である。いっぽうで、CT5を含むキャデラックのそれは、正真正銘の1枚モノのディスプレイなのだ。
そんなキャデラックでも、ディスプレイの機能は、センター、ドライバー、そして左端のトリップ/メーター設定画面……と、使いやすいように3つの領域に分かれる。しかし、よく観察すると、各領域の背景が目立たないグラデーション模様でつながっていたり、ときおり画面いっぱいに水が流れるようなCGが映し出されたり……と、これが33インチの1枚モノであることを、これ見よがしでなく、あくまで静かに誇示しているのがニクい。
運転席からコックピット付近を観察していると、オーディオもリリックやエスカレードに続いて、今回からAKG製に変わっている。かつては、キャデラック純正の上級サウンドシステムといえばBOSEが定番で、このマイナーチェンジ前のCT5もそうだったし、現在も「XT5」などはBOSEを使う。
1947年にオーストリアで創業したAKGブランドを、初めて車載したのはキャデラックである(参照)。車載オーディオ産業も近年は合従連衡が急速に進んでおり、AKGもまた、harman/kardonやBowers&Wilkins、マークレビンソン、JBL、デノンなどとともに、ハーマンインターナショナルの傘下にある。
キャデラックのAKGも、ハードウエアはハーマン傘下で高度な共通化が進んでいると想像される。しかし、たとえばロックミュージックなどでも各パートがツブ立つようなクリアなサウンドが、従来のBOSEはもちろん、同傘下のどのブランドともちがっているのは、筆者の素人耳でもわかった(気がした)。
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こっそりリファインされている?
今回の試乗車は4WDと19インチホイールを組み合わせた「スポーツ」である。……というか、今回の改良を機に、日本市場ではRWDの「プラチナム」が用意されなくなった。最新の本体価格は970万円。2021年デビュー時の同グレードは620万円、直近でも700万円台後半だったことを考えると、昨今の物価高騰がうらめしいが、ドイツ車の「BMW 523i Mスポーツ」や「メルセデス・ベンツE200」も同じく900万円台である。
しかも、CT5では先述のAKGに加えて、電動本革シート、ステアリングヒーター、前席ヒーター/ベンチレーション、前席マッサージ機能、電動トランクリッド、19インチホイール、オートパーキングなど、普通に考えつく装備は最初からほぼすべて標準なので、実質価格はドイツ勢より割安……という点は、これまでと変わりない。昨今の超円高を考えると、この内容で4ケタ万円の大台を回避しただけでも、日本法人の苦労がしのばれる。今回からグレード数がひとつに絞られたのも、そんなコスト抑制策の一環と思われる。
北米で販売される「キャデラックCT4」やかつての「シボレー・カマロ」などと共通の「アルファアーキテクチャー」をベースとする走行メカニズムは、2リッター4気筒ターボを中心としたパワートレインともども、変更はとくにアナウンスされていない。
ただ、マイナーチェンジ前のCT5スポーツは、18インチタイヤのプラチナム(参照)と比較すると、乗り心地のわずかな硬さやタイヤが先走るようなクセ……が少し気になったが、今回はそうした印象もほとんどなかった。細部で未公表のリファインが進んでいるのか。あるいは「ミシュラン・プライマシーツアーA/S ZP」という、いわゆるランフラットタイヤも、CT5の発売年次を考えると、銘柄やサイズをそのままにアップデートされている可能性もある。
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自然で上質、本質的なところがよくできている
いずれにしてもCT5は、とても気持ちのいいアッパーセダンというほかない。サスペンションは比較的柔らかく、しなやかにストロークするが、といって無駄な上下動もほとんどなく、ステアリングは穏やかだが正確そのものだ。4WDのおかげもあってか、直進性も矢のごとし。さらにいうと、新デザインのステアリングホイールは以前より直径が少し大きくなっており、結果的にステアリングレシオがスロー化しているのも、この心地よいドライブフィールにひと役買っているのかもしれない。
アクティブステアリングや電子制御連続可変ダンパー、後輪操舵といったシャシー制御技術の類いはなにも備わらないので、手首の返しひとつでタイトコーナーをクリアするような目を見張る俊敏性や、目に見えないレールにハマったかのような飛びぬけた安定性はない。かわりに、CT5はドライバーの操作に対するすべてのレスポンスが自然で、こういう本質的に心地よいセダンもすっかり貴重になったなあ……と、遠い目になってしまったのはお世辞でもなんでもない。
このように走行メカニズムは古典的なCT5だが、冒頭のとおり、ADASについては最新世代にアップデートされている。交差点などでの出合い頭の事故に対応する「フロントクロストラフィックアラート」、車線移動に有効な「サイドブラインドゾーン・アラート&ブレーキ」、そして高速道路で車線中央を積極キープする「ハンズオン・レーンセンタリング」などの機能が、今回から追加されている。
繰り返しになるが、このクラスの上級セダンそのものが今や貴重だ。欧州では実質ジャーマンスリーしか選択肢はないし、日本ではかろうじて「レクサスES」が引っかかるだけ。しかも、アメリカの伝統ブランドでは(クラスを問わずに)セダンそのものが絶滅危惧種で、フォード系はセダンから撤退したし、CT5以外には、CT4と「ダッジ・チャージャー」くらいしか残っていない。CT5は、もはや存在自体がありがたい。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=ゼネラルモーターズ・ジャパン)
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テスト車のデータ
キャデラックCT5スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4935×1895×1445mm
ホイールベース:2935mm
車重:1760kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:10段AT
最高出力:240PS(177kW)/5000rpm
最大トルク:350N・m(35.6kgf・m)/1500-4000rpm
タイヤ:(前)245/40R19 94V M+S/(後)245/40R19 94V M+S(ミシュラン・プライマシーツアーA/S ZP)
燃費:--km/リッター
価格:970万円/テスト車=980万2300円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(7万1500円)/ETC2.0車載器(3万0800円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:1048km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(6)/高速道路(2)/山岳路(2)
テスト距離:446.2km
使用燃料:46.61リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.6km/リッター(満タン法)/9.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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