第16回「ポルシェ・ボクスターS」(後編)
2013.09.20 水野和敏的視点「欠点」が「楽しさ」へ
「ボクスター」と「ケイマン」の成り立ちは非常に似ています。しかし、走りではそれぞれに特徴があります。
オープンボディーのボクスターは、ボディーの後部がねじれに対してやや弱く、そのせいで「リアの遅れ」が見られます。一方、ケイマンはクーペなのでボディーがしっかりしており、リアの遅れがほとんどない。そのためサーキットではケイマンの方がずっと速く、限界付近のスタビリティーも相当なレベルにあります。
でも、箱根のターンパイクのように、それほど大きい限界入力の入らない一般道では、むしろボクスターの方が運転していて楽しいし、バランスがとれています。
フロントの応答ゲインの遅れと、ボディーのよじれによるリアの遅れが、かえってうまい具合に調和し、バランスしています。フロントの反応の遅れや押し出し感が、クルマ全体として薄められているのです。ステアリングを切っていく際のフロントの遅れに、リアの遅れがピッタリと重なって、自然なハンドリングを作り出す……そんな感じです。クルマの「欠点」とも言える部分が、むしろコーディネートされて「楽しさ」に変わっていますね。
こうした絶妙なバランス感覚の楽しさを作りだすためには、会社によって決められた平坦なテストコースで、規定通りの走行実験をして開発したような気になっていてはだめで、あらゆるところを十分に走り込んで開発しないとできません。本気で作ったスポーツカーだから出せる味。結局、会社に対してではなく、お客さまに対するまじめなクルマ作りが、乗っていて楽しいクルマを作りだすのだとつくづく感じさせられます。
ポルシェは、「911」、そしてケイマン、ボクスターと、3種類のスポーツカーのキャラクター作りに成功しています。作り手に、それぞれのクルマを走らせるシーンとお客さま像について、具体的なイメージがあるからでしょう。乗った瞬間、「コレはニュルを攻めるクルマだ」とか「ターンパイクで楽しむクルマだ」とわからせる。作り手に意志がなかったら、クルマに結果は出ません。
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