第178回:涙が出るぜ! 不幸のポルシェ
2020.06.02 カーマニア人間国宝への道軍事オタクのポルシェ事情
うららかな日の午後、思い立って友人にメッセージを送った。
「セラ様、いかがお過ごしですか。体調はどう? きょうは風がサワヤカだね」
相手は、ステージ4のガンと診断されて2年になる、昔の職場の大親友である。
ステージ4のガンだと聞いたときは、「もう死んじゃうんだな……」と思い、かける言葉も見つからなかったが、定期的に生存確認だけは続けてきた。
が、意外になかなか死なない。昔から不幸自慢が十八番で、今にもビルの屋上から飛び降りてしまいそうな男だったのに。今日もたちどころに返信があった。
なんと、「きのう、2年ぶりに取材に出た」とのこと。取材に出られるほど回復したのかぁ!
セラ様は国際・軍事ジャーナリスト。私と畑は違うが、25年前、共に北朝鮮を旅した仲でもある。
そして思い起こせば、クルマに関しても、浅からぬ縁があった。
お互いにまだ20代の頃、セラ様はポルシェを買った。モデルは「924」。「アウディポルシェ」とも呼ばれた、ちょっと不幸なポルシェだが、ポルシェはポルシェだ。
軍事オタクであるセラ様は、ナチスドイツの兵器に深い思い入れがあり、突如としてポルシェを買ったのである。
が、そのポルシェは大外れ。当時はまだ粗悪な中古ガイシャが多数市場に流通していた時代でもあり、彼の924は壊れまくった。
最もウケたのは、夜、リトラクタブルが勝手に開いてヘッドライトがついたり消えたりするというもので、職場では“超常現象”と呼ばれた。スイッチユニットのショートだったのでしょうけど、“不幸なセラの不幸のポルシェ”と、ネタにされまくったものでした。
ナゾの「911」外し
実際彼の924を運転させてもらうと、非常にコンディションが悪かった(うろ覚え)。私は激しくコキ下した。「これはヒドイ! 遅い! 形は同じだけど、『944ターボ』とは大違いだ!」等。
ポルシェ944ターボ。80年代末期には、究極のハンドリングマシンと絶賛されたモデルである。当時、クルマ担当になって間もなかった私にとっても、そのハンドリングは驚愕(きょうがく)の一言。あらゆる操作が超絶ダイレクトで、すべてを手の内でコントロールできそうな感覚に震えた。
「もしもこれを944ターボに買い替えたら、俺は一生キミを様付けで呼んでやるよ!」
ところが彼は、本当に944ターボに買い替えてしまった! 以来私は30年間、彼を様付けで呼んでいる。それくらい944ターボは神だった。
実は買い替えた944ターボも、足まわりがガタガタで、全然ダメダメハンドリングマシンだったのだが、これまた私が激しくコキ下したところ、彼はショックとタイヤを全交換。見事究極のハンドリングマシンにリボーンさせた。さすが究極のマシンは復活ぶりも劇的だと感動したものだ。
その944ターボもなぜか急速にくたびれた頃、彼はなんと今度は「ポルシェ928S4」に買い替えた! なぜ「911」じゃなかったのかは今もって不明。
その928がまた不幸のポルシェで、故障しまくった。
「金額的には928が一番壊れたよ。夜の首都高でフューエルポンプがイカれて、カーブで止まっちゃった時は、追突されて死ぬんじゃないかと思った」
924、944ターボ、そして928。911を外した選択も不幸だったが、故障も彼が招き入れたとしか思えない部分があった。そういう人っていますよね……。
男の勲章
彼の928があまりにも故障しまくり、駐車場の文鎮になっていると聞かされ続けた私は、「一刻も早く捨てなさい!」と愛あるアドバイスを続けたが、彼は決まってこう返すのだった。
「これがなくなったら、男の勲章が消えてしまうんだよ」
わかるっちゃわかるが、動かない928を所有し続けるのはあまりにも不幸。不幸が嫌いな私はつい、当時乗っていた愛車を彼にプレゼントした。8万円で買った「サーブ900S」である。軍事オタクには航空機メーカー発祥のサーブは許せる存在だったらしく、ついに928をあきらめてくれた。
その後5年ほど、激安サーブはセラ家の足として元気に活動したが、そのサーブも彼の不幸パワーによってついに決壊。走行中にオイルを大量に吐き出して停止した。
そこはちょうどレクサス店の前。レクサスの社員が親切に救援してくれたことで、彼はつい「レクサスIS」のチョイ乗り中古車を買ってしまったという。
困っていた友人に8万円のサーブをあげて助けたつもりだった私としては、「そんな高いクルマ買うカネがあったのかよ!」と怒りすら感じたが、とにかくいま彼はステージ4のガンから回復しつつある! 昔から「体調が悪いんだよね」「俺は難病だと思う」「もうすぐ死ぬんじゃないか」が口癖だったセラ様が、死にもせず復活を果たしつつある! よかった……。
それにしても、ポルシェ944ターボはすばらしいクルマだった。現在はまず見かけることはなく、中古車もほとんど流通していないので、多くが廃車あるいは輸出された気配だが、私はあのハンドリングを決して忘れない。
ついでに言うと、私は「718ボクスター/ケイマン」の4発ターボ版も大好きだ。エンジンが6発から4発になったことを惜しむ声は多く、結局6発が復活したところを見ると、最終的には924/944系と同じ不幸な運命をたどるのかもしれないが、私は4発ポルシェが大親友のセラ様のように思えてならない。928はどうでもいいです。
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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