第18回:フェラーリに物申す(後編)
2024.03.20 カーデザイン曼荼羅フェラーリへの期待値はもっともっと高い
「フェラーリのデザインは退化している!」と嘆く、大乗フェラーリ教開祖とこの道20年の元カーデザイナー。跳ね馬のデザイン的敗北の契機とは? 両人が考える「デザインのいいスーパースポーツ」とは? 2人の有識者が“憧れのスーパーカー”の未来を考える。
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渕野健太郎(以下、渕野):……で、その「フェラーリ・ローマ」なんですけどね。
清水草一(以下、清水):フェラーリの現行ラインナップのなかでは、デザイン的にダントツですよね。
渕野:ええ。個人的にも、もしお金があったら欲しいぐらいです。でもやっぱり、フェラーリに期待するレベルはもっと高いんですよ。
清水:ですね。「このクルマのためなら死んでもいい」ぐらいの、そういう感じで私は生きてきたんで。フェラーリって、「お前と一緒に死んでもいい、いやぜひ一緒に死にたい(笑)」と思わせるようなクルマですから。でもローマはちょっと違う。
渕野:自分はこういうGTのフェラーリ、昔だったら「250GT」とか、あそこらへんからの流れがすごく好きで、コンセプトとしていいなと思っているんですけど……。
清水:250GTはともかく、ローマと心中はないな……。大好きではありますけど。特にここが好きなんです。この逆スラントのグリルのところが。キュンときます。
渕野:低いところでスパーンと断ち切られてますね。
清水:そこはもう生唾です。
渕野:でもどうでしょう? 全体的に見て、さきほど言ってた「プロポーションとオリジナリティー」という点では。特にオリジナリティーについてはどうですかね?
webCGほった(以下、ほった):申し訳ないけど、口さがない人からは「アストンマーティンなにがしのパクリだ」って言われたりしますね。
渕野:でしょうねぇ。実際に似ているかどうかは別にして、そういうことになると思うんですよ。
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フェンダーにぜい肉が付いてません?
渕野:じゃあプロポーションのほうはどうかっていうと、こちらでもすごく気になってるところがあるんです。ここなんですよ(写真の、前後のフェンダー部を指す)。清水さんがよく指摘するタイヤの上のボリュームですが、ローマもこのテのクルマにしては盛り上がりすぎていて、タイヤが小さく見えるんです。ここのボリュームが強すぎるから、ドンとボディーを重たく感じる。
おそらくは1960年代のフェラーリを連想させる、クラシカルなイメージを狙っているんでしょうけど、それでもちょっともっさりしていて……まぁプロポーションでも気になるところがあるというわけです。
ほった:なるほど。
渕野:で、これを見てください。「アストンマーティンDB11」と「ヴァンテージ」ですけど。
清水:DB11のデザインはすべてが最高ですね。生唾が出る。
渕野:ここらへんのクルマのほうがプロポーションがいいなって感じるのは、やっぱりタイヤがしっかりして見えるからなんです。それに対してローマは、フェンダーがポヨンとしてる。
清水:うーん、このポヨンのおかげで、「お前となら死んでもいい」感が足りないのかな。
渕野:そういうことかもしれません(笑)。
清水:DB11とだったら死んでもいいです。
ほった:ワタシは「DBSスーパーレッジェーラ」ぐらいじゃないと、死んでもいいとは思いませんが。
清水:いやぁ、DB11がベストだよ!
渕野:清水さんが嫌いな「トヨタGRスープラ」でも、フェンダーの厚みはこれぐらいですよ。
清水:なんてことだ……。このポヨンのせいで、男が運命を共にするクルマっていうより、富裕層の奥さまのお買い物カーに見えちゃうのかな。
渕野:でもローマは欲しいんですよ。そこはブランド力で。
清水:そうですか。よかったです(笑)。
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プロダクトアウトからマーケットインへ
渕野:でも、やっぱりフェラーリは最も高尚な乗り物であってほしいし、カーデザインのお手本であってほしいんですよ。歴史に残るようなものをつくってほしいんですよね。
清水:同感ですよ!
渕野:やっぱり昔のフィオラバンティが手がけたフェラーリに比べると、どこか俺らがデザインしたぐらいのレベルになってるというか(笑)。つまり一般的な感覚になっているんです。「普通の小型車をやってる人が、スーパースポーツをやりました」みたいな、そういうふうに見えてしまう。「フェラーリってもっとカッコよくなかったっけ?」って感じるんです。フェラーリ好きの方から見ても、最近のフェラーリはそんな感じなんですかね?
清水:あのー、あんまり言いたくないんですけど(笑)、ずいぶん長いことがっかりしてます。「458イタリア」を除いて。ほった君はどうなの?
ほった:ワタシはフェラーリの信奉者ってわけでもないので、この場の熱気についていけてないんですけど(笑)。そういう立場の人からすると、そもそも「フェラーリのデザインは常に最高だった!」って印象のほうが薄いんです。なんせ、皆が「あれからおかしくなった」っていう「マラネロ」が出てから、もう28年なんだから。
それ以降のモデルに関しては、おふたりと同じような印象ですし……。よく現行「シボレー・コルベット」をフェラーリのパクリみたいに言う人がいるけど、“こっちサイド”から見たら、マラネロ以降のFRフェラーリのほうこそ、全部「イタリア人が線を引いた、妙にウネウネしたコルベット」に見える。マラネロだけじゃなくてね。
渕野:コルベットは世界最大のスポーツカーマーケットである北米で、一番売れてるモデルですからね。要はフェラーリも、北米でマーケットインしようとしてるわけですよ。スーパースポーツは「俺はこういうのをつくったから、みんな乗れ!」みたいな、プロダクトアウトであるべきだと思うんですけど、でも商売的にはマーケットインのほうがいいんでしょうね。たとえフェラーリであっても。確かに550マラネロ以降は、北米志向がより強くなった感じがあります。
リバイバルデザインの最大の敵
ほった:マーケットインのデザインってのは、本当にそんな気がしますね。おふたりの評価はビミョーですけど、個人的には直近の「296」は結構好きなんです。けど、それは自分が「250LM」とか「フォードGT40」みたいな、60年代のレーシングスポーツが好きだからなんでしょうね。296はモロにそこを狙ってきたデザインだから。
でも、そもそもフェラーリって、昔はそういうことをしなかったじゃないですか。今はどこかしら、「みんなこういうのが好きなんでしょ」っていう作意を感じる。それで、すごく奇麗でクセのないローマを出して、クラシック路線の296を出してきた。「昔とは順番が逆だよなぁ。狙ってやってるなぁ」ってのは、やっぱり思います。
清水:そりゃもう狙ってるよね。でも実際、「F8トリブート」じゃなくて250LMとかフィオラバンティのリバイバルを狙ってくれたほうが、僕らも100倍うれしいんだよ! もうずっと狙ってやってるの。モンテゼーモロさん(ルカ・ディ・モンテゼーモロ元社長/元会長)が来てからずっとそうなの。30年くらい前から。でもそうするとさ、「俺も年をとったし、リバイバルものじゃなくて本物のフィオラバンティのフェラーリに乗ればいいんじゃないか?」ってなって、俺は「328」に回帰したんだよねぇ。
渕野:それに、今のフェラーリはリバイバルにしても、小手先感がすごくあるんですよ。言いたい放題言ってますけど(笑)。
この先に新しい展開はあるのか?
清水:自分がわかんないのは、スーパーカーに今後新しいデザイン展開ってあるのかなってことなんです。それって一番難しいじゃないですか。だからリバイバルするしかないのかもっていう絶望感があるんですよ。
ほった:ほうほう。
清水:それでも僕が最近ビビビときたスーパーカーが2つあってですね、1つは「日産ハイパーフォース」です(全員爆笑)。これはもう、竹ヤリ出っ歯ですから! こういうスーパーカーは初めてでしょう。
渕野:日産ハイパーフォースは、ジャパンモビリティショーが終わってから、たまたま銀座のショールームに行ってじっくり実車を見れたんですけど、意外と悪くないですね。
清水:それはどういうアレですか(笑)? ゲテモノですが。
渕野:ゲテモノなんですけど、デザインのオリジナリティーが強いじゃないですか。
清水:それは強烈ですよ!
渕野:立体構成を見るとボディーをすごく絞ってて、キャラクターラインをなくしちゃってるんです。みんなが言うようなダンボール細工ではなく、ちゃんとデザインされてるんですよ。
清水:へぇ~。一見ダンボールだけど、ダンボールじゃないんですね(笑)! とにもかくにも、こういう風にバカになれるっていう姿勢が大事じゃないかな、スーパーカーは。これが街を走ってたら、みんな口あんぐりで目が点になるよ! 「テスタロッサ」や「F40」には目が点になったけど、最近のフェラーリは目が点にならないでしょ。どこのブランドかもよくわかんない。
ほった:ハイパ-フォースの勝ちですね。
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スーパーカーデザインの明日はどっちだ?
清水:もう1つは「マセラティMC20」なんです。あれがなぜ刺さるのか微妙なんですけど、レーシングカーの香りがあるけど、レーシングカーじゃないギリギリいいところにいてくれるからかな。スーパーカーって本来そういう存在ですよね。
渕野:確かにちょっとクラシカルな感じもあるし、品がいいですね。
ほった:渕野さんには、今のスーパースポーツで「このクルマはお手本になりそうだな」みたいなのってありますか?
渕野:やっぱりDB11ですね。オリジナリティーもあるしプロポーションもいい。実物を見ても、ドアなんかすごい絞り方をしてて、写真以上にダイナミックです。
ほった:でも、新しくなっちゃったんですよね。「DB12」に。
渕野:そうそう。新しいほうはちょっとね。
清水:え、DB11がDB12になってたの? 知らなかった……。
ほった:やたらとコテコテになっちゃったんですよ(写真を見せる)。
清水:ええっ! こんなに口がデカくなってんの!?
渕野:グリルがめちゃくちゃでかくなって、モチーフがわかりづらくなったんですよね。
清水:こりゃダメだ……。
ほった:結局スーパーカーデザインの未来は、ハイパーフォースに期待ってことで、よございますか?
清水:今回はそういうことで(笑)。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=フェラーリ、アストンマーティン、マセラティ、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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