第35回:日産デザインの明日はどっちだ?(前編) ―NISSANよ、かつてアナタは太陽だった―
2024.08.14 カーデザイン曼荼羅トヨタ、ホンダに次ぐグローバルメーカーであり、同時にカルト的な人気も持ち合わせている日産。しかし、昨今のカーデザインのかいわいでは、ちょっと影が薄くないだろうか? 往年の「日産デザイン輝かしきころ」を振り返りつつ、その現状と行く末を考えた。
希代の快作(怪作?)がもたらした“功”と“罪”
webCGほった(以下、ほった):今回のお題は、カーマニアにとって愛憎相半ばするメーカー、日産でございます。
渕野健太郎(以下、渕野):この連載では、まだ一度も取り上げてないですよね?
ほった:ほかのテーマの回で、ちょこっと「アリア」が出てきたぐらいですね。
渕野:そのアリアなんですけど……。
清水草一(以下、清水):ストーップ! 僕としては「現在の日産デザインに初代『ジューク』の成功が与えた影響」ってところから話を始めたいんですよ。あれがヨーロッパで大成功して、デザイン的に非常に高く評価されたことがずっと尾を引いていて、逆に今のデザインの足を引っ張ってるんじゃないかと。
ほった:ジュークが迷走の原因になってるんですか?
清水:あの複眼路線はすごく斬新だったんだけど、複雑系なデザインでしょ? それが尾を引いてるんじゃないか。
ほった:複眼路線って、あの上にポジションランプが、下にヘッドランプが付いているアレですか?
清水:そう、それ。まずジュークのデザインについて、渕野さんの意見を聞かせてください。
渕野:確かに、このクルマが出たときには、これまでと違うバランスの顔まわりがすごく印象的でした。その前にショーカーがありましたね(カザーナ)。それとほぼほぼ近いデザインでデビューしたものだから衝撃的だったけど、ある意味日産っぽいなって感じもしてたんですよ。
清水:日産っぽいですか?
渕野:2000年くらい(厳密には1999年)にいすゞから中村史郎さんを引き抜いて、そこから日産のデザインがガラッと変わったでしょ。
ほった:なるほど。変革期の、中村史郎さん時代の日産っぽいってことですな。
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2代目「キューブ」はスゴかった!
渕野:私はですね、ちょっとジュークから外れますけど、日本の歴代カーデザインで1位を選ぶとしたら、2代目「キューブ」なんです。
ほった:おおー。
清水:そうですか!
渕野:あれが歴代1位だと思ってるんです。あのクルマって箱型ですけど、プランビュー(真上からの視点)的にはかなり丸いんですよ。その結果、ちゃんと前後フェンダーが張り出してるので、ただの箱じゃなくて、ちゃんとクルマらしいプロポーションをしている。そのうえで、家電のような線質とか、面質とか、オリジナリティーがすごくあったんです。リアまわりが左右非対称っていうところも衝撃的で、しかも機能に裏打ちされたデザインだったのもスゴかった。左側にはリアクオーターウィンドウを付けてドライバーの視界を確保して、その反対側は、内側がコートとかハンガーを引っ掛けられる収納になってたんですよ。
ほった:(写真を見て)はいはいはい、そうでしたね! 懐かしいなぁ。
渕野:外装のグラフィックを見ても、ヘッドランプは丸目なんだけど、カワイイっていうよりもクールな印象で、男女とも乗れるようなクルマでした。そしてこれが国内でヒットした。唯一無二のオリジナリティーがありつつ、ユーザーにちゃんと受け入れられたという点で、このクルマが歴代1位じゃなかろうかと。
清水:うーん、そこまで評価が高いとは。
渕野:ほかにもいいデザインのクルマはすごくたくさんありますけど、 オリジナリティーっていうのはやっぱりデザインで一番重要なので。
清水:なるほど。僕も国産の歴代ベスト5くらいには入ってますよ! 史上初の成功した和風自動車デザインですから。走る和だんすみたいな。
渕野:ジャパンオリジナルな感じでしょう。これは、イギリスとかでも販売したんでしたっけ?
ほった:いや、日本専用車だったみたいですね。個人による並行輸入(輸出?)はあったようですけど。海外で大々的に販売されたのは3代目ですが、パッとしませんでした。
清水:欧米では2代目・3代目キューブのデザインは先進的すぎて、消費者がついていけなかったんだよね。
渕野:日本人は造形の“許容量”がすごく幅広いんですよ。欧米人はクルマらしいたたずまいを要求するので、結構コンサバじゃないと受け入れられない。
ほった:キューブのデザインは、欧米人の理解を超えてスゴかったわけですね。
清水:ヨーロッパでもデザイナーとかジャーナリストは「すごい!」って言ってたけどね。いわゆるマニア受けはしたみたい。
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あまたのフォロワーを生んだ「ジューク」の挑戦
ほった:このころの日産って、デザインに勢いがありましたよねぇ。
渕野:ほかにも初代「ムラーノ」があったし……。
清水:3代目「マーチ」(K12)もよかったですね。
渕野:マーチもすごくいいなと思いました。とにかく中村さんの登場で、デザインがガラッと変わった。で、その流れでジュークが来るわけですよね。
清水:中村史郎路線ということではそうですね。僕としては、キューブ、マーチ、ムラーノ、「スカイラインクーペ」といいデザインが続いた後、初代「ノート」や3代目「ウイングロード」あたりで谷が来て、その数年後、ジュークで「久しぶりにドカンと来たな!」という印象でした。
渕野:これはヨーロッパだけじゃなく、国内もそれなりに売れたんですよね。
清水:うーん。国内では月1000台ちょいみたいな感じで、ヨーロッパのほうが断然売れました。
渕野:ヨーロッパの人にもこれは受け入れられるんですね。キューブはダメだけど、こっちは全然オッケーだった。
清水:ジュークは有機的で走りそうな形ですから。ヨーロッパの人は遅そうな形はいまだにダメですね。
ほった:“形”ですかぁ。
渕野:ジュークは基本的には“顔”。顔のバランスがすべてって感じはしましたけど。
清水:まさに! 顔にばっかり目がいっちゃいます。
渕野:全体的なクルマの雰囲気を、すべて顔が持っていってる感覚でした。
清水:ジュークの影響で、シトロエンも4つ目になったわけじゃないですか。あのシトロエンのデザインを変えた偉大な日本車ですよ。
渕野:ヘッドランプをフォグランプのように扱って、上の部分を……。
清水:ポジションランプに。
渕野:そう、ポジションとかシグネチャーランプにしたわけですよね。ジュークはまだシグネチャーは付いてなかったと思いますけど、そこにシグネチャーを付けてデザインを変えたのは「シトロエンC4ピカソ」ですよね。その元ネタは確かにジュークだ。
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やると決めたら、徹底的に
清水:ヨーロッパにおけるジュークの評価はものすごく高くて、「デザイン革命」みたいな扱いですよね。オリジナリティーが強烈でしたから。中村史郎さんご本人がおっしゃってましたけど、「僕は海外ではとても人気があるんだよ」と(全員笑)。
ほった:日本でも評価は高いでしょ?
清水:日本ではジュークの顔に対する嫌悪感があったじゃない。「最悪!」って思ってる人も多かったよ。
ほった:まぁ好き嫌いがわかれるデザインだったのは事実でしょうね。それに、エクステリアと同じくらいインテリアも攻めてましたし。宇宙船みたいな感じで。
清水:いやー、僕は中も外もダメだったなぁ。
ほった:ええ! ここまできてちゃぶ台返し!?
清水:個人的には2代目キューブは大好きだけど、ジュークは正反対で生理的にダメなんだ。
渕野:私は、キューブもジュークもデザインのオリジナリティーをすごく大事にしていたので、そういう点でとてもよかったし、日産らしかったって思いますけど。
清水:生理的にはダメでも、客観的にはあの革新性を認めなきゃいけない。すごいデザインでしたよ。
渕野:そうですよね。複眼路線っていうのは、今やごく当たり前になってますし。三菱もやってるし、アウディも、BMWもやってる。「X7」とかで。
清水:そういう複眼の元祖がジュークだった。自動車デザインに偉大な足跡を残したわけです。
渕野:生理的にダメなのはどこですか?
清水:くどいというかキモいというか(笑)。なにせ昆虫系だから。
ほった:そういや、清水さんは「レクサスLBX」もダメですもんね(その1、その2)。多分、ここ(清水氏とwebCGほった)の間に、鉄のカーテンがあるんですよ。
清水:ほった君は昆虫系好きなの?
ほった:ウエルカムですよ。それに、こういうクルマは狭いターゲットにドンズバでいいんじゃないかと思うので。ジュークって確か、すっごい具体的なターゲット像だかペルソナだかを立てて、そこにフォーカスして企画されたクルマですよね。狙いを絞って攻めたコンセプトのクルマをつくるときは、皆に好かれようとして日和(ひよ)るのが一番ダメでしょう。
清水:そうだよね。昆虫がダメなのは個人的な嗜好(しこう)だから。ジュークのデザインは大いに認めてるよ!
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クルマはやっぱり“顔”が命?
渕野:それに、くどいといっても顔以外のところはかなりシンプルなので、自分はくどさはあまり感じません。むしろバランスの面白さが際立ってる。
ほった:キャビン、すごいちっちゃいですもんね。
清水:俺はその辺もやりすぎっていう感じがしちゃうんだよね。
渕野:タイヤがちっちゃいのに、フェンダーがスゴくグワーって盛り上がってるのは、確かに。
ほった:いや、だからそこで日和っちゃダメなんですって。
清水:まぁジュークはそれでよかったかもしれないけど。今の「エクストレイル」までそのノリを引きずっているのはどうかと思うんだよね。日本人の感覚として、キューブみたいなシンプルな形がベストっていうのがやっぱりあるじゃないですか。今のトレンドもすっかりシンプル路線だし。でも現行のエクストレイルは、ジュークの流れをくんだ複眼で、複雑系デザインで出てきた。あれにはガッカリしたな。
ほった:ありゃま。ガッカリしたんですか?
渕野:現行エクストレイルはよくできてますけどね。デザイン的に。
清水:あれ、いいんですか? 僕はひたすら顔が煩雑に感じるな。特に下側の目周辺が。
渕野:そうかな~?
ほった:サイドの面なんかむしろシンプルじゃないですか。やろうとしてることが素直っていうか。
渕野:でも顔を見ちゃうんでしょう。
清水:そうなんですよ! どうしても顔がねぇ。やっぱりクルマは顔が命だから(笑)!
(後編に続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=日産自動車、ステランティス、アウディ、BMW/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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