第292回:首都高をなぎ倒すくらいでちょうどいい
2024.09.09 カーマニア人間国宝への道顔のエグみが増し貴族感が薄らいだ
「次回、『アストンマーティンDB12』にお乗りになりますか」
担当サクライ君からのメールに、思わず「うおおおおっ!」と叫んだ。私はアストンマーティンのファンなのだ。
ファンといってもやじ馬で、真剣に買おうと思ったことはないのだが、心のどこかに「アストンを買わずに死んでいいのか!?」という思いはある。そう思いつつ死ぬのだろうが、思いだけは持っている。
んで、私がアストンを買うとしたら、断然「DB11」だ。「マツダ・ロードスター」と並んで、世界で最も美しいスポーツカーである(確信)。デザイン的にはロードスターのデカい版といっていい。
「なぬぅ、DB11がロードスターのデカい版!? その程度の評価なのか!!」
そのように怒るアストンファンもいるだろう。しかしスポーツカーは、全高が低くて幅が広ければ自動的にカッコよくなる。あの全高・全幅であれだけカッコよく仕上げたロードスターは傑作すぎる! それでもやっぱりデカい版のDB11に憧れるのが男の業なのである。
そのDB11がフルモデルチェンジし、DB12になった。超キープコンセプトだが、グリルがデカくなるなど顔のエグみが増したことで、DB11の貴族感は減じた。ガックリ。買わない私がガックリしたところで社会的には無風だが、やじ馬カーマニアとしてはガックリなのである。
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首都高じゃ使い切れないパワー
そしてDB12は、エンジンがAMG製のV8オンリーになった(今のところ)。私がもしDB11を買うなら断然V8なので、そこに関してはポジティブだ。アストンのV12なんて怖くて買えないけど、AMG製V8なら安心じゃないですか!
「アストン買うのに安心を求めてどうする!!」
そういう声もあるでしょう。私は常々「フェラーリ買うのに安心を求めてどうする!!」と言っておりますから。
でもやっぱりアストンのV12は、故障したらお手上げな予感ビンビンで怖すぎる……。パワーは510PSで十分だし、AMGのV8はサウンドもフィーリングもスバラシイ。ついでにノーズも軽い。とにかく私はDB11のカッコが欲しいので、エンジンは安心安全なAMG製V8希望! そのような身勝手な思いを抱えた状態で、DB12と初対面した。
オレ:サクライ君、DB12どう?
サクライ:超カッコいいし最高ですよ。
オレ:そ、そう!? 口がデカすぎない?
サクライ:え? そんなのぜんぜん気になりません。DB11より全部よくなってます。
そ、そうなのか……。私は口がデカいのがどうしても気になるのだが。
首都高を走ってみると、ものすごくパワフルだった。AMG製V8は、DB11の510PSから680PSへと超絶パワーアップを果たしている。510PSはちょうどいい速さだったけど、680PSは速すぎる! こんなの首都高じゃ使い切れん!!
オレ:サクライ君、これは速すぎるよ!!
サクライ:確かにちょっと速すぎますね。
オレ:でしょ? アストンはこんなに速くなくていいのに! それよりエレガンスでしょ!!
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それだけは勘弁してくれ
そうつぶやきつつ、それが大変無責任な発言であることもわかっていた。
アストンを買いもしない私が、「アストンはパワー控えめなほうがいい」と言ったところで社会的には無風。DB12の新エンジンが、仮にDB11よりパワーダウンしていたら、買い替えをご検討中のカスタマーは、「冗談じゃない、そんなのいらないよ!」と言うに決まってる。アストンに限らず、すべてのスーパースポーツは、その呪縛から逃れられないのである。
最近のスーパースポーツ界は1000PSオーバーがトレンドだが、この調子でいくと10年後には2000PSになり、20年後には3000PSになるだろう。使い切るとか切れないとかどうでもいい。カスタマーがそれを求めているのだから! どこかむなしいが……。
思えば、パワーより操る快楽を優先したはずのロータスやアルピーヌすら、徐々にパワーアップを余儀なくされている。しかもそれらハンドリング系のスポーツカーは、比較的お安いにもかかわらず、ウルトラパワー系のスーパースポーツより販売台数が少ない。つまりあんまり人気がない。スポーツカーは男の勲章。ボディーはデカければデカいほど善であり、首都高をなぎ倒すくらいパワフルでちょうどいいのだ!
オレ:考えてみると、パワー競争と一切無関係なスポーツカーって、全世界でロードスターだけ。まさに孤高の存在だね!
サクライ:ですね。あと「ダイハツ・コペン」がいますけど。
うーん、コペンか……。
いや、ロードスターをコペンと一緒にしないでもらいたい。それだけは勘弁してくれ! と言いたくなってしまう、社会的に無風の私なのだった。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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