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徹底検証! 日産再生とホンダとの経営統合の正否 ―技術・商品・市場から読み解く病因と処方箋―

2025.01.09 デイリーコラム 渡辺 敏史
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経営統合は日産の自力回復が大前提

去る2024年12月18日、日経のスクープから始まったホンダと日産の経営統合協議開始のお話(参照)。同月23日の正式発表以降は報道も加速し、この年始もとどまることなくネットニュースのネタとしてもてはやされていたようです。お正月はデジタル断ちを心がけている自分のもとにも三が日に週刊誌から電話があったりと、アナログ媒体も新年号のタマ込めに躍起だったことがうかがえます。

経産省や鴻海や……という政治的な話に加えて、社風や社内派閥的な話題に至るまでさまざまな不確実要素がささやかれています。たらればのウワサ話は楽しいものでしょうが、まず統合実現への足がかりとして明確に掲げられているのは、日産いわくの「ターンアラウンド」、つまり11月に発表した9000人の人員減を含む4000億円規模の経費削減の断行です。そこからさらに一歩進むためには商品軸の強化、つまり売れるクルマをつくるほかありません。それは三菱も加わっての記者会見(参照)で「自立した2社でなければ経営統合の成就はない」と踏み込んだ、ホンダの三部敏宏社長のクギの刺しっぷりにも表れています。

とはいえ、です。直近2024年度の上半期で日産が対前年比90%以上も営業利益を落とした背景は、商品が極端に売れなくなったからではありません。世界販売台数は約160万台と対前年比1.6%減ですが、この減少率だけをみると、むしろホンダやトヨタよりも善戦しているといえます。

なのになぜ、90%以上の営業利益減なのか。特損なども計上されていない以上、売るために使ったお金の額がハンパなかったとみるのが普通でしょう。ここで特殊な地域性が大きく絡む中国市場はいったん置いておいて、注目したいのは米国市場です。日本メーカーにとっては日本市場より多くの数を売る、最重要エリアともいえます。

2024年12月23日の日産自動車、本田技研工業、三菱自動車の共同記者会見より、ホンダとの経営統合の検討開始に至った経緯を説明する、日産の内田 誠社長。
2024年12月23日の日産自動車、本田技研工業、三菱自動車の共同記者会見より、ホンダとの経営統合の検討開始に至った経緯を説明する、日産の内田 誠社長。拡大
記者会見ではホンダの三部敏宏社長(中央)が、「経営統合は日産の救済ではない。自立した2社でなければ、統合は成功しない」と述べた。
記者会見ではホンダの三部敏宏社長(中央)が、「経営統合は日産の救済ではない。自立した2社でなければ、統合は成功しない」と述べた。拡大
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9割の大幅減益をもたらした米国事情

ここでの2024年の日産の販売台数は、2025年1月3日の速報値で92万4008台と、対前年比ではむしろ3%増となっています。ホンダの9%増には劣るものの、トヨタの4%増には肉薄しているんですね。ということは売るために使ったお金の額、つまり値引きの原資となる台あたりの販売奨励金に利益をまるっと持っていかれたと想像できます。

それが端的に表れているのが北米地区の営業利益で、2024年の上半期は赤字転落しています。売れども売れどももうけが出ない大出血状態です。少しでも利益が出れば為替レバレッジで円決算上は大きな効果がもたらされるわけですが、なんなら赤字を円で補塡(ほてん)しなければならない状況では、ドル高は泣きっ面に蜂となります。

そこまでして身銭を切る理由は、他メーカーの1.5倍ともいわれる在庫の積み上がりです。コロナ禍による経済の滞留や半導体ショックなどの複合的な理由で大きな受給変動が生じたことから、在庫販売を基本とする米国法人は大量発注をかけ、本体側もそれに応える態勢をとった。そのしわ寄せが日本市場にも波及していたことは、「アリア」や「フェアレディZ」の品薄ぶりを思い出せば想像できるでしょう。日産としては為替差益も期待できる米国を優先したかった。その気持ちもわからなくはありません。実際、ここ2~3年の日産の決算は黒字転換からの上げ潮に乗っていました。

それが一転して、値引き依存という持病が再発してしまったのは、電気自動車(BEV)を含めた商品力の低さにあるのでしょう。現在、米国の日産のラインナップをみると、デザイン面での古さは感じないいっぽうでエンジニアリング面の刷新感がなく、積極的に乗ってみたいと思えるモデルが見あたりません。いっぽうでトヨタはもとよりホンダも、なんならヒョンデも、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の選択肢を着々と増やしてきました。

日産としては米国市場の用途や交通状況を鑑みて、BEVの普及までは純エンジン車でいけるという読みがあったのかもしれません。が、ウクライナ侵攻によるエネルギー価格高騰の波は米国とて無関係ではなく、東西の大都市圏ではガロンあたり5ドルなんて値札も散見されるほど、ガソリン価格が高騰しました。現在は世界的な景気減速もあって3~4ドル台を行き来していますが、それでもひと昔前に比べればとんでもない高さです。ここ数年で米国でもHEVやPHEVの選択肢が重要な意味を持つことになった背景には、世界情勢もあるということです。

テネシー州フランクリンに位置する、北米日産のヘッドクオーター。例にもれず、日産にとっても米国は非常に重要なマーケットなのだが……。
テネシー州フランクリンに位置する、北米日産のヘッドクオーター。例にもれず、日産にとっても米国は非常に重要なマーケットなのだが……。拡大
ヒョンデの「ツーソン プラグインハイブリッド」。保守的なイメージの強い米国のマーケットだが、今では日産のライバルの多くがHEVやPHEVを導入している。
ヒョンデの「ツーソン プラグインハイブリッド」。保守的なイメージの強い米国のマーケットだが、今では日産のライバルの多くがHEVやPHEVを導入している。拡大
今日における米国での日産のラインナップの一部。BEVを除くと電動車のラインナップが乏しい点も含め、技術的にも新しさに欠ける印象は否めない。
今日における米国での日産のラインナップの一部。BEVを除くと電動車のラインナップが乏しい点も含め、技術的にも新しさに欠ける印象は否めない。拡大

再生のカギを握る米国でのハイブリッド戦略

ハイブリッドといえば、もちろん日産にも「e-POWER」がありますが、これは内燃機が直結でタイヤを駆動する機能がなく、高速域では燃費が落ちてしまうのが歯がゆいところ。いくら都市部が大渋滞でも、そこを抜ければ55~75mph(約90~120km/h)で延々と都市間移動ができる環境ですから、内燃機の効率は重要です。そもそも、冷蔵庫にあったモーターやバッテリーを使ってつくったまかないメシがレギュラーメニューに昇格した感のあるe-POWERゆえ、時間的にもそこに対処する動きが悪かった。ここは社内政治や先読みの甘さを反省すべきところだと思います。

今、米国で販売している日産のモデルで最も早くe-POWER化に対応できそうなのは「エクストレイル」の米国版である「ローグ」ですが、それでも3気筒のVCターボではかの地のショッピングリストには載りそうにありません。「e-4ORCE」もあるし商品性はかなりユニークですが、いかんせん3気筒という形式自体、かの地ではB級なイメージがつきまといます。それは中国も然(しか)りなようで、同じVCターボ&e-POWERが不調な理由は、ともあれ3気筒がゆえと伝え聞いています。

日産はターンアラウンドと並行して、2024年春に発表した中期経営計画「The Arc」を進めている最中です。ここでは三菱の技術を用いたPHEVを2025年に、自社開発のHEVを2026年に米国市場に投入すると発表されています。あくまで個人的予想ですが、順当にいけば「三菱アウトランダー」と車台を共有するローグのPHEVが本年に、直結駆動を可能とするe-POWERの搭載車を来年に投入すると、そういったプランではないでしょうか。

 

日産でハイブリッド技術といえば「e-POWER」が有名だ。シリーズハイブリッドゆえの高速走行時の効率の悪さを指摘する向きもあるが、スピードレンジが高いとされる欧州でも、2022年9月の導入から1年4カ月で累計販売10万台を突破。実はそこそこ浸透している。
日産でハイブリッド技術といえば「e-POWER」が有名だ。シリーズハイブリッドゆえの高速走行時の効率の悪さを指摘する向きもあるが、スピードレンジが高いとされる欧州でも、2022年9月の導入から1年4カ月で累計販売10万台を突破。実はそこそこ浸透している。拡大
日産が米国に「e-POWER」を導入しなかった理由については、組み合わされるエンジンが現状では3気筒であることが大きいと思われる。
日産が米国に「e-POWER」を導入しなかった理由については、組み合わされるエンジンが現状では3気筒であることが大きいと思われる。拡大
日産のミドルサイズSUV(米国ではコンパクトSUV)である「ローグ(日本名:エクストレイル)」。「三菱アウトランダー」と「CMF C/D」プラットフォームを共用している。
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統合の成否を分ける技術的ポイントとマーケット

いずれにせよ、ここまでのロードマップでは時間的にホンダの技術的関与は難しく、計画どおり日産が自力でテコ入れを図るしかありません。ホンダとのシナジーが商品軸に表れるのは、2024年春から話を進めている先進領域の協調、具体的にはBEVとSDV(ソフトウエアディファインドビークル)の分野からでしょう(その1その2)。となると、2026年以降にホンダが展開する、「ASIMO(アシモ)OS」を搭載した「Honda 0」シリーズが、開発や調達などの面で日産にどのような影響を与えるかがポイントになります。

いっぽうで、両社に共通した喫緊の課題は急速に悪化する中国市場の立て直しです。果たして両社が独立した開発や生産の体制を維持していくのか。政治的な思惑もあって事業環境の変化が想定を大きく超えているなか、合弁先との関係も含めて踏み込んで考えていかなければならない課題になりつつあるようにうかがえます。言い換えれば中国は、商品軸でみれば経営統合のシナジーを期待しやすい場所でもあるわけです。

米国での日産は、売れ筋のSUVカテゴリーでローグや「パスファインダー」がテコ入れのタイミングであるいっぽう、「キックス」や「ムラーノ」「アルマーダ」といった新型車が相次いで投入される、そんな時期です。アルマーダの兄弟車である「パトロール」の全面刷新の出来栄えをみるにつけ(参照)、クルマづくりで戦える自力はあるように感じます。今はともあれ在庫を売り切り止血して、新たなモデル群と電動パワートレインの合わせ技でこの1~2年を戦い抜く、それに尽きるのではないでしょうか。

(文=渡辺敏史/写真=日産自動車、本田技研工業、三菱自動車/編集=堀田剛資)

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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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