第56回:スズキ・ジムニー ノマド(後編) ―今日のジムニー人気をもたらした、カーデザインの“力”―
2025.02.05 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
荒野を駆ける小さな巨人「スズキ・ジムニー」に、待望の5ドア・ロング「ノマド」が登場! これで車形は3つとなったわけだが、そもそもなぜ、ジムニーは今これほどに支持されているのか? 人気を支える「デザインの力」と「嗜好(しこう)の変化」を、識者と読み解いた。
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現行型が呼び込んだ、新しいオーナー層
渕野:それにしてもジムニーって軽自動車がベースなのに、幅を広げて、長さを伸ばして、スゴいなと思うんですよ。拡張性がスゴい。なかでもジムニー ノマドは、ライトユーザーにも訴求するというか、ジムニーの裾野を広げる存在になると思う。クロカン、クロカンしてる男臭いクルマじゃなく、家族でも使える的な。
清水:で、すごいウケそうでしょ、ノマド。カーマニアとしては、それが嫌なんだよね。(全員笑)
渕野:うんうん。ジムニーはもっと硬派な存在だったから。
清水:もともとド硬派でしたから。
ほった:1970年のデビュー当初はオープントップのみのクルマでしたしね。後で出てきた屋根付きも、バンって扱いだったし。
清水:そんな昔のことは知らないけど(笑)。
渕野:ジムニーについては、自分もあんまり注目してたわけではなかったので、本格的なジムニーユーザーの人がどう思ってるかはわかりかねるんですけど……。ホッタさんはどちらかというと、昔からのジムニー好き?
ほった:そうです。所有したことはまだないですけど、ずーっとファンってか、あこがれてますね。中古車情報誌をやってたころは勝手に企画を立てたり、掲載車種にムリくりジムニーを押し込んだりして……。webCGでもコッソリ同じようなことをしてますけど(笑)。昔はちっちゃなムック本をお手伝いしたこともありましたよ。
渕野:そういう人からしたら、今のジムニーってどうなんです?
ほった:皆に受け入れられるようになったのは素直にうれしいですよ。ただ、なんと申しますか。前回も言いましたけど、「オマエ、カッコでもてはやされるようなヤツだったっけ?」って思いもあったりして、そこはちょっとフクザツですね。
渕野:自分が住んでる周囲でも、ジムニーって割とよく走ってますよね。しかも乗ってるのが、普通のご婦人だったりする。そのへんが、これまでのジムニーとは違うのかな。
清水:ぜんぜん違う層がなだれ込んできてますね。
これぞデザインの力
渕野:現行型になって新しい客層を取り込んだのは、それはやっぱり、デザインがよくなったからっていう理解でいいのかな?
清水:ひたすらデザインでしょう。
ほった:デザイン以外の点では、現行型は先代の正常進化版ですからね。ホント、モデルチェンジ時の人気の爆発っぷりには、デザインの持つ力を思い知らされましたよ。販売の跳ね方がスゴかった。前年比何倍とか、1カ月で1年を超える受注がきただとか。もともとジムニーって、長ーく売ってても台数が落ちないことで有名だったんですよ。10年たっても常に月販1000台キープみたいな。なのにいきなりドカンて跳ねちゃったせいで、湖西工場がパンクしちゃった。そのぐらいデザインの破壊力はスゴかったんだと思います。
ただ、先代以前のジムニーって、仕事人やガチの趣味人が機能で買ってたクルマなんですよね。モテとかウケとか、見栄(みえ)とか見てくれとかイバリとか、そういうものを一切そぎ落としていった結果としていき着くクルマって感じだったんで、今編集部のかいわいを走ってるドレスアップされたジムニーを見ると、「なんかなぁ」って気がしてくる。
渕野:そういうのがあるんでしょうね、古いジムニーファンにはきっと。
ほった:JA(2代目中・後期型)のころなんて、モテないクルマの極北だったはずなのに。(全員笑)
渕野:確かにそういう感じでしたよね。男臭いクルマで。
清水:ほった君に似合いすぎだよ!
ほった:ありがとうございます。しかしそれが、今はなんか……とくに「シエラ」はオシャレな勝ち組の象徴みたいになっちゃった。もちろん商品としては正しい進化ではあるんですけど。
このクルマにはこの潔さがちょうどいい
渕野:現行ジムニーは4代目ですけど、ジムニーファンからすると、どのモデルが一番刺さるんですか?
ほった:みんなバラバラだと思いますよ。おのおのにコダワリが強いから。JB23/33/43に関しては、まだ比較的新しいし、今はそれほど思い入れを持って乗ってる人は少ないかもしれませんけど……。
渕野:それは3代目?
ほった:そうです。
清水:ジムニーを型式で呼ぶ時点で、モテない感ビンビン(笑)。
ほった:そんなに褒めないでくださいヨ。で、その前の2代目になると、「いついつまでの2ストがいい」とか、「550ccのターボがいい」とか、「リーフスプリングの最終版がいい」とか、みんなコダワリが違ってくるんです。さらに初代に関しては、完全にクラシックカーなので、またぜんぜん違った選び方になってくる感じですね。
渕野:なるほどですねぇ。
清水:デザインで選んだりはしないの?
ほった:今あらためて古いジムニーを買おうって人は、まずデザインで選んでると思いますよ。そこは普通に、旧車趣味、クラシックカー趣味の人と一緒です。
渕野:自分は3代目が出たときに、すごくモダンになって、デザイン的にいいなと思ったんですよ。それほどクロカン色が強くなくて、プロダクトデザイン的な質の高さを感じたんですけど……。現行型が出たとき、「やっぱジムニーはこれだよな!」ってなった(笑)。これぐらいの潔さ、シンプルさがジムニーには適してんだなっていう。
清水:僕も完全にそうです。3代目までは「カッコ悪いからカッコいい」みたいなクルマだったのが、4代目で本当にカッコよくなっちゃった。
渕野:そうそう。だから現行型で初めて、自分もジムニーに乗ってみたいって思ったんですよ。
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「ノマド」の形はシカクすぎる?
渕野:今ではジムニーをSNSで上げてる人って、結構女性の割合が高いじゃないですか。本当に裾野が広がったんですね。
清水:かわいい女の子が乗ってたら、すっごい似合う感じしますから。
渕野:そうですよね。
清水:でもノマドはちょっと違うんじゃないかなと。3ドアならかわいい女の子とのミスマッチ感が刺さるけど、5ドアじゃぜんぜん意外性がない!
ほった:そろそろお子さんが産まれるのかな? みたいな。
清水:だよね。シアワセすぎる感じが不愉快(笑)。
ほった:それを言うなら3ドアでもシアワセすぎると思いますよ、ジムニーとしては。
清水:でもさ、一応3ドアで不便だし、後席は狭いわけじゃない。それをガマンして乗るから、ジムニーはカッコいいと思うんだよね。でもノマドじゃ、なにもガマンする必要がない。カーマニアはやせガマンの要素がゼロのクルマは認めない!
ほった:急に偏屈になりましたね。
清水:ノマドって、現行「ハスラー」に似た雰囲気があると思うんですよ。フォルムがスクエアすぎるっていう点で。
ほった:そこに話を戻しますか。
清水:初代ハスラーは傑作だったでしょ? それに対して2代目はスクエアすぎる。そういう話を以前、渕野さんから伺いましたけど、ノマドもそれと同じで、スクエアすぎませんか?
渕野:でもノマドはオーバーフェンダーが付いていて、タイヤがでーんと張り出てますから。ハスラーがスクエアすぎて見えるのは、タイヤとキャビンとの関係によるものなんです。タイヤがボディーのなかに収まってしまうと、途端にカッコ悪くなる。たとえスクエアでも、タイヤがはみ出していれば、見た目的にはそれだけで成立すると思います。
清水:そうか……。
渕野:現行ハスラーも、このまんまタイヤだけどーんと外に出せば、それだけでカッコよく見えるはずです。クルマのデザインを観察するとき、自分はタイヤとキャビンの関係をいつも見るんですけど、その点、初代ハスラーはすごくよくできてました。別にあれも、タイヤが横に張り出ていたわけではないんですけどね。スズキはたまに、そういう傑作を出しますよね。実はデザイン力がスゴい。
清水:スゴいですよね、スズキのデザイン瞬発力。ものすごいヤボったいのが出たかと思うと、ものすごいカッコいいものを出す。
ほった:そのへんは、本当にナゾですね。
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クロカンの人気を支える“本物志向”の隆興
清水:それにしても、ジムニーとか「ラングラー」とか、「Gクラス」とか「ランクル“250”」とか、最近プリミティブなデザインのクルマがバカ受けしてる背景には、何があるんですかね。
渕野:アウトドアブーム的なものがここ数年、世界中で盛り上がってるじゃないですか。
清水:グランピングとか?
ほった:個人的には好きじゃない世界だな(笑)。
渕野:まぁまぁ(笑)。そんななかで、クルマにもアウトドアフィールの高いデザインっていうのが求められてるんだと思います。あとはやっぱり“本物感”ですね。せっかく好きなものを買うんだったら、行けるところまで行く! みたいな人が増えたんじゃないかな。私のまわりでも、若い人が結構突っ走るっていうか、いいと思ったら高額なものでも平気で買ったりするんですよ。そういうマインドがZ世代にはある気がします。それより前の世代って、いろんなことを考えて、「総合的にはこれかな」みたいな感じになるでしょう? それだとジムニーやラングラーにはいき着かない。そこを突き抜けて本物を欲しがる人が、多くなってるのかなと思いますね。
ほった:そういや、ジープとかGMの取材会でも、そんな話を聞きますね。若い人が頑張ってローンを組んで、ラングラーを買っていく、みたいな。
清水:キモは非日常感ですかね?
渕野:そうですね。それにこういうクルマって、アイコン性が高くてわかりやすい点もある。希少価値的な部分が重視されてる気もしますね。増えたとはいえ、大勢のクルマのなかではすごく突出した存在でしょう? 本物を表現するためには、余計なものは必要ない。そういう潔さ、軍用車みたいな機能だけの世界に魅力を感じる人が増えたんでしょう。
清水:カイテキそうな乗用車より、こっちのほうがモテそうな感じもしますからね。
ほった:まぁ乗ったら全然、カイテキなんですけどね。
渕野:多分こっちのほうがウケますよね。ベンツよりもジムニーのほうが。
ほった:ジムニーがウケますか。なーんか、複雑な気持ちだなこれ(笑)。
渕野:昔っから応援している人は、あんまりウケてほしくないんでしょうけど。
ほった:うれしいような寂しいような(笑)。
清水:とりあえずオレはノマドは否定! 3ドアだけを応援するよ。
ほった:ムダな抵抗でしょう。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=スズキ、JLR、向後一宏、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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