第63回:新型「1シリーズ」と「X3」(前編) ―オラオラ系はもう卒業!? 静かに進むBMWのデザイン改革―
2025.04.02 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
BMWの量販車種「1シリーズ」と「X3」がフルモデルチェンジ。その新型をよくよく見ると、既存の車種とはずいぶん違うイメージになっているではないか! 極悪オラオラ路線で物議をかもすBMWが、次に目指すカーデザインの境地とは? 識者とともに考えた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
良くも悪くも目が離せない
webCGほった(以下、ほった):今回のテーマは清水さんの発案により、最新のBMWデザインについてです。ここでビーエムについて取り上げるのも、もう何度目だよって話ではありますが。
清水草一(以下、清水):新型1シリーズとX3、大物が2つ登場したからね。
ほった:清水さんはBMWが好きですねぇ。
清水:最近のBMWデザインは目が離せないじゃない!
ほった:何するかわかりませんからね(笑)。
渕野健太郎(以下、渕野):じゃ、まずは新型1シリーズからやりましょうか。一応フルモデルチェンジってことになってますけど……これ、フロントフェンダーとかボンネットとか、サイドのドアとかは先代と同じだと思うんですよ。ガラスもすべて共用で、違うのはリアクオーターパネル、リアドアの後ろの車体部分が変わっているようですね。サイドガラスの一番後ろにガーニッシュみたいな部品が付いてますけど、そことかを見ると、「あ、変わってる」ってわかるかと。
ほった:はいはい、はいはい。
渕野:あとはリアランプまわりを見ると……ランプの中のグラフィックやリアクオーターパネル側の切り欠きは変わってますけど、ここもテールゲート側の切り欠きの形は変わってない。要は、テールゲートも流用なんじゃないかなと。
ほった:え、そこまで? ちょっと待ってくださいよ(汗)。
渕野:フロントも、ヘッドライトの切り欠きを見たらわかるんですけど、ボンネットとフェンダーは恐らく先代と共用です。
実はほとんど変わっていない!?
渕野:(タブレットで写真を見せる)これ、新型と旧型の比較なんですけど。先代だと、キドニーグリルの角(端)からボンネットに向けてプレスラインが通ってるでしょう。これが新型では、キドニーグリルが幅広くなったので、ボンネット側から伸びてくるラインとグリルの角の位置が、合っていない。逆に、キドニーグリルの角から生えているラインは、ボンネットまで続いていない。
ほった:そ、そうっすね……。
渕野さん:だから、ボンネットも多分先代と同じです。
ほった:型式違うのになぁ。
渕野:あくまで多分ですけどね(念押し)。新しい「MINI」も、エンジン車のほうはそんな感じだったじゃないですか。コストダウンかなと思います。
清水:前後のバンパー部は違うんですね?
渕野:バンパー部とランプ類と、あとはさっき言ったリアクオーターパネルですね。ただ、リアクオーターパネルって車体の側なわけですから、バンパーなんかと違って一番変えるのが難しいところのはずなんですよ。そこが変わっているわけですから、ひょっとしたら実は中身も違ってて、ただ旧型からの流用パーツがやけに多いってだけなのかもしれない。
ほった:そんなパターンもあるんですか。
清水:でも、ドアはさすがに違うんじゃない?
渕野:いや、外から見た限りは一緒だと思いますよ。
ほった:うーん。ネットで調べてみると、ウィキペ……もとい、有志の手になる間違いだらけの百科事典でも「事実上F40のフェイスリフト版となる」って紹介されてますね。
渕野:いや。本当にただのフェイスリフトだったらボディー側はいじらないので、それはまた違いますよ。
ほった:まぁ有志の手になる百科事典の言うことですから。
渕野:だけど、ほぼ同じパッケージでつくられてるのは間違いない。
清水:ホイールベースは?
ほった:ホイールベースは……先代から据え置きの2670mmですね。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ようやく解けたFRの呪い
渕野:そんなわけで、新型1シリーズは「これをフルモデルチェンジって言えるのか?」っていうところはちょっとあるんですけど、主に顔まわりが変わっているのは確かです。1シリーズは、先代で駆動方式がFRからFFになりましたよね。それをなんとかFRっぽいデザインにしたくて、ヘッドランプにかなり後退角をつけていたでしょう。その結果、ちょっとフロントマスクにムリが出ちゃったっていう話を、以前したと思います(参照)。
ほった:ヘッドランプとキドニーグリルが無関係に配置されたような形になっているって話でしたね。
渕野:そうです。FRからFFになってフロントオーバーハングが長くなったけど、BMWとしてはイメージをあまり変えたくなかった。で、ああいったデザインにして、結局そこにムリが生じたように感じられました。それが今回は、素直にFFらしいというか、「FFのBMW」としてこなれてきた感じがする。そこがすごくいいなと思ったわけです。新型では、ヘッドランプとフロントグリルに、連続性が感じられると思うんですよ。
ほった:なるほど。
渕野:このグリルとランプの位置関係は「Z4」に近いと思います。それまでのBMWは、基本的にグリルの上端がランプより高い位置にきてましたけど、新1シリーズでは、明確にグリルのほうが低いでしょ?
清水:ほかのBMWと違って、とてもスッキリシンプルな感じで、正統派カーマニア的に好感を抱いてました。
ほった:「XM」のファンが、いつのまに正統派に宗旨替えしたんですか?
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
皆が皆、こうなるわけではない
ほった:BMWはこれから、こういうフロントデザインに寄せていくんですかね? ほかの車種も。
渕野:どうでしょう。ほかのモデルではグリルの主張をどんどん強くしていますし、今のところは1シリーズだけかなって思いますけど。
ほった:残念。ワタシは正直、「4シリーズ」とかの“わらじグリル”より、こっちほうが3兆倍ぐらいいいと思うんですけど。アンチ縦型キドニー派なので。コンセプトモデルの「スカイトップ」も、どちらかっていったらこっち系の顔でしたよね。あっちはヘッドランプがほとんど“線”でしたが。それを考えたら、「BMWはこっちのほうに向かうのか? よかった!」とも思えたんですけど。
清水:でも、全部そっちにもっていく気配は今のところ……。
ほった:ないですね。
清水:とにかく新しい1シリーズは、こうしてグリルの位置が下がっただけで、すごくスッキリした! 先代みたいにグリルが上にはみ出してるのは、どうにも嫌だったんですよ。
渕野:デザインの理屈としては、フロントオーバーハングが長ければ長いほど、グリルの位置は下がるはずなんです。普通、ボンネットには前下がりの角度がついてますから、前に伸びれば伸びるほどグリルは下がる。だけど先代1シリーズは、無理にグリルを高くしていた。新型はそこを素直に変更したところが違います。
清水:目からウロコです。リアはどうですか?
渕野:リアは……最近のBMWのクセですけど、グラフィックがすごいですよね。(全員笑)
ほった:このへこみ(テールランプの切り欠き)とか、なんなんだよ? って思いますけど。
渕野:そこもそうだし、リアバンパーの黒の切り欠きも、もうちょっとシンプルにしてもいいんじゃ? って思ったりしますね。
清水:僕は、ジェット噴射(マフラー上のディフューザー風の装飾)は、男の武装として大アリだと思うけど!
ほった:清水さんにはジェット噴射が必須ですから(笑)。
渕野:リアに関しては、先代のほうがむしろスッキリしていましたね。
清水:まぁほとんど変わってないけど。ジェット噴射が付いたぐらいで(笑)。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
やっぱりクルマは顔が命?
清水:しかし、ベースは先代と同じだったのかぁ。顔の印象だけで、ずいぶん違って見えるもんですね。
渕野:「三菱デリカミニ」じゃありませんけど、共用部品がいっぱいあったはずなのに、ここまでイメージを変えられたのはデザイナー視点でもスゴイと思います。顔だけでクルマ全体が違って見えるっていうのは、やっぱそれだけフロントマスクって大事だよってことでもあるんですよ。
清水:やっぱりクルマは顔が命でしょ!
ほった:んなこたぁない。
渕野:私も顔が命とは思いませんけど(笑)、でもやっぱり、ファーストインプレッションは大事ですね。
ほった:まぁそれは。ワタシも先代はフロントマスクが残念というか、「ここだけなんとかなんないかな」って思ってたので、新型で顔がスッキリして、すごく全体が良くなったようなイメージがあります。やっぱり顔に引っ張られてる。
渕野:イメージが良くなりましたよね。……ただ新型は、一番ベーシックなグレードでも470万円。昔は300万台円で買えるのもありましたよね?
ほった:イメージと一緒にお値段も爆上がり。
清水:なにしろ「ゴルフ」がコミコミ500万円の世の中ですから。こんな金額のクルマ、よくみんな平気で買えるよな、って思いますよ。
ほった:どうやって買ってんすかね?
清水:主に残クレでしょ。今は残クレが常識! 新車価格は見るな! 月々の支払額だけ見ろ! だよ。
ほった:江戸っ子ですね(笑)。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=BMW、webCG/編集=堀田剛資)

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第132回:軽EVのデザインを考える(前編) ―「スズキeスカイ」にみる“大衆車メーカー”スズキのスゴみ― 2026.10.14 希代の凡作か? 実はすべてが計算のうちか? スズキ初の軽乗用電気自動車「eスカイ」の造形を、カーデザインの識者と考察。つかみどころのないイメージの背景にある、“大衆車メーカー”スズキの慧眼(けいがん)に思いをはせた。
-
第131回:新型三菱パジェロ(後編) ―レトロブームには頼らない? 最新のデザイントレンドを追求した三菱の思惑― 2026.10.7 正式発表を間近に控え、ますますファンの間で話題が盛り上がっている新型「三菱パジェロ」。歴史的な旗艦の復活だというのに、三菱があえてレトロブームに乗らなかった理由とは? カーデザインの識者とともに、新型パジェロに見る最新のデザイントレンドを探る。
-
第130回:新型三菱パジェロ(前編) ―泥や雪より都会が似合う!? 高級&上質に進化した“関越キング”に思う― 2026.9.30 いよいよ登場した新型「三菱パジェロ」。復活を遂げたクロスカントリーSUVの雄だが、そのデザインは海や山やスキー場より、むしろ都会が似合うものに仕上がっていた!? 三菱が世に問う渾身の力作、その造形をカーデザインの識者とともに考察した。
-
第129回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(後編) ―プロポーションの進化と「駄作」の消失に見る、日本車の現在地― 2026.9.23 今や欧州と立場が逆転? 世界的に見ても高い水準にあるという日本のカーデザインだが、そこには本当に足りないものはないのか? 今後、さらなる発展を望むうえで必要なものとはなにか? カーデザインの識者と、日本の自動車デザインの“今”を考えた。
-
第128回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(前編) ―厳しい制約が鍛えた独創の美と創造性― 2026.9.16 日本の地に自動車産業が芽生えて幾星霜。今やすっかり自動車大国となったわが国だが、ことカーデザインの質については、世界的に見てどれほどのレベルにあるのだろうか? 日本車の“美”がさらに進化していくうえで必要なものを、カーデザインの識者と考えた。
-
NEW
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。 -
間もなく正式発表 ミツオカの新型2シータースポーツカー「LA1」を予測する
2026.10.15デイリーコラム光岡自動車が2026年11月26日に正式発表を予定しているアメリカンスタイルの新型2シータースポーツカー「LA1」。現在公開されているLA1の画像とティーザーサイトに掲載された情報から、その特徴を分析する。


















































