第73回:トヨタRAV4(前編) ―世界を変えた“なんちゃってSUV”の偉業をたどる―
2025.06.18 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
トヨタが誇るグローバルモデル「RAV4」が、いよいよモデルチェンジ! 自動車のトレンドを変えたクロスオーバーSUVのパイオニアは、どのような変遷を経て新型に至ったのか。カーデザインの専門家とともに、偉大なる“なんちゃって系”の歴史を振り返る。
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「RAV4」の歴史は、乗用SUVの歴史
webCGほった(以下、ほった):今回のお題はトヨタRAV4でございます。こないだ発表になりましたね。新型の6代目が(参照)。
清水草一(以下、清水):このクルマに関しては、渕野さんの評論記事がもう『webCG』に上がっているし、せっかくなので歴代モデルの話から入っていくのはどうですか?
渕野健太郎(以下、渕野):いいですよ。(タブレットで写真を探す)
webCGほった:……でも、あれですよねぇ。過去のモデルが現役のころはロクに話題にもしなかったのに、こうやって新型がフィーバーしたら、手のひら返して旧型を持ち上げるワタシら自動車メディアってのも、なかなかですよね(笑)。
清水:いや。今だってオレは、2代目、3代目あたりは名車でもなんでもなかったって思ってるよ。初代ですら、現役時代は「なに? このカワイイの」って感じで(笑)。
渕野:……はいはい、出てきましたよと。(歴代RAV4の写真を映す) 新型RAV4は自分も発表会に行ってきたんですが、会場に歴代のモデルが並んでて、すごく興味深く感じました。乗用SUVの歴史そのものみたいで。
清水:初代の登場は、振り返ってみればSUVの革命だったんですよね。
渕野:そうでしょうね。それ以前のSUVは、基本がクロカン的でした。「日産テラノ」とかもありましたけど、まだせいぜい「フレーム付きだけど、乗用的な雰囲気のモデル」が出てきたくらいだった。だけど初代RAV4は、そこいらの乗用車をちょっとかさ上げして、今でいうSUVに仕立てたクルマでしたよね。そこがミソだったわけです。
クルマ好きには無縁なクルマ
渕野:これ、出たときは自分はまだ子供だったんですけど、世の反応はどうだったんですか?
清水:こいつのデビューは1994年ですよね。当時のクルマ好きの空気は、まだまだ「スポーツカー命」で速いクルマが正義でしたから、自分も「女子供向けのが出たな」って感じで、まったく眼中にありませんでした。ただ、しばらくして「ヨーロッパでも人気がある!」みたいな話を聞いて、「えっ、そうなの?」ってなった。みんなヨーロッパコンプレックスだったから(全員笑)。
ほった:あー、やだやだ。
渕野:要は、パイクカー的でニッチなクルマっていう認識だったんですか?
清水:う~ん。ニッチっていうか、無縁としか言いようがなかったな。デザイン的にかわいらしいじゃないですか。自分を含め、当時のクルマ好きはかわいいクルマなんて大っ嫌いだったんです(全員笑)。日本のかわいい文化を真剣に恥じていました。
ほった:ワタシはむしろ、今の日本のいきすぎたかわいい文化を恥じていますがね。
清水:知らんがな。
渕野:なるほど。今とはぜんぜん違いますね。ただ初代RAV4が出てしばらくして、5ドア版が出たじゃないですか。そこで急に「あれ、これって使えるかも」っていう感じがしませんでした?
ほった:実用車としての魅力が追加された的な?
清水:逆ですね。「さらに一般大衆におもねったな!」みたいな(全員笑)。5ドアと比べると3ドアはカッコよかったんだなぁって、少し見直す効果はありましたけど。
本当に都会派SUVの先駆けだった?
清水:初代の、渕野さんの評価はどうなんですか?
渕野:これって、いすゞの「ビークロス」とかと同時期ですよね? どちらも乗用車的なスタイルだけど、ボディーの下半分を樹脂で覆ってラギッドな感じを出していたじゃないですか。そこが、これまでのクルマとはちょっと違う雰囲気で、ファッションとしてのSUVみたいな感じがしました。
自分はまだ中高生だったんですけど、すごく印象はよかったですよ。かわいいというよりも、新しいジャンルのクルマという感じがして。初代「スズキ・ワゴンR」もそうでしたけど、この時期は、乗用車をちょっとRV風にした道具感のあるクルマがはやってきたころだと思うんです。それがひとつのプロダクトデザイン、カーデザインのトレンドだったと思います。
清水:視点がぜんぜん違いますね(笑)。初代RAV4が1994年で、ホンダの初代「CR-V」が1995年だったっけ?
ほった:そうですね。ちなみにワゴンRは1993年で、いすゞのビークロスは1997年。
清水:で、「トヨタ・ハリアー」が1997年。こういう乗用SUVは、初代RAV4が世界初……でいいのかな?
ほった:まぁそうなんでしょうけど。細かい話をすると、それ以前にも初代「スズキ・エスクード」(1988年)とか、街なかでも普通に使えるカジュアルなクロカン……当時ライトクロカンって呼ばれてましたけど、そういうのはいたんですよね。ここまでオシャレじゃなくて、オフロードも捨ててはいませんでしたけど。なので、発明品みたいにRAV4がぽっと出てきたというより、ここに至る流れがシームレスにあったっていうのがワタシの認識です。ただ、文字どおり“骨”抜きにされちゃったクルマは、これが最初かも。
清水:フレームレスのSUVは、これが初だったってこと?
ほった:いや。厳密には2代目「ジープ・チェロキー」とか「ラーダ・ニーヴァ」みたいなのがありましたけど……。
渕野:確かに、チェロキーなんかはモノコックでしたけど、デザインはむしろラダーフレームのクロカン風でしたよね。デザインのテイストとしても、既存のクロカン系から離れたという点でみて、RAV4はすごく新しいクルマだったと思います。
清水:結果的にはやはり、ここから世界の自動車シーンの大変革が始まったと。
ほった:まぁ、チェロキーはあれでも、当時は相当に都会的なデザインだったんですけどね(笑)。
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どんどん人気に、どんどん没個性に
渕野:で、これが2代目ですね。これはあんまりピンとこなかった(笑)。当時は、こういうクルマがちょっと主流になり始めた時期かなと思うんですが、初代より乗用車感が増していて、モヤモヤするものがありました。
清水:当時のトヨタのナマクラ感が表れてますよね(全員笑)。初代は新参者を冷ややかな目で見ていたけど、2代目は「圏外に去ったな」みたいな、さらに冷ややかな目で見るようになりました。
渕野:でも、まだ2代目はリアドアにタイヤを背負っていて、まぁ「そういう感じ」だったわけですよ、フレーム付きの本格SUVを意識していた時代というか。もしこれがなかったら、まだ世間には受け入れられてなかったのかもっていう気はしますけど、どうでしょう?
清水:うーん。特に記憶がないっていうか(全員笑)。ただただ初代を大幅に鈍くしたみたいな。
ほった:みじんも関心がなかったんですね。
渕野:(笑)で、これが3代目ですけど、このころにはもう、RAV4はマーケットの中心になってきているわけですよね、世界的にみて。だからというのもあると思いますが、この世代には「SUVのカローラ」みたいな、そういう雰囲気があります。誰にでも受け入れやすいデザインですよね。逆に言うと、個性がどんどん薄くなっていった。
清水:どんどん自己主張がなくなって、どんどん空気みたいになってった。
渕野:でも、販売台数はどんどん増えていったわけですから、そこがスゴい。
ほった:スゴいですね(笑)。
渕野:その後の4代目は日本未導入でしたけど、顔まわりに当時トヨタがやっていた「キーンルック」が取り入れられてるんですよね。これはもはや「SUVなのか? 乗用車なのか?」みたいな感じで、要は背の高い乗用車を狙ったんだと思います。
清水:でも、顔がキーンルックになっただけで、だいぶ見た目が攻撃的になってる。顔重視の私としては、キーンルックにはちゃんと功績があったんだなって思うなぁ。
渕野:トヨタとしては、新しい顔まわりを模索していた時期ですよね。グリルに頼らないデザインを目指して。……っていうのが4代目の感覚でしたけど、これ、世界的には販売がスゴかったんじゃないでしたっけ?
清水:車名別で世界第3位とか4位とか、すさまじい数が売れたわけですよね。
渕野:そうした流れのなかで、“あの5代目”が生まれるわけです。
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再びの大事件を起こした5代目
渕野:RAV4の5代目がこれです。SUVをどんどん乗用車化させていったところから反転して、一気にアウトドアテイストをバーンと打ち出してきた。私はこの5代目、かなり好きなんですよ。「よくやるよなぁ」っていう(全員笑)。いや、いい意味で(汗)。
清水:いい意味ですか(笑)。
渕野:いや、「ここまでできるんだな」っていう風に見てました。世界的にアウトドアブームだったのもあるんですけど、そこをいち早くつかんだ感じで。
実車を見ても、2つの大きな立体のカタマリを篏合(かんごう)させたような形なんですよね。このクラスのSUVにしては、それが明快に表れている。その最たる部分が、フロントバンパーのワイド感なんですよ。普通、こういうところはプラン(俯瞰)で見たとき、フロントタイヤよりもぐっと絞らないとオーバーハングが重たく見えるんですけど、このクルマはほとんど絞っていない。全幅に近い幅から、Cピラーあたりめがけて「ぐわー!」って絞っていってる。で、その下にリア側のボリュームが付いてるよっていう基本の形が、すごく明快なんです。
最近のクルマのトレンドとして、顔まわりをできるだけワイドに見せるっていうのはあるんですが、このクルマはもう、最大限それをやってるところがスゴかった。
清水:そうなんですか……。
渕野:ちょっとでもバランスが変わると成立しなかったんじゃないかな? そのぐらい、キワキワのところを狙ってる。自分が現役だったときも、このRAV4の“強さ”には、なかなか勝てなかったですね。クルマの開発っていうのはベンチマークを設定するわけで、私も5代目RAV4はかなり観察したんですけど、難しいものがありました。
清水:難しい?
渕野:参考にならない、みたいな。本当は意識しなきゃダメなんですよ。これが最量販車種で、要は市場はこれぐらいの“強さ”を求めてるという指標なわけですから。でもなかなか、バランスをとるのが難しかった。
清水:これって強かったんですか……。確かに以前と比べたら、ぐっと強くなってるけど、出たときはぜんぜんそうは思わなかった。
ほった:そうですか? 発表当時はインパクトが強烈で、ずいぶん盛り上がったのを覚えてますよ。コンセプトカーそのまんまの姿だったし。
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トヨタにこれをやられた日にゃ……
渕野:これが面白いのは、顔だけ見るとラダーフレームの本格クロカンっぽいことですよね。つまり箱っぽいクルマを想像させるんですけど、でもサイドから見ると、かなりスポーティーなんですよ。ウエッジも相当に効いていて、リアがぐっと高くなってる。ラギッドだけど、ものすごくスポーティー。そういうところが評価されたんじゃないかな? そして販売的にも大ヒット。
清水:大ヒットですね。でも、「ハリアー」はこれの兄弟ですよね? 僕はハリアーみたいなののほうが好きなんですよ。
ほった:買わないけど?
清水:買わないけどね(笑)。でも実際、ハリアーは都会派クロスオーバーSUVのひとつの到達点でしょう。すごくシュっとしてて、価格の割に優越感があって。いっぽうのRAV4は、クロカンもどきであって本物じゃない。中途半端じゃないですか!
渕野:でも、ラダーフレームの本格的なクロカンって、家族で普段使いするにはまったく快適じゃないんですよ。だからクルマとして、こっちのほうが進化してると思うんです。私が前に勤めていた会社は、まさにそういう人をターゲットにしてたわけですけど(笑)。そこに「トヨタがこういうことをやってきた!」って感じで、「これは大変だ!」みたいになっちゃった(全員笑)。
清水:そんなにインパクトがあったんですか……。
ほった:あの会社だからこそ、かもしれませんね。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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