スズキeビターラ プロトタイプ(FWD)/eビターラ プロトタイプ(4WD)
こだわりの第1号 2025.07.10 試乗記 スズキが投入する初の量販電気自動車(BEV)「eビターラ」。発売前のその車両に、早くも試乗する機会を得た。トヨタと共同開発したというフル電動コンパクトSUVは、どのようなクルマに仕上がっているのか? スズキの世界戦略車らしい、骨太な走りを報告する。スズキのEV戦略を担うグローバルモデル
eビターラはスズキがゼロスタートで開発した初めてのBEVだ。2024年11月に欧州(参照)で、2025年1月にインドでお披露目され、同年春よりインドのグジャラート工場で生産を開始し、夏以降に欧州、インド、日本市場に順次展開するとアナウンスされていた。
この一連の時程の直前となる2024年10月末に発表されたのが、スズキとトヨタの電動車領域での協業深化だ(参照)。その具体例として、スズキ開発のBEVをトヨタにOEM供給するという項目が挙げられていた。日本では既にディスコンとなった「イスト」の流れをくむBセグメントクロスオーバーとして、トヨタが欧州やアフリカで展開していた「アーバンクルーザー」。2024年11月に欧州で発表されたそのBEVモデルこそが、eビターラのOEMということになる。
eビターラのサイズは、全長×全幅×全高=4275×1800×1640mm。全長と全幅については「フォルクスワーゲン・ゴルフ」とほぼ同じだが、ホイールベースは80mmも長い2700mmとなる。この辺りがBEV専用プラットフォームならではのディメンションといえるだろう。おかげで、現物は写真の印象以上に鼻が短くて胴が長い。こんな動物、アフリカの沼地にいそうだよなぁと、そんな印象でもある。
こういうプロポーションでも見栄えよく形づくるためにも、電池を床に敷きながら最低地上高を稼ぎ出すためにも、タイヤの外径は大きくせざるを得ない。そして自重を支えるべくロープロファイルでケース剛性が高く、でも転がり抵抗は低く……というのが、BEVのタイヤを選定するうえでの悩みどころだ。というわけで、eビターラもスズキのクルマとしてはかなりマッシブなサイズのタイヤを履いている。車重は搭載バッテリー容量やモーターの数によって異なるが、発表値で1700~1890kgと、他のBEVと比べれば車格相応か若干重いくらいのところ。ここがスズキ十八番の「小・少・軽・短・美」といかないのは、後述するアーキテクチャーや搭載バッテリーの関係もあるのかもしれない。
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
トヨタと協業し、BYDから電池を調達
「ハーテクトe」と名づけられたBEV専用プラットフォームは、バッテリーケースを剛体として活用するかたちでフロア部のメンバー類を廃し、バッテリーの搭載容量を最大化したものだ。表向きは、スズキとトヨタに加えてダイハツも名を連ねた共同開発という体になっている。おのおのが開発でどのような役割を果たしたか、工場のアッセンブリーでは他銘柄と混流しているのか、といった質問については、スズキのエンジニアはことごとく言葉を濁していた。関わる人も多岐なぶんだけ秘密も多いのかもしれないが、ダイハツも絡むとなると、それなりにスケーラブルな設計になっているのかもしれない。
搭載するバッテリーは、BYDの子会社であるFinDreams Battery=FDBから供給を受けるリン酸鉄リチウムイオン(LFP)型だが、BYDのようなブレードタイプではなく一般的なモジュールタイプとなっている。三元系と呼ばれるニッケル・マンガン・コバルト(NMC)型に対してLFP型は、安全性やコストの面で利があるのに対し、重量あたりのエネルギー密度では不利とされる。この辺りも、先述した車重の一因となっているのだろう。搭載バッテリー容量はグレードに応じて49kWhと61kWhの2種類を用意。航続距離は、FWDの49kWh仕様が400km以上、同61kWh仕様が500km以上、4WDは61kWh仕様のみで450km以上とされている(WLTCモード)。
駆動用モーターとインバーターを一体化し、体積と電力損失の両面で高効率化を果たしたeアクスルは、デンソーとアイシン、トヨタの3社が出資するブルーネクサス製で、インドで生産・供給される。出力は49kWh仕様が106kW、61kWh仕様が128kWで、最大トルクは共に189N・m。さらに61kWh仕様をベースに後軸にも48kWのeアクスルを加えた、スズキいわくの「オールグリップ-e」、すなわち四駆の設定もあり、こちらはシステム全体で135kW/307N・mのアウトプットだ。
「ビターラ」は日本でいう「エスクード」の海外版ということもあって、四駆に対するカスタマーの期待値が高い。そのため、電動化されたこのモデルでも、緻密な駆動制御やブレーキLSD機能を加えたドライブモードなどを搭載している。ちなみに最低地上高は、グレードを問わず先代のエスクードとほぼ同等の185mmを確保した。
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
クセのないプレーンな仕立てがむしろ個性的
スズキのeビターラとトヨタのアーバンクルーザーは、顔まわりの意匠こそ異なるものの、他の部位では共通項が多い。恐らくシャシーのチューニングは違えているだろうから、その関係性を例えるなら「シトロエン・ベルランゴ」と「プジョー・リフター」のような……ということになるだろうか。eビターラのセンターコンソールに据えられた、「トヨタbZ4X」と同じ操作ロジックのロータリー式シフトセレクターからは、両車のつながりがみてとれる。
内装の質感に特筆するようなところはないが、ライバルに対して著しい見劣りがあるわけでもない。遊び的な意匠が少ないなか、上下がフラットシェイプとなったステアリング形状が、スズキとしては挑戦的なディテールということになるだろうか。なにもかもがモニターの奥底に潜んでいるというような設(しつら)えではないぶん、扱いに迷わないのは今やBEVのライバルに対する特筆点かもしれない。中国辺りがターゲットならカラオケボックスみたいなコンセプトにならざるを得ないだろうが、もはや日本のメーカーは、そこは現地任せの別腹扱い。ましてやスズキは早々に中国撤退を果たしている。特殊な仕向け事情がないぶん、プレーンにクルマづくりに臨めるという一面もあるのだと察する。
居住性に極端なクセはなく、床面と座面の高さ関係もすぐに慣れるほど自然だ。ロングホイールベースの恩恵は後席にあらたかで、足元まわりの余裕もB~Cセグメントとしては十分以上に感じられる。ボンネット形状も工夫されていて、前席着座位置からの前方見切りも鮮明だから、車幅はまったく気にならない。機能と商品性を両立させるデザイン力という点において、スズキは定評が高いが、eビターラもその伝統は受け継いでいるように思う。
例えるなら、あの名車
動力性能は低中速域でBEVらしい快活さを感じさせつつも、特別に刺激的なことがあるわけではない。クローズドコースということもあって加速や制動を試せる場面は限られたが、スタート時の唐突なトルクの立ち上がりや、停止時の回生制動と油圧制動の段つきなどは感じられず、シームレスに振る舞えることは確認できた。
最も驚かされたのは運動性能、端的にいえばハンドリングだ。床まわりの高い剛性感や低重心といったBEVならではの利もあろうが、路面とのコンタクト感はすこぶる濃密で、ロールの量やスピードも不安をまったく感じさせず、粘りに粘って最後は弱アンダーというクルマのお手本のようなマナーをみせてくれる。ESPの介入がちょっと強めなのは、スズキとしては破格な車重に対するマージンの意味合いだろうが、曲がり始めから過渡域の動きのリニアさは、大げさでなく5代目ゴルフ辺りを思い起こさせるほどだ。と、そんな感想をエンジニアの方に伝えたら、「実はほかのジャーナリストさんからも、まったく同じ、ゴルフ5に似ているというご指摘をいただきました」とのことだったから、われながら、あながち的はずれな評価でもないのだろう。
この好印象の一因は、ステアリングやアクセラレーターの操作力が割と重めにしつけてあることにもよるのかもしれない。これは開発途中で、英国市場側から「操作系が軽すぎて、カントリーロードのバウンドで揺すられると、意図しない入力が加わってしまう」と指摘され、あえてチューニングしたものだという。さらさらの操作系でひらひらと走らせるクルマが主流のなか、珍しいくらいにねっとり、むちむちした感触は好き嫌いが分かれるかもしれないが、このクルマの個性の一部であることは間違いない。
振り返れば、2代目「スイフト」や先代エスクードに「スプラッシュ」など、スズキは折につけ、車格に相反するやたらと重厚な乗り味のクルマを生み出してきた過去がある。eビターラが名を連ねるのもその系譜なのかもしれない。ともあれ、小さくとも骨のあるBEVである。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
テスト車のデータ
スズキeビターラ プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1800×1640mm
ホイールベース:2700mm
車重:1790kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:174PS(128kW)
最大トルク:193N・m(19.7kgf・m)
タイヤ:(前)225/55R18 98V/(後)225/55R18 98V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ2 SUV)
一充電走行距離:500km以上(WLTCモード)
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:440km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
スズキeビターラ プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1800×1640mm
ホイールベース:2700mm
車重:1890kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:174PS(128kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:65PS(48kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:184PS(135kW)
システム最大トルク:307N・m(31.3kgf・m)
タイヤ:(前)225/55R18 98V/(後)225/55R18 98V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ2 SUV)
一充電走行距離:450km以上(WLTCモード)
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:423km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆航続距離は500km以上! スズキが新型EV「eビターラ」の情報を先行公開
◆スズキが初の量産電気自動車「eビターラ」を発表 2025年夏の市場投入を予定

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
- 
  
  2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】 2025.11.1 メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。
 - 
  
  シトロエンC3ハイブリッド マックス(FF/6AT)【試乗記】 2025.10.31 フルモデルチェンジで第4世代に進化したシトロエンのエントリーモデル「C3」が上陸。最新のシトロエンデザインにSUV風味が加わったエクステリアデザインと、マイルドハイブリッドパワートレインの採用がトピックである。その仕上がりやいかに。
 - 
  
  メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【海外試乗記】 2025.10.29 メルセデス・ベンツが擁するラグジュアリーブランド、メルセデス・マイバッハのラインナップに、オープン2シーターの「SLモノグラムシリーズ」が登場。ラグジュアリーブランドのドライバーズカーならではの走りと特別感を、イタリアよりリポートする。
 - 
  
  ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)【試乗記】 2025.10.28 マイナーチェンジでフロントフェイスが大きく変わった「ルーテシア」が上陸。ルノーを代表する欧州Bセグメントの本格フルハイブリッド車は、いかなる進化を遂げたのか。新グレードにして唯一のラインナップとなる「エスプリ アルピーヌ」の仕上がりを報告する。
 - 
  
  メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.27 この妖しいグリーンに包まれた「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」をご覧いただきたい。実は最新のSクラスではカラーラインナップが一気に拡大。内装でも外装でも赤や青、黄色などが選べるようになっているのだ。浮世離れした世界の居心地を味わってみた。
 
- 
              
                
                        
                          NEW
                    第322回:機関車みたいで最高!
2025.11.3カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。2年に一度開催される自動車の祭典が「ジャパンモビリティショー」。BYDの軽BEVからレクサスの6輪車、そしてホンダのロケットまで、2025年開催の会場で、見て感じたことをカーマニア目線で報告する。 - 
              
                
                          NEW
                    現行型でも中古車価格は半額以下! いま本気で狙いたい特選ユーズドカーはこれだ!
2025.11.3デイリーコラム「クルマが高い。ましてや輸入車なんて……」と諦めるのはまだ早い。中古車に目を向ければ、“現行型”でも半値以下のモデルは存在する。今回は、なかでも狙い目といえる、お買い得な車種をピックアップしてみよう。 - 
              
                
                        
                          NEW
                    スズキ・アルト ラパン ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】
2025.11.3試乗記スズキの「アルト ラパン」がマイナーチェンジ。新しいフロントマスクでかわいらしさに磨きがかかっただけでなく、なんとパワーユニットも刷新しているというから見逃せない。上位グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。 - 
              
                
                    ジャパンモビリティショー2025(横浜ゴム)
2025.11.2画像・写真全日本スーパーフォーミュラ選手権に供給しているレーシングタイヤや実際のマシン、ウルトラハイパフォーマンスタイヤ「アドバンスポーツV107」の次世代コンセプトモデルなどが初披露された横浜ゴムのディスプレイを写真で紹介する。 - 
              
                
                    ジャパンモビリティショー2025(ヒョンデ モビリティー ジャパン)
2025.11.2画像・写真燃料電池車の新型「NEXO(ネッソ)」やフラッグシップ電気自動車「アイオニック5」、そしてデザインコンセプトカー「インスタロイド」が並んだヒョンデブース。これら展示車両や、燃料電池に関するディスプレイを写真で紹介する。 - 
              
                
                        
                    ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(前編)
2025.11.2ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛え、STIではモータースポーツにも携わってきた辰己英治氏。今回、彼が試乗するのは「ホンダ・シビック タイプR」だ。330PSものパワーを前輪駆動で御すハイパフォーマンスマシンの走りを、氏はどう評するのか? 
      





















































    
    
    
    
    












                        
                          
                        
                    
                    
                        
                    
                  
                  
                  
                  
                        
                    
                        
                    
                        
                    