小さなボディーに大きなエンジンを積んだクルマを考察する
2025.08.06 デイリーコラムオリジナルの3.5倍もの排気量
webCG編集部のFくんいわく、「先日『ミツオカM55』に乗ったんですが、アメリカンマッスルカーみたいなルックスなのにエンジンが1.5リッターしかないことに、いまさらながら妙な感じがしました」。これを聞いて、ダウンサイジングターボやハイブリッドによって、ボディーサイズに対して排気量の小さなエンジンの組み合わせも珍しくはなくなったものの、見た目からそうした印象を抱くのも無理はないのかもな、と思った。
そう伝えたところ、「それで思いついたんですけれど、こんなふうにボディーが大きいのに小排気量、小さいのに大排気量なクルマ、みたいなコラムを書いてもらえませんかね?」。そうきたかということで、まずは分かりやすいほう、つまり小さな車体に大きなエンジンを積んだモデルから挙げてみよう。
真っ先に思い浮かんだのは、1961年に登場した「ACコブラ」。キャロル・シェルビー率いるシェルビー・アメリカンが英国製オープンスポーツの「ACエース」をベースにつくったモデルだ。オリジナルのACエースは2リッターもしくは2.6リッターの直6 OHVユニットを積んでいたが、ACコブラはそれを米国フォード製のV8 OHVユニットに換装。排気量は当初は260立方インチ(4.3リッター)だったものの、289(4.7リッター)を経て最終的に427(7リッター)まで拡大された。
ぶっといタイヤを収めるため前後フェンダーが張り出したボディーを持つ「ACコブラ427」。オリジナルの2リッターに対し3.5倍の排気量を持つ7リッターV8 OHVユニットは、ストリートバージョンでも最高出力390HP、最大トルク65.8kgf・mという強大なパワーを発生した。ボディーはグラマラスとはいえ全長は4m弱で車重は1tに満たなかったから、最高速264km/h、0-400m加速12.2秒という強烈なパフォーマンスを発揮。「排気量アップに勝るチューンはない」というチューニングの格言(?)を地で行くモデルだった。
毒蛇の次は猛虎
ヒルマン、シンガー、サンビーム、ハンバーというブランドを抱えていた英国のルーツ・グループが、ACコブラに倣ってキャロル・シェルビーに依頼し、同様の手法で1964年に生まれたアングロアメリカンスポーツが「サンビーム・タイガー」である。
ベースとなった「サンビーム・アルパイン」は、1.5/1.6リッター直4 OHVユニットを積んだオープン2座スポーツ。ボディーサイズ、キャラクターともに日本の「ダットサン・フェアレディ」に近かったそのアルパインのパワーユニットを、フォード製の4.3リッターV8 OHVに換装したのがタイガー。1967年の「タイガー マークII」ではさらに4.7リッターにまでスープアップされ、最高速200km/hをうたっていたのだった。
シリーズ累計で52万台以上もつくられた傑作スポーツカーである「MGB」。基本はオープン2座だが、テールゲート付きの2+2クーペとしたのが「MGB GT」。その1.8リッター直4 OHVエンジンを3.5リッターV8 OHVエンジンに換装して1973年に登場したのが「MGB GT V8」。このV8ユニットは「レンジローバー」などに広く使われていたものだが、そもそもがGMのビュイックで開発されたもの。総アルミ製のため、排気量が半分近いオリジナルの鋳鉄製1.8リッター直4 OHVユニットよりも軽量だった。
MGBは1980年に生産終了したが、それから12年を経た1992年、「ユーノス・ロードスター」のヒットをきっかけに生まれた世界的なオープン2座スポーツのブームに乗って復活した「MG RV8」。かつてのMGBを基本にアップデートしたボディーに、MGB GT V8に積まれていた3.5リッターV8から発展し継続生産されていた3.9リッターV8ユニットを搭載したモデルで、およそ2000台がつくられた。
“ドラッグスター”と呼ばれた「300SEL 6.3」
「小さなボディーに大きなエンジン」は、なにもアングロアメリカンスポーツの専売特許というわけではない。たとえばベビーギャングとかリトルダイナマイトなどとも呼ばれる往年のアバルト。なかでもチャンピオンは1966年に登場した「フィアット・アバルトOT2000」。「フィアット850クーペ」から流用したボディーに、オリジナルの843cc直4 OHVに代えてリアに積まれたパワーユニットは、ダブルイグニッションを備えて最高出力185PSを発生する2リッター直4 DOHC。最高速248km/hを豪語したというが、相当なジャジャ馬だったのではないだろうか。
その成り立ちとパフォーマンスから、ドラッグスターの異名をとったのが、1968年にデビューした「メルセデス・ベンツ300SEL 6.3」。後の「Sクラス」に相当するフルサイズの最上級モデルだった「300SEL」(W109)の車体に、別格的存在のフラッグシップだった「600」(W100)用の6.3リッターV型8気筒SOHCエンジンを移植したスーパーモデルだ。
全長5m、全幅1.8mという堂々たるサイズのボディーのエンジンルームに滑り込ませた6.3リッターのV8ユニットは、最高出力250PS、最大トルク51kgf・mを発生。最高速220km/h、当時のフェラーリやランボルギーニのV12ユニット搭載車に匹敵する0-100km/h=6.5秒という加速性能を誇る世界一速いサルーンで、レースでも活躍した。
メルセデスでは、グッと時代が下がって2007年に登場した3代目「Cクラス」(W204/S204)、すなわちFRモデルの末弟のセダンとワゴンに設定された「C63 AMG」も忘れられない。ベーシックモデルでは1.8リッター直4が積まれるエンジンルームに最高出力457PS、最大トルク61.2kgf・mを生み出す自然吸気の6.2リッターV8 DOHC 32バルブユニットを押し込み、最高速250km/h(リミッター作動)、0-100km/h加速4.5秒というド級のパフォーマンスを発揮。2011年に登場した「Cクラス クーペ」(C204)にもC63 AMGは用意された。
2014年にフルモデルチェンジした4代目Cクラス(205系)にもC63は設定されたが、パワーユニットは4リッターV8ツインターボにダウンサイズされてしまった。
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モンスターハッチの競演
Cセグメントのコンパクトなハッチバックに大排気量の6気筒エンジンを積んだモデルがちょっとしたブーム(?)になったことがあった。その嚆矢(こうし)は2002年に“ゴルフIV”こと4代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」に追加された「R32」。3/5ドアハッチバックボディーにフラッグシップの「フェートン」に積まれていた最高出力241PS、最大トルク32.6kgf・mを発生する3.2リッターV6 SOHCエンジンを移植。6段MTとフルタイム4WDを介して最高速247km/h、0-100km/h加速6.6秒というパフォーマンスを発揮した。
性能だけを見ればホットハッチを超えたモンスターハッチと呼びたいところだが、本革シートなど装備も充実しており、フォルクスワーゲンではゴルフの最上位となるいわばプレミアムハッチと位置づけていた。ちなみに次世代の“ゴルフV”にもR32は設定されたが、“ゴルフVI”以降は2リッター直4ターボにダウンサイズされた「R」となってしまった。
それに続いたのが「アルファ・ロメオ147GTA」。3ドアハッチバックボディーに兄貴分の「156GTA」とおそろいの250PSを発生する3.2リッターDOHC 24バルブユニットと6段MTを搭載、0-100km/h加速6.3秒、最高速246km/hというデータはゴルフR32とガチンコだった。
BMWが初代「1シリーズ」に2005年に加えたのが「130i Mスポーツ」。5ドアハッチバックボディーに265PSを発生する3リッター直6 DOHC 24バルブユニットを押し込み、変速機は6段MTまたは6段AT。MT仕様の最高速は250km/h(リミッター作動)、0-100km/h加速は6.1秒とうたわれた。
その後2006年には2ドアクーペボディーに306PSを絞り出す3リッター直6ツインターボユニットを積む「135iクーペ」を追加。2011年にフルモデルチェンジされた2代目にはハッチバックにも3リッター直6ターボユニットを搭載した「M135i」を設定、さらにスープアップした「M140i」へと発展していったが、2019年に登場した3代目では2リッター直4ターボにダウンサイズされてしまった。
「カローラ」級ボディーに3.5リッター
日本車にもV6ユニットを積んだCセグメントのハッチバックが存在した。2007年に登場した「トヨタ・ブレイドマスター」である。もともと欧州市場向け「カローラ」として誕生し、国内では「カローラFX」の名で販売された2ボックスの3/5ドアハッチバックをルーツに持つ「オーリス」の兄弟車として、2006年に登場した「ブレイド」。オーリスが1.5/1.8リッター直4エンジンを積んでいたのに対し、大人のためのプレミアムコンパクトというコンセプトを掲げたブレイドは、2.4リッター直4 DOHCエンジン搭載車のみだった。
基本的に同じボディーに2代目「エスティマ」などに積まれていた280PSを発生する3.5リッターV6 DOHC 24バルブユニットを積み、装備もいっそう充実して「小さな高級車」感を増したのがブレイドマスター。駆動方式はFF、変速機は6段ATのみで、たとえトヨタが否定したとしてもゴルフR32を参考にしたのは間違いないだろう。だがR32のようなスポーティーな持ち味があったわけでもなく、存在意義がはっきりしないまま4気筒のブレイドともども一代限りで終わってしまった。
V6エンジン搭載のコンパクトハッチバックをもう1台紹介しよう。1998年に登場した2代目「ルノー・クリオ(日本名:ルーテシア)」の後席を取り払い、そのスペースに最高出力233PSを発生する3リッターV6 DOHC 24バルブユニットを横向きにミドシップ。6段MTを介して後輪を駆動する「クリオ ルノースポールV6」である。
かつての「ルノー5ターボ」の再来のようなマシンで、その操縦性はピーキーで乗り手を選ぶといわれたが、2000年にデビューしたフェイズ1のパフォーマンスは最高速237km/h、0-100km/h加速6.4秒と公表された。2003年には顔つきが変わり、エンジンもパワーアップしたフェイズ2に進化。ほとんどハンドメイドで2005年までつくられた。
などと書き連ねてきたら、小さな車体に大きなエンジンを積んだモデルだけでタイムアウトとなってしまった。ということで、大きなボディーに小さなエンジンを積んだクルマはあらためて紹介しよう。
(文=沼田 亨/写真=光岡自動車、ステランティス、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、BMW、トヨタ自動車、ルノー、TNライブラリー/編集=藤沢 勝)

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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