第104回:「フェラーリ・ルーチェ」のインテリア革命(前編) ―元アップルの2人が放ったデジタル至上主義への一撃―
2026.03.11 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
フェラーリが新型電気自動車(BEV)「ルーチェ」のインテリアを公開! デザインを担ったのは、「iMac」や「Apple Watch」を手がけた元アップルの2人の大物だった。プロダクトデザイン界の生ける伝説は、自動車の内装になにをもたらしたのか? カーデザインの識者が解説する。
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復活した物理スイッチ
webCGほった(以下、ほった):今回は渕野さんの提案で、フェラーリ初のBEV、ルーチェのインテリアデザイン(参照)を取り上げたいと思います。一部のかいわいでは「ルーチェっつったらマツダだろ!」って騒がれていますが。
清水草一(以下、清水):何気に、インテリアデザインをメインで取り上げるのは、これが初だよね。
渕野健太郎(以下、渕野):このインテリアには衝撃を受けたもので。みなさんはどうでした?
清水:これ、そんなに衝撃的なんですか? 写真を見ただけだと、「『iPhone』みたいだな」程度にしか思わなかったけど。
渕野:いやぁ、衝撃的ですよ。
ほった:ワタシはビックリでしたよ。「296」とかわかりやすかったけど、最近のフェラーリは物理スイッチをどんどん廃止してきてたじゃないですか。ハンドルまわりはタッチパネルの嵐。スタートスイッチまでタッチ式にしちゃって。
清水:ルーチェは違うの?
ほった:物理スイッチが大復活です。センターディスプレイなんて、見てください。トグルスイッチですよ! 男の子なら、誰しも無駄にパチパチしてしまうという(笑)。
清水:どれが?
ほった:ここですよ、ここ(写真を指さす)。ちょっと昔のオーディオ機器みたいですよね。
清水:あ、ホントだ。だとしたら、これまでの流れとは随分変わるね。
ほった:もちろん全部が全部こうなるわけじゃなくて、タッチパネルも残ってますけど、それでも、ものすごい揺り戻しが来たなという印象です。
いろんな意味でトレンドから逸脱している
清水:ほった君はわかったけど、渕野さんが衝撃を受けたポイントはどこなんですか?
渕野:最近のフェラーリのインテリアデザインは、エクステリアと同様、非常にダイナミックだったでしょう?
清水:あれってダイナミックだったんですか? 私は超高級なアーケードゲーム機だと思ってたけど。
渕野:どう捉えるかは人それぞれですが(笑)、乗員をタイトに包み込むようなデザインが主流で、ディテールもスポーティーでしたよね。それはフェラーリに限らず、ほかのスポーツカーや高級車メーカーもそうで、インテリアでも“カーデザインらしい線使い”を競ってきた流れがありました。
清水:どこもかしこもカーボン製の高級ゲーム機だらけ(笑)。
渕野:しかし今回は、完全にプロダクトデザインです。全く違う世界観で出てきた。なおかつ、それをあのフェラーリがやったってことが衝撃だったんです。
清水:最近のフェラーリは、エクステリアに関してはレトロ回帰路線だったけど、このインテリアはiPhoneだもんね。
ほった:これもある種のレトロ回帰なのでは? ステアリングホイールなんて、自分から1950~1960年代のナルディをモチーフにしたって言ってますし。
渕野:それに、他の部分を見ても、1970年代から1980年代前半のようなレトロな雰囲気があります。当時のフェラーリは、スタティックで機能的なデザインが多かったので、それを参考にしているのかもしれません。
清水:私は1980年代のレトロフェラーリに乗ってますけど、インテリア、シンプルですからねぇ。それを超現代的にしたらこうなったって感じ?
渕野:ステアリングホイールやメーターの雰囲気も1970年代風ですが、中身は完全にデジタル表示で、デジタルとフィジカルが高度に融合している。これまでの流れとは全く違うデザインが出てきたな、というのが最初の印象でした。
清水:このメーターは全部デジタルじゃなく、枠(ベゼル)は物理的にあるんですね。
渕野:実物はまだ見ていませんが、写真や動画を見る限り、枠は完全に物理的というか“実体”としてありますね。
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プロダクトデザイン界の生ける伝説
渕野:これ、デザイナーを知って驚きました。2人いるんですが、1人はジョナサン・アイブ。アップルで長年チーフデザイナーを務めてきた人物です。初代「iMac」から2019年ごろのアップル製品までのデザインを統括していて、スティーブ・ジョブズと二人三脚で歩んできた人ですよ。
丸いスケルトンボディーでPCの概念を吹き飛ばしたiMacから、金属加工技術を駆使した最近のアップル製品に至るまで手がけてきた彼ですが、ルーチェのメーター枠やディスプレイを見ると、まさに今どきのアップル製品のようですよね。アルミ素材が積極的に使われていて、従来のクルマのインテリアデザインとは一線を画しています。
清水:アップルの神がフェラーリに降臨したんですね。
渕野:もう1人はマーク・ニューソン。この2人がサンフランシスコで設立した「LoveFrom(ラブフロム)」というデザインユニットが、ルーチェのデザインを手がけています。
マーク・ニューソンは、2000年代初頭にauの携帯電話「TALBY(タルビー)」をデザインしたり、1999年の東京モーターショーで発表された、フォードの「021C」というコンセプトカーを手がけたりした人物です。
ほった:これですか。なんか、スズキのコンセプトカーみたいだな。
渕野:「スズキLC」よりこちらのほうが先ですよ。当時も賛否両論ありましたが、デザイン好きには刺さるレトロモダンなスタイルが、彼の特徴です。彼は一時期アップルにも在籍していて、「Apple Watch」のデザインにも携わっています。
一つひとつの部品を作品として見せられる
渕野:というわけでですね、フェラーリ・ルーチェのインテリアデザインは、「今という時代に“名前で売れる”数少ないデザイナーの2人が、フェラーリをつくった」という意味でも、本当にスゴいんですよ。
清水:フェラーリは本来、エンジンが魂でデザインは外注っていうのが伝統だったから、カッコはこうして、どこかの神様にやってもらうのがいいよ。
渕野:実際、内部のデザイナーではなしえなかったようなデザインになっていますからね。シフトレバーの造形にしても、従来のフェラーリではまずやらないような設計で。
加えて面白いのが発表のやり方で、普通ならインテリア空間全体を見せるところを、部品単位で見せていたんですよね(参照)。ウェブサイトとかも同様で、一つひとつの部品が独立したプロダクトのようにして見せられている。
清水:クルマは、エクステリアもインテリアも“全体あっての部分”なので、カーマニアとしては、正直「なんじゃこの見せ方?」って思ったけど。
渕野:個々の部品を作品として見せられるほど、完成度に自信があるんでしょう。センターコンソールなんかも、通常は脇役ですが、そこにフォーカスしてもつくり込みがすさまじい。シートのデザインもマーク・ニューソンらしいものです。
アナログとデジタルの融合、そのレトロモダンなデザインが、ルーチェのインテリアの最大の魅力だと思います。これがフェラーリファンにどう映るのか、非常に興味深い。
5月発表のエクステリアが気になる
清水:うーん。正直、フェラーリのファンはBEVには興味ないと思うし、このルーチェも「限定モデルを手に入れるために、義務的に買う」っていうお客さんが多いんだろうけど。
ほった:普段からこういうモデルも買っておかないと、限定モデルが出たときにインビテーションがもらえないですからね。
清水:そうそう。でもこのインテリアなら、「1台持っていてもいいかも」っていう人が出てくるかもしれない。
ほった:それこそデザインの力ですな。あと、既存のフェラーリファン以外のお客さんがつくかも。
清水:それはあるね。フェラーリが一見さんにもルーチェを売るかは知らないけど。
渕野:エクステリアの発表は2026年5月ごろのようですね。そちらもラブフロムが手がけているようなんですが……。プロダクトデザインとカーデザインは似て非なるもので、カーデザインではプロポーションやスタンスの表現を最重視するものなんです。プロダクトデザイナーである彼らが、そこをどう処理してくるのか、非常に楽しみですね。まぁエクステリアに関しては、さすがにフェラーリのインハウスチームとの協業になっているかもしれませんけど。
清水:スパイショットはものすごい偽装がされていて、とてつもなく不格好に見えますけど、あれを剝がしたらなにが出てくるのかな?
渕野:先日ネットで見かけた偽装車は、「マセラティ・グレカーレ」や「フェラーリ・プロサングエ」を少し低くしたような雰囲気でしたけど。
清水:プロサングエとiPhoneを足して2で割ったみたいな感じになったりして(笑)。それはそれでいいかも。
ほった:この手の協業だからっていって、ソニー・ホンダモビリティの「アフィーラ」みたいになってないといいですね。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=フェラーリ、フォード、池之平昌信、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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