第117回:激論! BEVスーパースポーツ(後編) ―“変顔デザイン”の「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」は20年後に評価される!?―
2026.06.24 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
「フェラーリ・ルーチェ」に「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」と、立て続けにデビューしては物議を醸す電気自動車(BEV)のスーパースポーツ。その造形美が理解されないのは、私たちが既存の価値観にとらわれているからなのか? カーデザインの識者と考えた。
(前編に戻る)
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やっぱりポルシェはスゴかった
webCGほった(以下、ほった):前回に続きまして、世間をにぎわすBEVスーパーカーのお話ですが……フェラーリ・ルーチェに関しては、この辺でようございますか?
渕野健太郎(以下、渕野):そうですね。というか、フェラーリ・ルーチェのエクステリアを見ていて、あらためてスゴいなと思ったものがあるんですよ。「ポルシェ・タイカン」のデザインです。
清水草一(以下、清水):確かに!
渕野:タイカンって、やっぱりポルシェにしか見えないじゃないですか。フェラーリもこれぐらいでよかったんじゃないかな。これまでのフェラーリをしっかり意識しながらBEV化したほうが、お客さんはわかりやすかったはずです。
清水:えーと、タイカンが登場して何年だろう?
ほった:2019年9月の世界初公開ですね(参照)。
清水:もうすぐ7年かぁ。全然古くなってないね。いまだに顔を見ないと「パナメーラ」と区別が難しいけど(笑)、構えが低いし、間違いなくポルシェに見える。
渕野:やっぱりポルシェはスゴいなって思います。BEVのハイパフォーマンスカーでは一番のデザインじゃないかな。これから話す、新型のメルセデスAMG GT 4ドアクーペ(以下、AMG GT)を含めても。
ほった:いきなり結論が出ちゃいましたね。
渕野:ホントは最後にこれを話そうと思ってたんだけど(笑)。
清水:いや、実際タイカンはカッコいいですよ。
渕野:しかもこれで、ちゃんと4人乗れますしね。
清水:そうそう。でも、それでも下取りは暴落気味なんだよなぁ。いっぱい売りすぎたっていうのはあるだろうけど。
ほった:まぁ、個人的にはタイカンより、同じプラットフォームの「アウディe-tron GT」のほうが断然好きですけどね。メリハリがあって。
渕野:e-tron GTもいいですよね。要は、このパッケージ自体が優れているんだと思います。スポーツカーのつくり方をちゃんと知っている人の設計ですよね。これを見ていると、「BEVだからってルーチェみたいに背を高くしなくたっていいじゃん」って思ってしまう。
“インパクト狙い”がすぎる
ほった:いっぽうで、ルーチェと同じく物議を醸しているAMG GTはどうでしょう? 好評価なタイカンと同じ、背の低いクルマですけど。
渕野:どうですかね、これ?
ほった:赤塚不二雄の漫画のキャラに、大変よく似ていると思います(笑)。
渕野:コンセプトカー「AMG GT XX」の段階ではカッコいいと思ったんですけど、市販車はだいぶ違うものになりましたね。
清水:こっち(コンセプトカー)なら全然抵抗ないですよね。
ほった:そ、そうですか。
渕野:市販版も、プロポーションを見るとかなりロングホイールベースですよね。車高も、ルーチェと比べて相当低い。プロポーションは割としっかりしていて悪くないんですが。
清水:全体は悪くないですよね。
渕野:ちゃんとした4ドアクーペなんですよ。問題は、フロントとリアのグラフィックです。6連のテールランプはコンセプトモデルから踏襲されたものですが……。カーデザインで6連ランプって少ないんですよね。昔、「日産サニークーペ」に6連テールがありましたけど。
ほった:えーと……(画像を検索して)、あ、これだ。
清水:こんなのあったんだ! オレ、最初に乗ったのがこの型のサニークーペだったんだよ。もっと普通のテールランプだったけど、カッコ悪くてわけもなく涙が出た(笑)。
渕野:とにかく、6連ランプ自体のインパクトはすごく強いと思います。
清水:確かに6連ランプはいいんだけど、AMG GTではそのベースの黒い部分がデカすぎてヘン! そのせいで、口さがない人にはIHクッキングヒーターとか言われてるんだよね(笑)。なんでベース面をこんなに大きくとったのかな。やっぱりインパクト狙い?
渕野:通常のバランスを考えたらもっと薄くしたくなりますから、インパクト狙いでしょうね。「普通の4ドアクーペじゃないよ」っていう、ミドシップのスーパースポーツ的な感覚でしょう。だけど、それが不自然に見えちゃっているのが、うーん。
清水:このテール、どう見ても醜いですよね。でも目が慣れると、この強烈さがクセになるんじゃないかな。20年ぐらいたったら、すっげえカッコよく見えてくる可能性がある(笑)。
渕野:確かに、最初出たとき「え?」って思っていたデザインが、ちょっとたったらよく見えてくるっていうのはありますよね。実は自分は、ルーチェのほうにそれを感じました。AMG GTもひょっとしたらそうかもしれませんが……さすがに装飾的すぎるし、こっちは違うんじゃないかな(笑)。
ほった:どっちも違うでしょう(笑)。
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この顔はなんなのよ!?
渕野:フロントに関しては、最近メルセデスは、左右のヘッドランプをつなげるパターンが増えてますね。新型「CLA」とか、電動ワンボックスの「VLE」とか。今後はこの方向性でいくのかな?
清水:それはそれでいいと思うけど、そもそもどうしてヘッドランプをつなげたんだろう? ゴーグルのイメージ? よくクルマのフロントは人の顔だっていうけれど、人間だったらなおのこと、目って左右でつながらないものじゃないですか。そう考えると、やっぱり赤塚不二雄先生は天才だ(笑)。
ほった:そうですね、赤塚先生は天才です(笑)。半世紀以上も前に、これを先取りしてたんだから。
渕野:お話を聞いていると、なんとなく愛が湧いてきました。見れば見るほど好きになるような……(笑)。
清水:渕野さんも心にきましたか!
渕野:それはそうと、こういう風にランプをつなげて、その下にグリルを置く構成は、どちらかというと車格の低いクルマで使うことが多いんですよ。でも、AMG GTの場合はそちらのトレンドとも違いますね。ランプとグリルに顔としての一体感がないですし、“グリル発進(グリルを起点にボディーの流れが始まる造形のこと)”のデザインにも見えない。
清水:確かに、「なんとなく目はつなげときましたぁ」って感じですね。
渕野:そういう風に見えてしまうのがちょっと。これまでのメルセデスは、まずグリルがどーんってあって、その左右にランプがポンポンってついている感覚だったでしょう。でもこれ(新型AMG GT)だと、ランプのほうの主張が強くなった結果、あんまり車格が高いようにも見えない。
ほった:似たような構成でも、「トヨタ・クラウン セダン」はヘッドランプが細くて控えめでしたね。
渕野:そうなんですよ。CLAとかなら、こういう顔でもいいのかもしれませんが、AMGまでそれにならう必要はなかったんじゃないかと。
それに、バージョン違いなのかなんなのかわかりませんけど、左右のランプをつなげた部分がボディー色の仕様も存在するんです(写真を見せる)。
清水:これだと一気に普通に見えちゃうな。
ほった:フジオ・プロからデザイン使用の許諾が下りなくて、あわててボディー色版もつくったんじゃないですか?(笑)
渕野:なんかいろいろ考えてしまいますよね。
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20年後に評価されたらいいデザインか?
渕野:そんなわけで、やはり付け焼き刃的な感じがするんですよ。AMG GTのグラフィックって。素直にコンセプトカーに沿ったデザインにすれば、みんな納得したんじゃないかな。
ほった:清水さんみたいに、BMWの「XM」(参照)とかアグリーなのが好きな人はたまらないかもしれないけど。
清水:あれは素直にカッコいいでしょ。アグリーってのはもっと根本的な嫌悪感を刺激するヤツだよ。たとえばR34「日産スカイライン」とか。
ほった:あれはね(笑)。
清水:でもさ、確かにR34が出たときは「なんてカッコ悪いんだろう!」と思ったけど、30年たった今となっては、もうどんどんカッコよく見えてきてるからね! 特に「GT-R」じゃない普通のGT系が。
渕野:そういうの、ありますよね。
清水:え、渕野さんはそっち系にも理解がありますか!?
渕野:最近、土曜の原宿に仕事で行くのですが、あの時代のスカイラインとか国産旧車が集まっているんですよ。乗っているのは外国の方も多い印象です。最初は「この人たち、なんなんだろう?」って思っていたんだけど、やっぱすごく引きがあるんでしょうね、今のクルマと全然カタチが違うから。観光客の方が喜んで写真撮っていたりします。
清水:ダサカッコいいクルマたちが超カッコいい!(笑)
渕野:R34スカイラインに関しては、リアが全然絞れていないから、だいぶプロポーションがヘンに見える……という話を以前しましたけど(参照)、時がたつと、そこがカッコよく見えてくるのかもしれない。
清水:そうそう。ダサいクルマって、時とともにたまんなくなるんですよ! AMG GTのこの顔やテールも、最初からカッコいいって感じるのはそりゃ難しいけど、20年後には大人気になってるかもしれない。今は誰も、そんなこと考えないけど。
ほった:ゴッホの絵画じゃあるまいし、20年後、30年後に喜ばれるデザインって、果たしてそれっていいデザインなんですか? それはカーデザインとして成功なんですかね?
清水:大失敗だからそういう評価になるんじゃん!(笑)
ほった:やっぱりダメなんじゃん!
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=日産自動車、ポルシェ、メルセデス・ベンツ/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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