アルファ・ロメオやDS、マセラティの未来やいかに? ステランティスが発表した新戦略を読み解く
2026.06.26 デイリーコラム海をまたぐ巨大自動車グループの将来戦略
2026年5月21日(アムステルダム現地時間)、10以上のブランドを擁する巨大自動車グループのステランティスが、「Investor Day 2026」を開催した。名前からもわかるとおり投資家向けの説明会だが、クルマ好きとしても見逃せない内容が多く含まれていた。カルロス・タバレス氏の後任として2025年6月にCEOに就任したアントニオ・フィローザ氏が、今後のかじ取りを示す場でもあったのだろう。ニュースリリースとして発表されたスピーチの文字起こしは37ページにも及んだが、その半分は地域担当・財務担当の話と質疑応答だったので、残り半分の内容から、個人的に刺さった話題を取り上げていくことにする。
イベントでまず登壇したのは、会長のジョン・エルカン氏である。彼の言葉で印象的だったのは、「グローバルからマルチリージョナル、そしてリージョナルへとシフトしていく」というフレーズだ。彼はこれがステランティスの強みだと語った。欧・米の双方に本拠地を持ち、それぞれで老舗といえるブランドをいくつも持つ強みを生かしていこうというのだ。
次いでプレゼンテーションに立ったフィローザCEOは、600億ユーロ規模の5カ年戦略「FaSTLAne 2030」を発表。グローバル企業としての強みを生かしつつ、各地域が独自の誇りを発揮できるようにすると繰り返した。このFaSTLAne 2030を構成するのは、以下の6つの柱だ。
(1)効果的かつ比類なきブランドポートフォリオの戦略的マネジメント強化
(2)共通プラットフォーム、パワートレイン、先進技術への投資
(3)ステランティスの強みを補完する戦略的パートナーシップ提携
(4)生産体制の最適化
(5)実行力の徹底強化
(6)地域および各市場のローカルチームへの権限委譲
ここからは、これらの柱を軸にFaSTLAne 2030の中身を掘り下げたい。
トラックのラムをグローバルブランドに!?
まずポートフォリオについては、2030年までに60車種以上の新型車の投入と、50を超える車種の改良を実施。内訳は電気自動車(EV)が29車種、プラグインハイブリッド車/レンジエクステンダーEVが15車種、ハイブリッド車が24車種、内燃機関/マイルドハイブリッド車が39車種で、やはりマーケットの現状を踏まえてか、ハイブリッド車多め、EV少なめの構成だ。
またブランドについては、規模と収益性の成長余地が大きいジープ、ラム、プジョー、フィアットを中核グローバルブランドと位置づけ、ブランドおよび商品投資の70%を重点配分。クライスラー、ダッジ、シトロエン、オペル、アルファ・ロメオはリージョナルブランドとし、グループ内の共通資産を活用しつつ、市場ごとの強みを生かして独自性を強めていくとした。DSオートモビルとランチアは、フランスやイタリアを代表する歴史あるブランドとして、シトロエンおよびフィアットの管理下で個性を際立たせることに注力。そしてマセラティは、独自の顧客基盤と強力なラインナップを有するラグジュアリーブランドとして展開していくとのことだった。
経営が厳しい時期には、ブランドの統合や身売りのうわさも聞かれたが、そうはしなかったうえに、地域ですみ分けをさせようとしているところが面白い。巨大なピックアップトラックやバンを取りそろえるラムをどのようにグローバル展開させるのか。それを含めて、今後の成り行きに注目だ。
投資については、600億ユーロのうち40%はグローバルで展開するプラットフォームやパワートレインなどの技術開発に充て、残りの60%をブランドと製品づくりに使うとのことだった。
このうちプラットフォームは、2030年までに世界生産台数の50%に相当する車種を3つの車台に集約する計画で、その中核となるのが、2027年に投入が開始される新開発の「STLA One」だ。既存の5つのプラットフォームを単一のスケーラブルなアーキテクチャーに統合し、新しいソフトウエアプラットフォーム「STLA Brain」を組み込むという。
また自動運転技術をつかさどる「STLA AutoDrive」では、日産とも連携しているQualcommやWayveなどとの協業により、市街地を含めたハンズオフの高度運転支援機能を展開すると発表した。2028年に北米向けの車種から搭載するという。
地域尊重の姿勢は日本にも好影響をもたらすか
他の柱も見ていくと、まず「(3)戦略的パートナーシップ提携」は「(4)生産体制の最適化」にも関連する内容である。すでに提携している中国リープモーターの車両をスペイン工場で生産するほか、中国・東風汽車ではプジョーおよびジープの現地向け車両の生産を推進。またジャガー・ランドローバーとの間で、米国市場における協業の可能性を検討することも表明した。SUVの名門であるジープとランドローバーのコラボが実現となれば、大きなニュースになるだろう。
「(5)実行力の徹底強化」では、現在、最大で40カ月を要している車両開発期間を24カ月へと大幅に短縮。その変革を支える重要な基盤としてAIを位置づけており、すでに120を超える活用事例があるという。
最後に、「(6)地域への権限委譲」では、欧州委員会が決定した新世代コンパクトEV規格「E-Car」の推進が例として挙げられた。現地の意向を尊重して、イタリアを皮切りに欧州で生産を行うとしているが、同時に欧州の安全・品質基準を維持しつつ、中国のEVエコシステムを活用するというあたりに、ステランティスのしたたかさが感じられた。
販売規模を思えば当然だが、「リージョナルへのシフト」を一つの題目としていた今回の発表でも、日本に関する記述は見当たらなかった。ただ、日本におけるステランティスの各ブランドは、いずれも“舶来物”ならではの味わいが評価されて支持を得ている。画一的なグローバル商品を上から与えるのではなく、リージョンに合わせて好適な施策を推し進めていくという新戦略の指針は、ポジティブな影響をもたらすのではないだろうか。
(文=森口将之/写真=ステランティス/編集=堀田剛資)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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