第122回:新型「日産キックス」とゆかいな仲間たち(前編) ―すべては計画どおり!? 物議をかもすフロントデザインの正否―
2026.07.29 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
日産が満を持して日本に導入した、コンパクトSUVの新型「キックス」。失敗が許されない量販車種だけにデザインはコンサバかと思いきや、実際にはかなり強烈な“顔”の持ち主だった。物議をかもすその容貌は確信犯の所業か? カーデザインの識者と考えた。
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問題は顔……じゃなくてサイドビュー?
webCGほった(以下、ほった):今回のお題は、「日産キックスとゆかいな仲間たち」です。キックス単品だけじゃなくて、ライバルと比べてどうなのかとか、そのあたりも見ていきたいなと思います。
渕野健太郎(以下、渕野):仲間たちというのは、トヨタの「カローラ クロス」にホンダの「ヴェゼル」に……。大体ここら辺ですか?
ほった:そうなりますね。とはいえ、まずはキックス自体のデザインから見ていきましょ。
渕野:最初に新型キックスを見たとき、すごく車格が高くなったなと思ったんです。堂々とした顔まわりなので、顔だけ見ると「エクストレイル」より立派に思えるくらいでした。その最大の理由は、サイドビューにあります。
清水草一(以下、清水):えっ、顔が立派に見えるのに、理由はサイドビューなんですか?
渕野:そうです。旧型キックスは、かなりウエッジシェイプ(前傾姿勢)でしたよね。顔が低くて後ろが高いような。一方、新型キックスのサイドビューは水平基調で、加えて顔まわりをものすごくボリューミーにして、SUVらしいデザインにしています。これ、結構好評なんですよね?
ほった:お客さんの反応は悪くないようですよ。取材現場の肌感だと、メディアとかジャーナリストの評価も高そうでしたし。
清水:ジャーナリストの評価って、ほとんど走りに関してでしょ?
ほった:webCGでリポートをお願いした森口将之さんは、ちゃんとデザインについても言及してて、けっこうポジティブに評価されてますよ(その1、その2)。で、清水さんの評価はどうですか?
清水:自分はクルマの顔を重視するでしょ。まずパッと見て、あんまり魅力ないなと思ったよ。
フロントマスク“だけ”が強すぎる
清水:このクルマ、サイドビューは水平基調だけどけっこう大きくうねってるし、ルーフラインはきれいな弧を描いてますよね。決してボクシーってわけじゃない。ところが顔は水平の横桟だらけ、ひたすら横の棒が並んでる。これがどうも合ってない気がするんですよ。後ろを見ても、枠がカチッとはまったみたいでカッコいいんだけど、そっちも微妙な曲線を持つ台形でしょう。顔だけがあまりに古風で、ボクシーで、1980年代のダットラ(日産・ダットサントラック)みたいに見えるんです。それがいいという意見もあるんでしょうけど、私には、顔だけ浮いてるように見える。
渕野:なるほど。今の清水さんのお話は、ポイントを突いていると思います。
清水:えっ、そうですか!? (笑)
渕野:自分も顔まわりとその他の部分が、ちょっと乖離してるかなって思います。顔のボリュームを考えると、もっとリアゲートガラスを立たせて、もう少しルーフラインを水平気味にするほうが、しっくりくるかもしれない。
清水:顔に合わせればそうですよね。逆にフォルムに合わせれば、もうちょっとソフトな顔がいい。
渕野:自分が一番気になったのは、サイドがあまりにも水平基調で、ルーフラインが後端で結構下がっているのもあって、全体にちょっと“後ろ下がり”に見えることなんです。
ほった:確かに。
渕野:これは目の錯覚なんですけど、クルマの軸が地面と平行だったら、人の目には、完全に後ろ下がりのデザインに見えてしまうんです。なので、どんなクルマも、それこそ水平基調といわれているクルマでも、多少は姿勢を前傾させているものなんです。意図的にリアを下げたクラシックなモデルなら別ですけどね。
もちろんSUVも例外ではなくて、実はこのキックスにしても、これでも多少はウエッジ(前傾)してるんですよ。ただこのクルマに関しては、フロントのボリュームがめちゃくちゃ強いので、後ろがちょっとついていっていない。
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シンプルだけど、しっかりつくり込まれている
渕野:このクルマ、割とシンプルなデザインに見えますけど、そうでもないんですよね。例えばメインのショルダーのキャラクターラインも、真横から見るとまっすぐなんですけど、上から見下ろすとフェンダー部でブリスター状にうねっている。これがかなり効いてるんですよ。シンプルなんだけど、「何かしらやってる感じ」が出てる。ひと手間かけていると言うか。SUVらしい強さ感もうまく表現しています。
自分が気になったのは、やはりウエッジ感が足りない点と、ルーフラインやリアゲートまわりのボリューム感の不足ですね。そこら辺がもう少しフロントまわりと釣り合ったら、もっとよかったのに……と思いつつ、確かにカジュアルな都会派SUVなんだから、顔のボリュームのほうをもうちょっと抑えてもよかったのかな、とも思いますね(笑)。
清水:私はそういうバランスの問題より、顔のデザイン自体が気になるなぁ。例えば左右の、横3本ずつのポジションランプ。シンプルだけど3本も並んでるとだいぶウルサイ。プジョーも今、3本爪のポジションランプですけど(参照)、あれもうるさく感じて好きじゃないんですよね。2本ならまだしも、3本は多すぎる。
渕野:日本人は「三本の矢」でいいんじゃないですか(笑)。自分は、顔まわりのグラフィックに関しては好意的です。こういう全体がまっ黒な顔まわりって、強さゆえに下品になりがちじゃないですか。でもキックスは上品にまとまってる。そこが日産らしいなと思います。迫力を出しているようで、割とさらっと見せている。ボリュームで強さは感じさせているんだけど、ディテールはあくまでシンプルというところが、都会的なSUVらしくていい。
清水:確かにシンプルなんですけどね、ここまで横桟が並ぶと重く感じるな。グリルの一番上の傾斜した部分はエンジンフード?
渕野:いや、エンジンフードの切れ目はその上から始まっているので、ここはグラフィックの一部ですね。ランプと平行に見せたいという。
清水:この黒い部分がエンジンフードと同色だったら、だいぶ圧迫感は減るかな。
ほった:それやっちゃったら、顔の厚みも減っちゃうでしょう。
清水:それを減らしたいんだよ、個人的には。でもこのボリューム感がお客に受けているのかもしれないし、まぁなんとも言えないね。
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すべてつくり手の思惑どおり?
渕野:多分、“顔”ですね。キックスのデザインの核は。
ほった:だと思います。
渕野:フロントもリアも、ブラックアウトしたパーツを幅いっぱいに使っているじゃないですか。だから幅広く見えるんですよ。このクルマは2年半前、北米でローンチされていますけど、あちらでも売るクルマだからこそ幅広感をしっかり出している。一見グラフィック的だけど、割と考えられたデザインだと思います。
ほった:ううむ。侮れませんな。
清水:リアの黒枠はカッコいいし、このイメージでフロントもつくってくれればいいのに。後ろは未来的だけど、前は80年代のダットラでしょ。時代感が違いすぎる。あるいはちょっと昔の小型トラックだよね。「いすゞ・エルフ」とか「トヨタ・ダイナ」とか。
ほった:それも狙いなんじゃないかなぁ。やっぱアメリカなんかだと、交差点で横に並んだ巨大なSUVやピックアップトラックに、多少なりとも対抗できる強さ感が求められるじゃないですか。むしろ、もうちょっとオラオラ顔でもよかったのでは?
清水:ますますバランスが崩れるでしょ!
渕野:まぁこのクルマも、顔まわりは最後までこねくり回した感じはありますね(笑)。いずれにせよ、とにかく同セグメントのなかでは大きく見せる、車格感を出すっていうのは、アメリカ向けのデザインでは必要な要素です。小さいクルマほど「大きく見せるハッタリ」が求められますから。
ほった:このクルマも、単体で見たら先代「マツダCX-5」くらいのボディーサイズに思っちゃいますもんね。だから試乗会では、街に出て意外なサイズの小ささにびっくりした。
清水:結局なんだかんだで、キックスのデザインは成功していると。
ほった:ですね。ワタシらがここで話した内容も含めて、全部つくり手の狙いどおりだと思いますよ。
(後編へ続く)
(語り:渕野健太郎、清水草一、webCG堀田剛資/まとめ=清水草一/写真=日産自動車、向後一宏、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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