第75回:安物買いの銭失い
2018.01.30 カーマニア人間国宝への道破滅系イタ車マニア、安ド参上
前回までは、輸入中古車愛好家の伊達軍曹が新車の「スバルXV」を買ったという“事件”を、どうでもいい感じで掘り下げたが、結論はなぜか「マツダは頑張ってる!」というものになった。
何を隠そうMJ戦略参謀本部には、ごく最近マツダ車を買った隊員がいる。安ド二等兵である。
MJ参謀長(以下 M):安ドのニューマシンについて説明せよ。
安ド二等兵(以下 安):はい。殿もよくご存じのように、先代「デミオ」の「1.5スポルト」5MT車です。もちろん中古です。
M:実はよく知っておる。先代デミオは傑作だな。
安:殿は登場当初から、“まるで「ロータス・エリーゼ」のようなハンドリング”と絶賛してましたよね。
M:実はエリーゼのようなハンドリングは、ノーズの軽い1.3のMTに限るのだが、それはともかく、これまで安ドはイタリア車マニアだったわけだな。
安:はい。参謀本部入りした7年前は、「アルファ スパイダー」の「2.0ツインスパーク」(MT)に乗っておりました。その前は「クーペ フィアット」にも乗ってました。
M:この世で一番故障しそうな、20世紀製のイタ車軍団であるな。
安:いえ、クーペ フィアットは走行中にラジエーターホースが裂けてドバッと漏れたのが1回だけです! アルファ スパイダーも、幌(ほろ)以外故障したことはありません!
M:幌は一番やっかいな故障ではないか?
サイフの底に穴が……
安:5年くらい乗りましたけど、後半はずっと開閉不能で、閉じたままでした。
M:直らなかったのか。
安:いえ、電動幌だったため修理は高額に違いないと思いこみ、放置していただけです。個人売買で手放すにあたり業者に出したら、たった数千円で治りました!
M:なんと!
安:貧乏ゆえのビビリのせいで、貴重なオープンエアの機会を失いました。
M:なにせ当時のお前は借金まみれだったからな……。マリオもだが。マリオの先代「インプレッサG4」など、消費者金融の過払い金で買ったくらいだ。
安:マリオさんは200万円近く戻ってきたんですよね? うらやましいです。僕もネットで一番上にあった弁護士事務所に依頼して過払い金請求しましたけど、4~5万しか戻りませんでした。
M:参謀本部の二等兵2名は、そろいもそろって金銭感覚皆無のダメ人間であるな。
安:どうもサイフの底に穴が開いてるみたいです。
M:そういう人間がド中古イタ車に乗り続ければ、苦難の道にもなろう。
安:はい。参謀本部入りして間もなく、殿から「アルファを手放してコレに乗っていろ」と、社用車の初代「プリウス」を貸与いただきまして、なんとか借金完済に成功しました!
激安イタ車は貧乏神!?
M:さすがプリウスだな。
安:10万kmを超えたあたりでバッテリーが息絶えましたが、あのガンメタプリウス、通称“大和”には、足を向けて寝られません(笑)。
M:まさに節約の化身だ。アッパレな活躍であった。
安:3年後、プリウスも逝ったことだし、そろそろいいだろうということで、「アルファ166」の6MTという激レア車を買いましたが、これには苦労しました。
M:どこが壊れたんだっけ?
安:窓落ちに始まって、エアコン、オルタネーターと、毎年修理に20万円くらいかかりました。
M:それくらい仕方ないだろう!
安:とは思うんですが、なにしろカネがないので。
M:カネがないから激安イタ車を買うという、その消費行動が間違ってる。あの166、いくらだった?
安:車両本体88万円、総額で確か120万円くらいでした。
M:是非もなし。しかしパッと見、500万円くらいに見えるオーラはあった。
安:窓落ちの際、窓をガムテでボディーに固定したのですが、それを剥がしたら一緒に塗装がベロッと剥がれました。イタ車の塗装って弱いんですか?
M:もちろんだ。内装もだ。プラスチックの表面が溶けてベトベトになる。
安:それはよく知ってます(笑)。僕のクルマ、たいてい内装のプラスチックが溶けましたから。
M:166もかなり悲惨だったが、次の「ムルティプラ」はさらにすごかったな。
安:買った時からベトベトでした。
M:あれはいくらだった。
安:確か車両本体40万円です。さすがに166が維持できなくなって、全国で一番安いムルティプラを探したので。
M:日本一安いムルティは、命が短かったな。半年だったか?
安:はい。春に買って、夏になった瞬間にエアコンがほぼ死に、生まれたばかりの息子が熱中症になりかけました(涙)。半年後にはオーバーヒートがきっかけで、坂道を転がり落ちるように調子が激悪になりました。
M:まさに安物買いの銭失い。いよいよ見かねた俺が、「いい加減、ほぼ絶対壊れない国産中古を買え!」と厳命したわけだ。
安:はい。
(つづく)
(語り=清水草一、安ド二等兵/まとめ=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
第315回:北極と南極 2025.7.28 清水草一の話題の連載。10年半ぶりにフルモデルチェンジした新型「ダイハツ・ムーヴ」で首都高に出撃。「フェラーリ328GTS」と「ダイハツ・タント」という自動車界の対極に位置する2台をガレージに並べるベテランカーマニアの印象は?
-
第314回:カーマニアの奇遇 2025.7.14 清水草一の話題の連載。ある夏の休日、「アウディA5」の試乗をしつつ首都高・辰巳PAに向かうと、そこには愛車「フェラーリ328」を車両火災から救ってくれた恩人の姿が! 再会の奇跡を喜びつつ、あらためて感謝を伝えることができた。
-
第313回:最高の敵役 2025.6.30 清水草一の話題の連載。間もなく生産終了となるR35型「日産GT-R」のフェアウェル試乗を行った。進化し、熟成された「GT-RプレミアムエディションT-spec」の走りを味わいながら、18年に及ぶその歴史に思いをはせた。
-
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
NEW
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
NEW
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。 -
第83回:ステランティスの3兄弟を総括する(その1) ―「ジュニア」に託されたアルファ・ロメオ再興の夢―
2025.9.3カーデザイン曼荼羅ステランティスが起死回生を期して発表した、コンパクトSUV 3兄弟。なかでもクルマ好きの注目を集めているのが「アルファ・ロメオ・ジュニア」だ。そのデザインは、名門アルファの再興という重責に応えられるものなのか? 有識者と考えてみた。