第82回:無段変速車ボクメツ宣言
2018.03.20 カーマニア人間国宝への道カーマニア的無間地獄
日本の国民車は、昔からほぼ一貫してダサかった。少なくともカーマニアにはそう見えた。そして今もダサい。
その根っこには、国内で売れてるクルマの多くがCVT車、あるいは電気式無段変速車(トヨタハイブリッドシステム)という事実がある!
なにせ、今一番売れてる「ホンダN-BOX」は、全モデルCVT。つーか軽自動車のほとんどすべてがCVTだけど。
登録車に目を移すと、今年2月の順位はこんな風になっている。
1位 日産ノート
2位 トヨタ・プリウス
3位 トヨタ・アクア
4位 日産セレナ
5位 ホンダ・フィット
6位 トヨタ・シエンタ
7位 ホンダ・フリード
8位 トヨタ・ヴォクシー
9位 トヨタC-HR
10位 トヨタ・ヴィッツ
このうちCVTなどの無段変速車じゃないのは、ハイブリッドモデルがDCTの「ホンダ・フィット」&「フリード」のみ。あ、あとフィットにはMTがありますが。加えて「ヴィッツ」のGR系と「ノート」のニスモ系にも5段MTがあるが、実数としては無視していい。あとはすべて無段変速車! カーマニア的には無段、じゃなかった無間地獄である。
しかし私も過去一度だけCVT車を買ったことがある。それが初代「ランチア・イプシロン」です、というのが前回までのあらすじでした。
イプシロンはイタリアの国民車
で、イプシロンはどうだったのか。
言うまでもなく走りは退屈でした。パワーも全然ないし(60ps)。
でもまあ見た目や内装のオシャレさが命だったので、走りは動けばいいやみたいな感じで、ご近所のお買い物や都内の移動用ということで購入しました。
買った当初、一度だけ深夜の首都高に出撃してみたけれど、あまりにも刺激がなく、二度と出撃しませんでした。
んでも満足はしていた。なにしろ見た目と内装のケタはずれの素晴らしさで、カーマニア的にすべてが完結していたので、ダイレクト感皆無のスバル製ECVTでも1年半くらい我慢できました! エライ!
イタリアに行くと、今でも結構初代イプシロン、走ってるんだよね。
なにせイプシロンは、「フィアット・パンダ」に続き、イタリアで2番目に売れるクルマの地位を長く保っていた(販売のほとんどがMTモデル)。つまりイタリアの国民車! さすがイタリア、国民車がオシャレすぎる! ステキなイタリアの街並みにハマりすぎる! 日本のカーマニアはつい記念写真を撮ってしまいました! 「ここはCMのセットか?」って感じで。
イプシロンに乗っていた縁で、天才デザイナー、エンリコ・フミア氏にも対面できました。当時フミア氏は、なんと日本のパチンコ機のデザインもなさっていたのですよ! お話を伺って驚倒しました。工業デザイナーってスゴイ。
スイスポを国民車に!
そのようにステキなイプシロンではあったが、私が買ったのはCVT車。仮に愛車があのCVTイプシロンだけだったらどうか?
ムリでちゅ。どんだけオシャレさんでもガマンできまちぇん。カーマニアはCVTだけじゃ死んでしまいまちゅ!
蛇足ながら、イプシロンのCVTは耐久性がないので、ブチ壊れてMTに換装する方も少なくなかったと聞いております。それでこそカーマニア。
ということで、どんないいクルマでも、無段変速車は国民車になってほしくない。だからフツーの「スイフト」や「イグニス」じゃダメ! もちろんN-BOXや「プリウス」もダメ! 「ノートe-POWER」はモテないカーマニアのフナタン(小鮒康一氏)が乗ってるから若干許せるけど、それ以外の国内ベストセラー車はほとんどダメ!
実を言えば、上位の中で一番脈があるのはDCT採用の「フィット ハイブリッド」! マイチェンで走りも良くなったし、あれはいいクルマだ! でも見た目がダメなのでやっぱりダメ! どうしてあんな意味不明に複雑なデザインにしたでちゅか? あのサイドの折れ線グラフみたいなエグリは何でちゅか? 今のホンダ車のデザインはほとんどダメ!
私がダメと言っても世間的には通らないでしょうが、カーマニアとして現実を受け入れたくない! ステキな段付きミッション車に国民車になってほしい! だから「スイスポ」を国民車にしたいでちゅ!
ということで、日本の国民車に関してはまだまだ書きたいことはあるが、いったん筆を置き、次回は別の話題に行ってみたいと思います。
テーマはズバリ、「自動車デザインとはなんぞや!?」
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。