どうして自動車デザインは懐古主義に向かうのか?
2021.09.15 デイリーコラム懐古デザインにもいろいろある
編集部F君より、次のような問いが発せられた。
「『日産フェアレディZ』や『ホンダe』『ミツオカ・バディ』など、最近話題のクルマは明確な懐古主義デザインのものが目立ちます。さらに『ランボルギーニ・カウンタック』が復活し、『ルノー5』はEVとしてよみがえるそうです。自動車デザインにはもう進化の余地が残されていないのでしょうか。今になって昔のデザインを掘り起こしまくっているのはなぜなんでしょうか」
状況をもう一度分析してみよう。
以前から懐古デザインは存在した。「BMW MINI」や「フォルクスワーゲン・ニュービートル」「フィアット500」はその典型だ。つまり、カウンタックやルノー5の復活は、以前から散見された名車復活のパターンにすぎないともいえる。
ただ、スポーツカーの分野では、明らかに懐古志向が顕著だ。カウンタックだけでなく、フェラーリの「ローマ」や「296GTB」、そして「フォード・マスタング」「シボレー・カマロ」など、過去の名車のモチーフを超えて、フォルム全体が懐古趣味的なスタイリングが増えている。
これには、2つの原因が考えられる。
- スポーツカーという存在に未来がないため、過去の栄光をよみがえらせたくなる。
- 顧客層が高齢化している。
近年、F1をはじめとするモータースポーツ人気の低落が目立つ。F1の視聴率は、本場ヨーロッパでもかなり落ちているというし、アメリカでもモータースポーツの人気は、4大プロスポーツ(アメフト、野球、バスケット、アイスホッケー)に大きく引き離されていると聞く。日本では言わずもがなだ。
もはやクルマのスピードには、ロマンが感じられないのだろうし、実際、私も感じていない。年齢のせいもあるだろうが、スポーツカーは古いほうが面白い。デザインも同様。新しいスポーツカーのデザインが懐古趣味になるのは、ユーザーのニーズではないだろうか。
大事なのは乾き具合
ただ、日本車の場合は、欧米とは微妙に状況が異なる。
日本車にも以前から「レトロカー」は多数存在したが、それは自社の傑作を復活させるのではなく、なんとなくクラシカルなイメージだったり、海外他社旧モデルの模倣だったりした。ミツオカ・バディもこの仲間だ。
しかし、フェアレディZやホンダeのデザインは、欧米同様、自社の名車復活そのもの。この2台のインパクトの大きさゆえに、「最近、懐古趣味のデザインばかりだなぁ」というイメージが形成されているが、実際には、こういった純懐古デザインのパーセンテージは非常に低い。
そしてこの2台に関しては、「よみがえらせたい日本の名車の歴史が半世紀を超えた」ということではないだろうか。
過去の名車の復活は、欧米でも、おおむね半世紀を超えてから行われている。それより若いとまだ乾ききっていないので、ちょっと臭うし、なんだか後ろ向きに感じる。
しかし半世紀を超えれば、ミイラになってツタンカーメンの秘宝化する。日産の初代フェアレディZにホンダの「N360」、どちらも約半世紀。今がよみがえらせ時なのである。そういえば「トヨペット・クラウン」も、約半世紀後に「オリジン」で復活している。
1960年代以前に生まれた日本車で、デザイン的に明確な特徴があり、かつ全国民に愛されたモデルは、初代フェアレディZ以外には、「トヨタ2000GT」と「スバル360」くらいじゃないか……と私は思う。でもこの2台は、あまりにも個性が強すぎて、どうやって復活させればいいのか見当もつかない。他のアラフィフ名車たち、例えば“スカG”とか“510ブル”とか“ベレG”とかは、今どきまったくはやらないセダン系。復活の目はない。あるとしたら約10年後に1980年代の“ワンダーシビック”。そして次の「86」があれば、デザインもAE86っぽくなるかもしれない。
とまあ、そんな結論になるのですが、個人的には、懐古趣味デザイン、大歓迎だ。人間年を取ると、やっぱり懐メロが聞きたくなる。それは理屈じゃない。若いアーティストの名前なんて知らないし興味ないんだから!
自動車デザインには、まだまだ進化の余地はある。「アルファード」や「ヤリス」みたいな毒顔車がバカ売れするなんて、10年前でも考えられなかった。今後はEV化で、クルマの構造そのものが変わる。見たこともないようなデザインがバンバン出るんじゃないだろうか。そしてそのなかに、懐古デザインの花が一輪、二輪咲く……みたいなことになるでしょう、たぶん。
(文=清水草一/写真=/編集=藤沢 勝)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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