マツダCX-60 XD Lパッケージ(FR/8AT)
万人向けではないけれど 2023.04.22 試乗記 あまたの新機軸を盛り込んだ意欲作である反面、やや粗削りな乗り味が物議を醸してもいる「マツダCX-60」。その感覚は、足まわりの仕様が異なる後輪駆動モデルでも変わらないのか? ディーゼルエンジンを搭載した「XD Lパッケージ」のFR車で確かめた。FRを所望する人はどれくらいいるのか
「次の取材、CX-60ですから」。電話先の編集Hくんからの早口オファーに、思わずボヤいてしまった自分。「ああ、ロクジュウかぁ……」
CX-60を題材とさせてもらう機会は先日のwebCGをはじめ(参照)、他媒体でも幾度かいただいたが、どうしても乗り心地系の項目が避けて通れないことになる。ネチネチ同じような話を読まされる読者諸兄もさぞウザいだろうと察するが、一方で書く自分についてもウジウジした粘着野郎のようで気がめいる。
「大丈夫ですよ。今回の試乗車、FRなんで」と、Hくんはドヤ顔……いや、ドヤ声だ。この1月から販売を開始したCX-60のFR仕様は、足まわりのセッティングが異なっている。とりわけ、マルチリンク式リアサスペンションのハブキャリア側の一部をピロボールからラバーブッシュに変更、リアスタビライザーも省いているという点は乗り味的に少なからず効きそうだ。ただしマツダは、これをくだんの乗り心地対策ではなく、FRモデルの用途や負荷を見据えて当初から想定していたメニューと説明している。ともあれ乗り心地が整えられていれば朗報で、後々、他の仕様にも好影響をもたらすかもしれない。
と、そこで思うのは、果たしてFRのCX-60を買うお客さんがどのくらいいるのかということだ。例えば「CX-5」は日本市場の場合、販売比率の約7割がFFモデルと聞くが、車格や客単価、悪路での機動力に対する期待値うんぬんを鑑みると、CX-60であえてFRをというユーザーが、CX-5のようになるとは思えない。日本で最も出くわす可能性の高い悪環境といえば雪道だが、いくらボディーコントロールデバイスが発達しているとはいえ、FRは物理的に不利だ。
ちなみに、CX-60のFRモデルは2.5リッター4気筒ガソリンと3.3リッター6気筒ディーゼルで選択できるが、いずれも4WDも用意されており、その価格差はおおむね22万~23万円。とあらば、多くのお客さんは多少頑張っても4WDを買うのではないだろうか。そんな悶々(もんもん)を抱きつつ乗ったのは3.3リッター6気筒ディーゼルの側、グレード名はXD Lパッケージで価格は400万4000円。これが4WDになると422万9500円となる。
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走りに感じるアーキテクチャーの素性のよさ
マイルドハイブリッドシステムを持たない生の3.3リッター直6ディーゼルのアウトプットは、最高出力231PS、最大トルク500N・m。一方、マイルドハイブリッド車(MHEV)はエンジン単体でも254PS、550N・mを発するところに、最大で16.3PSと153N・mを発する48VのISGが加わるかたちだ。
それゆえの差を一番顕著に感じるのは、発進から40km/hくらい、つまりタウンスピードでの快活さかもしれない。500N・mは1500rpmという低回転から発せられるとはいえ、それ以下の回転域でのトルクの立ち上がりがややもっさりした印象で、MHEVの側はこの域をISGでしっかり補完しているのだろう。が、一度速度が乗ってしまえば加速力には不満はない。刺激的ではないが十分実効的な中高速域の力感には、いい意味でのもっちりした粘り気が感じられる。ATのタイトなつながりも相まっての走りの雰囲気を、1990年代のメルセデスあたりと重ねてしまうのは僕だけではないと思う。
ちなみに試乗車の重量は1810kg。4WD+MHEVのグレードとはおおむね100kgの差がある。確かにハンドリングはこの重量差相応に軽快だ。ワインディングロードではゴリゴリにシゴくような乗り方よりむしろ、中低速で曲率に合わせてサラサラと操舵するような乗り方で、動きの軽やかさが際立ってくる。“普通プラスα”で走らせて気持ちよさの利が大きいというのは、このアーキテクチャーの素性のよさを示しているのではないだろうか。
加えてFRだからこそ伝わってきたことといえば、ピッチングモーメントの収まりが素晴らしいことだ。それが最も端的に現れるのは減速時だろう。クルマは制動時にまずは前のめりの姿勢となり、次いでその反動で、後ろにのけ反るような動きへと移行する。高重心のSUVではその動作がどうしても大きくなりがちだが、CX-60の場合は車体をすうっと沈めながら四肢で踏ん張るように減速してくれる。ブレーキの見事なコントロール性も相まって、足裏で姿勢を整えるような同乗者に優しい運転も難しくない。とりもなおさず独自のピッチングセンターの設定が奏功しているわけだが、前輪がフリーなFRモデルに乗ると、そのこだわりが至極鮮明に伝わってくる。
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依然として要改善のライドフィール
で、くだんの乗り心地について。個人的には正直なところ、このクルマでも劇的といえるほどの改善は感じられなかった。横方向の揺すられる動きはやや収まったし、突き上げのような応答も若干カドは丸められたと思うが、信号の手前にできる波状路面のような連続した凹凸や、大きめの橋脚ジョイントなどに遭遇すると、やはりバタバタと後ろ脚のバネ下が暴れるようなリアクションを示す。前述したピッチングのように、狙いどおりの動きが現れた際にはスイートスポットにハマったような気持ちよさをみせてくれるが、それがどうも全域でつながらない。
ひとつマツダが気の毒なのは、この新しいアーキテクチャーをSUVの体で初出ししなければならなかったことだ。仮にもっと軽量低重心なぶん、コイルやダンパーの設定自由度も高い車型でデビューさせられていたら、果たして市井はどんな印象を抱いただろうか。それすなわち「マツダ6」の後継ということになるわけだが、残念ながらセダン&ステーションワゴンの市場は欧州でもシュリンク。北米に至ってはほぼ壊滅しているのが現状だ。
それでもこのCX-60のFRモデルは、マツダのエンジニアが考える理想のダイナミクスに最も近いところにいるのではないかと思う。それをもってしても、助言を請われれば「万人にお薦めすることはできない。4WDに越したことはない」と言うと思うが、重度のシャシーおたくならば、この機微は受け止められるかもしれない。
ちなみにCX-60は、一部標準装備(パワーリアゲートのジェスチャー開閉機能とか、ドライバー異常時対応システムとか)をレスオプションにしてお支払いを幾ばくかでも圧縮することが可能だ。できる限りきめ細かくユーザーニーズに応えようとする、その姿勢はたたえたい。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
マツダCX-60 XD Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4740×1890×1685mm
ホイールベース:2870mm
車重:1810kg
駆動方式:FR
エンジン:3.3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:231PS(170kW)/4000-4200rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1500-3000rpm
タイヤ:(前)235/50R20 100W/(後)235/50R20 100W(ブリヂストン・アレンザ001)
燃費:19.8km/リッター(WLTCモード)
価格:400万4000円/テスト車=415万6900円
オプション装備:ボディーカラー<ソウルレッドプレミアムメタリック>(7万7000円)/地上デジタルTVチューナー(2万2000円) ※以下、販売店オプション ナビゲーション用SDカード(5万3900円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:4194km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:462.9km
使用燃料:28.9リッター(軽油)
参考燃費:16.0km/リッター(満タン法)/16.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。