第105回:「フェラーリ・ルーチェ」のインテリア革命(後編) ―いきすぎたタッチパネル万能主義に物申す!―
2026.03.18 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
巨大ディスプレイ全盛の時代に、あえて物理スイッチのよさを問う! フェラーリのニューモデル「ルーチェ」のインテリアは、へそ曲がりの逆張りか? 新しい価値観の萌芽(ほうが)か? カーデザインの有識者とともに、クルマのインターフェイスのあるべき姿を考えた。
(前編に戻る)
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ユーザーのことなんてぜんぜん考えてない!
清水草一(以下、清水):フェラーリ・ルーチェのインテリアの写真を見たとき、私は最初、スイッチ類はどうせタッチパネルだろうと思ったんですよ。各部の輪郭は「iPhone」みたいだし。
webCGほった(以下、ほった):なにしろiPhoneのデザイナーの作品ですからね。
清水:まさか本家とも思わなくてさ。ところがルーチェのインテリアは、物理スイッチに回帰を図っていた。さすが本家! だよね。正直、最近のタッチパネルだらけのインテリアには、吐き気すら覚えるから。
ほった:本気で嫌悪してるんですね(笑)。
清水:もはやオエッ、だよ(笑)。今、自動車メーカーはユーザーのことをぜんぜん考えてないんじゃないかな。特にドイツ御三家はヒドい。巨大なディスプレイのメニュー画面に、アイコンが20個くらい並んでたりするけど、どれもこれも運転中に操作する必要のないものばっか! それで操作がすさまじく難解になっちゃってる。「こうしないとオシャレじゃないから」という強迫観念を感じるよ。
ほった:日本車も、お高いのは似たようなもんですけどね。
清水:それが世界的な傾向なんだけどさ、ルーチェの影響で潮目が変わって、いつか今のタッチパネル万能主義を「あー、バカげた時代だったな(笑)」って振り返る日がきたらうれしいな。
渕野健太郎(以下、渕野):クルマ好きやメディアの人は、基本的に物理スイッチ推奨派が多いですよね。
ほった:単純に使いづらいですからね。例えばスズキの「eビターラ」は、エアコンは物理スイッチだけど、シートヒーターやステアリングヒーターはタッチパネルで操作画面を呼び出さないとオン/オフできないんです。デジタル化で、かえって機能の配置がごちゃごちゃになってる例って、少なくないんです。
誰がなんのために広めたの?
渕野:確かに、運転中にも使うものは物理スイッチのほうが絶対いいですよね。エアコンなんか最たる例で、私のクルマは、温度調整は物理スイッチだけど風量調整はデジタルなんですよ。真夏にすぐ風を強めたいとき、画面が立ち上がるのを待つのが本当にストレスで(笑)。物理スイッチなら、ブラインド操作でガチャっとやるだけですから。
ほった:ですよねぇ。この前、軽トラの「スズキ・キャリイ」に乗りましたけど(参照)、いまだにマニュアルエアコンで、それが最高に使いやすかった(笑)。迷いようがない。完全にブラインド操作できましたよ。
清水:今の自動車業界は、なにも考えずに「とりあえずタッチパネル、タッチスクリーン」っていう思考停止状態でしょ。ルーチェにはそこに一石を投じてほしいね。物理スイッチのほうが圧倒的に安全だから。フェラーリもさ、「296」はほとんどの操作がタッチだったよね。それが難しくて難しくて……。「シロートにはドアの開け方もわからないようにするのがスーパーカー」なんて言うけど、運転中の操作はわかりやすくしてくれないと困る! 事故っちゃうよ!
ほった:てか、そもそもなんで、こんなにタッチパネルがはやってるんですかね? 部分部分で取り入れるのはいいけど、今はちょっと、異常な気がします。
渕野:「一枚のパネルやディスプレイに機能を集約すれば、物理スイッチのコストを削減できる」っていうメーカー側の事情もあるんでしょう。
清水:あれで安くなるんだ。あとは、「機能が増えすぎたから」っていう話も聞くけど。
ほった:それもなんかヘンな話ですよね。そもそも今のクルマって、インターフェイスに余計な機能を入れすぎです。スマホに初期搭載されてる一生使わないアプリみたいな。最近は動画や音楽のストリーミングサービスとか、暇つぶし用のゲームまで用意されてるけど、そんなんスマホや「Nintendo Switch」を持ち歩いてれば済む話じゃないですか。
清水:古典的カーマニアの怒り! だね。
ほった:目的と手段が逆転して、おかしなことになってますよ。
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テスラと(元)アップルで真逆の思想
清水:いやホント、この流れはどこまでいくのか。
ほった:でも極北はもう決まってますよね。とうの昔に、シフトセレクターまでタッチスクリーンにしたテスラが体現しちゃってる。
渕野:多くのメーカーがそこを目指している節はありますね。
清水:たださ、テスラの操作系はタッチ万能主義の最高峰なので、ある種の“修行”として価値があると思うよ。自分の意思でオンにする操作がなにもなくて、駐車場所から前進するか後退するかもクルマが判断するんだから。われわれ古典的カーマニアは、渦巻く不安のなかで「天才イーロンを信じて任せます」という諦観に至る必要がある。あれには脱帽だ。
ほった:フツーのメーカーがあの境地に至るのは無理でしょうね。それに、ヨーロッパじゃ安全性の観点から、物理スイッチへの揺り戻しも起きているっていうし(※)。
それにしてもオモロいのが、同じプロダクトデザイン志向のテスラと(元)アップルなのに、やってることが逆ってことですよね。デジタルに精通したジョナさん、マーさんが、あえて物理スイッチを取り入れてきたっていう。
渕野:それは「使いやすさ」を真剣に考えた結果でしょう。スマートフォンで操作性の頂点を極めた人が、クルマのインターフェイスをつくったらどうなるか? その答えが物理スイッチの活用だとしたら画期的ですよね。
過去のアップルの製品を思うと、操作性だけではなくて、触れたときの満足感や所作までデザインされているはずです。今後はむしろ、物理スイッチのほうがプレミアムっていう価値観になっていくかもしれませんよ。メルセデスなんか、どのセグメントでも全面液晶のタッチスクリーンの採用を推し進めていますが、それが本当に評価されるかどうか……。
清水:「へぇー、昔はこんな全面タッチパネルがはやってたのか。ダサかったねぇ」って振り返る時代がくるのが、楽しみだなー!
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“体験価値”にみるタッチパネルの弊害
ほった:操作系の質感というと、以前「フェラーリ・プロサングエ」の発表会で、「タッチパネルが増えて、どのブランドも似たような操作感になったら、フェラーリはどうやってインターフェイスの質感を他車と差別化するの?」って、エラい人に聞いたことがあるんですよ。
清水:怖いものしらずだね(笑)。
ほった:同じウン千万円のクルマでも、ロールス・ロイスやベントレーは、ローレット加工のダイヤルとか操作時のぬたっとした手応えとかで、上質感を出していたでしょ? それがプロサングエは、ぜんぶタッチ式だったから。
清水:考えてみると、タッチパネルってどれもピアノブラックで、見た目も触った質感もみんな同じだもんね。フェラーリもドイツ御三家も、それこそ「日産ルークス」も。
ほった:ハプティック(振動フィードバック)くらいしかできることがないですからね。で、そういう私の質問に対してフェラーリのエラい人は「ウチはプレミアムだから、そこはちゃんと考えていますよ~ゴニョゴニョ」ってお茶を濁してたんです(笑)。今回のルーチェは外部デザインだし、結局、自社のカーデザイナーだけでは解決できず、外注さんの力を借りざるを得なかったのかな?
清水:イジワルだなぁ。結果よければすべてよしだよ(笑)。そういえば、最近のロールス・ロイスはどうなの? やっぱりタッチパネル化してるの?
ほった:タッチパネルは導入されていますが、ロータリー式の空調のコントローラーとかもがっつり残っていますよ。あの象徴的な“フライングレディー”が描かれたダイヤル式のコントローラーも健在です。そのあたりはやっぱり、ロールスは矜持(きょうじ)を保っていると思います。
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「物理スイッチ=古い」という価値観が古い!
清水:いや~。こうして話しているとがぜん期待が高まってきたね! フェラーリもさ、「308」のインテリアなんて、今見るとものすごくカッコいいから。あの物理スイッチを眺めているだけで満足できる。そこに回帰してほしい!
渕野:今の「物理スイッチ=古い」という価値観のなかで、今回のルーチェのデザインは非常に意義がありますよね。
ほった:男の子って、配線がつながっていなくてもトグルスイッチを見たらパチパチしたくなるじゃないですか。あの操作感そのものが快楽なんですよね。それをそぎ落とすことが価値になるとは限らないですよ。
清水:「スイッチこそがオシャレだし高級だ!」という流れになってほしいなぁ。
ほった:西川さんのリポート(参照)だと、ルーチェはデザインや操作性だけじゃなく、乗員が触れる箇所はみんな素材をアルミとガラスにして、触感にもとにかくこだわっているそうですから。そのへんも楽しみですね。あとは、インテリア全体がどんな空間になっているのかと……やっぱエクステリア! 最近のスポーツカーはガンダムチックなギミックに走りがちですけど。
渕野:カーデザイン界に一石を投じるような、これまでに見たことのないようなエクステリアを期待したいです。
清水:インテリアだけだったのかよ! じゃないといいな。
ほった:久々に前向きでいい話ができましたね。それでは今回は、このあたりで(笑)。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=BMW、アウディ、スバル、テスラ、日産自動車、フェラーリ、メルセデス・ベンツ、ロールス・ロイス、向後一宏/編集=堀田剛資)

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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