今やジャパニーズBEVもよりどりみどり 国産6ブランドのBEV&PHEVにまとめて乗った
2026.03.25 デイリーコラムまずは認知度アップを
日産自動車の追浜工場に隣接するテストコースのグランドライブは何度も訪れている。発売前のモデルの試乗会がここで開催されることが多い。しかし、この日はいつもと様子が違った。イベントホールの前には色とりどりののぼりがはためいている。日産だけでなく、スズキ、ホンダ、マツダ、三菱自動車、レクサスの名が見えた。日本の自動車会社が一堂に会して試乗会を開催したのである。
日産とアライアンスを組む三菱の関係者も、グランドライブに来たのは初めてだと話していた。開発や販売でライバル関係にあるメーカーの施設でのイベントはかなり異例である。背景には、電動化が進むグローバルな流れのなかで、思うように電気自動車(BEV)の認知が進んでいないことへの危機感があるのだろう。試乗前のプレゼンテーションでは「国内ブランドの電動車両ラインナップの拡充が進んでいる一方で、日本市場におけるBEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)の比率はグローバルに比べまだ低調」という認識が示され、「国内ブランドの電動車両ラインナップが充実していることを、もっと認知してもらいたい」という意図があるとの説明があった。
日本市場における新車販売のBEV比率は1%台に低迷しており、PHEVを加えても3%に届かない。世界平均の10分の1にとどまっている。充電インフラの未整備や航続距離の短さ、車両の高価格などさまざまな要因が挙げられているが、認知度の低さが関係しているのかもしれない。国産のBEVやPHEVはラインナップが充実してきたが、必ずしもそれが認知されてはいないように思われる。スズキの広報担当者は、「うちがBEVをつくっていることを知らない人が多いんですよね……」とボヤいていた。
未来への道は各社さまざま
用意されたのは12台。スズキは「eビターラ」の4WDと2WD、ホンダは「N-ONE e:」を2グレード、マツダは「MX-30ロータリーEV」と「CX-60 PHEV」、三菱は「アウトランダーPHEV」を2台、レクサスは「RZ550e“Fスポーツ”」を持ち込んだ。日産は「リーフ」「サクラ」「アリア」の3台だが、アリアは展示だけで試乗はできなかった。トヨタ、ダイハツ、スバルは参加していないが、多忙な期末の時期でスケジュールが合わなかったことが理由。意見の相違があったわけではない。
試乗前には各社の担当者が短いプレゼンで自社の優位点や方針などを説明した。スズキはBセグメントとしては貴重な電動4WDシステムの「オールグリップe」と、専用プラットフォームの「ハーテクトe」をアピール。ホンダはN-ONE e:が「N360」の系譜を継ぐ「手の届くBEV」だとして、シングルペダルコントロールのアドバンテージを強調。マツダはまず「走る歓(よろこ)びで移動体験の感動を量産するクルマ好きの会社になる」という「2030 VISION」を提示。技術より理念を前面に出した。
PHEVのみを持ち込んだ三菱はアウトランダーを中心に進化の経緯をたどった。PHEVをコア技術としてニーズに合わせてCO2削減を目指す姿勢を明らかにする。レクサスはトヨタの掲げる「マルチパスウェイ」の考え方を示し、多様な選択肢を持つことの重要性を説く。そのうえでBEV専用モデルのRZに絞って解説した。日産は2010年に発売したリーフから説き起こすのかと思ったら、1947年発売の「たま電気自動車」から数えて80年にわたる歴史を紹介。先駆者のプライドが垣間見えた。
BEVならではのよさはあるものの……
試乗は1台につきコース1周だけ。2時間という限られた時間での取材だから致し方ない。BEVではサクラとN-ONE e:には乗ったことがあったので、リーフとeビターラを選んだ。リーフは3代目となる老舗ブランドだけに、落ち着いたたたずまいだ。実績を積んで成熟しているから、妙な小細工は必要ないのだろう。静粛性と乗り心地のよさは想像のとおりで、モーター駆動のスムーズさにも感心させられる。
eビターラに乗り換える。エクステリアにもインテリアにも、BEV感とSUV感を見せつけようという強い意志がみなぎっている。見慣れないシフトセレクターに一瞬戸惑ったが、走りだせばよくできたBEVである。静かで乗り心地がよく、モーター駆動はスムーズ――さっき乗ったリーフと同じ感想しか出てこない。
たった1周の試乗では、差を見極めるのは難しかった。回生ブレーキの仕立てや高速域での安定性、段差のいなし方、横Gの収まり方などに違いはあるのだろうが、もう少し乗らないとなんとも言えない。電費性能や長距離運転時の疲労度などは、もちろん判定のしようがなかった。パワートレインに関しては、エンジン車に比べて差が生まれにくいのだ。サクラとN-ONE e:にも同じことが言える。BEVはどれも「静か、スムーズ、速い」という共通点があり、エンジン車に対するアドバンテージになっている。だからこそ、そのほかの要素で明確な相違点を示すことが必要だ。
その意味では、分かりやすく差別化を成功させていたのがRZ550eである。運転席に座ると、目の前にあるのは長楕円(だえん)型のステアリングホイールだ。気分は飛行機のパイロットである。ステアバイワイヤシステムが採用されているから本当に飛行機由来の技術といっていい。ステアリングパドルが付いていて、仮想の8段シフトを操作できる。モーター駆動だから変速は必要ないのだが、駆動力を変動させるとともにサウンドも連動させる仕掛けだ。好みは分かれるにしても、BEVのイメージから離れることに成功している。
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ライバルでもあり仲間でもある
PHEVにも3台乗り、こちらはそれぞれにまったく異なるキャラクターがあることを確認した。電動化に関する姿勢と考え方の違いが見事に具現されていたのだ。興味深い対照を示していたので、PHEVに関しては稿を改めたい。
日本の自動車会社が共同で試乗会を開いたのは画期的なことだ。アメリカのテスラ、中国のBYD、韓国のヒョンデなど強力なBEVメーカーが日本に進出している。ヨーロッパの自動車メーカーも、BEVのラインナップを増やしてきた。経済紙などが「日本は電動化に出遅れた。このままでは産業が崩壊する!」などとあおり立てるのはどうかと思うが、時代の転換期にあることは事実である。
各メーカーは他社のBEVを手に入れて研究しているはずだが、お互いに持ち寄ったクルマを並べて対面するのは得難い機会だったろう。N-ONE e:に乗ってきたホンダ広報部員が日産の充電器を借りるというほほ笑ましい情景も見られた。イベント終了後に他社のクルマに試乗することもできたらしい。日本における自動車の電動化がどんな状況なのかを知ることは、開発の指針設定の精度を高めることにつながる。
そして、共通の課題を探り出し、共有することが重要だ。電動化は自動車メーカーだけで進められるものではない。行政と協調した環境づくりが必須だし、広く情報発信していくことも不可欠だ。競い合いながらも歩調を合わせて変化に対応することが、日本の自動車業界に求められている。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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