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第765回:「ロイヤルエンフィールド・ブリット350」に試乗! 前進し続けるインドの巨人の“今”を追う

2023.09.29 エディターから一言 河野 正士
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2023年9月1日に世界初公開されたロイヤルエンフィールドの新型車「ブリット350」。
2023年9月1日に世界初公開されたロイヤルエンフィールドの新型車「ブリット350」。拡大

中排気量セグメントで世界一の販売台数を誇る、インドのバイクメーカー、ロイヤルエンフィールド。そんな彼らの最新モデル「ブリット350」に試乗し、その工場を見学する機会を得た。120年を超える歴史と、高い技術力を併せ持つインドの巨人。その実力をリポートする。

創業は1901年と、バイクメーカーのなかでも老舗中の老舗であるロイヤルエンフィールド。単に歴史が長いだけでなく、中排気量セグメント(250cc~750ccクラス)で世界シェアナンバーワンを誇る、巨大メーカーでもある。
創業は1901年と、バイクメーカーのなかでも老舗中の老舗であるロイヤルエンフィールド。単に歴史が長いだけでなく、中排気量セグメント(250cc~750ccクラス)で世界シェアナンバーワンを誇る、巨大メーカーでもある。拡大
「ブリット」とは、1932年からの歴史を誇るロイヤルエンフィールド伝統のモデルだ。新型車の「ブリット350」は、往年のモデルのクラシックなデザインと、今日の技術を融合させた一台となっている。
「ブリット」とは、1932年からの歴史を誇るロイヤルエンフィールド伝統のモデルだ。新型車の「ブリット350」は、往年のモデルのクラシックなデザインと、今日の技術を融合させた一台となっている。拡大
「ブリット350」の走りを確かめる筆者。同じエンジンと車両骨格を用いる“350シリーズ”なのに、モデルごとに確かにキャラクターが異なるのが面白い。
「ブリット350」の走りを確かめる筆者。同じエンジンと車両骨格を用いる“350シリーズ”なのに、モデルごとに確かにキャラクターが異なるのが面白い。拡大

人気の“350シリーズ”に追加された新モデル

ロイヤルエンフィールドの“350シリーズ”に、ブリット350が追加された。

すでにクラシカルなスタイルの「クラシック350」、クルーザースタイルの「メテオ350」、そしてモダンなネイキッドスタイルの「ハンター350」をラインナップし、日本はもちろん世界各地で好調なセールスを記録しているこのシリーズは、同じ排気量349ccの空冷単気筒OHC 2バルブエンジンとスチール製フレームを共用。一方で、外装や前後のホイール径、エンジンの吸排気を変更し、スタイリングにおいてもパフォーマンスにおいても、キャラクター分けがしっかりなされている。こうした丁寧なつくり込みが、今日のロイヤルエンフィールドをけん引しているのだ。

今回のブリット350も、他の350シリーズ同様「Jプラットフォーム」と呼ばれる上述の空冷単気筒エンジンと、共用のフレームを採用。ブリット固有のディテールとしては、やや手前に据えられたハンドルと、一体型の段付きダブルシート、そのシートに合わせたリアフェンダーが挙げられるぐらいだ。それでいてブリット350の乗り味は、どの350シリーズのモデルとも違っていた。フロント19インチ/リア18インチのホイールサイズやクラシカルな外観など、共通点の多いクラシック350とも違っていたのは、本当に意外だった。

乗ればわかる兄弟モデルとの違い

一番の違いは、エンジンである。Jプラットフォームは低中回転域の歯切れのよさと、それとリンクするキビキビとした加速感が特徴だ。重いフライホイールとロングストロークのシリンダーによって、爆発を一つひとつ感じながら走らせることができる、単気筒エンジンらしいフィーリングを楽しめるのだ。

しかしブリット350は、どちらかというとシットリとした爆発感と穏やかな加速に調律されていた。ちょっと悪い言葉で表現すると、“ダルい”感じだ。もっとも、この違いはあくまで低回転域でのもの。重いフライホイールの慣性力が増してくると、その加速は伸びやかになり、中・高回転では他のJプラットフォーム搭載車との差はなくなり、性能的には120km/h付近での巡行も可能だ(Jプラットフォームエンジンは80~100km/hあたりが一番気持ちいいが……)。

ハンドリングにおいても、ブリット350では変化が感じられた。クラシック350より、フロント19インチホイール特有の重さというか落ち着きというかが和らいでおり、より軽快になっていたのだ。この違いの理由は明確で、それはライディングポジションである。一体型の段付きダブルシートは、シート高そのものはクラシック350と同じ805mmだが、座面形状やシートフォームの変更によって、やや腰高感のある設定とされていた。また少し手前に引かれたハンドルにより、ライダーの姿勢は上体がやや起き気味となる。それによって生じた乗車時の前後重量バランスの変化が、ハンドリングの違いを生み出しているのだ。

クラシックな趣を漂わせるフロントまわり。ヘッドランプの上に備わるのは「タイガーアイ」と呼ばれるパイロットランプで、1954年モデルから受け継がれる特徴である。
クラシックな趣を漂わせるフロントまわり。ヘッドランプの上に備わるのは「タイガーアイ」と呼ばれるパイロットランプで、1954年モデルから受け継がれる特徴である。拡大
「Jプラットフォーム」と呼ばれる、排気量349ccの空冷4ストローク単気筒SOHCエンジン。“350シリーズ”の全車に搭載されるエンジンで、20.2PSの最高出力と27N・mの最大トルクを発生する。
「Jプラットフォーム」と呼ばれる、排気量349ccの空冷4ストローク単気筒SOHCエンジン。“350シリーズ”の全車に搭載されるエンジンで、20.2PSの最高出力と27N・mの最大トルクを発生する。拡大
バイクのスタイルは「クラシック350」にやや似るが、ライディングポジションはわかりやすく異なり、「ブリット350」ではシートの上に背筋を伸ばして座るような格好となる。
バイクのスタイルは「クラシック350」にやや似るが、ライディングポジションはわかりやすく異なり、「ブリット350」ではシートの上に背筋を伸ばして座るような格好となる。拡大

エンジニアが語る独自のキャラクター

一方、違いの理由がわからなかったエンジンについて、ロイヤルエンフィールドの車両開発責任者であるマーク・ウェルズ氏に確認したところ、エンジンの内部、インジェクションのマッピング、排気系のいずれにおいても、クラシック350から変更は加えていないという。それでも、マーク氏自身もその違いを感じているとのことだった。

「Jシリーズエンジンの特徴は、クランクの重さにある。重いクランクが回転することによって生まれる慣性重量が、低・中回転域のエンジンの反応を穏やかにし、乗りやすさを生み出すんだ。われわれロイヤルエンフィールドは、このフィーリングをとても大切にしている。このフィーリングこそがロイヤルエンフィールドだといってもいい。特にインドの市街地のように道路環境が悪い場所では、アクセルのオン/オフで路面をいなすことができるし、ヒマラヤのような標高の高い過酷な条件下でも、確実に車体を前に進められる。ロングストロークは、そのクランクのイナーシャを増強するための大きな要素なんだ。この新型ブリット350では、Jシリーズのなかでも“それ”を強く感じる。でも、このフィーリングこそがブリットだ」

また、今回新たな仲間が加わった350シリーズにおける、キャラクターのすみ分けについても教えてくれた。

「350シリーズのなかで、クルーザーであるメテオ350はプレミアムという位置づけだ。したがってレザージャケットやブーツなど、プレミアムなアイテムを身につけているライダーがイメージできる。一方ハンター350は、エントリーレベルを含めた広いユーザーをターゲットにしている。だからデザインもマシンのキャラクターも若々しい。これらのモデルに対して、クラシック350とブリット350は、オーセンティックなスタイルを持っているという点で非常に近い存在だ。とはいえ、シングルシートを基本とするクラシック350に対して、1950年代のクラシカルなスタイルを踏襲し、ダブルシートや子持ちラインの描かれたタンクなどを持つブリット350は、やはり“ブリットらしく”ある」

「350シリーズの各モデルをどう使い分けるかは、われわれが決めることじゃない。時計のように、オーナーの好みとライフスタイルに合わせて選んでほしい。どのバイクも幅広いライダーのスタイルにフィットできるようつくり込んでいて、ロイヤルエンフィールドらしさにあふれている」

車両開発責任者のマーク・ウェルズ氏。正式な肩書は「Chief of Design Royal Enfield」で、この場合の“デザイン”とは、車両設計全体のことを指す。
車両開発責任者のマーク・ウェルズ氏。正式な肩書は「Chief of Design Royal Enfield」で、この場合の“デザイン”とは、車両設計全体のことを指す。拡大
海、山、荒原、密林とさまざまなロケーションを持ち、また舗装路も必ずしもきれいとはいえないインド。ロイヤルエンフィールド車に共通するたくましいエンジンフィールは、そうした環境に対応したものなのだ。
海、山、荒原、密林とさまざまなロケーションを持ち、また舗装路も必ずしもきれいとはいえないインド。ロイヤルエンフィールド車に共通するたくましいエンジンフィールは、そうした環境に対応したものなのだ。拡大
会場に展示された1960年製の「ロイヤルエンフィールド・ブリット」。長い歴史のなかで、たびたび大幅な刷新を受けてきたブリットだが、1950年代には最新のモデルに通じるスタイルが確立されていた。
会場に展示された1960年製の「ロイヤルエンフィールド・ブリット」。長い歴史のなかで、たびたび大幅な刷新を受けてきたブリットだが、1950年代には最新のモデルに通じるスタイルが確立されていた。拡大
「ブリット350」のラインナップのなかでも、上質な「スタンダード」仕様には、燃料タンクに職人の手になるピンストライプが施される。
「ブリット350」のラインナップのなかでも、上質な「スタンダード」仕様には、燃料タンクに職人の手になるピンストライプが施される。拡大
取材会ではピンストライプの作業体験もさせてもらったが、結果はご覧のとおり。作業の難しさと、職人の腕のすごさをあらためて思い知った。
取材会ではピンストライプの作業体験もさせてもらったが、結果はご覧のとおり。作業の難しさと、職人の腕のすごさをあらためて思い知った。拡大

前進し続けるインドの巨人

今回、ブリット350の発表会は、インドのバラムバダガル工場で行われた。ロイヤルエンフィールドが世界中にデリバリーするモデルを製造するインドの3工場のなかでも、最も規模が大きく、新しい拠点だ。ここだけで年間60万台の生産能力があるというが、それでも今はCOVID-19明けの混乱から態勢を立て直している最中で、まだフル稼働状態にはいたっていないという。

ロイヤルエンフィールドは、アイシャー・モーターズの傘下に入ってから、エンジンやフレーム、それに外装パーツなど、多くの部品の自社生産化を図ってきた。機械加工に加え、加工後のパーツを洗う洗浄ロボットも自社内に構えて稼働させ、オートマチックペインティングマシンも46台がフル稼働している。燃料タンクやフレーム溶接はもちろん、外装類のバフ掛けも機械化を進め、ハンドメイドでは難しい、高レベルでのクオリティーの均一化を実現している。内製化を進める理由はただひとつ。品質の向上と、その維持である。工場の品質管理アドバイザーには経験豊かな日本人エンジニアが就き、そこから飛躍的に品質が改善。新規機種が立ち上がるたびに品質管理のチェック項目を増やしているという。

インドのライダーとともに、インドでバイク文化を築き上げたヘリテージモデルのフルリニューアルと、それを支える新しく力強い生産体制。新型ブリット350によって、ロイヤルエンフィールドはさらに勢いを増し、世界の二輪市場で存在感を増していくかもしれない。

(文=河野正士/写真=ロイヤルエンフィールド/編集=堀田剛資)

バラムバダガル工場で行われた「ブリット350」の発表会の様子。
バラムバダガル工場で行われた「ブリット350」の発表会の様子。拡大
バラムバダガル工場は2017年8月に稼働したロイヤルエンフィールド最新の工場だ。主要3工場のなかで最も広い65エーカー(東京ドーム5個分)の敷地を持ち、今日では「クラシック350」「メテオ350」などを生産している。
バラムバダガル工場は2017年8月に稼働したロイヤルエンフィールド最新の工場だ。主要3工場のなかで最も広い65エーカー(東京ドーム5個分)の敷地を持ち、今日では「クラシック350」「メテオ350」などを生産している。拡大
会場に並べられた歴代の「ブリット」。1955年にはマドラス(現チェンナイ)で現地生産も開始され、以来インドを代表するモーターサイクルとして、かの地のバイク文化とともに歩んできた。
会場に並べられた歴代の「ブリット」。1955年にはマドラス(現チェンナイ)で現地生産も開始され、以来インドを代表するモーターサイクルとして、かの地のバイク文化とともに歩んできた。拡大
ロイヤルエンフィールドの伝統と、最新の生産技術が融合した「ブリット350」。日本における価格や導入時期は、後日発表される予定だ。
ロイヤルエンフィールドの伝統と、最新の生産技術が融合した「ブリット350」。日本における価格や導入時期は、後日発表される予定だ。拡大
河野 正士

河野 正士

フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。

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