第4回:ホンダN-BOX(後編)
2023.12.06 カーデザイン曼荼羅そうはいっても売れるんだから
カーマニアの間では不評だけれど、ちまたでは大人気なのが“カスタム系”の軽自動車だ。ノーマルの完成度が高い「ホンダN-BOX」だが、カスタムの側の評価はどうなのか? オラオラ系の軽は今後どう進化していくのか? デザイナー歴20年の識者とともに考えた。
(前編はこちら)
清水草一(以下、清水):ここにいる3名の総意として、初代と今回の3代目N-BOXのデザインはすばらしい! ということになると思いますが、それはカスタムじゃなくノーマル系の話じゃないでしょうか?
渕野健太郎(以下、渕野):そうですね、個人的にはノーマルが好みです。でもカスタムも結構売れるんですよね。販売比率は半分くらいですか?
webCGほった(以下、ほった):カスタムのほうが多いんじゃないですかね。
清水:残念ながら……新型の初期受注のうち、約75%がカスタム系だそうです。
渕野:そんなに多いんですか……(笑)。
清水:でもわれわれは正直なところ、カスタムは眼中になし、じゃないですか?
ほった:ワタシゃそこまでではないですよ。どちらかといえばノーマル派というぐらい。
渕野さん:販売店ではノーマルのとなりにカスタムもあったので、少しの時間でしたが見させてもらいました。カスタム系は、デザイナーが最初に描くクルマじゃない気がしますね。おそらくノーマル系の、それもこの仕様から発想したのだと思います。
ほった:この仕様というと……、ファッションスタイルですね。鉄チンホイールに色付きホイールキャップ、それと白のドアミラーの。
渕野:そう。これがデザイナーが最初に考えた仕様かなと思うんです。ちなみに、ノーマルとカスタムって、フロントバンパーは見たところまったく共用だと思います。
ほった:あら、そうなんです?
渕野:でもリアバンパーはそれぞれ専用品です。うまくコストを削減しながらつくり分けていますよね。バーツは1つ専用品をつくるだけでも、だいぶ費用が違いますから。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
1粒で2度おいしい
清水:今回のカスタムのルックスは、先代に比べるとだいぶおとなしいですよね。先代のカスタムはワルなツリ目でしたから、新型のカスタムを見て心が平和になりました。
ほった:本当にオラオラ系が嫌いなんですね。でもマーケティングとか開発とかの人と話をしていると、やっぱりカスタム推しというか、そっちのほうが力が入ってるんですよ。N-BOXも遮音材の設定とかが違って、後席はカスタムのほうが静かですし。自分は「ノーマル仕様もそうしてくださいヨ。革巻きステアリングもあっていいんじゃない?」って言ったんですけど、マーケティングの人は「いや、そうすると値段が上がっちゃうんで」と。
清水:値段が上がるのはダメだな。N-BOXはシンプルでいいよ。
ほった:素のN-BOXだってもう160万円からのおクルマですよ。それにカスタムの受注が75%でしょ? ユーザーは多少高くてもいいんじゃないですかね。
渕野:軽のカスタム商売を最初に始めたのはダイハツですよね。
ほった:初代「ムーヴ」のカスタムが最初でしたっけ。
清水:元祖だけに、ダイハツのタント カスタムは直近のマイナーチェンジでオラオラ度を増したんですよね。ダイハツのユーザーには、少しおとなしかった現行前期型は物足りなかったみたいで。
ほった:そういうユーザーも確実にいるんですよ。
清水:ただN-BOXユーザーに関しては、脱オラオラの流れがあるらしい。新型のカスタムはオラオラ度が低かったから、より割合が増えたのかも。先代はカスタムが6割だったっていうから。
渕野:いずれにせよ、カスタム商売は1粒で2度おいしいわけですから、うまい商売ですよね。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
二極化するカスタムデザインの行方
渕野:……とはいえ、新型のN-BOXカスタムは先代よりスマートになりましたが、ノーマルと比べるとデザインの明快さの点でもうひとつだという印象です。
清水:デザインの純度は断然ノーマル系ですね。
ほった:この場ではカスタムが脇役になってますけど、なにしろ支持者は75%ですから、どうしたって私たちのほうが少数派ですよ(笑)。それにしても、こうして見比べると、今のタント カスタムのドヤ顔はスゴい。一方でN-BOXはかなりお澄まし系できたわけですよね。新型「スペーシア カスタム」も、どちらかというとハンサム路線です。この“カスタムの二極化”が今度どうなるのかは、注目じゃないでしょうか。
渕野:自分が昔、軽のデザインを担当していたときは、地方都市で一般のお客さんの好みをリサーチしたりしていました。今も地方ユーザーの意見をすごく取り入れているんじゃないですか。
清水:でしょうね。県によっては、販売台数の約5割が軽ですから。
ほった:みんな似たようなマーケティングをしているのに、デザインの分化が進んでいくのは面白いですね。
渕野:N-BOXは、軽のなかでは洗練とかかわいらしさを重視してると思うんですよ。ダイハツも今回のジャパンモビリティショーでは、かなりクリーンでミニマルなデザインのショーカーを並べてましたから、今後はこれまでとは違うカスタム像を見せてくれるかもしれない。
清水:いや~、ダイハツは腹をくくってるんじゃないですか? カスタムはオラオラのコテコテでいくと!
拡大 |
拡大 |
拡大 |
美と実用性はトレードオフ?
渕野:最後になっちゃいましたが、このクルマは軽自動車なんで、室内の話もしようかと思ってまして。もう方々で言われていますけど、3代目はメーターのところの盛り上がりがなくなって、わりかし水平基調でスッキリしたデザインですよね。
ほった:そこも好評ですよね。運転席からの見晴らしもよくなったし。
渕野:でも、デザイン的にはいいんですけど、収納は明らかに減っているんですよ。
清水:ですよね。いいのかな、これ?
渕野:例えばダッシュボードのトレイは、2代目の資料を見ると……実際に置けるかはわかんないけど、ハンバーガー置いてるんですよ(笑)。だけど3代目はサングラス。これは、だいぶ削れてんじゃないかなと。実際、全体で見たらやっぱり収納は減っていて、言いにくそうでしたがディーラーの方も認めていました。
ほった:内装については、新型は機能性よりデザイン性に振ったということですかね?
渕野:新型のデザインはスッキリして好感が持てるのですが、例えば先代はハンドルの向こうに収納がありましたが、新型は液晶メーターがそこにあります。推測ですけど、「ホンダセンシング」(ホンダの先進運転支援システム)とかを表示する要件でまずこの液晶メーターを搭載する必要があったから、こうしたデザインになったんじゃないかと。
ほった:7インチのモニターをそこに埋め込んで、それを基本にデザインしていったら、必然的にこうなったって感じですか。
渕野:あくまで推測ですけど。ライバルを見ると、スズキの新型スペーシアは収納がすごいじゃないですか。実用面もかなり気を使っていて、いい意味で大変驚きました。デザインの観点ではN-BOXのほうがいいんですけど……。そこは「N-BOX大丈夫か?」って、勝手に心配しているところです。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=本田技研工業、ダイハツ工業、スズキ、向後一宏、webCG/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ― 2025.12.3 100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する!
-
第93回:ジャパンモビリティショー大総括!(その2) ―激論! 2025年の最優秀コンセプトカーはどれだ?― 2025.11.26 盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」を、デザイン視点で大総括! 会場を彩った百花繚乱のショーカーのなかで、「カーデザイン曼荼羅」の面々が思うイチオシの一台はどれか? 各メンバーの“推しグルマ”が、机上で激突する!
-
第92回:ジャパンモビリティショー大総括!(その1) ―新型「日産エルグランド」は「トヨタ・アルファード」に勝てるのか!?― 2025.11.19 盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」をカーデザイン視点で大総括! 1回目は、webCGでも一番のアクセスを集めた「日産エルグランド」をフィーチャーする。16年ぶりに登場した新型は、あの“高級ミニバンの絶対王者”を破れるのか!?
-
第91回:これぞニッポンの心! 軽自動車デザイン進化論(後編) 2025.11.12 激しさを増すスーパーハイトワゴン競争に、車種を増やしつつある電気自動車、いよいよ登場した中国の黒船……と、激動の真っただ中にある日本の軽自動車。競争のなかで磨かれ、さらなる高みへと昇り続ける“小さな巨人”の意匠を、カーデザインの識者と考える。
-
第90回:これぞニッポンの心! 軽自動車デザイン進化論(前編) 2025.11.5 新型の「ダイハツ・ムーヴ」に「日産ルークス」と、ここにきて新しいモデルが続々と登場してきた軽自動車。日本独自の規格でつくられ、日本の景観を変えるほどの販売ボリュームを誇る軽のデザインは、今後どのように発展していくのか? 有識者と考えた。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。














































