第16回:ホンダ・プレリュード コンセプト(後編)
2024.03.06 カーデザイン曼荼羅カッコいいけど、腑に落ちない
クルマ好きの心をくすぐる「プレリュード」という名を冠し、私たちの前に現れた「ホンダ・プレリュード コンセプト」。そんな一台が、カタチはいいのに「……なんか、しっくりこない」と思われてしまうのはなぜなのか? 元カーデザイナーとともに考えてみた。
(前編に戻る)
清水草一(以下、清水):次期プレリュードは、ぜひ「タイプR」を出してもらいたい(笑)。だからデザインも、もうちょっと武装してもらわないと困るんです。
webCGほった(以下、ほった):「シビック タイプR」は、ガンダムみたいなデザインのときでも、ちゃんと売れてましたからね。
清水:なに言ってんの! あのガンダムがいいんじゃない! ガンダムは世界に誇る日本のデザイン文化だよ!
渕野健太郎(以下、渕野):ガンダムの話はさておき(笑)、プレリュードという名前のイメージが先行しているせいか、少し腑(ふ)に落ちないところがありませんか?
清水:プレリュード タイプRにですか?
渕野:いえ、プレリュード コンセプトそのものに。なんなんだろうな……。
ほった:まぁ、「プレリュード」って聞いて私たちが想像するイメージとは違いますよね。清水さんが言ってたみたいに、昔のプレリュードはあれだけボンネットの低さにこだわってたのに、今回はボンネットが肉厚ですからねえ。
清水:エンジンの上にお布団入ってんの? ってぐらい高いからね。3代目プレリュードと比べると。
渕野:そこら辺はもう、いまの歩行者保護でNGでしょう。ボンネットってさまざまな歩行者保護要件が詰まっているんですよ。特にヒンジのところとかは硬いから、「これぐらい高くしてくれ」みたいなのが結構あって。ポップアップフードとかを使えば話は別ですけど、そうじゃない限りは、2代目、3代目プレリュードの再現は難しい。
清水:そこまで下げてもらわなくてもいいんですけどね……。現状でも決してカッコ悪くはないけど、なぜか刺さらない。
渕野:いや、そうなんですよ。“今ここで、これを出してくる理由”みたいなところが難しいというか、見えてこない感じで。
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情熱を感じさせてくれよ!
ほった:今ここでこれを出す理由ですか? 前回話していたとおりじゃないですかね。北米向けの「シビック クーペ」をなくしちゃったから、その後釜ということで。
渕野:そうかもしれません。
ほった:シビック クーペとか日産の「フェアレディZ」もそうですけど、前のほうにピークがあるルーフラインとかは、アメリカ人の好みのようですからね。いいとか悪いとかじゃなくて、シンプルに「マーケティングの要望をがっつり盛り込んだら、こういうカタチになりました」っていうことなのかも。
渕野:そこに勝機があるということなんでしょうか。
清水:ひょっとしてホンダ社内に、どうしてもクーペ出したいんだっていう熱い思いがあったのかもしれない!
渕野:うう~ん。……フェアレディZの場合は、すごくそういうのを感じたじゃないですか。でもプレリュードにはあんまり感じないんですよね。
清水:「『プリウス』っぽい。プリウス クーペだ!」っていう意見も聞きました。
渕野:プリウスっぽいって、どこら辺ですかね?
清水:するっとしてるってところかな?
ほった:“ハンマーヘッド”のヘッドランプじゃないですか?
渕野:そっちでしょうね。ランプのグラフィックのほう。似ているのはフロントまわりだけで、シルエットは全然違いますから。正直、プリウスのほうが先進的ですしね。こちらも悪くはないんですけど……。
ほった:「悪くはないんだけど」っていう評価自体が、こういうクルマとしてどうなのかと。
渕野:こういうクルマって、つくり手の情熱のほとばしりみたいなものが欲しいじゃないですか。マーケットインだけではなくて、プロダクトアウト的な、つくり手のこだわりみたいなものが。
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スポーツカーは進化しなくてもいい?
清水:渕野さん、フェアレディZのデザインについてはどうなんですか?
渕野:向こうはFRですから、スポーツカーとして断然わかりやすいですよね。こっちはFFベースのクーペなので。
ほった:いや、清水さんが聞きたいのはリバイバルデザインはどうかって話ですよね。ワタシたちは「新しいカタチはイメージが違う!」っていうけど、じゃぁ復刻デザインならよかったのか? っていう。
清水:新しいZは、われわれの心に完全に刺さってるわけですよ。モロにリバイバル的なデザインで、受注が殺到して取り合いになってるわけじゃないですか。でもプレリュードは、そうはならない気がするわけです。
渕野:Zは普遍的なプロポーションのいいデザインだと思うし、スポーツカーをつくりたいという心意気も感じますよね。でも強いて言えば、2022年のオートサロンに出てたオレンジのやつ(参照)がカッコいいな。
ほった:「432R」をオマージュしたコンセプトモデルですね。
渕野:ノーマルは、特に顔まわりのグラフィックが幾何学的で、少しドライな印象を受けるんですよね。もう少しスポーツカーらしい、「パッション」みたいなのが欲しいです。
清水:渕野さん、意外とコテコテ好きなんですね(笑)。
ほった:ワタシも断然、432R派です。
清水:とにかく、Zみたいなスポーツカーは、元祖に近ければ近いほどカッコいいと思うんですよ。だからリバイバル大歓迎。デザイン的に進化してもらう必要は全然感じない。個人的にはね。
ほった:極端な話、レプリカでいいんですね?
清水:レプリカはニセモノだからダメ! 「よみがえった初代Z」であってほしいんだよ。でもプレリュードが、まんま2代目、3代目みたいなデザインで出てきたら、それはやっぱり恥ずかしいかな……(笑)。Zは本気だったけど、プレリュードはデートカーで、若い頃のはやり病だったから、みたいな感じでね。
ほった:それは清水さんが下心を持ってプレリュードに接してたからでは(笑)?
清水:全員下心を持ってたんだよ!
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昔のイメージが強すぎる
ほった:なんか、いつにも増して話がまとまりませんね。
渕野:うーん。このクルマは、最初から「プレリュードとしてデザインしましょう」ということだったら、多分もっといろんな形が考えられたと思うんですよ。
ほった:出発点は昔のプレリュードとは関係なかったんですもんね(参照)。なのにプレリュードって名前つけちゃったから、こんなややっこしいことになっちゃったのか。
清水:日本人はプレリュードって名前に非常に思い入れが強いからね。なにしろ元祖デートカーだから。でもアメリカ人にはそんな思い入れ、ないよね?
渕野:そもそもプレリュードって、アメリカで販売してましたっけ?
ほった:ええと、ありました。アキュラでもなく、ホンダ・プレリュードとしてしっかり販売されています。「プレリュード インクス」も、アメリカでリトラクタブルヘッドランプがダメになることの対策だったみたいですし。
渕野:なんにせよ、名前だけでこれだけいろいろ連想させられるのって、すごく限られたクルマだけですから、それだけプレリュードっていう名前が強いっていうことでしょう。
清水:日本では強烈ですよ。「デートカー復活!」っていう記事がネット上で盛り上がったし。
ほった:それ書いたの清水さんですよね?(参照)
渕野:やっぱりイメージが強すぎるからですかね。このプレリュードのデザインに関しては、なんかうまい具合に着地点が見つからない。
清水:いや、タイプRが出れば!
ほった:すべて解決ですかね。
清水:これにオーバーフェンダーやリアウイングくっつけて、タイプR出してくれればもうオッケーだよ! このボンネットの厚みも、タイプRって言われれば「スゴいエンジンが入るのかもしれない」って感じで、生きてくる。
渕野:シビックもタイプRみたいにフェンダー出してウイング付けると、やっぱり魅力を感じますからね。
清水:渕野さん、ホントに意外とコテコテ好きだなぁ。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=本田技研工業、向後一宏、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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