新しいアイデアはどこに? 停滞する“日本のモーターサイクルショー”に物申す
2025.04.07 デイリーコラム面積は減ったが人は増えた!
2025年3月28日から30日までの3日間、東京・台場の東京国際展示場で「第52回東京モーターサイクルショー」が開催された。3日間の総来場者は11万8812人で、前回から4.3%増えた計算となる。また前回からの大きな変化としては、開催場所が東京ビッグサイトの西展示棟から東展示棟に移動したこと。西展示棟では1階と2階に展示ホールが分かれていたが、今年の東展示棟では3つのホールを壁をぶち破ってつなげ、出展コマ数1076コマ/総出展者数180者/展示車両584台を、巨大なひとつの空間に集結させた。ホールが移動したことにより、展示エリアの延べ床面積は13%ほど減少。そこに前回を上回る来場者が押し寄せたのだから、会場は3日間とも熱気に包まれていた。
国内の二輪販売概況は、月ごと、ブランドごとにバラツキはあるが、2024年末からの足もとは芳しくない。中古車市場においても、2024年の販売台数は減少に転じている。しかし会場にやって来た人たちは、みな目を輝かせ、ニューモデルに対する熱量も高かった。来場者数が前回よりも多かった初日と2日目は、外は真冬のような寒さだったにもかかわらず、会場内はTシャツでも汗ばむほどの熱気で、お目当ての新型車まで人をかき分けてブースを進み、ようやくバイクにたどり着いても跨(また)がるには順番待ち……といったありさまだった。
こうした熱気に応えるように、各メーカーがブースに並べた新型車やコンセプトモデルも多かった。それらの詳細については、webCG編集部が会場をくまなく歩いて撮影した、各メーカーのギャラリーを確認していただければと思う(参照)。
しかし、これはあくまでも個人的な感想と前置きをしたうえで話したいのだが、今回は各メーカーに元気がなかったと感じてしまった。より正確には、「いつもどおりのモーターサイクルショーに戻ってしまったな」と。前回は各メーカー、主に国産メーカーがブース内コンテンツに工夫を凝らし、単にニューモデルを展示して跨がってもらう“新型バイク跨がり会”から脱去しようと画策しているのが感じられた。その取り組みに対して、さまざまな声があったのも承知している。でもモーターサイクルショーをバイクの世界の入り口として捉えるのなら、その在りようを模索するのは自然な流れだ。
しかし今年は、そうした新しいチャレンジを二輪車メーカーのブースで見たり感じたりすることができなかった。
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「日本のバイクショー」の価値を考えるときでは?
いま世界の二輪車市場は大きく変動している。欧州や北米といった二輪先進国市場はやや持ち直し傾向にあるとはいえ、巨大な二輪市場を持つインドとASEAN地域が重要なマーケットとして台頭し、強い発言権を持ってきている。世界最大の規模を誇る欧州のモーターサイクルショー「EICMA」は、そうした市場動向を敏感に受け止め、積極的にインドおよびASEAN地域のメーカーを受け入れている。ショーを新型車の発表の場としてだけでなく、B to B、すなわち企業間の出会いや取引の場とするべく施策を続けているのだ。リアルショーに参加する意義を見いだせずにEICMAから離れていた欧州ビッグブランドを、なんとか引き戻したのも彼らの努力によるものだ。
ひるがえって、市場規模も世界の二輪車市場へのインパクトも薄れた日本のモーターサイクルショーの価値は、どこにあるのだろうか。毎年発表するニューモデルのみにショーの価値を依存してよいのだろうか。前回の各メーカーの試みは、その危機感の表れだと感じていた。今回、そのような新しい試みを見ることができなかったのは、少し残念である。
また主戦場の変化は、各メーカーのモデルラインナップにも影響をあたえた。排気量500ccを中心としたミドルクラスの車両が増えたのも、それが理由だ。しかも国産車/輸入車ともに、それらの車両価格は拮抗(きっこう)。また世界中のメーカーがインドおよびASEAN向けのラインナップを増やし、価格競争力を高めるために生産拠点の現地移管を進めている。これらの事情により、今やメーカーごとの品質や個性の違いも、ごくわずかなものとなった。そうなると、ブランドの“国籍”によって存在していた壁のようなものは、ほとんどなくなってしまったように感じられる。
このあたりはユーザー、とくに若い層は敏感だ。皆、どこの国のブランドか、どこで生産されたモデルか、ということにはまったく縛られないで、モーターサイクルショーを楽しんでいるように見える。すでに欧州や北米、ASEAN地域では、インドおよび中国のブランドが攻勢をかけ、シェアを獲得している。ジャーナリストやユーザーの評判も上々だ。この流れは、いずれ日本にもやってくる。今年の東京モーターサイクルショーでは、それら新興ブランドのいくつかが出展していたし、すでに輸入車ブランドの販売台数上位にランキングしているブランドもある。そういった存在によって、日本の二輪車市場が活性化することはいいことだ。
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追い風が吹いているうちに新しいアイデアを
同時に、二輪完成車メーカー以外の、二輪用品および関連メーカーがショーをしっかりと盛り上げていたことも感じられた。新しい技術によってバイクライフを楽しく豊かにするアイテムにあふれていたことはもちろん、東京の会場をB to Bの場として活用し、そこここで世界に打って出るためのビジネスチャンスを広げる努力を垣間見ることができた。またSNSを駆使した情報発信や、多彩なブース内コンテンツを使ってブランドおよび商品の告知を積極的に行う様子も認められた。
今やバイク系○○タレント的なカテゴリーが生まれるほど、バイクがレジャーのいちジャンルとして広く認知されているのはご存じのとおり。今回の東京モーターサイクルショーでも、ソレ系の撮影が数多く行われていた。関連メーカーの出展では、彼ら彼女らとしっかりとコミュニケーションをとり、お祭り的なモーターサイクルショーをからめてブランド認知を高める努力をしているのが見られた。あとは高まった認知を、ファンの獲得につなげるための次なる一手を打つだけだ。まぁ、それが難しいのだが……。
総合すると、2025年の東京モーターサイクルショーは、二輪完成車メーカーがユーザーを招くショー、“新型車出すから見に来てよ”と出展者が来場者をあおるショーというより、熱量の高い来場者やインフルエンサーによって会場のボルテージが高まり、むしろその熱に出展者があおられるショーだったように感じられた。カスタマーにメーカーがあおられる市場なんて、じつにありがたいことではないか。無論それは希有(けう)な状況であり、こんな追い風のときにこそ、出展者はショーをけん引する次なる一手を打たなければならない。アイデアの捻出は急ぐ必要があるだろう。なにせ次のモーターサイクルショーまで、あと1年しかないのだから。
(文=河野正士/写真=webCG、河野正士/編集=堀田剛資)
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河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
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