第838回:あの名手、あの名車が麦畑を激走! 味わい深いベルギー・イープルラリー観戦記
2025.07.05 エディターから一言 拡大 |
美しい街や麦畑のなかを、「セリカ」や「インプレッサ」が駆ける! ベルギーで催されたイープルラリーを、ラリーカメラマンの山本佳吾さんがリポート。歴戦の名手が、懐かしの名車が参戦する海外ラリーのだいご味を、あざやかな写真とともにお届けする。
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旅のお供は「ダチア・ダスター」
本誌既報のとおり(東スポ風)、ニュルブルクリンク24時間レースの取材のために渡独したボクは、「大枚はたいてヨーロッパまで来たんだから、ついでに」というか、ひょっとしたらこちらが本命かもしれんけど、ニュルの翌週末にベルギー・イープルで開催されるラリーのベルギー選手権&EHRC(ヨーロピアンヒストリックラリー選手権)……すなわち「イープルラリー」へと転戦したのでした。
ニュルブルクリンク24時間レースのフィニッシュ後、あっちこっちで渋滞しまくる幹線道路を田舎道で回避しつつ、もはやわが家と化した東横インフランクフルト店へと全開で帰ります。フロントの皆さまはじめ、食堂のおばちゃんたちとも顔なじみになるくらい泊まりまくっているトーヨコキッズなヤマモトですが、ここのなにがいいって、部屋に入ると日本とまったく同じなこと。お安い価格でエアコン、冷蔵庫、バスタブ付きという桃源郷のようなお宿です。レンタカーを約10日間借りっぱなしということもあって、セキュリティー面でも安心できる駐車場付きというのも大きなメリット。まずはここで、たまった洗濯物と宿題をやっつけます。
レンタカーといえば、今回借りたのはダチアの「ダスター」。先代だか先先代だかにも乗ったことあるんだけど、そちらはなんというか80年代ルノー風味で、キライではなかったけど「さすがに長距離長時間のお付き合いはしたくないな」というのが本音でした。だがしかしですよ、今回借りた現行ダスターには、ジェネリックルノーな雰囲気は皆無。めちゃくちゃいいクルマじゃないですか。
ま、ACCじゃなくてただのクルコンだったりとか、装備面ではツッコミどころもあるけど、そこはまあコストを考えたら仕方ありません。安全装備に関してはほぼ全部盛りでしたし、走っても、160km/h巡行くらいまでは全く問題なし。燃費もいいし、アシさばきもなかなかのものでした。まぁさすがに、日本に持ってきても売れはしないだろうけどねえ。
SSはベテラン向けだけど観戦はビギナー向け
フランクフルトからイープルまでは約500km。かつて世界ラリー選手権(WRC)の「ラリー・ドイチュランド」が開催されていたトリールに寄り道しつつ、ルクセンブルクを通過してベルギーに入国。適当なところで投宿しました。で、なんとなく地図を見ていたらびっくり。10年前に、ボクが初めて取材した海外ラリーの、ベルギーの地方選手権が開催された街のすぐそばだったんです。ということで翌朝、記念すべき海外ファーストショットを撮影した場所を再訪。思いがけずいい旅になったなあ。
ところで、今回のラリーの舞台であるイープルは、猫祭りが有名で、今ではすっかり観光地ですが、第1次大戦の激戦地でもあったんです。壊滅した街はその後復興を遂げましたが、周囲には兵士たちのお墓や慰霊施設が点在。街の入り口にあるメニン門の壁には、戦死した各国の兵士たちの名前が刻まれていて、今でもお花が絶えず供えられています。毒ガスが初めて使われた場所でもあり、広島市と姉妹都市でもあります。
イープルの取材は10年ぶり2回目のボク。前回は、スピード違反や駐車違反などでキップ切られまくったなあと、しみじみしながらステージの下見に向かいました。
このラリーの特徴は、麦畑のなかを縦横無尽に走るコースにあります。で、コーナーのイン側がバンク状になっていて、ここをインカットしてタイムを稼ぐのが腕の見せどころ。思いっきりカットしていいコーナー、少しだけカットしたほうがいいコーナーなど、ひとくちにインカットと言ってもそのあんばいは難しいらしく、初見殺しなラリーといえます。それゆえに、経験値の高い選手が速い傾向にあります。
また撮影する側からいえば、景色の変化が少なくてジャンクションだらけなので、ロードブックなし(海外の国内戦レベルだとコマ図はくれない)での下見が困難を極めるイベントです。しかし、街から近くて主要な道路から少し歩けばステージなので、効率がよく楽といえば楽です。もちろん、これはお客さんにとっても同じ。観戦のハードルは低いので、「初めて海外ラリーを見にいきます」という人にもおすすめです。フランス・パリからクルマで2時間半ほどで来られるしね。
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名手の駆る赤い「スバル・インプレッサ」が復活!
今回のイープルは、豪華選手陣が注目を集めました。EHRCにはヤリ=マティ・ラトバラがST185型「トヨタ・セリカGT-FOUR」で、ベルギー選手権にはヒョンデのワークスドライバー、ダニ・ソルドが992型「ポルシェ911」で参戦。さらに、元ヒョンデのヘイデン・パッドンも「ヒョンデi20 Nラリー2」で、2023年のベルギーチャンピオンで元シトロエンワークスのステファン・ルフェーブルも、「トヨタ・ヤリス ラリー2」で参戦しています。地元ベルギーからも、フレディ・ロイクス、パトリック・スナイヤーズなど超ベテラン選手がイープルに集いました。
なかでも、今回いちばん注目を集めたのは、さまざまなチームで活躍したベルギー人ドライバー、ブルーノ・ティリーが、1997年のイープルラリーでドライブしたWinfieldカラーのGC8型「スバル・インプレッサ」そのもので参戦したこと! ナンバーまで当時と同じで、これを見にベルギーまで来たといってもいいほどですよ。ちなみに1997年のイープルは2位でフィニッシュ。1位はST205セリカで参戦したフレディ・ロイクスでした。その差はなんとたったの7秒!
イギリスで発見されたこのGr.Aインプレッサは、丁寧にレストアされ、先日ベルギーで開催されたイベントにティリー自身のドライブで参戦。大きな話題となりました。そして今回、満を持してイープルラリーに参戦が決まりました。
サービスを担当するメカニックも当時のメンバーを召集。長年コンビを組んできたコ・ドライバーのステファン・プレヴォはほかの選手と参戦しているので、往年のコンビ復活は実現しませんでしたが、サービスにはティリーの家族や古くからの友人たち、多くのファンがひっきりなしに駆けつけ、とてもいい雰囲気でした。ティリーとは初対面だったのだけど、めちゃくちゃ気さくなとてもいいおっちゃんでした。サービスに常に人が集まっていたのも、ティリーの人柄によるところなんだろうなあ。
そんな、常に笑顔でめちゃくちゃいい人なティリーですが、いざラリーがスタートすると、これがめちゃくちゃ速いんです。ちょっとしたペナルティーなどはあったりしたけれど、走りのキレ味は今でも抜群。撮りながら「すげー」って口に出たほどでした。結果的にはブレーキローターが割れてリタイアしてしまったけど、現役当時をほうふつとさせる(といってもボクは映像でしか見たことがないけど)走りを見られたので大満足です。いやはや、ほんまにいいもん見たわ。
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トップクラスの選手が競技のレベルを引き上げる
ほかの選手の活躍を見ると、今年からEHRCにフル参戦しているラトバラ/フッシ組は、今回もオープニングステージから絶好調。ぶっちぎりの速さを見せつけますが、ヘッドガスケットが抜けて惜しくもリタイア。E30型「BMW M3」のマエヤルト・ピータージャン/デウルフ・イヴ組が総合優勝しました。
ラトバラの参戦についてほかの選手たちからは、「世界のトップで活躍してきた選手と同じ舞台で戦えることがうれしい」「彼のラリーに対する姿勢は見習うべき点が多くある」といった意見が多く聞かれました。とはいえ、当のラトバラ自身はとてもリラックスしており、ほかの選手たちとも気さくに話していて、とてもいい雰囲気。トップドライバーの参戦でイベント自体のレベルも上がっていくんだろうなって感じました。その証拠に、2024年までFIAのセーフティデリケートとしてWRCに帯同していたミシェル・ムートンが、今回はEHRCのセーフティデリケートとしてイープルに参加していましたから。
いっぽう、ベルギー選手権のほうはヘイデン・パッドン/ジャレッド・ハドソン組が首位を走り続けるも、ステファン・ルフェーブル/グザビエ・ポルティエ組がSS11で逆転して総合優勝。3位には「シュコダ・ファビアRSラリー2」で参戦するヨス・フェルスタッペン/ルノー・アモウル組が入りました。そう! 最近では息子さんのほうが有名な、あのヨスですよ。2022年からラリーに参戦し始めたパパスタッペン。2022年のベルギー選手権最終戦「スパラリー」で走りを見たときはあまりパッとしなかったけど、今回久々に見たらあらびっくり。おっさんになっても速くなるんですね。さすがは元F1パイロットって感心しながら、ボクはイープルを後にしたのでした。
ベルギーって、日本にいるとチョコレートと小便小僧くらいしかイメージが湧かないかもだけど、ラリーに関しては、意外と話題が豊富なお国なんです。お隣のラリー大国フランスの陰に隠れている雰囲気もあるけれど、イープルのような個性的なイベントもあるので、ラリー好きのアナタ、ぜひベルギーにも注目してみてください!
(文と写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
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山本 佳吾
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