第85回:日産はカーマニアを切り捨ててる?
2018.04.10 カーマニア人間国宝への道カーマニアの言い分
元日産のチーフクリエイティブオフィサー・中村史郎氏のインタビュー絶賛連載中ではあるが、カーマニアの皆さまにも、言いたいことはあるだろう。例えばこんな風な。
「それにしたって、最近の日産車のデザイン、全然良くないよ!」
実を言えば私も、現在国内で売られている日産車の中に、「これはステキだ! 欲しい!」と思えるデザインはひとつもない。
近年発表された日産車の中では、「ジューク」のデザインは非常にユニークで、間違いなく世界に影響を与えた。「シトロエンC3」を見れば、誰でも「これはシトロエン版ジュークじゃないか?」と思うのではないか。まさかシトロエンのデザインが、日産車のフォロワーになろうとは! 考えてみればすごいことである。「アウディQ2」もアウディ版ジュークだと見ている。
が、私個人としては、ジュークのデザインは好みじゃないし、全然欲しいと思わない。グローバルではヒット作だが、日本での売れ行きは、発売直後を除いてあまり良くない。
ぶっちゃけ、ジュークのデザインは、多くの日本人にはエグすぎた(たぶん)。中でもカーマニアは保守的で、伝統的なヨーロピアンデザインを好むので、ああいった斬新すぎるデザインは否定の対象だ。
なにしろ、近年国内市場で台数が出ている日産車といえば、軽を除けば「ノート」と「セレナ」と「エクストレイル」くらい。その3モデルで約7割を占める。ノートもセレナもエクストレイルも、カーマニア的にはステキなデザインには感じないし、その他のモデルも、多くがいまひとつだ。
マツダデザインに軍配
スポーツカーの分野を見れば、「GT-R」は日本の誇りだが(デザインについても後に触れる予定)、フルチェンジのないまま11年目を迎え、今後も予定はないようだ。「フェアレディZ」も立ち枯れ状態。
2013年の東京モーターショーに出展された「IDx(アイディーエックス)」は、「ブルーバード」(3代目・510型)の再来といわれ、ニッポンのカーマニアも色めき立ったが、結局商品化されなかった。
カーマニア的見地に立つと、今の日産は、デザイン面含め「我々の期待を裏切り続けているメーカー」ということにすらなる!
逆に、我々ニッポンのカーマニアが、「素晴らしいデザインを連発している!」と感じる国産メーカーは、マツダだ。
現行モデルを見ると、どれもこれもハズレがない。ダントツに素晴らしいのは「ロードスター」。現行モデルとして世界一のデザインかもしれない。
「CX-3」「CX-5」「CX-8」のSUV軍団も、どれもこれも精緻でカッコいい。ジャガーのSUV軍団にすら比肩すると考えております!
マツダ車は走りもいい。まさにカーマニア的優等生。「マツダ車はホントにいいね!」というのが、我々の共通認識だ。
じゃ、両社の業績はどうなのか?
まず日産。ルノー&三菱というグループ会社を除き単体で見ても、大変好調である。
実はこの時点で、カーマニア的には面白くない。「それはクルマ好きを切り捨ててるからだろ!」となる。
日産車がアメリカで売れるワケ
我々カーマニアが熱烈支持するマツダも好調だが、日産ほどではない。2017年3月期までの15年間で見ると、日産は売り上げを約2倍に伸ばしているが、マツダは1.6倍だ。ちなみにトヨタは約2倍です。
近年、マツダのアキレスけんはアメリカ市場。やや販売不振である。
その裏には、レンタカー向け台数を絞ってブランド力アップを目指したとか、さまざまな要因があるが、デザインに関して勝手な臆測を述べさせていただければ、今のマツダ車のスタイルはヨーロピアンすぎて、アメリカ人には窮屈に感じるんじゃないか?
じゃヨーロッパで売れているかというと、一部で大変好評だが、なにせ日本車全体のシェアが1割強しかない市場。そんなに台数は望めない。一方日産は、「キャシュカイ」がずーっとヒット中で、欧州における日本車販売台数ナンバーワンの地位を維持し続けている。
マツダの2017年3月期の販売内訳を見ると、ざっくり言って日本20万台、欧州26万台、アメリカ30万台、中国29万台。アメリカ以外の北米とその他の地域を含め、合計約156万台でした。
一方日産は、アメリカだけで約158万台を売っている。
アメリカ人は、良く言えばおおらか、悪く言えば適度にユルいデザインを好む。それは国土の広さや道路環境などさまざまな要因があって培われたもの。少なくともニッポンのカーマニアが「いい!」と思ったデザインが人気になるとは限らない。むしろ逆の傾向が強いだろう。
という現実を念頭に、次回以降、中村史郎氏インタビューの続きを読んでいただけたら幸いであります!
(文=清水草一/写真=webCG/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。