多様化が進むハイブリッド われわれは今どんなものが選べるか?
2022.10.24 デイリーコラム変化・進化の四半世紀
カッコいい呼び名である。「トヨタ・クラウン クロスオーバー」のパワーユニットとして採用された「デュアルブーストハイブリッド」のことだ。ロボットアニメに出てくる必殺技のようで、強そうな響きがある。ハイブリッドはエコというのが通り相場だったが、新たなキャラのシステムだ。説明書きには「パワフルかつリニアな加速フィーリング」「ドライバーの気持ちに応える伸びやかな加速」「爽快なドライビングフィール」とあり、燃費については触れていない。
2.4リッターターボデュアルブーストハイブリッドを搭載するクラウンの燃費は、WLTCモードで15.7km/リッター。昨今の基準では低燃費とは言いがたい。もうひとつの選択肢として用意される2.5リッターハイブリッドシステム搭載モデルは、22.4km/リッターと悪くない数字。システム最高出力は前者が349PS、後者が234PS。同じハイブリッドという言葉を使っていても、まったく異なるタイプのパワーユニットなのだ。
つい最近まで、トヨタのハイブリッドは「THS(トヨタハイブリッドシステム)」というのが常識だった。1997年に「プリウス」で初採用され、さまざまな車種に広がっていったトヨタ自慢の技術である。2003年に第2世代の「THSII」となり、その後も改良が重ねられていく。2022年に発売された「ノア/ヴォクシー」で第5世代へと進化すると、名称を変更。「トヨタシリーズパラレルハイブリッド」と呼ぶようになった。
説明的な名前で、わかりやすい。ハイブリッドシステムには大きく分けてシリーズ式とパラレル式があるが、THSは両方を組み合わせた複雑なシステムである。だから、シリーズパラレルなのだ。2つのモーターを搭載し、プラネタリーギアを使った動力分割機構で駆動と充電を制御する。初の量産型ハイブリッドカーに、それまで存在しなかった高度なパワーユニットを組み込んだのだ。
トヨタでは1993年に「G21」というプロジェクトが始まった。21世紀の自動車像を研究するという、漠然としたテーマを掲げた研究チームである。当初は「小型で室内が広く、燃費のいいクルマ」ぐらいのゆるい目標で、エンジニアはガソリン直噴エンジンと高効率なトランスミッションを組み合わせればいいと考えていたという。その頃は、ハイブリッドの実用化はまだ無理というのが常識だったからだ。しかし、上層部から「燃費を従来の2倍にしろ」という指令が下り、さらに1995年の東京モーターショーにコンセプトモデルを出品することも決まる。明らかに“むちゃ振り”だったが、綱渡りの開発で1997年にプリウスをデビューさせた。「21世紀に間に合いました」というキャッチコピーは実感だったのだろう。
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機械的な構成もさまざま
欧米の自動車メーカーもモーターショーにハイブリッドのコンセプトモデルを出品していたが、実際には商品化する段階には至っていなかったようだ。そこにトヨタがTHSという先進的な技術をぶち込んできた。驚いたはずだが、彼らは表面的には冷静を装っていた。ハイブリッドはつなぎの技術でしかなく、燃料電池車が登場すれば意味を失うと主張していたのだ。内燃機関とモーターという2つの動力を使うのは非効率だという考えである。一神教的な世界観がハイブリッドとは相いれないと解説する向きもあったが、真に受けていいのかはよくわからない。
日本では、ハイブリッドが好意的に受けとめられた。1999年にホンダがパラレル方式のハイブリッドシステムを搭載した「インサイト」を発売し、トヨタに続く。パラレル方式では主にエンジンが駆動を担い、モーターは補助動力として使われる。マイルドハイブリッドと呼ばれるものはこのタイプで、スズキが2012年に「ワゴンR」で初採用した「エネチャージ」も含まれる。このシステムは「S-エネチャージ」へと発展し、現在ではわかりやすく「マイルドハイブリッド」と呼ぶようになった。
ホンダは試行錯誤を繰り返し、さまざまなシステムを開発する。シリーズ式では「i-MMD」、パラレル式では「IMA」「i-DCD」があり、3モーターで4WD機構を備えた「SH-AWD」もつくられた。最新のシステムが「e:HEV」で、モーター駆動を主としながら高速走行ではエンジンが強力にアシスト。「フィット」や「ステップワゴン」などで採用され、今のホンダの主流ハイブリッド技術となっている。
ハイブリッドに冷淡だった欧州勢は、2016年頃から「48Vハイブリッド」の採用が始まる。車載電源を12Vから48Vに変更し、効率を高めてモーターを駆動する仕組みである。構成はスズキのシステムと変わらないマイルドハイブリッドで、燃費ではストロングハイブリッドのTHSにはとてもかなわない。メルセデス・ベンツが直列6気筒エンジンを復活させた際には、48Vハイブリッドに加えて電動補助チャージャー(eAC)とツインスクロールターボチャージャーを組み合わせていた。ストロングハイブリッドのような複雑な機構にしたくないからマイルドハイブリッドにしたという説明だったが、結果的にもっとややこしくなってしまっている。
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存在感の強まるハイブリッド車
シンプルで効率的なハイブリッドシステムとして浮上してきたのが、シリーズ式である。エンジンは駆動力としては機能せず、発電に専念する。供給された電力でモーターが車輪を回す仕組みである。日産が2016年に「ノート」で初採用した「e-POWER」が有名だ。モーター駆動ということでは電気自動車と同じで、ガソリン車とは異なる静かでなめらかな走りで人気を得た。現在では「セレナ」や「エクストレイル」にも搭載され、日産を支える重要な技術となっている。
喜ばしいことだが、当初e-POWERを「充電を気にせずどこまでも走れる、電気自動車のまったく新しいカタチ」と説明していたのはいただけない。電気自動車という言葉は誤解を生むし、まったく新しいカタチというのも違う。シリーズハイブリッドの歴史をさかのぼれば、「ローナーポルシェ」に行き着く。フェルディナント・ポルシェ博士が開発した電気自動車で、航続距離を伸ばすためにシリーズハイブリッドモデルの「ミクステ」が追加された。100年以上前の話である。
2021年に姉妹車「ダイハツ・ロッキー」「トヨタ・ライズ」に加わったハイブリッドモデルにも、シリーズ式が採用された。ダイハツが親会社トヨタの技術を使わず、自社開発のシリーズハイブリッドを選んだことには理由がある。ダイハツの主力製品となっている軽自動車に搭載することも視野に入れれば、シンプルで安価なシステムにする必要があったのだ。
驚きの目で迎えられたのは、2022年に日本に導入されたSUV「ルノー・アルカナ」に搭載された「E-TECHハイブリッド」である。マイルドではなく、本格的なストロングハイブリッドなのだ。アライアンスを組む日産に頼ることなく、独自開発したシステムである。1.6リッター直列4気筒エンジンに2つのモーターを組み合わせ、低速域ではEVモードで走行。燃費はWLTCモードで22.8km/リッターという立派な数字で、自然なフィールの力強い走りも好評のようだ。
ヨーロッパでは内燃機関を排除するEV化の動きが進んでいた印象があったため、新たなハイブリッドモデルの登場には意表を突かれた。潮目が変わりつつあるのだろうか。新エネルギー車(NEV)政策で過激なEVシフトをもくろんでいた中国も、方針を転換してハイブリッド優遇策を打ち出している。各国政府や自動車メーカーのなかで、ハイブリッドが現実解として優秀なテクノロジーであることが了解されつつあるのかもしれない。選択肢が広がるのは、ユーザーとしては歓迎したい動きである。
(文=鈴木真人/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、ダイハツ工業、スズキ、メルセデス・ベンツ、ルノー/編集=関 顕也)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。