第768回:テイン中国工場訪問記その3~中国製BEV 4台を試す~
2023.10.05 エディターから一言試乗車はタイムリーな顔ぶれ
ようやくインプレッションである。テインがわれわれのために用意してくれた試乗車は4台、今大注目の「BYD SEAL(シール)」をはじめとしたすべて中国製BEVである(テスラは上海工場製)。ただし、前述したように中国では旅行者が免許を取るのは大変に面倒なため、宿遷市郊外の免許試験場の中のカートコースと外周路、スラロームを組み合わせた特設テストコースが舞台である。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いのBYDのシールは同社の“海洋シリーズ”(先日国内発売されたのは同シリーズの「ドルフィン」)のトップモデルで、2023年末には日本に導入予定とされる注目の一台だ。前後アクスルにモーターを積むAWDでシステム最高出力は530PSと極めて強力だ。ジーリー(吉利汽車)のBEVブランドであるジーカー(Zeekr)の「001」は、シューティングブレークのようなボディーといい、計544PSを発生する前後2基のモーターによるAWDといい、ポルシェの「タイカン クロスツーリスモ」をライバル視しているかのようだ。さらにテスラの「モデル3」(スタンダードレンジRWD)と「モデルY」(ロングレンジAWD)というタイムリーなラインナップである。これら4台をまずスタンダードのまま試乗し、その後テインのサスペンション各種に交換して試すという段取りである。
これまでの経験からいっても、満足できる乗り心地を持つBEVにはめったにお目にかかれない。電子制御のエアサスや可変ダンパーを持つ高価格帯のモデルはさておき、コンベンショナルなサスペンションの場合は重い車重に対して足まわりを締め上げる必要があり、どうしても段差での突き上げやピッチングが気になるクルマが多い。ゴツン、ビリビリといったややガサツな乗り心地が600万円台以下のBEVでは珍しくない(4台の中国国内価格は500万~600万円)。
その点シールは標準状態でもなかなか洗練されている。ただし滑らかな第一印象ながら、パワフルなパワートレインに対してサスペンションはちょっと力不足というか、攻め込んでいくと、抑えが足りないきらいがあり、底づきすることもあった。全長ほぼ5m、全幅2mと巨大なジーカー001は0-100km/h加速3.8秒(シールも同じ)の公称データを納得させるほどのどとうの加速を見せる。巨大なマスがよいしょっと動く腰高感もあるが、パワフルさでは随一で、これまたなかなかの完成度である。両車ともサスペンションの構成やインストゥルメントなどを見ると、先行したテスラを徹底的に研究しているようだが、実際に乗ってみると、テスラよりも洗練されている印象である。
BEVにはとりわけ効果大
スタンダードの足まわりで基本キャラクターを確認後、人気上昇中というテインの純正形状ダンパー「エンデュラプロプラス」に交換する。現場で交換してすぐ試乗できるというのも、モータースポーツ最前線での経験豊富なテインのエンジニアがいてこそ、である。ちなみにエンデュラプロシリーズの減衰力調整機構付きがエンデュラプロプラスで、スプリングはスタンダード品をそのまま使う。
当然ながら標準品よりも滑らかでしなやかな乗り心地に変わる。テイン製品のなかでは比較的手ごろなエンデュラプロ(車種によって1万~2万円/1本)であっても、精度や耐久性はいわゆる量産標準品とはレベルが違い、動きだしからスムーズでしなやかな挙動を見せることは既に経験済みである。さらにテインのダンパーの特徴はほとんどの製品に「H.B.S.(ハイドロバンプストッパー)」と称する、一般的なバンプストッパーの代わりの機構を備えていること。ストロークエンドでオイル流路を絞ってエネルギーを吸収するもので、シトロエンで言うところの「PHC」(ルノーなら「HCC」)と構造は違うが、同じ考え方から生まれたメカニズムである。そのおかげで段差の乗り越えなど、スタンダードではガツンと強烈に底づきするような場面でも、突き上げを抑えることができる。スタンダードではどうしてもラフな乗り心地のテスラ2台、なかでも重くパワフルなモデルYではとりわけ効果が大きく、直接的なショックと跳ね返りが緩和されて、ギャップに身構えることなく、よりフラットな姿勢を保ったまま走り抜けることができた。とはいえ、リニアなボディーコントロールという点ではシールや001には及ばなかった。
そのテスラ・モデル3も車高調整式の「フレックスZ」に交換すると(減衰力は16段階の真ん中、車高は-20mmほど)見違えるようにスポーティーに変身した。標準品よりもスプリングレートが上がっても乗り心地も損なわれない。ただしモデルYだけは最後までピシッとしなかった(サスペンションというより前後の出力制御がラフな印象を受けた)。
ちょっと攻めたコーナリングではボディーの挙動に頼りなさがあったBYDシールもピシッと落ち着き、強力なモーター性能を思い切り使えるようになった。最後はフレックスZに電子制御減衰力可変システムの「EDFC5」を装着して試したが、こうなるともう上級クラス並みである。エアサスや可変ダンパーを備えるBEVは現状1000万円以上するから、EDFC5を後付けするメリットは大きいはずである。
当たり前だがエンジン車に比べて圧倒的に静かなBEVでは、NVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)を含めた快適性をどうするかで、洗練されていると感じるか、あるいはちょっと“安普請”だと思うかが左右される。一気にBEVにいかないまでも、電動化でどうしてもさらに車重が増加する状況下で、テインの言う「プレミアム・リプレース製品」はより注目されるはずだ。いつの間に磨き上げたのか知らないが、さすがの目のつけ所である。
(文=高平高輝/写真=テイン/編集=藤沢 勝)

高平 高輝
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