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第54回:ヨーロッパのカーデザインをブッタ切る(後編) ―変化を嫌い、挑戦を恐れる者に未来はない―

2025.01.22 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一
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BMWの最上級サルーン「7シリーズ」のフロントマスク。
BMWの最上級サルーン「7シリーズ」のフロントマスク。拡大

硬直化したドイツ系に、物議を醸すイタリア系……。彼らに代わって台頭した、新しい欧州カーデザインのリーダーとは? そもそもヨーロッパのメーカー/ブランドは、なぜ袋小路にはまったのか? 世界のカーデザインを、識者とともに俯瞰(ふかん)する。

前編に戻る)

1998年から2012年まで生産された「プジョー206」。日本でも大ヒットし、輸入車マーケットでプジョーが地位を築くのに一役買った。
1998年から2012年まで生産された「プジョー206」。日本でも大ヒットし、輸入車マーケットでプジョーが地位を築くのに一役買った。拡大
“メガーヌ2”こと2代目「ルノー・メガーヌ」。(2002-2008年)
“メガーヌ2”こと2代目「ルノー・メガーヌ」。(2002-2008年)拡大
クーペとミニバンが融合した「アヴァンタイム」(2001-2003年)。2000年代のルノーは、とにかくトガってた!
クーペとミニバンが融合した「アヴァンタイム」(2001-2003年)。2000年代のルノーは、とにかくトガってた!拡大
これもまた強烈だった、初代「フィアット・ムルティプラ」(1998-2010年)。
これもまた強烈だった、初代「フィアット・ムルティプラ」(1998-2010年)。拡大
デザインがノリノリだったころのアルファ・ロメオ。左上が「GTV」(1993-2006年)、左下が2代目「スパイダー」(1994-2006年)、右上が「156」(1997-2007年)、右下が「166」(1999-2007年)。
デザインがノリノリだったころのアルファ・ロメオ。左上が「GTV」(1993-2006年)、左下が2代目「スパイダー」(1994-2006年)、右上が「156」(1997-2007年)、右下が「166」(1999-2007年)。拡大

イタリアもフランスも輝いていた

渕野健太郎(以下、渕野):……ドイツ車の振り返りはこの程度にして、フランス車/イタリア車のデザインに話を移したいのですが。20年ちょっと前のあたりだと、例えば「プジョー206」は、日本でもかなりの人気でしたよね。実際、コンパクトカーとしてすごくいいデザインでした。

清水草一(以下、清水):その前の「205」もすごくよかったんだけど、なぜか日本ではそれほど一般ウケせず、206が一般ウケして大ヒット。

webCGほった(以下、ほった):206は女性ウケしましたからねぇ。

清水:そういえば、205はまだキャブだったから、お金持ちのお嬢さまが近場の移動で使うと、すぐプラグがかぶって、ディーラーは大変だったみたい。

ほった:デザインと関係ない話は、また別の機会にいたしましょ。

渕野:プジョー以外だと、2代目の「ルノー・メガーヌ」あたりはフランスらしさ全開っていうか、「なかなかこういうデザインできないよな」って思いました。とにかく個性をすごく発揮してた。

ほった:リアガラスが絶壁みたいに立ってましたよね。

清水:あんなの、当時の日本車じゃ考えられない。

ほった:なにせアレは「アヴァンタイム」の遺産ですから。

清水:アヴァンタイムは突き抜けてたよなぁ。あのころのフランス車のデザインはスゴかった。

渕野:イタリア車も面白いのがいっぱいあって、「フィアット・ムルティプラ」なんか、独特すぎるくらい独特でした(笑)。それに比べるとアルファ・ロメオは正統派でしたけど、「GTV」「スパイダー」「156」「166」と、魅力あるクルマたちだったなって思います。

清水:アルファは、あのあたりが最近の頂点でしょう。

ほった:最近でもないでしょう。もう30年くらい前ですよ。

清水:ここ30年であれが頂点(笑)。

 

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デザイン界で台頭した2つのブランド

渕野:で、現在はどうかというと……今でも割と、そのままの流れを継続してるのかな。それぞれのメーカーの個性は出続けてると思います。

清水:フランス車はプジョー、シトロエン、ルノーともに悪くないですけど、フィアットやアルファはメタメタでしょう! ほった君も言ったように(参照)、「フィアット・グランデパンダ」にはホントにガックリきた。アルファなんて、「ジュリア」は「BMW 3シリーズ」にそっくりだし、「トナーレ」も「ステルビオ」も、SUVとして凡庸だし……。

ほった:フィアットはエレキ軍団(=電気自動車)のデザインがいいでしょ? 「500e」に「トッポリーノ」。サイコーです。

清水:あれはいいけど、EVだからなぁ。

ほった:先生、これはカーデザインの連載でっせ?

渕野:自分としてはフランス車、イタリア車より、ドイツの、特にこれまでカーデザインをけん引していたBMWやアウディといったブランドのデザインがわかりづらくなったので、ヨーロッパ車全体のデザインが迷走しているみたいに見えると思っているんですが。

清水:いやいや、イタリア車のデザイン低迷は、ドイツ車以上に深刻ですよ! ブランド力がないぶん、デザイン命だったし!

ほった:なのにその命が失われたと。お亡くなりになったわけですね。

清水:カーマニア的には中古車があるから問題ないけどさ。

渕野:まあ確かに、欧州メーカーでもイタリア車のデザインが一番かといわれれば、今はそうでもないですね。今、ヨーロッパ車のデザインをけん引してるのは、ランドローバー系(レンジローバー、ディフェンダー、ディスカバリーの3ブランド)やボルボです。1990年代とか2000年代はドイツ車がけん引してましたけど、今は全然違うブランドが、デザインを引っ張っている。

清水:ランドローバー系のブッチギリっていう気がします。

渕野:ランドローバー系は、今でも日本のメーカーではあまりマネできないようなデザインをしていると思うんですよ。まずプロポーションが研ぎ澄まされていて、設計要件だらけの日本車ではとてもできません。またここまで凹凸がない造形っていうのは、技術的にもかなり難しいのかなと思いますし。「レンジローバー・ヴェラール」なんか、ものすごく洗練されてる。日本車ではなかなかこういう雰囲気は出せません。

清水:先代「レンジローバー イヴォーク」の衝撃がスゴすぎて、その後のランドローバーは全部同じに見えるっちゃ見えるんですけど、どれもこれも美しすぎることは間違いないですね。

渕野:ボルボも、こちらは割と普通に見えるんですけど、その実こういう雰囲気を出すのは難しいんですよ(参照)。

上が先代「BMW 3シリーズ」(2012-2019年)、下が現行型「アルファ・ロメオ・ジュリア」(2016年-)。 
ほった「これは似てますよね」 
清水「言い逃れできないよね」
上が先代「BMW 3シリーズ」(2012-2019年)、下が現行型「アルファ・ロメオ・ジュリア」(2016年-)。 
	ほった「これは似てますよね」 
	清水「言い逃れできないよね」拡大
フィアットの電動パーソナルモビリティーである、新型「トッポリーノ」。 
ほった「いやー、スバラシイ!」 
清水「こないだは『自動車のポケモン化はけしからん!』とか言ってたくせに」
フィアットの電動パーソナルモビリティーである、新型「トッポリーノ」。 
	ほった「いやー、スバラシイ!」 
	清水「こないだは『自動車のポケモン化はけしからん!』とか言ってたくせに」拡大
個性の強さに洗練度、革新性、提案性と、どれをとっても高いレベルにあるランドローバー系のブランドのデザイン。写真は、上が「レンジローバー」、下が「レンジローバー・ヴェラール」。
個性の強さに洗練度、革新性、提案性と、どれをとっても高いレベルにあるランドローバー系のブランドのデザイン。写真は、上が「レンジローバー」、下が「レンジローバー・ヴェラール」。拡大
スタイリッシュなデザインで世界を驚かせた、初代「ランドローバー・レンジローバー イヴォーク」(2011-2019年)。ラインナップもユニークで、3ドア、5ドアに加え、コンバーチブルも用意された。
スタイリッシュなデザインで世界を驚かせた、初代「ランドローバー・レンジローバー イヴォーク」(2011-2019年)。ラインナップもユニークで、3ドア、5ドアに加え、コンバーチブルも用意された。拡大
EVのコンパクトSUV「ボルボEX30」。同車および今日のボルボデザインの見どころについては、当連載の過去記事で詳しく触れているので、興味がある人は本文内のリンクをポチってほしい。
EVのコンパクトSUV「ボルボEX30」。同車および今日のボルボデザインの見どころについては、当連載の過去記事で詳しく触れているので、興味がある人は本文内のリンクをポチってほしい。拡大

王道をいき続けたドイツ車のジレンマ

ほった:ちょっとオモロいのは、ランドローバーもボルボも、両方とも一度傾いて、中国とかインドの超絶金持ちに買い取られたブランドなんですよね。

渕野:そうそう。そういうところのほうが、好きなようにやらしてくれるってこともあるんでしょうね。そういう点でも、ドイツ系は結構ジレンマを抱えてるのかもしれません。

清水:ドイツ車は面倒見てもらうキャラじゃないからなぁ。

ほった:プライド高そうですもんね。

渕野:性分としても冒険しにくいんでしょうね。ドイツ系は基本的に、強いドア断面をつくって、それを前後に伸ばすっていう“普通”のクルマづくりを今もしてるんです。アウディにしろBMWにしろ、大体それなんですよ。だから、ドア断面はどこを切ってもあまり変わらない。

清水:そうなんですか?

渕野:(写真を見せて)ドアまわりを見ると、前から後ろまで、そんなにデザインって変わってないじゃないですか。ずっと同じところにピークがあって、リフレクションも平行。アウディもBMWも、大体がこんな感じです。最近の両社のクルマは顔がすごくグワーってなってますけど、実はプロポーションは割と、いや、かなりコンサバなんです。

ほった:顔がグワーなのは誰が見てもわかりますが(笑)。

渕野:この辺に関しては、日本車のほうがずっとチャレンジしてます。例えば「マツダCX-30」とか。

清水:面のうねりといえば「マツダ3」! とか。

渕野:この2台に限らずなんですけど、マツダのデザインって、どの断面をとっても同じところがないですよ。前から後ろまで、常に立体を大胆に変化させている。そういうのが上手なのは、マツダであったりトヨタ/レクサスであったりで、日本車のほうがよくやるんです。ヨーロッパって、「断面は通すもんだ」「クルマってのはこういうもんだ」みたいなのがまだあって、なかなかブレイクスルーしづらいんじゃないかな。

アウディの最新EV「A6スポーツバックe-tron」。フロントまわりは今日のアウディに共通のコテコテデザインだが、ドアパネルの意匠は非常にシンプル。下部のグラフィックで個性をつけている。
アウディの最新EV「A6スポーツバックe-tron」。フロントまわりは今日のアウディに共通のコテコテデザインだが、ドアパネルの意匠は非常にシンプル。下部のグラフィックで個性をつけている。拡大
保守的な面づくりはBMWも共通だ。側面を走るキャラクターラインはクルマの軸と平行。フェンダーにかかる箇所の変化を除くと、ピークの位置も前から後ろまで変わらず、リフレクション(陰影)もほぼ平行で終始する。
保守的な面づくりはBMWも共通だ。側面を走るキャラクターラインはクルマの軸と平行。フェンダーにかかる箇所の変化を除くと、ピークの位置も前から後ろまで変わらず、リフレクション(陰影)もほぼ平行で終始する。拡大
サイドビューに動きがあるクルマといえば、やっぱりマツダだ。写真はコンパクトSUVの「CX-30」。ドアパネルのピークは、カウルからリアフェンダーのトップにかけて、緩やかに下降。リフレクションも大胆の極みである。
サイドビューに動きがあるクルマといえば、やっぱりマツダだ。写真はコンパクトSUVの「CX-30」。ドアパネルのピークは、カウルからリアフェンダーのトップにかけて、緩やかに下降。リフレクションも大胆の極みである。拡大
「マツダ3」(上)と「フォルクスワーゲン・ゴルフ」(下)。 
ほった「これはまた、非常にわかりやすい対比ですな」 
渕野「保守的なボディーのデザインについては、ドイツメーカーは『クルマってのはこういうもんだ!』という意識が強いんだと思います」
「マツダ3」(上)と「フォルクスワーゲン・ゴルフ」(下)。 
	ほった「これはまた、非常にわかりやすい対比ですな」 
	渕野「保守的なボディーのデザインについては、ドイツメーカーは『クルマってのはこういうもんだ!』という意識が強いんだと思います」拡大

進化し続ける中国や新興国の顧客のセンス

清水:ヨーロッパでは、この辺をブレイクスルーしているメーカーはないんですか?

渕野:プジョーだけだと思います。

清水:えっ、そうなんだ。オーナーが全然わかってませんが(笑)。

渕野:プジョーの造形は全体的に面白いですね。顔やリアはわかりやすいですが、ドア部でもそれを感じます。例えば「408」ですが、ドア面を見るとフロントからリアに向けて徐々にリフレクションが下がって見えますよね。これはリアタイヤに力がかかっているように見せることが目的なんですけど、面をねじったりピークをつけたりして変化をつけてるんです。普通はクルマの軸と並行にリフレクションが入るものですが、これは明らかに下がってます。さらに、この408や「2008」では、ドアの一部を三角に削ったりもしています。こうした手法も、欧州車では珍しいんじゃないかな。

こういうドア面の大胆な表現は、初代「レクサスNX」から生まれたと思います。これ以前は強い軸=強いドア断面でしたから。ドイツ系ではそのような「遊び」がなかなか見られないんですが、実は新型「BMW X3」は、CX-30の立体構成に近い、新しい表現をやろうとしています。でもまだ表現が控えめで、よく見ないとわからないものかもしれませんね。

ほった:日本車の勝利ですね。というかマツダの。

渕野:勝利というか、これはやっぱりクルマの価値観、カーデザインの価値観の問題なんじゃないかな。日本って割と柔軟なので、いろんなことにトライできるけど、ヨーロッパは固定観念が強いので。じゃあどこで変えるか、個性を出すかってなると、顔まわりとかになりがちなんじゃないかなと。

ほった:そうすると、ああなっちゃうわけですね、顔が……。ただ、そういう「押し出しの強さ」の話になると、カーマニアってすぐに「これは中国マーケット向けのデザインだ!」みたいな話をするじゃないですか。でもBYDの「ATTO 3」とか「シール」を見ると、決して顔が「グワー!」じゃないでしょ? 見ようによってはむしろお上品ですよね。そういうのを見てから今の顔デカなドイツ車に目をやると、なんかズレてるというか……。もしこれが本当に中国人ウケを狙ってやってんだとしたら、「デザイナーさん、ちょっと中国人をナメてない?」って思っちゃう。

渕野:シャオミなんか、明らかに昔のヨーロッパ車を志向してますね。中国人はどんどん嗜好(しこう)性が変わっていくけど、ドイツ車はその逆をいってるような感じです。

清水:中国人の嗜好の変化速度は、たぶん日本人とはヒトケタ違いますね。

ほった:スズキの人に話を聞いたら、インドの人のデザインセンスも、すごいスピードで変わっているそうです。見る目がどんどん肥えていく。

清水:新しい「フロンクス」も、その前に日本に来た「バレーノ」とは全然違うもんね。わずか数年で。

挑戦的なデザインの「プジョー408」。サイドビューではシャープなキャラクターラインが目を引くが、リアタイヤへ向けて緩やかに下降していくリフレクションも、大きな特徴となっている。(写真:花村英典)
挑戦的なデザインの「プジョー408」。サイドビューではシャープなキャラクターラインが目を引くが、リアタイヤへ向けて緩やかに下降していくリフレクションも、大きな特徴となっている。(写真:花村英典)拡大
よく見ると、ドアパネルの下部にも一段ピークがあり、こちらも動きがついている。(写真:田村 弥)
よく見ると、ドアパネルの下部にも一段ピークがあり、こちらも動きがついている。(写真:田村 弥)拡大
2014年に登場した初代「レクサスNX」。 
渕野「自分はこのクルマを見て、『ドア断面でいろいろ遊んでいいんだ!』って気づきました。『クルマの軸を表現するには、強いドア断面が必要』っていう固定観念が、なくなりましたね」
2014年に登場した初代「レクサスNX」。 
	渕野「自分はこのクルマを見て、『ドア断面でいろいろ遊んでいいんだ!』って気づきました。『クルマの軸を表現するには、強いドア断面が必要』っていう固定観念が、なくなりましたね」拡大
意外なところでは、「スバル・クロストレック」もドア面に動きをつけてリフレクションを変化させている。 
渕野「恐らくだけど、スバル車では初めての試みだと思いますよ」
意外なところでは、「スバル・クロストレック」もドア面に動きをつけてリフレクションを変化させている。 
	渕野「恐らくだけど、スバル車では初めての試みだと思いますよ」拡大
新型「BMW X3」のデザインスケッチ(上)と実車(下)。最近では、BMWもリフレクションに動きをつけることを意識するようになったようだが……実車はご覧のとおり。プロポーションとの関係性があいまいで、「マツダCX-30」などと比べると、「そこだけイジりました」といった感じで、説得力が弱い。
新型「BMW X3」のデザインスケッチ(上)と実車(下)。最近では、BMWもリフレクションに動きをつけることを意識するようになったようだが……実車はご覧のとおり。プロポーションとの関係性があいまいで、「マツダCX-30」などと比べると、「そこだけイジりました」といった感じで、説得力が弱い。拡大
2022年7月の日本導入発表会より、今をときめく中国BYDの3車種。オラオラ顔のクルマが出るたびに、カーマニアは「これは中国向けのデザインだ!」と主張するが、それはホントに本当だろうか?
2022年7月の日本導入発表会より、今をときめく中国BYDの3車種。オラオラ顔のクルマが出るたびに、カーマニアは「これは中国向けのデザインだ!」と主張するが、それはホントに本当だろうか?拡大

日本車のデザインって、実はスバラシイ

ほった:個人の勝手な印象ですけど、外観デザインに関してだけは、今やドイツのデコトラ軍団よりBYDのほうがすんなり受け入れられるんですよね。まぁ前回も触れたとおり、そのBYDのデザインのボスも、ヨーロッパのお人なんですけど。

渕野:ヨーロッパで経歴を積んだデザイナーが、しがらみなしにフリーハンドでデザインすると、ああいう風になるのかなって感じはしますね。今は本家の欧州メーカーのほうが、テンパってんのかもしれません。

清水:「テンパってる」って、いい表現ですね。

ほった:うん。すごく的確に、欧州のカーデザインの現状を表してる気がする。ただいっぽうで、中国や韓国のメーカーが今のデザインをどうやって達成したかっていったら、片っ端から欧米のデザイナーをヘッドハントしたわけじゃないですか。じゃあアンタたちのオリジナルって、どこにあるのよ? とも思うわけです。

清水:それはまぁ、ないに等しいかな?

ほった:だからですよ……ちょっと自国びいきっぽくなっちゃうんで気が引けるんですが、実はワタシは、日本の自動車デザインって、何気に素晴らしいんじゃないかと思うんですよ。昔は助っ人外国人に頼ってもいましたが、今は全然そうじゃない。トヨタのサイモンさん(チーフブランディングオフィサーのサイモン・ハンフリーズ氏)はイギリス出身だけど、あの人も1994年からトヨタで働いてる“生え抜き”だし。

清水:ボスは明らかに豊田章男会長だしね(笑)。いや、本当に素晴らしいよね。おおむね自力でここまで来たんだから。

渕野:俺もそう思います。さすがにランドローバーみたいなクルマは出てきづらいっていうのはありますけど。

ほった:ランドローバーかぁ~! 初めてヴェラール見たときは、ぶっ倒れそうになったなぁ。貴族のクルマがチョップドルーフかよって感動した! ロックンロールでした。

清水:でもさ、「アルファード」のデザインも、ぶっ倒れるくらいスゴくない?

ほった:それ、褒め言葉ですか!?

清水:もちろん! 「ホンダN-BOX」もスゴいよ。超シンプルでランドローバーに通じるものがある。しかも真の実用車! ああいう箱型の乗用車を次々に開発してるのって、世界で日本くらいだしさ。オリジナリティー満点だよ。

渕野:いろんな制約があるなかで、デザイン的にもやりくりしてるところが素晴らしいですよね。

清水:やりくりしてるうちに、ヨーロッパ車に追い付き追い越しつつある!

ほった:やりくりの勝利ですね(全員笑)。

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=BMW、BYD、JLR、アウディ、ステランティス、トヨタ自動車、フォルクスワーゲン、ボルボカーズ、本田技研工業、マツダ、ルノー、向後一宏、鈴木ケンイチ、田村 弥、花村英典/編集=堀田剛資)

2025年春の日本導入が発表された、BYDの上級SUV「シーライオン7」。デザインが好評な「シール」の意匠を強く受け継いでいる。
2025年春の日本導入が発表された、BYDの上級SUV「シーライオン7」。デザインが好評な「シール」の意匠を強く受け継いでいる。拡大
こちらはBMWの電動SUV「iX」。 
渕野「最近の欧州車というか欧州メーカーって、なんだかテンパって感じるんですよね」 
堀田「それ、すごくいい表現ですね。確かになんか、焦ってデザインしているみたいに感じます」
こちらはBMWの電動SUV「iX」。 
	渕野「最近の欧州車というか欧州メーカーって、なんだかテンパって感じるんですよね」 
	堀田「それ、すごくいい表現ですね。確かになんか、焦ってデザインしているみたいに感じます」拡大
長年にわたりマツダのデザイン開発を主導し、今日の「魂動」デザインを完成させた前田育男氏。氏の例に限らず、今日の日本メーカーでは、多くのリーダーは社内で鍛えられた生え抜きが担っている。(写真:鈴木ケンイチ)
長年にわたりマツダのデザイン開発を主導し、今日の「魂動」デザインを完成させた前田育男氏。氏の例に限らず、今日の日本メーカーでは、多くのリーダーは社内で鍛えられた生え抜きが担っている。(写真:鈴木ケンイチ)拡大
2017年に登場した「レンジローバー・ヴェラール」。 
ほった「天下のレンジさまが、まさかのチョップドルーフですよ。数量限定の5リッターV8スーパーチャージドモデルとか、最高にロックでした」 
清水「ほった君。これはデザインの連載だよ?」
2017年に登場した「レンジローバー・ヴェラール」。 
	ほった「天下のレンジさまが、まさかのチョップドルーフですよ。数量限定の5リッターV8スーパーチャージドモデルとか、最高にロックでした」 
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清水「ぶっ倒れるほどスゴかったといえば、『トヨタ・アルファード』のデザインもスゴくない!?」 
ほった「回答は控えさせていただきます」
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軽トールワゴンの「ホンダN-BOX」。実用車ならではの厳しい制約があるなかで、いろいろやりくりして、ブランドごとのオリジナリティーまで表現している日本のカーデザインは、なんだかんだ言って実はスゴいのではないだろうか?(写真:向後一宏)
軽トールワゴンの「ホンダN-BOX」。実用車ならではの厳しい制約があるなかで、いろいろやりくりして、ブランドごとのオリジナリティーまで表現している日本のカーデザインは、なんだかんだ言って実はスゴいのではないだろうか?(写真:向後一宏)拡大
渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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