新CEOはフィアット出身のアメリカ通? ステランティスの新人事にみる巨大自動車グループの未来
2025.06.20 デイリーコラム新しいCEOはフィアット出身
ステランティスのグローバルウェブサイトを見ると、シェアやリースのそれも含めて、実に16ものブランドのロゴマークが並んでいる。2つの大陸にまたがるこれだけの手駒をコントロールするのは、さぞ大変なことだろう。
2021年のグループ設立以来、その重責を引き受けてきたカルロス・タバレス氏が、任期満了を待つことなく2024年末にその座から退いた。以来、しばらくCEOは空席となっていたが、このほどイタリア人のアントニオ・フィローザ氏の就任が発表された。
ルノーでカルロス・ゴーン氏に次ぐナンバー2の座にあり、2014年にグループPSAに移って以来、トップの座にあり続けてきたタバレス氏と比べると、知名度はいまひとつかもしれない。ただ、1999年よりフィアットグループの南米事業に長く関わり、ステランティスでは南米COO、ジープ・ブランドCEO、北米COOを経て、2024年12月に北米と南米の両地域のCOOとなっている。フィローザ氏もキャリアは申し分ないだろう。
また前任のタバレス氏は、PSA、つまりフランス側のリーダーだったので、今度はFCA出身者から起用した、という見方もできる。
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CEOの人事と並んで重要なファクター
内外のいくつかのメディアを眺めたなかで、個人的に記憶に残っているのは、フランスの老舗新聞『フィガロ』の「アンチ・タバレス」という見出しだ。フィガロは保守派といわれているので、新たなイタリア人CEOの手腕を懐疑的にみているのかもしれない。タバレス氏とは対照的に、堅苦しく厳しいという人柄にまで触れている。
ただ、こと経営方針については、フェローザ氏は確かにタバレス氏とは対照的な道をとるかもしれない。グループの現状(……とフィガロ紙の紹介するフィローザ氏のひととなり)を思えば、「選択と集中」という方向へ進む可能性は高いだろう。また不振にあえぐ北米事業の立て直しや、トランプ大統領への対応についても、“現地”を知る立場から解決を期待されているかもしれない。誰から期待されているのか? それは、ほかならぬエルカン会長からだ。
新CEOの人事に加えてステランティスの組織で注目すべきなのは、絶対的な人物が頂点にいることだ。それがジョン・エルカン氏である。ステランティス設立の2021年から会長を務める彼は、フィアットの創業家一族であるジャンニ・アニェッリの孫で、フェラーリの会長も兼務している。
さらにステランティスやフェラーリのほか、フィリップスなどの筆頭株主でもあり、アニェッリ家が所有する持株会社Exor(エクソール)のCEOの座にもある。Facebookでおなじみのメタの取締役、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の評議員なども務めている。
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フィアット流の政治力に期待?
ステランティスが結成された当時の人事は、会長がFCA出身のエルカン氏、CEOがPSA出身のタバレス氏となっており、バランスをとった感があった。しかし、タバレス氏の辞任を伝えた2024年12月のステランティスのプレスリリースでは、「ステランティスの創業以来の成功は、株主、取締役会、CEOにおける完全な連携に基づいています。しかし、ここ数週間で異なる見解が顕著となり、取締役会とタバレス氏の両者でこのたびの決定に至りました」という一文があり、両者の関係に溝ができていた可能性もある。そしてCEOの空位時代は、エルカン氏が会長を務める暫定執行委員会を組織してステランティスの経営にあたり、今回、取締役会がフィローザ氏を選出した……というのが昨今の経緯である。最初に書いたように、フィローザ氏もまたフィアット出身なので、今後は経営面でのフィアット色が濃くなっていくのだろう。
それで大丈夫なの? と思う人もいるだろう。しかし、フィアットが創業から1世紀以上もの間、何度も苦難に直面しつつ健在であるばかりか、FCAに続いてステランティスでも主導権を握ろうとしている点は注目したい。
フィアットの経営で個人的に印象的だったのは、1970年代にストライキやオイルショックで経営不振になったとき、アニェッリ家とつながりのあったリビアのカダフィ大佐から4億ドルもの融資が申し込まれたというエピソードだ。その後、フィアットは「パンダ」や「ウーノ」のヒットもあって立ち直った。
現代社会でこういった政治的手腕がどこまで通用するかはわからないけれど、幅広い人脈と潤沢な資金を持つエルカン氏と、さまざまな地域やブランドをみてきた現場経験豊富なフィローザ氏のコンビが、大胆かつ迅速に業務を遂行していけば、苦境を脱するのは不可能ではないと考えている。
(文=森口将之/写真=webCG/編集=堀田剛資)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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