第92回:ジャパンモビリティショー大総括!(その1) ―新型「日産エルグランド」は「トヨタ・アルファード」に勝てるのか!?―
2025.11.19 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」をカーデザイン視点で大総括! 1回目は、webCGでも一番のアクセスを集めた「日産エルグランド」をフィーチャーする。16年ぶりに登場した新型は、あの“高級ミニバンの絶対王者”を破れるのか!?
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買えないショーカーより買えるミニバン
webCGほった(以下、ほった):今回は、2年に一度のクルマの祭典、ジャパンモビリティショーについて語り合いたいと思います。なんか、もうすでに遠い過去の話という気がしないでもないですが。
清水草一(以下、清水):2年に一度の、国産車の祭典ね。
ほった:一応、輸入車もポツポツいましたよ。
清水:いやぁ、国産車だけで十分だったよ! 注目株だらけで。
ほった:ちなみにwebCG読者の反応は、日産エルグランドが一番でした。もうダントツで。
渕野健太郎(以下、渕野):そうなんですね。
清水:やっぱり実際に売るからだよね。出るかどうかわかんないコンセプトカーに熱狂してる場合じゃない。
渕野:そういえば日産は今回、コンセプトカーが1台もなかったですよね(参照)。広いステージにエルグランドが1台だけドンとあって。日産はブースデザインは楽しいイメージでしたが、全体的にリアリティーある見せ方をしてました。
清水:私もマツダの流麗なコンセプトカーには毎回熱狂してましたけど(笑)、どれもこれも出る気配がないんで……。「やっぱ絵空事だったのか」ってあきらめちゃいました。
渕野:そういうのはあるかもしれませんね。だから今回はエルグランドが盛り上がったのかな。実は自分のブログでも、エルグランドがダントツにPV数が伸びてたんですよ。ケタが違うぐらい。
清水:やっぱり夢より現物! ってことでしょう。全国民憧れの高級ミニバンだし。
ほった:16年間放置されてたクルマだからってのも、あると思いますけどね(笑)。しかし、渕野さんのブログを見る人って、自動車デザインに強い関心を持ってるわけですよね。そういう人たちもエルグランドに一番反応したっていうのは、やっぱりスゴいことなのかも。
清水:ほんとだね。ディープなカーマニアも関心を示したってわけだから。
再認識させられた絶対王者のスゴさ
渕野:これ(=新型エルグランド)、皆さんはどう思いました? 確かにすごい注目度でしたけど、実際のデザインとして。
ほった:普通の和製ミニバン。欧米のと比べて化粧濃いめの、いつものやつって感じです。
清水:以前、渕野さんがおっしゃった“発散系デザイン”ですよね。特にリアの四隅をツンツン尖(とが)らせたのは、「おっ! やるじゃん」と思いました。
渕野:発散系というのは、前回のジャパンモビリティショーに出展された日産のコンセプトカーを指して、私が言った言葉ですね。「ハイパーフォース」とか「ハイパーツアラー」とか(参照)。前身となったハイパーツアラーと新型エルグランドを見比べると、モチーフ的にはほとんど変わってません。デザイナー的に論ずるなら、ショーカーのあの発散系デザインが、市販されるエルグランドでもうまく表現されたかどうかを語るべきだと思いますけど……。
でも端的に言うと、「やっぱ『トヨタ・アルファード』ってすごいんだな」というのが一番の感想でした(笑)。
清水&ほった:ガクー!
清水:アルファードって、現行型のですか?
渕野:そうです。たたずまいや抑揚など、高級車としての見せ方が現行型はすごいですね。逆にエルグランドの第一印象は、シルエットや造形含めて、おっきい「セレナ」なんですよ。
ほった:はい、はい。
渕野:ミニバンなので、空間が最優先じゃないですか。結局ミニバンの形ってそんなに変えられない。それでもアルファードは、「ノア」とかセレナとは全然違うデザインになっている。そこがすごい。
清水:そうそう。アルファードはサイドの面をすごくうねらせて、しっかりゴージャス感を出してますよね。
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全幅の拡大はどこまで許される?
清水:いっぽうエルグランドは、そういううねりとか絞り込みとかの工夫はなくて、とにかく後ろを尖らせた感じになっているのが特徴ですかね?
渕野:そうですね。実際には、リアの下側はアルファードも尖ってるんですけど、エルグランドは上も尖らせている。リアの上下四角を強調しているので、アルファード以上の迫力を狙ったのだと思います。
清水:すごく個性的ですよね。なんだこれ? ってよく見ると、ルーフスポイラーをひさしみたいに伸ばしてるだけなんだけど、リアに向かってヤリを突き出してる感じはある。せっかくなら、前も“発散”してほしかったな~。
渕野:いや、前も発散してますよ。エアダム部が三角形でしょう。ハイパーツアラーのコンセプトをしっかり量産に落とし込んでいます。
清水:うーん。でもこれじゃ物足りない。デコトラのデッパみたいにしてほしかったんだけど。
渕野:そこは歩行者保護などの要件で難しかったのだと思います。ただ車格を考えると、これくらいのほうがいいんじゃないでしょうか。
それと、このクルマは車幅が結構広い。1895mmなんですよ。アルファードが1850mmなので、45mmも広いんです。そこらへん、国内向けのモデルとしてどうなのか、興味深いところです。王者であるアルファードの使われ方を見ると、割と女性がお子さんの送迎とかで、普通に運転していますよね。
清水:なにしろ月販1万台ですから(兄弟車の「ヴェルファイア」含む)。
渕野:それと同じジャンルのファミリーカーがこの車幅っていうのは、結構インパクトがあるんじゃないですか。
清水:車幅に関しては、意外とみんな気にしなくなったんじゃないかな? 昔のちっちゃい立体駐車場も絶滅寸前だし、幅があるほうが自動的に威圧感が出て好材料になるのかもしれない。
ほった:んでみんな、ボディーをガリガリにするんですよね。
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箱型でスライドドアのミニバンをデザインする難しさ
清水:とにかく、これだけ注目されているっていうのは、やっぱり「これならアルファードの対抗馬になりそうだな」って、多くの人が感じたからじゃないかな?
渕野:そうですね。実際、これが走ってたら相当迫力があると思いますよ。旧型に比べて全高も約160mm高くなっていて、アルファードよりも大きく、高く広くなっているんで。ただね、デザインとしては……アルファードのシルエットとか抑揚って、やっぱりものスゴいんですよ。
清水:ですね。顔の迫力もケタはずれです。エルグランドの顔もまあまあ頑張ってるけど、想像の範囲を超えてはいなかった。
渕野:アルファードのサイドパネルの抑揚って、主に前半分についているんですよ。後ろ半分は割とフラットなんです。ミニバンのフォルムは結局箱なので絞れないし、スライドドアの要件があるので、面に抑揚をつけるのも難しい。そこをアルファードは最初から考慮してデザイン作業を始めたんじゃないかな。
ほった:スライドドアは後ろ側に動きますからね。
渕野:だから、後ろ側よりも前側で抑揚を出してるんです。ところがエルグランドの元ネタになったハイパーツアラーは、サイドの前側は平らで、後ろ側に抑揚をつけていたんですよ。アルファードと真逆で。
ほった:結果的に市販モデル化したら、サイド全体を平らにせざるを得なかったと。
清水:そうかぁ……。
ほった:コンセプトカーの段階で、すでに勝負は決まっていたのか。
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そもそもターゲットが違う?
清水:最近のアルファード対エルグランドの販売台数って、だいたい100対1なんですよ。
ほった:ヤバいですね。今年の日本シリーズよりヤバい。
清水:今回も負けは間違いない。ただ今度は10対1ぐらいまでいけるかもしれないって気はする!
ほった:それがですね……。内田俊一さんのリポート(参照)だと、エルグランドは今回、モデルバリエーションをかなり絞って四駆のハイブリッドしかつくらないらしいんです。それを考えると、10対1も難しいかなって気はします。
清水:じゃ、95対5かな……。
渕野:むしろ、アルファードのお客さんじゃない人を狙ってるんですかね?
ほった:ですね。なんか走りを重視する人に狙いを絞ってるらしいですよ。どっちにしろ、アルヴェルとの真っ向勝負は、考えてないんじゃないかな。
清水:いやー、出してくれただけありがたい。勝ち負けじゃない、気合だ! ってことなのかも。
ほった:いや、そういうことでもなくてですね……(焦)。これも内田さんのリポートだと、このクルマ、子育てを終えた後の50代男性をターゲットにしているんですよね。日産としては、セダンはもうオワコンでどうにもならないから、エルグランドを「フーガ」の代わりに考えているのでは?
渕野:それはわかります。アルファードも結局、「クラウン」の代替みたいな感覚ですから。でも、エルグランドも注目はされている。今後どうなりますかね?
清水:高市総理就任時の首相官邸、8割がたが黒塗りのアルファードって感じだったでしょ。
ほった:そこに1割でも割り込めれば?
清水:そうそう。でも政府は、某大統領に配慮して、ほったくんが愛する「フォードF-150」を導入するんだよねぇ。
ほった:あきれますよね。まぁFは黄色く塗って、国道を巡回・点検する道路パトロールカーに使うらしいですが。
清水:そうだった! デカすぎて道路を壊さないか、心配だね(笑)。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、日産自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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