排ガス規制でサヨウナラ!? 新車を買うなら今しかないオススメ絶版バイク3選
2022.11.18 デイリーコラムあのバイクも、このバイクもサヨウナラ……
2022年11月1日、新しい排出ガス規制が国内でスタートした。継続生産車を含め、この日以降に生産されるすべてのバイクが「平成32年(令和2年)排ガス規制」に準拠しなければいけなくなったのだ。ポイントは「継続生産車を含め」というところで、それはつまり、今後登場する新規のモデルではなく、これまで生産し続けてきた既存車種も含め、すべてのバイク(50ccのみ2025年11月開始)がその規制をクリアしなければいけないということ。これを見越してひと足早く店じまいしてしまったものもカウントすると、事実上、国内ラインナップの約1割にあたる車種が「サヨナラ」となる。
石油がなくなるとトイレットペーパーが街から消える(オイルショック知ってる?)慌てん坊の国・ニッポンに生まれた筆者としては、「これが買えなくなるのか!?」「あれが旅立ってしまうのか!」とソワソワしてもう、気が気じゃない。その1割にはロングセラーを続けた人気モデルが何台も含まれていたからだ。
あふれんばかりの魅力、こぼれ落ちるノスタルジーをたたえる“1割”。この場を借りて「ありがとう。さようなら」を言わなければ気が済まないステキなバイクたち。それらのなかから、筆者が独断で“落涙な3台”をピックアップしました。
私的なメモ書き、つぶやき、片目でサラッと読んでください。
パニアケースは空でもいい──スズキVストローム250
デカくて高価なアドベンチャーモデルには手が出せないけれど、「コイツだったら!」と満艦飾のフルパニア仕様を決め込むことができたのが「スズキVストローム250」だ。
扱いやすく急(せ)かされない、“たった24PS”の並列2気筒エンジンのパワー特性、ロードタイヤが生むスムーズでニュートラルなハンドリング、背筋を伸ばしても曲げても腰への負担が少ない安楽なライディングポジション、シート高800mmが信じられないほど良好な足つき……Vストロームはとにかくライダーに優しかった。
ベースとなった「GSR250」のフレンドリーさに、男のロマンが足されたようなVストロームの居住まいには、ジャンルは違えど、かつて旅の相棒として愛されていた「ホンダVT」シリーズや「カワサキZZ-R250」などの250cc 2気筒モデルの姿が透けて見える。もっと言えば、パニアケースの中には荷物を詰めても詰めなくてもどっちでもいい。パニアケースはツーリングワゴンの荷室と同じで、備わっていることそのものが大事なのである。
このたび“隠れっぱなし”の名車「GSX250R」も同時に姿を消すらしい。これも角が取れた全方位にフレンドリーなマシンとして地味に評価されていた。そうそう、カワサキには「ヴェルシスX250」というライバル車がいたね。こちらもサヨナラ。こと人気においてはVストロームの圧勝だったが、プライスや乗りやすさなどのハードルを極限まで下げたことが勝因のひとつだろう。
ブレない“民主主義”を約5年にわたって貫いたVストローム。その迷いのなさがファンの心をガッチリと捉えていた。レジェンド? ヘリテイジ? そんな面倒くさい荷物を背負っていないVストロームは真に自由なツアラーだった。
……と、哀愁たっぷりにVストローム250を紹介したのだけど、なんとここにきて改良・継続のウワサが。え? え? 油冷単気筒の「VストロームSX」が後継になるんじゃないの? どうなの!? スズキさん!
マウンテントレールを守って35年──ヤマハ・セロー
本音を言えば、今回挙げる3台のなかで最もなくなってほしくなかったのが「ヤマハ・セロー」だ。道も、道以外も、どこでも走れることの快感をこれほど身近に謳歌(おうか)させてくれるバイクなんてほかにあっただろうか? ……いや、いろいろあったかもしれないけどさ(笑)。でもセローのアプローチが一番明快だったし、なんといってもオリジナル=無双だ。社是ならぬ車是「マウンテントレール」をかたくなに守ってきた35年が、2020年モデルを最後に跡形もなく消えてなくなったのはやっぱり寂しかった。
シートの上でしか味わえない移動の自由を、どのバイクよりも気軽に与えてくれたセロー。いまさら氏素性を書くのも口幅ったいけれど、一応書く。コンパクトかつライトウェイトな車体とトルクフルで扱いやすいエンジン。ハイウェイ巡航をこなしつつ、悪路での走破性も取り回しもパーフェクト。そんな超然とした質実キャラを、ヤマハらしいスタイリッシュなパッケージで包む……そりゃ人気者になるわな。
「ボディーのどこを切っても熱い血が流れ出てくる孤高のセロー、アナタはどうしていなくなっちゃうの?」と、ここまで激しく嘆く一方で、「おまえ、気に入っていると吹聴していた迷彩セローを6年前に手放したのはどうしてなんだ?」と自問自答。くぅ。今はもう、後悔しかない。ハンドル切れ角51°、最小回転半径1.9mが懐かしいッス。
ワクドキの400cc 4気筒──ホンダCB400スーパーフォア
中型免許で乗れる、400ccの4気筒──。このプロフィールを持った“ヨンヒャク”に、過去どれだけ多くのライダーがワクワクドキドキさせられたことか! 筆者も例外ではなく、「ホンダCB-1」が初めて買った中型バイクだった。納車のその日、ガソリン残量のことをすっかり忘却して走った関越道ではガス欠の憂き目に。それでもバイクばかティーンのニヤニヤは止まらない。なんてったってヨンヒャク。
そんなどうでもいいエピソードはさておき、のちの1992年にデビューしたのが「CB400スーパーフォア(以下、CB400SF)/スーパーボルドール」で、それも今となっては400ccクラスでたった1車種の4気筒マシンということになってしまっていた。
熟成されまくった「HYPER VTEC Revo」は回転数に応じて作動するバルブ数を切り替えるハイメカだが、ではそれがどれだけレーシーなのかといえばさにあらず。主眼はあくまでスムーズさと扱いやすさ、低燃費にある。どんなに高回転を続けてもヘコたれないタフさと正確無比な点火は、ホンダテクノロジーのたまものだろう。
自動車学校や試験場であれだけCB400SFが重宝されたことに理由はいくつもあるけれど、最終的には「乗りやすいから」なのだ。教習所では無用だったかもしれないが、1万3000rpmからレッドゾーンが始まる直4エンジンが手とり足とりでチェリーボーイを桃源郷へと誘ってくれたのである……。いや、そこまで艶っぽくないか(笑)。
ちなみにCB400SFのルーツである1976年発売のCB400フォアが“400cc 4気筒”カテゴリーの始祖となるが、実に46年後の2022年にホンダは自ら幕引きを行ったというわけだ。泣けるぜ。
語り出せばキリがない!
うーん、まだまだ言い足りない。「ホンダVFR800F/X」もある。「ホンダのV型エンジン」。そのワンフレーズを聞いただけでヒザがガクガクと震え出してしまうアナタは間違いなく真正ホンダフリークスだ。過度に理想主義的なエンジニアリングから生まれたホンダのV4エンジンは、特にレースフィールドで抜きん出たパフォーマンスを誇っていた。高出力・高トルクを発生しつつもボディーをスリムにできるV4というエンジン形式。長らくフラッグシップの座についていたものの、いつしか玉座から降りてしまったのはなぜだったのか?
ぜんぜんスリムじゃなかった最後のVFR800シリーズだけど、かつての栄光を重ねてみると涙がちょちょぎれる。実存するホンダV4を新車で手に入れようと思ったら、今しかない。もうすぐ星になってしまうのだから。
また、手ごわすぎるリッタークラスのスーパースポーツを「なんとかなるかも」と手元に手繰り寄せてくれた「スズキGSX-R1000R」。ちょっと無理やりだったかもしれないけれど、空冷4発を最期に礼賛してくれた「ホンダCB1100」。最高に真っ白なキャンバスをカスタムフリークスに供給し続けてくれた「ヤマハSR400」。すべての文章を「過去形」で書かなければいけない切なさよ!
さて、ここまで言いっぱなしで3000字オーバー。編集部のホッタさんからは「原稿は1500字でおねがいします」と言われていたが、ぜんぜんムリー。
在庫車を探せば、まだ間に合うんじゃないか? 心苦しいのだが、たぶんそれも、かなりムリ。プレミアム価格は避けられない。それでも買える人は買ってしまおう。値段が下がることは残念ながらとうぶん(未来永劫?)ない。それが絶版車というもの。……じゃあ買えない人は? ボクと一緒にため息をつこう! かつての仲間たちがいなくなる寂しさとストレスを、今ここでまぎらしましょう。そして目をつむって、合掌です。
(文=宮崎正行/写真=荒川正幸、向後一宏、郡大二郎、三浦孝明、カワサキモータースジャパン、本田技研工業/編集=堀田剛資)
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宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。
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