第99回:「トヨタGR GT」と「レクサスLFAコンセプト」(後編) ―対極的な2台の造形からスポーツカーの教義を考える―
2026.01.21 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
コンポーネントを共用するのに、その形は全然違う! トヨタの次世代スーパースポーツ「トヨタGR GT」と「レクサスLFAコンセプト」のデザインを、有識者と比較検証。突き抜けて武骨なGR GTか、優雅で知的なLFAか、あなたならどちらを選ぶ?
(前編に戻る)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
プラットフォームが同じというのはホント?
webCGほった(以下、ほった):GR GT/GT3の話はいったんこの辺にして、こんどはレクサスLFAコンセプトについて語りましょうか。ちなみにコチラ、いまのところ電気自動車(BEV)として提案されています。
清水草一(以下、清水):GR GTがほぼレーシングカーなのに比べると、LFAコンセプトは断然まともでキレイなスポーツカーのデザインですよね。
渕野健太郎(以下、渕野):これ、本当にGR GTがベースなんですか? そういうニュアンスの報道もありますけど……。
ほった:それがですねぇ、資料には「GR GTのオールアルミニウム骨格をベースとすることで~」って書かれていますが、発表会を取材したwebCG関の話だと、技術者いわく「ギガキャストでつくる足まわり部品は共用するけど、それが付くフロアは別物」だそうです。寸法を見ても、2725mmのホイールベースは同じですが、外寸は1195mmの全高以外は違いますしね(LFAコンセプトは全長が4690mmで全幅は2040mm。GR GTは全長が4820mmで全幅は2000mm)。
清水:やっぱりね。見た感じでも、LFAはフロントノーズが明らかに短いし。
渕野:そもそも、フロントドアとフロントタイヤの間隔が全然違いますしね。
清水:全然違います。Aピラーの位置も違うし、キャビンの位置もかなり違う。(写真キャプション参照)
渕野:リアまわりはある程度共用するけど、フロントはエンジンがないから(BEVなので)、LFAはああいうプロポーションになったのかな?
清水さん:フロアは、足まわりの取り付け部とかを部分的に共用しているだけなのかな。
ほった:まぁ、現状でわからないことを考えてても仕方ないですよ。
隔世の進化を遂げたレクサスのデザイン
渕野:両車の上屋のデザインを見ると、キャビンの流れは似ていますが、LFAのほうはリアの絞り込みなども「普通のクルマ」としてのロジックでつくられていて、一般的なセンスで見て、カッコいいデザインになっていると思います。
清水:GR GTよりエレガントですよね。最近のトヨタデザインは、本当に安心して見ていられる。そういえば渕野さん、初代「LFA」のデザインはどう思いますか? 自分としては、初代は中身は素晴らしかったけど、デザインが全然こなれてなくて、すごくもったいなかったと思うんですよ。
渕野:あれは一昔前のレクサスという感じですよね。「L-finess(Lフィネス)」を強調していたころの。スポーツカーというよりは、当時のレクサスのデザイントレンドをそのまま載せた感じで。プロポーションもそこまで特徴的ではなかったし、リアのボリュームが強くて重たく見えました。スポーツカーとしてはもう一歩という感じですかね。
ほった:ずんどうでしたよね。
清水:タルみたいだった。
渕野:初代は全体的に寸詰まりに見えますし、メリハリもなかったですね。
清水:当時のトヨタデザインはまだまだで、ライバルのスーパースポーツたちと比べたら、月とスッポン、習作レベルだったと思うんですよ。全高は1220mmで意外と低いんだけど、そうは見えなかったり。
ほった:当時というと、初代LFAの発表は2010年ですね。
清水:この15年間のトヨタデザインの進歩がスゴい。
渕野:今の「レクサスLC」あたりもオリジナリティーが強くていいなと思いますが、初代LFAのころは、まだボリュームで見せるより線で見せるデザインでしたね。視点が細部にいってしまって、全体のカタマリ感に乏しかった。
それに比べるとLFAコンセプトは、リアタイヤの上のマス感であったり、全体的なバランスであったりが非常にいい。上下の立体をかみ合わせて、その境界をキャラクターラインにしている造形もわかりやすいです。フロントフェンダーの下から始まってCピラーでクルっと回っているライン、ここで2つの立体を嵌合(かんごう)させているんですよ。こういうところ、今どきのレクサスらしい繊細さだなと思います。ほかにはない表現で面白い。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
“レクサスらしさ”はちょっと控えめ
清水:しかし……こうして見ると、あらためてLFAコンセプトは洗練されてますねぇ。
渕野:FRっぽい伸びやかなシルエットだけど、どこかポルシェのような凝縮感もあり、バランスがいいですね。
清水:これこそ「普通にカッコいい」かな?
渕野:ただ、GR GTの存在感がよくも悪くも強烈なので、並べるとキレイなLFAが地味に見えちゃう可能性はあります。
清水:発表会ではLFAコンセプトのすぐ隣にGR GTが並んでたでしょう。そうするとLFAのほうがより普通で、「キレイだけど個性が弱いかな~」とは感じました。
ほった:確かに「普通の高級スポーツカー」という感じはしますね。まぁ実際のキャラクターもそうなんでしょうし、レクサス的には「それでなにか問題?」ってなもんなんでしょうが。
渕野:自分は「ジャパンモビリティショー2025」で「レクサス・スポーツコンセプト」を見ただけですけど、あのような展示だと、少し高いところにクルマが置いてあるので、デザインの詳細が見えにくいというのもありますね。通常の目線の高さで見てみないと、プロポーションの本当のスゴさはわかりにくい。
ほった:ふっふっふっ。実はあのモビリティショーでも、企画展示の「Tokyo Future Tour 2035」では地ベタに置かれていたんですよ! ワタシはためつすがめつ、近寄ったり離れたりして、舐(な)める勢いで拝ませていただきました。
清水:そうだったのか。
渕野:それは見逃していました。ただこのLFAコンセプト、レクサスって感じもあんまりしませんよね。
ほった:そうですね。スピンドル感が弱いし。
渕野:レクサスに限らず、BEVにおいてのフロントデザイン表現は各社苦心している感じがありますね。ブランドごとの記号性が欲しいとこなのですが。
ほった:まぁ、ワタシはむしろ「スポーツカーはそんなに“ブランド縛り”しなくてもいいんじゃない?」派ではあるんですけどね。LFAもなんか、ヘッドランプまわりをいじって個性を出そうとしていますが、基本のプロポーションがいいんだし、そんなにややっこしい顔にしなくてもよかったんじゃないかって気もしますけど。
清水:いやぁ、これぐらいは最低限でしょ。これでも個性が弱い、フツーだなって感じるよ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
公道も走れるレースカーに本当に需要はあるか?
渕野:実際にスポーツカーを所有されているお二人としては、もし「どっちか(GR GTかLFAか)を買え!」と言われたら、どちらにしますか?
清水:それは難しいね……。
ほった:GR GTです。悩むまでもない。
清水:え、そうなの? 前回ビミョーな反応してたじゃない。
ほった:カッコいいクルマではないと思っているだけです。ワタシにとってスポーツカーとはタマシイの発露ですから。こぎれいなLFAより、モテもイバリもかなぐり捨てて勝利へ突き進むGR GTを、断然選んじゃいます。
清水:オレは常に知性やスマートなカッコよさ優先だから(笑)、LFAかな。エンジンが積まれればだけど。
渕野:レースが最優先なら、GR GTはレースに特化した表現があってもよかったのかなとも思います。例えばもっとシンプルな基本デザインに機能パーツを主張させるとかですね。皆さんの印象とは異なるかもですが、私はアグレッシブなパッケージとは裏腹に、やや繊細な印象を受けました。
ほった:確かに、「演出としてのレーシーさ」すら捨てて合理性に全振りしている気は、ちょっとしますね。もっとGT3に寄せるようなあざとさがあっても、よかったかも。
清水:いずれにせよこの2台、初代「ホンダNSX」や日産の歴代「GT-R」のような伝説をつくれるのかといわれたら、ちょっと弱い気もする。
ほった:2代目NSXと比べたら、GR GTのほうが圧倒的に狂気を感じていいと思いますけど。
清水:2代目は問題外だよ。すでになにも残ってない。
渕野:それに、スカイラインGT-Rは「スカイラインをレースで勝たせるためにつくった」というストーリーがあるじゃないですか。「GRヤリス」も、まずはヤリスとしての骨格がある。今回は「レース専用車から市販車をつくる」という逆のパターンですよね。そこに魅力を感じる人はいるんですかね?
ほった:いやぁ。数は少ないけど、いるんじゃないですかね。世のなかには、いき着くとこまでいっちゃってる人がいますから。昔、ムック本をつくっていたころには、おさがりのGT3やSUPER GTのレースカーをクルマ屋さんに持ち込んで、「ナンバーを付けて公道を走れるようにしてくれ」って頼む超絶お金持ちに、何度か会いました。それと比べりゃ、GR GTはまだ常識的でしょう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
とっぴな出自と奇怪な造形に宿る、強烈な説得力
渕野:自分としては、どうしてもGR GTにとっぴな印象がぬぐえないんですよ。あまりにも出自が唐突な感じがする。
ほった:ワタシはこのぐらい唐突でいいと思いますけど。出自がロードカーであるより、レーシングカーのロードバージョンっていうほうがインパクトが強烈だし。デザインも、下手に乗用車的なカッコよさを出すより、これくらい兵器っぽくてブサイクに片足突っ込んでいるほうが、説得力がある。だから、GR GTは絶対に女性にモテちゃダメ! 色気なんて見せたら、たちまちウソっぽくなりますからね。
清水:ほった君はモテないカーマニア代表として、そこに引かれるんだね(笑)。でも、確かにそういうのはあるね。初代LFAがダメだったのは、存在に説得力がなかったのも原因なのかも。なんのためのクルマかよくわかんなかったでしょ。でも、GR GTはレースで勝つという明確な目的がある。そんなGR GTがあるから、LFAコンセプトもそのエレガント版として納得できるのかも。
渕野:今日は皆さんの話を聞いて、なんかすごく納得感がありました。GR GTは……自分はグッドウッドでのカムフラージュの状態が好きですね。ディテールは見えないけど、プロポーションがすごく見えるので。
ほった:アカデミックすぎる(笑)。
清水:いずれにせよ、今後もトヨタの活躍に期待ですね。
ほった:ワタシらに期待されなくてもうまくやっていくでしょうけど。
清水:そりゃそうだ。トヨタは視野の狭いカーマニアの3億倍うまくやるよ!(笑)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、newspress、webCG/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?― 2026.6.3 トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。
-
第114回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(前編) ―「トヨタ・タンドラ」の導入に対する元カーデザイナーの本音― 2026.5.27 「トヨタ・タンドラ」が日本にやってくる!? トランプ大統領のゴリ押しと、トヨタ&ホンダによるアメリカ生産車の日本導入決定により、今にわかに注目を集めている“アメリカのクルマ”。かの地で育まれた特殊な造形美を、カーデザインの識者はどう見ているのか?
-
第113回:ホンダデザインにささぐ鎮魂歌(後編) ―「Honda 0」と「アフィーラ」の断捨離で見えてくる未来― 2026.5.20 「Honda 0」の計画縮小と「アフィーラ」の開発中止で、すっかりネガティブな印象がついてしまったホンダデザイン。彼らの未来に再生の曙光はあるのか? というか、そもそもホンダ車のデザインって本当に迷走しているの? カーデザインの専門家と考えた。
-
第112回:ホンダデザインにささぐ鎮魂歌(前編) ―野心的な「Honda 0シリーズ」に覚えた違和感の正体― 2026.5.13 ついに開発中止が発表された「Honda 0サルーン/SUV」と「アフィーラ」。しかし、これらのカーデザインについては、かねて疑問が投げかけられていた。ホンダが社運をかけて挑んだ野心作に、私たちが違和感を覚えた理由とは? 有識者と考えた。
-
第111回:新型BMW i3(後編) ―BMWの挑戦が浮き彫りにした、BEVセダンのデザイン的課題― 2026.5.6 BMWが発表した新型「i3」は、スポーツセダンの世界的ベンチマーク「3シリーズ」の電気自動車(BEV)版ともいうべきモデルだ。彼らが思い描く、BEV時代のセダンの在り方とは? そこから浮かび上がる、未来のセダンの課題とは? カーデザインの識者と考えた。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。




















































