第27回:どれもこれも似たり寄ったり!?
2017.01.31 カーマニア人間国宝への道フェラーリエンジンの対極
フェラーリの魂はエンジンにある! それは、高回転高出力型の超本気レーシングエンジンが、ベルサイユ宮殿風のエレガンスをまとった、恐るべき陶酔装置である! ベルサイユ宮殿はフランスですねスイマセン。イタリアでいうとえーと、フィレンツェの花の聖母大聖堂とかそんな感じスか? テキトーですが。
ディーゼルエンジンは、そんなフェラーリエンジンの対極に位置する。ガラガラ言うし低回転が得意だし、高回転域はうるさいだけ。「シエンタ」(前自家用車)の1.5ガソリンも回すとうるさいだけだったが、ディーゼル特有の分厚い低速トルクや超高効率な雰囲気は、シエンタでは味わえなかった。つまりクリーンディーゼルは、シエンタの1.5ガソリンよりはるかに優れているのである。
譬(たと)えれば、フェラーリは大女優でディーゼルは敏腕ディレクター。対照的だけど絶対バッティングしないので相性は非常にイイ。女優とプロデューサーの結婚とかもあるじゃないですか。我が家はそれですかねウフフ~。
ところで、敏腕ディレクター的であるところのディーゼルエンジンは、ユニットによる個性が薄いという話の途中だった。
サウンドに関しては、今日本で買えるディーゼルで快音を轟(とどろ)かせるのは「マセラティ・ギブリ ディーゼル」のみで、他は似たり寄ったりだ。唯一の例外は「プジョー308 BlueHDi」か。スポーツモードにするとスピーカーからレーシングエンジンみたいな音が流れます。「サウンドレーサー」ですね。こういう演出、最近は割とアタリマエのものになりつつありますが、ディーゼルでコレをやってるのはこのクルマだけ(たぶん)! あまりのフェイク感に笑っちゃうけど、けっこう楽しいよ。
4気筒ディーゼルは個性が薄い
それにしても、私が狙う4気筒ディーゼルの世界は、ユニットごとの差が実に小さい。サウンド以外のフィーリングも本当に似たり寄ったりだ。
例えば、4年前に「BMW 320d」と「CX-5 XD」を比較した時のこと。エンジンのキレとトランスミッションのキレで若干BMWが上回り、制限速度までの信号ダッシュでもBMWが勝ったが、その差はカーマニアでようやく判別できるレベルだった。アイドリングでの静かさはマツダの勝ち、走りだせばBMWの方が全般に高級なフィールで燃費もイイ(セダンとSUVなので当然だけど)というところでしたが、それでもボンヤリ乗れば、両車のエンジンフィールの違いなんてアリンコのようなもの。
「ボルボV40 D4」と「アクセラXD」(2.2)を比べた時も、微妙に違ったけど微妙すぎて、重箱の隅をつつきまくらないと違いが表現できなくて困りました。
ボルボV40 D4は190ps/400Nm(40.8kgm)で車重は1540kg。対するアクセラXDは175ps/420Nm(42.8kgm)、車重1450kg。ATはマツダが6段でボルボは8段と違いはあるが、制限速度までの信号ダッシュは見事に互角だったし、燃費も軽井沢の一般道をノロノロ走って双方リッター18km台とこれまた互角。加速も燃費もフィーリングもほとんどソックリ! もはやどう違ったかも忘却の川に流してしまいましたが、正直どっちのエンジンでもいいやと思ったのは確かです。カーマニアなのにスイマセン。
そんな感じなので、結局ディーゼル車選びの決め手は、デザインとかインテリアになるんだよね。私が「デルタ」を買ったのも完全にソレだし。
MINIのディーゼルはモテない系!?
ある意味個性が際立ってるのは、「MINIクロスオーバー」のディーゼルかな。エンジンをかけた瞬間、近所の水道屋さんの「エルフ」を思い出した。「ガラガラガラ~」って。遅いし。
旧世代ディーゼルだから、排気量2リッターもあって、たったの112ps/270Nm(27.5kgm)(クーパーD)。まさにスペック通りの走り!
1年半前に日本に導入されて今でも売ってるけど、あんなガラガラ言わせてたら工事の人に間違われるし、モテなくないか? あれが341万円からなんて高すぎる! と思ったら、登録未使用車が山ほど出てる! 走行15kmで259万円ってのもある! 実質82万円引きですか。そこまで安いと惹かれ……ないなぁ。
だって、今さら高いカネ出して昭和のディーゼルに乗るのはイヤだもん! ディーゼル大好きな私ですが、昔のディーゼルは大っ嫌いなんだよね。アレは明らかにワルモノだったしさ。
ススの入ったペットボトルを振った石原元都知事は何も悪くない。それどころか正義の味方だったと思ってます。おかげで東京の空気はこんなにおいしくなりました!
それにしてもああ、突出して素晴らしい4気筒のお手ごろディーゼルはこの世にないのか?
実は、「あった」。それは禁断の果実であった。詳しくは次号にて。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。