第180回:新型コロナ下にクルマを買ふということ
2020.06.16 カーマニア人間国宝への道不要不急のゼイタク
新車販売台数の大幅減が続いている。なにせ新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が出されていたんだから当然だ。クルマを買うどころじゃない。
私は3月下旬に「フェラーリ348GTS」(中古です)を買うことを決めたが、納車時期に関しては、どうしようかと思いました。
3月下旬といえば、小池都知事がロックダウンをチラつかせ、政府による緊急事態宣言の発動も間近と思われていた頃。緊急事態宣言下、フェラーリというごくつぶしの極北的なクルマの納車を受けるというのは、不要不急のゼイタク以外の何物でもなく、非国民という言葉すら思い浮かぶ。そんな空気感だった。
一般の皆さまなら、フェラーリが納車になったなんてわざわざ世間に公表する必要はないが、私の場合、自家用車をネタに食っている部分があり、報告しないわけにいかない。結局、宣言発出の2日前に滑り込み納車となったが、日本社会の同調圧力の強さをビンビン感じた。感染拡大が止まったのも、そのおかげなんですけど。
そんな状況で、新車の契約が減るのはあまりにも自然。ゼロに近づいたっておかしくない。
実際に乗用車の新規登録台数(軽や輸入車を含む)がどうなったのか、データを見てみよう。
4月 前年比69.6%(30.4%減)
5月 前年比53.3%(46.7%減)
(日本自動車販売協会連合会発表)
欧州では、イタリアで85%減など、もっとハンパじゃない数字が出たけれど、自動車産業のすそ野の広さを思えば、日本経済全体のピンチを感じる。
さらにデータを細かく見ていくと、カーマニア的に興味深い事実が浮かび上がってまいります。
アルファードは大人気
国産車の売れ行きを見ると、5月のダイハツの登録車が、なんと前年比18.7%増! 国産メーカー別で増加をマークした部門はここだけ! これは、小型SUVの「ロッキー」(「トヨタ・ライズ」の姉妹車)がヒットしていて、その分が前年同月比で純増になったからだ。
4月・5月のモデル別販売台数を見ると、上位はあまり販売台数を減らしていない。
<5月の登録車販売台数ベスト5>
1位 ヤリス(20年2月より新規)
2位 ライズ(19年11月より新規)
3位 フィット(前年比110.8%)
4位 カローラ(前年比89.5%)
5位 アルファード(前年比110.6%)
(日本自動車販売協会連合会発表)
ここまではまともな数字ですが、6位以下は軒並み半減になっております。
上位だけが健闘しているのは、発売間もない人気車種は、新型コロナ感染拡大前の受注が多かったからと説明がつく。私が3月にトヨタディーラーで聞いたところでは、「『ヤリス』は、今注文されると納車は7月になります」とのことでした。
ただし「アルファード」は例外。発表からすでに5年以上を経ているが、いまだに人気が増す一方で、納車待ち3~4カ月なんですね。アルファードすげえ。
一方、輸入車はどうかというと、全体の状況は国産車と大差ないが、いくつか目立つ数字がある(データは日本自動車輸入組合発表)。
まず4月のシトロエン。なんと前年比171.6%! 新型コロナ下で2倍近い伸びとはこれいかに!?
広報部に確認したところ、「限定発売した『ベルランゴ』の登録が集中したことが原因です」とのこと。4月はDSも前年比600%という驚異的な数字をたたき出しておりますが、これは「5台が30台に増えた」という、ミクロの決死圏なおはなしでした。両ブランドとも、5月は半減の憂き目に遭っております。
458イタリアに注目!
その他、ドイツ御三家などメジャーなブランドが軒並み半減する中、目立っていたのはフェラーリとランボルギーニだ。
フェラーリ販売台数
4月 71台(前年比126.8%)
5月 102台(前年比188.9%)
ランボルギーニ販売台数
4月 80台(前年比133.3%)
5月 49台(前年比59.8%)
この2ブランドは、モデルによっては納車待ちが1~2年に達するので、新型コロナによる短期的な受注減が新規登録台数に表れるのははるか先。両ブランドとも、3月から5月初旬まで、1カ月以上生産が停止したが、その影響が表れるのももう少し先なのか、あるいはランボは5月に表れたのか。
だからって何がどうということはないのですが、いろいろな影響が時間差攻撃で表れるので、カーマニア的な推理が働く部分でございます。
同時に、これだけフェラーリやランボルギーニが売れているということは、その分多くの中古車が市場に流れることを意味する。
フェラーリでいえば、最近「488GTB」「488スパイダー」の流通台数が大変多くなり、値崩れを発生させていたが、新型コロナの影響もあってか、このところすばらしくリーズナブルになってきているのが、「458イタリア」!
私は2012年、2580万円にて、鼻血を吹き出しながら458イタリアを買い、そのあまりにも異次元な走りに“宇宙戦艦”と名付けて愛しましたが、それが今では平均2100万円台、最安で1700万円を切っている!
V8ミドシップフェラーリの中古車は、新車価格の6割あたりが底値で、そこまで下がると反転上昇するのがパターン。458イタリアの新車価格は2830万円だったので、底は1700万円くらいだろうか? 早くもそこに接近している!
実際乗ったら、あのUFOのようなハンドリング、最後のフェラーリV8自然吸気エンジンの咆哮(ほうこう)、そして最後のピニンファリーナデザインの美しさは、何物にも代えがたい。カーマニアの皆さま、底値が近い(?)458イタリアにご注目くださいウフフフフ~。
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。