クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

第27回:追悼マルチェロ・ガンディーニ(前編) ―すべてのランボは「カウンタック」に帰結する―

2024.06.05 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!
マルチェロ・ガンディーニ(1938-2024)と「ランボルギーニ・ミウラ」。
マルチェロ・ガンディーニ(1938-2024)と「ランボルギーニ・ミウラ」。拡大

「ランボルギーニ・ミウラ」や「カウンタック」をデザインした鬼才、マルチェロ・ガンディーニ氏が、2024年3月13日に亡くなった。氏の手になるクルマは、なぜこうも強烈に人の心を揺さぶるのか。元カーデザイナーの識者とともに、彼の偉業を振り返る。

渕野氏が挙げた「世界3大自動車デザイナー」の代表作。上がマルチェロ・ガンディーニの「ランボルギーニ・カウンタック」、中段がレオナルド・フィオラバンティの「フェラーリ356GT4BB」、下がジョルジェット・ジウジアーロの初代「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。
渕野氏が挙げた「世界3大自動車デザイナー」の代表作。上がマルチェロ・ガンディーニの「ランボルギーニ・カウンタック」、中段がレオナルド・フィオラバンティの「フェラーリ356GT4BB」、下がジョルジェット・ジウジアーロの初代「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。拡大
ガンディーニは1965年にカロッツェリア・ベルトーネに入社。以降、ランボルギーニやアルファ・ロメオ、マセラティなどの、あまたのモデルのデザインを手がけていった。
ガンディーニは1965年にカロッツェリア・ベルトーネに入社。以降、ランボルギーニやアルファ・ロメオ、マセラティなどの、あまたのモデルのデザインを手がけていった。拡大
ガンディーニが手がけたコンセプトモデル「アルファ・ロメオ・カラボ」(1968年)と、カロッツェリア・ベルトーネのヌッチオ・ベルトーネ社長(当時)。
ガンディーニが手がけたコンセプトモデル「アルファ・ロメオ・カラボ」(1968年)と、カロッツェリア・ベルトーネのヌッチオ・ベルトーネ社長(当時)。拡大

三指に入るカーデザイン界の巨星

webCGほった(以下、ほった):今回は、この春に亡くなったガンディーニ氏の足跡をたどって、追悼を行いたいのですが。

清水草一(以下、清水):マルチェロ・ガンディーニって、名前からしてカッコよすぎるよね。いかにもイタリア人。デザインしたクルマもカッコいいけど、ご本人も超カッコいい。究極の憧れです。

ほった:そっちから入りますか。

清水:渕野さんにうかがいたいんですが、世界3大自動車デザイナー、ベスト3を挙げるとどうなります?

渕野健太郎(以下、渕野):いやいや。そもそも名のある自動車デザイナーって、ほんの一握りじゃないですか。ジウジアーロとガンディーニっていうのが2大巨頭で、あとはフィオラバンティですかね。その3人でしょう。

ほった:全員イタリア人ってのがスゴい。

清水:あえてその3人に順位をつけると?

渕野:ジウジアーロは携わったモデル数が半端じゃないですし、ビジネスの才能もすごかったんだろうと思います。デザインもビジネスも大成功しているし、やはり唯一無二かなと思います。

清水:やっぱりジウジアーロ氏が1位なんですね。

渕野:ジウジアーロはどうしたって1位じゃないですか。まったくすごい(笑)。いっぽうガンディーニについては、自分はあんまり知らなかったんですよ。もちろん作品は知ってましたけど、どういう生い立ちで、どういう経緯でやってきたのかっていうのを、あまり詳しく知らなかった。で、ちょっと調べてみると、ベルトーネに入るまで、本格的なクルマのデザインはやってなかったみたいですね。もともと工業製品だけじゃなく、ポスターやらなんやらいろいろやってて、どこかでベルトーネにアイデアを見せる機会があって、それで呼ばれたというような。

そして最初の作品が、あの「ランボルギーニ・ミウラ」だったっていう……。

ランボルギーニ の中古車webCG中古車検索

最初の作品が「ランボルギーニ・ミウラ」

ほった:一応、伊東和彦さんのリポート(参照)だと、その前にOSCAのレースカーのボディーもやってたみたいですけどね。

渕野:そうそう。ただ、量産車をがっつり手がけたのはミウラが最初でしょう?

ほった:いきなりミウラです。

渕野:ガンディーニもすごいと思いますけど、まわりにいるモデラーやデザイナーも、スゴい人たちだったんじゃなかろうかと。じゃないといきなり、あんなものはできない。

清水:なんにせよ、スゴすぎますね。

渕野:クルマのデザインって特殊なんですよ。この連載で自分が言ってるような、プロポーションだ、タイヤだ、スタンスだっていう要素があるあたり、ほかの分野のデザインとはやはり違いますから。ちょっとは経験積まないと、いくら天才でもいきなりミウラはつくれないんじゃないかと。でもあれが最初ってことですから……。

清水:いきなり横置きV12ミドシップ。

ほった:そんな例は、ガンディーニとミウラ以降ないですよね。

清水:しかもそれが、史上最高にカッコいいともいわれている。

渕野:いや、ミウラかっこいいですよね、普通に。

清水:普通に(笑)。

渕野:ミウラは、前回ちょっと触れた「フェラーリ・デイトナ(365GTB/4)」(その1その2)と、時代はあまり変わらないですよね?

ほった:ミウラが1966年で、デイトナが1968年です。むしろミウラのほうが登場が早いっていう。しかもミドシップで。

渕野:ミウラはミドシップで、ミドシップだけど“エンジン横置き”ですよね。なので、意外とノーズが長いじゃないですか。それで独特なプロポーションになっている。

清水:エンジンの場所を感じさせないカッコよさかもしれない。

渕野:流麗さに関しては60年代の雰囲気ですけど、プロポーション的には、すごく新しかったんじゃないかと思います。ただミウラに関しては、まだ60年代のデザインという感覚がある。ところがこの数年後、ガンディーニは“アレ”をやるわけですよ……。

清水:そうなんですよね……。

ガンディーニがデザインを手がけた最初の量販モデルである「ランボルギーニ・ミウラ」。1966年3月のジュネーブショーで世界初公開された。
ガンディーニがデザインを手がけた最初の量販モデルである「ランボルギーニ・ミウラ」。1966年3月のジュネーブショーで世界初公開された。拡大
渕野氏いわく、「ミウラ」に関してはガンディーニの才能に加え、「当時ベルトーネで働いていた、他のデザイナーやモデラ―の腕もスゴかったのでは」とのこと。
渕野氏いわく、「ミウラ」に関してはガンディーニの才能に加え、「当時ベルトーネで働いていた、他のデザイナーやモデラ―の腕もスゴかったのでは」とのこと。拡大
今日のミドシップスーパースポーツとは異なり、「ミウラ」は巨大な4リッターV12エンジンを横置きに搭載していた。
今日のミドシップスーパースポーツとは異なり、「ミウラ」は巨大な4リッターV12エンジンを横置きに搭載していた。拡大
1971年登場の改良モデル「P400SV」のサイドビュー。横置きミドシップだった「ミウラ」には、縦置きミドシップのモデルに見られるようなキャビン後方の“間延び感”はない。長めのフロントノーズも相まって、どこにエンジンを積んでいるかわからないような、独特のプロポーションを実現していた。
1971年登場の改良モデル「P400SV」のサイドビュー。横置きミドシップだった「ミウラ」には、縦置きミドシップのモデルに見られるようなキャビン後方の“間延び感”はない。長めのフロントノーズも相まって、どこにエンジンを積んでいるかわからないような、独特のプロポーションを実現していた。拡大
ちなみにフロントとリアのカウルは、両方とも一枚もの。エンジンをご開帳した際の姿もスーパーなクルマだった。
ちなみにフロントとリアのカウルは、両方とも一枚もの。エンジンをご開帳した際の姿もスーパーなクルマだった。拡大
2023年6月に行われた新型車「レヴエルト」の日本発表会より、会場に飾られた「ランボルギーニ・カウンタック」。
2023年6月に行われた新型車「レヴエルト」の日本発表会より、会場に飾られた「ランボルギーニ・カウンタック」。拡大

今なお受け継がれるアイコン

ほった:「カウンタック」って、たしかプロトタイプの発表が1971年ですよね。考えるだにすさまじい。

渕野:ほんの5、6年で、これ(ミウラ)がこれ(カウンタック)になる。この振れ幅がすごい。シルエットも面質も立体構成も全然違う。ミウラは60年代だけど、カウンタックは未来でしょう。こんな振れ幅がある人はいない。

清水:ビッグバンですね。

渕野:カウンタックのシルエットって、いまだにランボルギーニの核になってるじゃないですか。シルエットをここまで継承してるのって、ほかには多分「ポルシェ911」があるだけかなと思います。元のデザインモチーフをずっと使い続けている。提案したデザインが、ダイレクトに今に受け継がれているという意味でも、ガンディーニってスゴい人なんじゃないか。

清水:ランボルギーニが偉いと思うのは、こっからブレてないことですよ。

ほった:ブレない度はポルシェ以上かもしれませんね。

清水:ガンディーニは大天才だけど、ずーっとそのモチーフを継承しているランボルギーニもすごい。「ディアブロ」の時にクライスラーの口出しがあって、少し修正されたみたいですけど、基本は変えずにカウンタック路線一本できている。フェラーリはいろいろ寄り道したから迷走もあったけど、ランボルギーニはまったくブレてない。大傑作のミウラも捨ててカウンタック一本。

渕野:こっちは最新の……名前忘れたんですけど、なんですか?

ほった:「レヴエルト」です。

清水:これなんか、新型にも見えないもんね(全員笑)。

渕野:シルエットはほぼそのままですから。

ほった:カウンタックから変わんないですよね。

渕野:でもやっぱり、カウンタックがベストだったなぁ。

初期モデルの「カウンタックLP400」。スーパーカーブームの折には、日本でも多くのファンがこのシザーズドアに熱狂した。
初期モデルの「カウンタックLP400」。スーパーカーブームの折には、日本でも多くのファンがこのシザーズドアに熱狂した。拡大
1974年から1990年まで、実に16年にわたって販売された「カウンタック」。時を経るごとにエンジンは強化され、ワイドタイヤやオーバーフェンダー、リアウイングが装着されるようになり、見た目にもアグレッシブなモデルに変化していった。写真は1982年登場の「LP5000S」。
1974年から1990年まで、実に16年にわたって販売された「カウンタック」。時を経るごとにエンジンは強化され、ワイドタイヤやオーバーフェンダー、リアウイングが装着されるようになり、見た目にもアグレッシブなモデルに変化していった。写真は1982年登場の「LP5000S」。拡大
1971年に発表されたプロトタイプの「LP500」。市販モデルに見られる箱型のエアインテークなどはなく、「カウンタック」の”素”のスタイリングがよくわかる。
1971年に発表されたプロトタイプの「LP500」。市販モデルに見られる箱型のエアインテークなどはなく、「カウンタック」の”素”のスタイリングがよくわかる。拡大
1974年登場の「カウンタックLP400」(上)と、2023年登場の「レヴエルト」(下)。ガンディーニが描いたモチーフは、半世紀を経た今もなおランボルギーニに受け継がれている。
1974年登場の「カウンタックLP400」(上)と、2023年登場の「レヴエルト」(下)。ガンディーニが描いたモチーフは、半世紀を経た今もなおランボルギーニに受け継がれている。拡大

「カウンタック」は人を狂わせる

清水:カウンタックのすごいところは、人を狂わせることだと思うんですよ。

ほった:いきなりどうしました? 清水さんも狂気にかられてカウンタックを買っちゃったんですか?

渕野:そうそう。清水さんにお聞きしたかったんですけど、もともと「フェラーリが一番!」だった人が、なぜ一時期カウンタックにいったんです?(参照

清水:それは、最大のライバルに一回は乗っておかないとと思いまして。これほど人を狂わせるデザインってないじゃないですか。破壊力がフェラーリとはケタ外れですから。

渕野:破壊力っていうのは?

清水:デザインのインパクトですね。ほんとにケタが違うんですよ。公平に見て10倍はあります(笑)。集客力が違う。その場にカウンタックがあったら、隣にフェラーリがあっても、誰も見向きもしません。

渕野:なるほど。

清水:ホントに見てもらえないんですよ。自分が実際にカウンタックに乗って、フェラーリと一緒に走って、並んで駐車場に止めた時、初めて実感しました。すごく悔しかった(笑)。

渕野:へぇー。

清水:その場にカウンタックがいると「ウワァ~~~!!」みたいに興奮する人が出る(全員笑)。狂気を誘うんですよ。世界中にいるじゃないですか、カウンタックを自作しちゃう人が。中国にもいましたけど、日本では群馬に有名な個体がありますよね。「サンバー」をベースにした「サンバルギーニ・コカウンタック」(笑)。「アヴェンタドール」はダンボールメーカーが「ダンボルギーニ」をつくったでしょう。……狂気ですよ。カウンタックは半世紀以上、人を狂わせ続けている。この破壊力はなんですかね?

渕野:……ねぇ(笑)。やっぱりいき着くところはプロポーションでしょう。

後編へ続く)

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ランボルギーニ、フェラーリ、newspress、清水草一、webCG/編集=堀田剛資)

かつて清水氏が“折半”で所有していた、白の「ランボルギーニ・カウンタック25thアニバーサリー」。
かつて清水氏が“折半”で所有していた、白の「ランボルギーニ・カウンタック25thアニバーサリー」。拡大
都内の道をパレード走行する「ランボルギーニ・カウンタック」。日本でも、カウンタックの人気は熱狂的なものがある。
都内の道をパレード走行する「ランボルギーニ・カウンタック」。日本でも、カウンタックの人気は熱狂的なものがある。拡大
「オートモビル カウンシル2022」の会場より、主催者展示のスーパーカー群のなかでも、ひときわ大きな存在感を放っていた「カウンタックLP400」。このクルマの人を引き付ける力は、どこからくるものなのだろうか。
「オートモビル カウンシル2022」の会場より、主催者展示のスーパーカー群のなかでも、ひときわ大きな存在感を放っていた「カウンタックLP400」。このクルマの人を引き付ける力は、どこからくるものなのだろうか。拡大
渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

カーデザイン曼荼羅の新着記事
カーデザイン曼荼羅の記事をもっとみる
関連キーワード
関連サービス(価格.com)
新着記事
新着記事をもっとみる
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。