ステランティスが欧州でハイブリッド車を大量導入! イケイケの“EVシフト”はどうなった?
2024.07.26 デイリーコラム実は“HV推し”でもあったステランティス
ステランティスは2024年7月9日、同年のうちに独自開発のハイブリッド車(HV)を欧州に30車種導入し、2026年までに6車種をさらに追加していく計画を発表した。すべての車種をここに列記するとかなり長くなるので省くが、たとえばプジョーなら、現在日本で販売している車種のうち、「リフター」以外のすべてにHVが設定されると書けば、この計画がいかに大がかりかがわかるだろう。
ただ、このニュースを見て「ステランティスって電気自動車(EV)推しだったんじゃないの?」と思った人がいるかもしれない。たしかにステランティスは、2021年にグループPSAとFCAの経営統合によって誕生した直後から、EVに関するアナウンスが多かった。webCGでも何度かリポートしているので、覚えている人もいるだろう。2022年3月に発表された、2030年に向けた中期経営計画もそのひとつで(参照)、同年までにEVの販売比率を欧州で100%、米国で50%とし、世界販売500万台を目指すとしていた。
でもそのいっぽうで、2023年には今回の発表のベースになるHV技術も公開している。このときはプジョーの次期「3008」「5008」が対象だったが、その後「フィアット600」「アルファ・ロメオ・ジュニア」「ランチア・イプシロン」のイタリア勢に加え、シトロエンの新型「C3」「C3エアクロス」、ジープの「アベンジャー」などにも搭載されることが発表された。今回発表の“30車種”についても、そのすべてがこれから登場するというわけではなく、すでに発表済みのクルマもいくつかあるということになる。
DCTとモーターを一体化して搭載
メカニズムはいずれも共通で、フレンチブランドではおなじみの1.2リッター直列3気筒エンジンに、「eDCT」と呼ばれるモーター内蔵の6段デュアルクラッチトランスミッションを組み合わせる。少し前までホンダの「フィット」や「ヴェゼル」などが積んでいたメカニズムを思わせるが、こちらはプラグインHVへの転換も可能とされる。
一部のメディアではこれをマイルドハイブリッドと呼んでいる。たしかに48Vというシステム電圧はマイルドハイブリッドでおなじみだし、21kW(約29PS)とモーター出力も控えめだ。燃費のレベルアップが最大20%という数字については、「それだけ?」と思う読者もいるだろう。
ただ、上述のとおりそのモーターはDCTに接続されており、別体でベルト駆動のスタータージェネレーターも搭載、助手席下に置かれる駆動用バッテリーは0.9kWhの容量があって、最大で1kmのモーター走行もできる。機能的には、フルハイブリッド/ストロングハイブリッドと呼んで差し支えないものになっているのだ。
難しいかじ取りを迫られる自動車メーカー
気になるのは、今回発表のプレスリリースでも、「2030年までに欧州で100%、米国で50%のEV比率を目指す」と明示していることだ。それにステランティスは、2024年5月に中国のEV会社リープモーターとの間で、ステランティスの主導による合弁会社リープモーター・インターナショナルの設立を発表している。新会社では同年9月にも欧州200カ所でEVを発売し、2026年までにその拠点を500カ所に増強する予定だという。並行して同年後半には、中華圏を除くインド・アジア太平洋地域、中東・アフリカ、南米に販売網を拡大していく計画も明かされている。
今回アナウンスされた30車種以上のHVは、欧州では製品ラインナップがリープモーター製を含めたEVに置き換わるまでのつなぎ役を果たしていくのかもしれない。とはいえ、その欧州では声高に推進してきたEVシフトが中国製車両の流入という事態を招き、追加関税の導入に踏み切る事態に陥るなど、ことが順調とは言い難い。とりわけ大衆向けブランドが主力のステランティスは影響が大きそうだ。
いっぽう欧州以外の地域では、このHVが主力になっていくと考えている。50%をEVにするとしている米国は、この秋の大統領選挙で返り咲きを狙うトランプ氏がEV推進をやめると言っているので、“もしトラ”まで想定しての、今回の発表という可能性もある。
こと欧州市場に関しては、EVシフトがこうなることは、ステランティスを含めた自動車メーカーは予想していたことだろう。しかしながら欧州では、パリ五輪の選手村にエアコンを付けないなど、われわれが考える以上に環境意識が高まっている。自動車業界がカーボンニュートラルを目指すと表明するのは当然だ。現地に地盤を持つメーカーは、今後も難しいかじ取りを迫られるはずだ。
(文=森口将之/写真=ステランティス、newspress、webCG/編集=堀田剛資)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025NEW 2025.12.24 旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表!
-
クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題 2025.12.22 横行する車両盗難を根絶すべく、新たなセキュリティーシステムを提案するトヨタとKINTO。満を持して発売されたそれらのアイテムは、われわれの愛車を確実に守ってくれるのか? 注目すべき機能と課題についてリポートする。
-
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」 2025.12.19 欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。
-
次期型はあるんですか? 「三菱デリカD:5」の未来を開発責任者に聞いた 2025.12.18 デビューから19年がたとうとしている「三菱デリカD:5」が、またしても一部改良。三菱のご長寿モデルは、このまま延命措置を繰り返してフェードアウトしていくのか? それともちゃんと次期型は存在するのか? 開発責任者に話を聞いた。
-
人気なのになぜ? 「アルピーヌA110」が生産終了になる不思議 2025.12.17 現行型「アルピーヌA110」のモデルライフが間もなく終わる。(比較的)手ごろな価格やあつかいやすいサイズ&パワーなどで愛され、このカテゴリーとして人気の部類に入るはずだが、生産が終わってしまうのはなぜだろうか。
-
NEW
レクサスRZ350e(FWD)/RZ550e(4WD)/RZ600e(4WD)【試乗記】
2025.12.24試乗記「レクサスRZ」のマイナーチェンジモデルが登場。その改良幅は生半可なレベルではなく、電池やモーターをはじめとした電気自動車としての主要コンポーネンツをごっそりと入れ替えての出直しだ。サーキットと一般道での印象をリポートする。 -
NEW
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025
2025.12.24デイリーコラム旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表! -
NEW
第97回:僕たちはいつからマツダのコンセプトカーに冷めてしまったのか
2025.12.24カーデザイン曼荼羅2台のコンセプトモデルを通し、いよいよ未来の「魂動デザイン」を見せてくれたマツダ。しかしイマイチ、私たちは以前のようには興奮できないのである。あまりに美しいマツダのショーカーに、私たちが冷めてしまった理由とは? カーデザインの識者と考えた。 -
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(FF)【試乗記】
2025.12.23試乗記ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に新グレードの「RS」が登場。スポーティーなモデルにのみ与えられてきたホンダ伝統のネーミングだが、果たしてその仕上がりはどうか。FWDモデルの仕上がりをリポートする。 -
同じプラットフォームでも、車種ごとに乗り味が違うのはなぜか?
2025.12.23あの多田哲哉のクルマQ&A同じプラットフォームを使って開発したクルマ同士でも、車種ごとに乗り味や運転感覚が異なるのはなぜか? その違いを決定づける要素について、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題
2025.12.22デイリーコラム横行する車両盗難を根絶すべく、新たなセキュリティーシステムを提案するトヨタとKINTO。満を持して発売されたそれらのアイテムは、われわれの愛車を確実に守ってくれるのか? 注目すべき機能と課題についてリポートする。








































