「スズキ・ジムニー ノマド」が受注過多で販売停止!? 過熱するクロカン人気の理由を探る
2025.02.14 デイリーコラムはじまりは“ゲレンデワーゲン”
スズキの「ジムニー ノマド(5ドア)」に、速攻で約5万台もの受注が殺到し、発表からわずか4日後、あえなく受注停止となった。
従来のジムニー/ジムニー シエラは3ドアで後席も狭い。にもかかわらず、発売から何年たっても納車待ちが半年から1年という異常人気を保っている。そこに実用的な5ドアが加われば、バカ売れは間違いないだろうとは思っていたが、予想を超えるさく裂ぶりだった。
ジムニーシリーズは、本格派の小型クロスカントリー4WD車だ。以前は林業など専門職の方や、特殊な趣味を持つマニアが乗るクルマだったが、2018年に現行にモデルチェンジされて以来、突如として広く一般国民に愛されるようになった。
トヨタの「ランドクルーザー」も、現行の“300”に切り替わったとたんウルトラ大人気となり(参照)、最近は“250”の登場でさらに人気爆発。常に生産が追い付かない状況にもかかわらず、シリーズ合算とはいえ登録車の国内販売ランキングでベスト10に顔を出している。また「メルセデス・ベンツGクラス」も、納車待ちが3~4年といわれている。
これらのモデルに共通するのは、ラダーフレームの本格クロカンであることと、古風な四角いボディーを持っていることだ。もともと販売台数を狙うクルマではなく、生産能力が限られていることもあって、いずれも絶望的な納車待ち(あるいは受注停止)になった。
いったいナゼ今、本格クロカンが、オフロード趣味のない一般国民に大人気なのか?
今日の異常なクロカン人気の源流には、やっぱりGクラスの存在があると私は考えている。Gクラスは、かなり昔から、セレブの間で人気があった。芸能人夫婦がふだんの足にGクラスの最高級グレード「500GE」を使っているといった報道があり、「Gクラス=セレブ御用達」のイメージができあがっていた。当時のGクラスは、現在よりさらに硬派なクロカンであり、高速道路では直進性の悪さに手を焼いてアタリマエだったが、芸能人が自家用車でそんなに遠くまで走ることはあまりないだろうし、走ろうと思えば走れてしまうので何の問題もなかった(と思われる)。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
無駄なまでのオフロード性能は豊かさの象徴
その後、Gクラスは2018年にモデルチェンジし、直進性を含め快適性がかなりアップした。セレブ人気はさらに白熱し、販売の半分以上を最高級の「メルセデスAMG G63」が占めるという、異常な状況となる。
そしてほぼ同じタイミングで、現行ジムニーが登場。原点回帰のスタイリングは信じられないほどカッコよく、しかもミニGクラス的でもあったため、思わず飛びついた一般国民が多数いた(と思われる)。3ドアで不便だとか、ラダーフレームの四輪リジッドサスで直進性が少し悪いとか、軽としては驚異的に燃費が悪い(特に4AT)とか、そんなことはすっ飛ばして、ジムニーのハードボイルド感+ミニG的カッコよさに、多くの人がやられたのである。
ジムニーの走りが先代のままだったら、しばらく後に音を上げるユーザーも少なくなかっただろうが、現在のジムニーは、ゼイタクさえ言わなければまったく問題ない快適性がある。そりゃもちろん「スペーシア」よりは狭いし不便だけど、カッコよさは圧倒的だ。
このようにして、本格クロカンに対する一般国民の関心が急激に高まっていたところに、ランクル“300”が登場する(2021年)。デザインテイストはGクラスやジムニーとは異なるが、イカツいボディーはやっぱりどこか古風。世界各地で刻んできた逸話の数々もあって、オフローダーとしてはGクラスよりむしろ格上。旧型より快適性が上がった点に関しては、Gクラスやジムニーとまったく同じ。人気が出ないわけがなかった。
現在の本格クロカン人気は、1980年代のクーペ人気に通じる部分がある。当時、速さは豊かさそのものであり、速そうなカッコは完璧に正義。多少不便だろうがなんだろうが、みんな無理してカッコいいクーペに乗った。今日のクロカンも同様だ。今の日本では、オフロードなんて探さないとない。悪路の走破性はムダなゼイタク品であり、豊かさの象徴だ。迷わず行けよ。行けばわかるさ。クルマなんて、ホれて乗ってしまえばなんとかなるし。
(文=清水草一/写真=スズキ、トヨタ自動車、メルセデス・ベンツ/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」 2025.12.19 欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。
-
次期型はあるんですか? 「三菱デリカD:5」の未来を開発責任者に聞いた 2025.12.18 デビューから19年がたとうとしている「三菱デリカD:5」が、またしても一部改良。三菱のご長寿モデルは、このまま延命措置を繰り返してフェードアウトしていくのか? それともちゃんと次期型は存在するのか? 開発責任者に話を聞いた。
-
人気なのになぜ? 「アルピーヌA110」が生産終了になる不思議 2025.12.17 現行型「アルピーヌA110」のモデルライフが間もなく終わる。(比較的)手ごろな価格やあつかいやすいサイズ&パワーなどで愛され、このカテゴリーとして人気の部類に入るはずだが、生産が終わってしまうのはなぜだろうか。
-
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか? 2025.12.15 2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。
-
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ 2025.12.12 日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。
-
NEW
フェラーリ・アマルフィ(FR/8AT)【海外試乗記】
2025.12.19試乗記フェラーリが「グランドツアラーを進化させたスポーツカー」とアピールする、新型FRモデル「アマルフィ」。見た目は先代にあたる「ローマ」とよく似ているが、肝心の中身はどうか? ポルトガルでの初乗りの印象を報告する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――ポルシェ911カレラT編
2025.12.19webCG Movies「ピュアなドライビングプレジャーが味わえる」とうたわれる「ポルシェ911カレラT」。ワインディングロードで試乗したレーシングドライバー谷口信輝さんは、その走りに何を感じたのか? 動画でリポートします。 -
NEW
ディーゼルは本当になくすんですか? 「CX-60」とかぶりませんか? 新型「CX-5」にまつわる疑問を全部聞く!(前編)
2025.12.19小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ「CX-60」に後を任せてフェードアウトが既定路線だったのかは分からないが、ともかく「マツダCX-5」の新型が登場した。ディーゼルなしで大丈夫? CX-60とかぶらない? などの疑問を、小沢コージが開発スタッフにズケズケとぶつけてきました。 -
NEW
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」
2025.12.19デイリーコラム欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。 -
NEW
第856回:「断トツ」の氷上性能が進化 冬の北海道でブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ「ブリザックWZ-1」を試す
2025.12.19エディターから一言2025年7月に登場したブリヂストンの「ブリザックWZ-1」は、降雪地域で圧倒的な支持を得てきた「VRX3」の後継となるプレミアムスタッドレスタイヤ。「エンライトン」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて進化したその実力を確かめるべく、冬の北海道・旭川に飛んだ。 -
次期型はあるんですか? 「三菱デリカD:5」の未来を開発責任者に聞いた
2025.12.18デイリーコラムデビューから19年がたとうとしている「三菱デリカD:5」が、またしても一部改良。三菱のご長寿モデルは、このまま延命措置を繰り返してフェードアウトしていくのか? それともちゃんと次期型は存在するのか? 開発責任者に話を聞いた。







































